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IDマガジン第25号

IDマガジンのご愛読ありがとうございます。
カークパトリックの4段階評価が誕生したのが1959年11月ということで、今年でもう50歳らしい(専攻長とほぼ同じ・・・?)。
すでに安定したものという印象もあるが進化しようとしている様子も、レベル4の成果(Result)の概念をROI(Return on Investment)からROE(Return on Expectation)に変えたということから伝わってくる(単なる差別化か)。研修の審査員に、当該研修に何を期待するかを確認して成果を明確し、成功を収めようという案らしい。
時が過ぎるのは早いです。

今回のコンテンツメニューはこちら↓
《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(25) ~今年も慌ただしく過ぎていく・・・~
2. 【ブックレビュー】「ストーリーアナリスト~ハリウッドのストーリー分析
と評価手法」 T.L.カタン著
3. 【データを見る】2009年米国トレーニング産業レポート
4. 【イベント】近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】 ヒゲ講師のID活動日誌(24) ~今年も慌ただしく過ぎていく・・・~

いつの間にやら師走ですね、今年も。年の瀬を目前に、何やら動き回る度合いが高まっているようにも感じますし、いつもとあまり変わらない日常なのかな、とも思ったりもします。たぶん平和なんでしょう。

先週はeラーニングカンファレンスWinter2009に根本助教と登壇し、「インストラクショナルデザイン基礎力トレーニング」と題するトラックを担当。講演を楽しみにしてこられた(?)来場者を相手に、バシバシ問題攻めで鍛えてしまいました。eラーニングベーシックのコンテンツ(ヒゲ講師がしゃべっている120分の音声+投影資料+15問の復習問題から構成)を受講者に無料開放して、「これをしっかり復習して来てくださいね」という前振りもあったので、あまり驚きはなかったかもしれませんが、あれは「講演」ではなかったですね。この方式が定着するかどうかは、出口アンケートの結果次第、というところでしょうか(見るのが恐ろしい・・・)。

なぜこんなことになったのかと言えば、IDが浸透するにつれて、「知っているけど実力がない(失礼!)」という状況が増えてきたのではないか、基礎力を鍛える場所がもっとあっても良いのではないか、という思いを強くしたからなのです。まぁこれをネタにして来年度からの科研費を申請しているのですが(内緒)、それが通っても通らなくても、ここ数年間は、「ID基礎力を鍛える場の提供」を目指していろいろと取り組んでいきたいと思っています。

今年を振り返ると、
1)月に一度のペースで海外に出ていた(近年最多)。
2)学びたさ(IDの美学)について調べたことを小分けにしてあちこちで話していた。
3)相変わらず熊本滞在日数は少なかったなぁ・・・
という感じです。来年はもう少し熊本と仙台の拙宅で過ごす時間が増えるといいな、と思っています。

ちなみに、今年の年末年始は仙台の拙宅でゆっくりすることにしました。
お近くにお越しの方は遊びにいらしてください。銘酒をさげてくる方、歓迎します!

(ヒゲ講師記す)

【ブックレビュー】「ストーリーアナリスト~ハリウッドのストーリー分析と評価手法」

「学習の最初に修了試験を受けさせる」。
なるほど。問われることがはっきりしていれば、学習も無駄なくモレなくできる。IDを学んで目から鱗が落ちたことの1つでした。
本書は、脚本家にとっての「修了試験問題集」のようなものかもしれません。

商業映画化を目指して書かれた脚本を分析・評価して「カバレッジ」という通信簿を書き映画会社等に提供する「ストーリーアナリスト」という職業があります。同名の本書は文字通りその職業のノウハウ本です。

私の研究テーマはストーリー型教材の創作技術ですが、これまではひとえに「才能」「感性」のような闇の中の領域でした。それを神田川のほとりで文章修業せずとも「誰でもある程度のものが書ける」ようなメソッドを編み出せないか、というのが私の野心です。この本は、そんな私の靄(もや)に薄日をさすものです。本書はカバレッジの項目、評価指標も整然と説明されています。ということは、それらの視点を先取りして創作にあたれば、そこそこによい脚本が書けるはずです。以下、その要点を挙げてみましょう。

