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IDマガジン第24号

ID マガジンのご愛読ありがとうございます。
突然冬になった気がします。今年は、紅葉狩りにも行きましたが、ぱぁ
っと鮮やかな色を見られずに、冬到来です。健康管理にはご注意くださ
い。

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《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(24) ~パネル登壇で実感した省察不足:バンコク~
2. 【ブックレビュー】「シリアスゲーム 教育・社会に役立つデジタルゲーム」
藤本徹 電機大出版局
3. 【報告】国際セミナー:「高等教育の世界的趨勢:グローバル化、競争、知識の視点から」
4. 【イベント】近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(23) ~パネル登壇で実感した省察不足:バンコク~

2009年10月30日、ヒゲ講師は招待講演者として、バンコク市内にあるスリキット女王国立コンベンションセンターの壇上にいた。Worlddidac Asia2009という教育機器の展示会に併設されたAsia Education Leaders Forum最終日のパネル登壇だった。ある日突然舞い込んだ1通のメールでの招待に応じてのこと。VIP待遇を受けながらいろいろと探りを入れたが、なぜヒゲ講師が招待されたの? という謎は最後まで解けなかった。

7年ぶりのバンコクは相変わらずのひどい交通渋滞。排出ガスによる空気汚染は幾分か軽減されたようにも思ったが、秋を迎える日本から訪れると「むーっ」とした空気の夏に逆戻り。エアコンが効き過ぎの室内との往復が特にしんどい。

展示会では300を超える会社がブースを構え、多くの見物客で賑わっていた。主催団体の話では、およそ半分がテクノロジー絡みで、あとの半数は教育用玩具や実験機材などの実物系。近年の動きとしては、実物系の裏にデジタルが組み込まれたものが急激に増えているという。一角に7年前に取材した遠隔学習財団のパネル展示があった。衛星放送で授業を中継して地方の貧困層に奉仕するという国王による直轄プロジェクトが当時より規模をより大きくして健在であることがうれしかった。

展示会で目立ったのは英国・ドイツに加えて、中国と韓国からの出展。この4ケ国は国ごとにまとまって、国名の入った統一デザインで囲まれたコーナーをつくっていた。それに比べて日本からの出展はわずか数社。ハード系の現地法人に加え、教育用什器のメーカーと語学用教室内LANシステムに特化した展示が点々と置かれていた。「昔は日本のドラマがテレビによく流れていたけど、最近は韓流ドラマですね」と聞いたこととあわせて、日本のプレゼンスはこれでいいの? と感じた。まぁ時代の趨勢ですかね。

最終日のパネルは「E-Educationが教育の質・平等に与える影響とその反応」がテーマだった。ユネスコバンコクの取り組みについての基調講演に続き、英国での動向を紹介した主催者のイントロの後に、タイ、日本、シンガポールからの招待講演者が話題を提供した。ヒゲ講師はこのテーマに多少の違和感を持ちながら、「教授システム学専攻」の紹介を枕にして、2003年に日本がeラーニングレディネス世界ランキング23位になったショックと、それからもあまり進展を見せない日本のeラーニング動向の紹介などをした。これまでの発表をいくつかつなぎ合わせて急場しのぎの準備で臨んだだけに「あ、浮いたな」と感じたが、それは仕方なかった。「教育の質を考えるとき、同じやり方で単にe化するのではなく、e化を契機にやり方を根本から見直すべきだし、それは可能だ」というメッセージで行くことにした。

話題提供が終わった後で、いくつか質問がフロアから出た。その中に、タイの現状を考えると、「歩く前に走れというのか」という趣旨のものがあった。これはヒゲ講師の話題に対するものではなかったので、直接答える必要は感じなかったが、何かメッセージを伝える好機を逃がしたような気がした。たとえば、前回紹介したミャンマーでの児童中心型プロジェクトのことや、うちの専攻に南アフリカに隣接する国マラウイからの留学生が3人も来ていることが想起されたが、発言には至らなかった。これらを例にして何を伝えたかったのかがすぐにクリアにならなかったのがその原因だったと後で気づいた。自分がやっていることや見聞きしていることからどんなメッセージを出すべきかを普段から考えていない省察不足だな、と思った。

何を言うべきだったか。何を言うことができただろうか。

ミャンマーではICTではないが、児童中心型の授業のやり方を具体的な指導案として示した「教師用ガイド」を印刷・配布して、まずは「児童中心型の授業」をマニュアル通りに実施できるように研修を重ねている。また、世界中で注目されている日本流の「授業研究(Lesson Study)」のやり方を普及させて「教師用ガイド」を超えた独自の授業づくりの方法を体得させることに取り組んでいる。いわゆるICTのようなハードウェアが伴わない「ソフトテクノロジー」の普及を目指しているのがその特徴であると言えた。それは何らかの目に見える道具が持ち込まれる改革よりは難しいものだ。しかし、同じ普及のノウハウは応用できると感じている。こう言えたなぁ、残念!