まず、シノプシス。これはプロットを凝縮したもの。これで大まかな評価が決まります。では、プロットとは、、。「外的なコンフリクトとクライシスを引き起こす事件と、そうした障害の連なり」とあります。つまり、優れたシナリオであるためには障害がなければならないことになります。それは宇宙人が攻めてくるの類のみならず、音痴なガキ大将に歌を聴かせられたり、憧れの女の子にクラスの秀才が宿題を教えていたりとさまざまあっていいはず。
あるいはキャラクターの名前、外見、バックグラウンド、モチベーション、長短所、成長等々はどうなっているか。それはテーマの中でどういう役割を負っているか、矛盾なく描かれているか。ほかにもセリフ・構成・コンセプト・ペース等々、その脚本を丸裸にしていく切り口が山積です。

さて、アカデミアの視点から気にせねばならないのはこの評価指標の信頼性や妥当性ということになるのですが、本書には残念ながらそのあたりのことはまるで触れられていません。経験則の集積とも読めます。ではこの知見は活かすに値しないのでしょうか。それは、教材作成者としては、ではエビデンスがとれている知見だけで「魅力あるシナリオ教材」をつくることができるのか、という問いとセットになります。今後の私(たち)の課題としては、この素敵な経験則にどう科学的な証明をつけていくか、ということなのでしょう。

この夏、鈴木先生が「IDの美学・芸術的検討」について発表されましたが、まさにその追及のための「必読の1冊」と言ってもいいのではないでしょうか。この本で腕を磨いた教材開発者が、少し湿り気味ともいわれるe-Learningビジネスシーンに新たな旋風が巻き起こしてくれることでしょう。
http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~idportal/wp-content/uploads/td3_1suzuki.pdf

末筆ながらこの本は朋友、産能大の古賀暁彦先生から紹介していただいたもの。折しも氏の司るメルマガで同書が取り上げられています。斜め読みの方法や評価のダイナミズムなどについて氏一流の切り口で評されていますので、是非そちらもご一読ください。(http://archive.mag2.com/0000150645/20091129224634000.html)

(熊本大学大学院教授システム学専攻博士後期課程2年 柴田喜幸)

【データを見る】2009年米国研修産業レポート

いつも国内の学会や研究会の報告などが多いので、時には海外の情報をと思い、2009年米国研修産業レポートについて紹介する。国内のこのレポートは、米国の雑誌「トレーニングマガジン」が毎年発表しているもので、研修産業の予算、スタッフ、プログラムなどに関する調査報告である。2009年の米国企業がトレーニングに利用した総額は前年比70億ドル減の520億ドル、約半分は対面型研修であることなどがレポートされた。この雑誌は米国では研修(トレーニング)業界では良く知られている業界紙であり、最新の研修事例や教育手法の紹介から、この業界のサラリーなどまで幅広いテーマを扱っている。ここで紹介する産業レポートは毎年この時期になると発表され、調査開始から今年で28回目となる。

調査参加者は、今年の6月から7月にかけて100名以上の従業員を持つ米国内の企業や教育組織を対象にメールで募り、オンラインで調査を実施したとのこと。政府や地方自治体は対象外となっている。データは、企業サイズを従業員数で3つのグループ(小:100人から999人、中:1,000から9,999、大:10,000以上)に分け、企業規模による差も確認できるように分析結果を整理している。

本調査を実施するに当たり基礎データとして、2009年に米国において企業がトレーニングに利用した総額を約520.2億ドルと算出している。ダンアンドブラッドストリート社が持つ企業データベースを用いている。日本のマーケットに比べれば巨額だと思うが、昨年と比較すると70億ドルは下がったそうだ。研修スタッフへの給与は基本的に昨年と変わらず、どこを削減するかといえば、他企業からの製品やサービス購入経費だということも本レポートから確認できる。ただし、調査に参加した41%の企業は1年以内にオンライン学習ツールやシステムを購入する計画があると回答しており、削減の対象は研修室の備品やシステムらしい。ここから、多くの企業がオンライン学習に関心があることが分かる。