マラウイからの留学生が取り組んでいるテーマの中には、高校の物理の授業の中にICTを取り入れるというものもあるが、教員養成を変革するというものもある。従来型の対面研修だけでは養成できる教員の数に限りがあり、必要数が充足できていない。有資格の教員をもっと多く養成するためにテクノロジーがどう活用できるかを探り、新しいタイプの教員研修のやり方を模索している。多くの学校の教室にはインターネットが来ているという状況にない国からどうして留学生が派遣されてくるのかと不思議に思っていたが、教員養成から始めるというのはなるほどと思った。教員養成の単なる量的な拡充だけでなく、そこで養成された教師が教壇に立っているうちに、教室にもICTが来る、と考えれば、間接的なICT利用教育の準備にもなることが期待できる。そう、こう言えば良かった。

この二つが言えれば、準備段階から感じていた「違和感」を少しは払拭して帰路につくことができたと思う。もっと言えば、最初からこの2つの事例を組み込んだ話題提供をしても良かった。日本は、貧困やデジタルデバイドというアジアが抱える問題を共有していないと思うだろうが、一方で国際貢献によって近隣諸国に奉仕する道を模索している。次のチャンスがあれば、このメッセージを事例とともに伝えるようにしよう。そういう思いを胸に、またひとつ勉強になったことを感謝してバンコクをあとにした。コップクン・クラップ。

(ヒゲ講師記す)

【ブックレビュー】「シリアスゲーム 教育・社会に役立つデジタルゲーム」

本書によると、私も子どもの頃に遊んだ経験のある「ダンスダンスレボリューション」、「ドラムマニア」、「シムシティ」、「三国志」、「信長の野望」、「桃太郎電鉄」、「グラン・ツーリヅモ」…、プレイしながら「何かの知識が学べる、興味を持つことができる」これらのゲームは、日本におけるシリアスゲーム(あるいはシリアスゲームに関連した事例)として捉えて良さそうだ。

本書は近年、欧米で盛り上がりを見せている「シリアスゲーム」というコンセプトを解説し、その事例研究の紹介、および主に教授システム学、教育工学分野の見地からその教育への活用について論じる一冊である。「ゲーム」というと娯楽的なイメージを持ち、ゲーム脳という言葉に代表されるように、何か「有害なもの」といった、教育利用に対してネガティブな捉え方をされることも少なくない。しかし、著者は、ゲームを教育に利用するメリットとして「モチベーションの喚起・維持」、「全体像の把握や活動プロセスの理解」、「安全な環境での学習体験」、「重要な学習項目を強調した学習体験」、「行為・失敗を通した学習」の5つを挙げ、ゲームを利用した教育の有効性を分かり易く解説している。

本書の本題であるシリアスゲームとは、上記有用性を踏まえてデザインされた「教育をはじめとする社会の諸領域の問題解決のために利用されるデジタルゲーム」であると著者は定義している。文中、第3章に事例研究として14本のシリアスゲームが紹介されている。ゲームの分野も様々であり、教育から公共政策、政治・社会、医療、および軍事など多岐にわたり開発されている。その中には、シリアスゲームの可能性を世に知らしめ、シリアスゲームコミュニティ形成の契機となった大学経営シミュレーション「バーチャルU」と米陸軍が新兵募集のためにマーケティングツールとして開発した「アメリカズ・アーミー」も紹介されており、その成功事例として大変興味深い。それらの多くが開発には非営利財団や営利企業による巨額の資金面での支援を受けており、コミュニティを通じて様々な分野で人材や情報、資金の交流が行われていることが読み取れる。

また、シリアスゲームの開発においてはゲームを魅力的にするためにゲームデザイナーと、教育的な構成を施すためにインストラクショナルデザイナーが、それぞれ参加する。しかし、ゲームデザイナーとインストラクショナルデザイナーの設計手法は互いにトレードオフの関係にあるところもあり、開発のための意識合わせが重要となる。よって、インストラクショナルデザイナーがゲームデザインの知識をカバーする動きや、またその逆でゲームデザイナーがインストラクショナルデザインの知識をカバーする動きがある。人工知能の研究者から転身して、eラーニング教材開発の専門家として活躍してきたことで知られ、熊本大学大学院教授システム学専攻でも SCC (Story-centered Curriculum) の生みの親としてお馴染みであるロジャー・シャンク (Roger Schank) もその一人として紹介されている。

ビジネスモデルといった面でも、現在のゲーム業界の市場を拡大するチャンスとしてシリアスゲームは注目もされている。脳トレブームもあり、日本でも教育や学習を扱ったゲームも多く取り扱われるようになった。ゲーム業界で活躍するインストラクショナルデザイナーが、この先日本で現れるのも期待できるのではないだろうか。