来年の研修予算については、全体の47%が削減、17%増加の予定と回答している。
2007年から2008年にかけての下落と比較すれば、従業員一人に対する経費は、昨年からほぼ横ばいに近い。一人あたりに費やす研修費は1,036ドルとであるが、面白いと思ったのは、小規模の企業の平均は1,176ドル、大規模は886ドルと小さい規模の企業のほうがトレーニングにお金をかけている。これは大規模だと、単純に単価が下がるということなのかもしれない。一人あたりに投資する費用にさほど変化がない一方で、個人の研修時間は2008年が平均17.2時間だったのに対し、2009年は31時間と増加している。どんな研修を行っているのであろうか。

気になるトレーニングの実施方法であるが、47%は通常の対面型研修、23%はブレンド型研修、18.5%がオンラインまたはコンピュータ型研修、そして1.5%が携帯などを用いた研修だそうだ。大規模のほうが、ブレンド型やオンライン型の実施割合が高くなる。オンライン型はITやコンプライアンスなど定期的に実施するものに使われ、営業や経営者向けの研修でのオンライン利用率は低いらしい。回答者からは、コストを下げ、効率を上げることが研修実施においてもっとも優先度が高いという結果も出ているそうだ。オンライン型といっても、いろいろあるが、シミュレーションとかVOD型とかそういった情報まではないのが残念である。

最後にアウトソーシングについてだが、一企業がアウトソースする平均費用は約30万ドルで、中央値は50万ドル、さらに回答数が多かったのは10万ドルだったそうだ。一番高い割合でアウトソースされているのが、研修(54%)で、LMS管理(18%)や学習支援(20%)は低く、内部で対応することが読み取れる。
全体の結果としては、ある程度予想できるものだと思うが、米国でもまだまだ対面研修が主流なのだと改めて感じた。対面型研修の割合は以前から大きく変化していないのを見ると、ちょっと残念な気もした。

本雑誌に掲載されているものはダイジェスト版であるが、もっと詳しく読まれたい方は、完全版($39)の購入が可能らしいので、ご興味があればいかがでしょうか。
http://www.trainingmag.com/digitalproducts

(熊本大学大学院 根本淳子)

【イベント】近々行われるイベントは?

○2009/12/19(土)
日本教育工学会研究会「FDの組織化・大学の組織改革/一般」
@京都外国語大学
URI:http://www.jset.gr.jp/study-group/index.html

○2009/01/23(土)
教育システム情報学会2009年度第5回研究会 モバイル&ユビキタスラ
ーニングと新しいユーザ・エクスペリエンス/一般@東北大学
URI:http://www.jsise.org/studygroupcommittee/2009/2009-05cfp.html

○2010/02/27(土) ~ 2010/02/28(日)
日本教育工学会 冬の合宿研究会「教育現場とつくる実践研究のデザイン」
@かんぽの宿 松島
URI:http://www.jset.gr.jp/study2/index.html

○2010/03/06(土)
日本教育工学会研究会「教育実践を指向した学習支援システム/一般」
@広島大学
URI:http://www.jset.gr.jp/study-group/files/20090307.html

○2010/03/13(土)
教育システム情報学会2009年度第5回研究会
生涯教育と情報教育/一般@畿央大学
URI:http://www.jsise.org/

○2010/03/14(日)~2010/03/15(月)
第58回人工知能学会先進的学習科学と工学研究会(SIG-ALST)@山代温泉
URI:http://home.hiroshima-u.ac.jp/jsai-sig-alst/

★ 編集後記

本年最後のIDマガジンとなります。毎回お読み頂きありがとうございます。
来年は、もう少し読者数を上げたいなと思っています。皆さん、来年もIDマガジンを支えてくださいね。今後ともIDマガジンをご愛読お願いします。よろしければ、お知り合いの方に、Webからの登録をお勧めしてくださいませ。

良いお年をお迎えください。

インストラクショナルデザインに関することで、読者のみなさんに紹介してほしいこと、伝えたいことなどがあれば、是非、以下のアドレスまでご連絡ください。

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ご意見・ご感想・叱咤激励など常時お待ちしております!
【 mail to: idportalあっとml.gsis.kumamoto-u.ac.jp】

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

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