最後に、eラーニングに関心を持ち研究する私にとっても、ゲームの教育利用にあたっての設計、開発、導入に関して述べられている内容は、大いに参考となるものが多くあった。優れたゲームの備えている画面構成、操作方法、繰り返しプレイしたくなる仕掛けといった要素は、eラーニングコンテンツにも同様、有効な観点あり、考慮されるべきである。また、シリアスゲームコミュニティを中心にいわゆる「ヒト・モノ・カネ」という資源が集まり、シリアスゲームという分野に正のスパイラルが起こっている点などは、オープンソースCMSコミュニティとして開発が進められている Moodle や Sakai にも重ねることができるのではないだろうか。ここ数年、ゲームなどほとんどしてなかったが、今ゲーム機を手にするとまた違った楽しみ方ができるかもしれない。遠く昔の記憶になりつつあったゲーム熱が再燃しそうな今日この頃である。

(熊本大学大学院教授システム学専攻博士後期課程2年 宮崎誠)

【報告】国際セミナー:「高等教育の世界的趨勢:グローバル化、競争、知識の視点から」

今回の国際セミナーは、オーストラリア・メルボルン大学高等教育研究センター教授のサイモン・マージンソン教授による講演で、「高等教育の世界的趨勢:グローバル化、競争、知識の視点から “Globalization, Knowledge and Competition in Higher Education”」という演題であった。冒頭に大森不二雄教授から「サイモン教授は、私が頷きながらお話をお聞きできる数少ない方です。」と紹介があった。

サイモン教授は、まず「グローバルとグローバル化」の定義と「高等教育において、グローバルなアクションとは何を意味するか?」について説明された。そして、大学世界ランキングの発表によって、国内での知名度が左右されることや、国レベルでの政策や条例が大学のグローバル化に影響を及ぼすといった例を挙げた上で、高等教育機関においては、今までの「National(国レベル)」「Local(地域レベル)」のミッションに加え、「Global(世界レベル)」な動向にも対応し、National, Local, Globalからなるトライアングルの関係、即ち三次元で同時にミッションを追求するバランスが必要であると述べられた。

次に、サイモン教授は、グローバルな視点で各国の高等教育機関を捉える際に重要なことは、「指標」であり、その指標とは、HiCi研究者(頻繁に他の論文で引用される研究者)の人数、国家の高等教育への投資額、研究論文の発表数のことであると説明され、各国の数値の中で日本の高等教育の動向について述べられた。そして、高等教育のグローバル化にとって、「知識と研究」の「協力と競争」が重要であると強調され、その具体例として、国境を越えた協同開発、著名な研究者や優秀な留学生の獲得を挙げられた。留学生の獲得率は、上位五カ国が米国・英国などの欧米で、6位中国(5%)・7位日本(4%)であった(UNESCO data for 2005)。また、研究開発費の平均成長率(1995-2005)は、1位中国(18.5%)・2位芬蘭(7.8%)・3位韓国(6.9%)・6位日本(2.9%)…というグラフが表示された(constant prices , OECD China data for 2000-2005 only)。その中で、中国における高等教育は、数年後世界トップレベルに躍り出る可能性があるとの話を聴き、中国の発展を想像すると共に、日本の国力衰退に不安を感じたのは私だけだろうか(ゆとり教育が始まった頃、政府に勤め海外を飛び回っていた中国の友人から「教育こそが国力の基盤なのに、日本は何を考えているのか。中国は、明治維新以降の日本の教育を研究し、良い部分を学んでいる。今の日本は衰退に向かうつもりなのか。」と言われたことを思い出した)。

講演後半部分で、グローバル化に対応した高等教育戦略について示唆された。その中で、現状は英語が唯一のグローバル言語となっているが、他のグローバル言語の出現の可能性について、世界の使用言語のグラフを用いて説明された。グラフ上は1位2位がほぼ同列で、英語と中国語(普通語)であった。資料の中には、英語圏以外の知識が無視される危険性についても記述がされていた。また、世界のeラーニングについては「失敗事例は、語学の配慮もなく英語のまま教材を輸出しただけで、大学のブランド力だけで売り込もうとしていた。語学に配慮した指導が必要。成功事例であるフェニックスは、コストを掛けていた」と説明を受け、eラーニングを開発する上で手間を惜しんではならず、やはりeラーニングは様々な面で協同作業が大事だと感じた。

最後に講演のまとめとして、再度「協力と競争」の重要性、グローバル化を目指すと共に、国・地域レベルの独自のミッションを追求していくことの重要性を強調された。講演後の質疑応答では、諸外国が行っている「教育ハブ構想」や「知識都市構想」といった高等教育戦略を日本でも成功させることは可能か、また講演資料の大学世界ランキングが英国ではなく、上海交通大学作成の物が利用されているのは何故かといった質問が参加者から出された。サイモン教授からの後者の質問に対する「上海交通大学の資料は、大学の意図でコントロールできない指標を使っており、英国の資料以上に真実性が高いからである」という説明を受け、学生獲得のためのイメージ戦略の裏側を知った。。

私は、今までに6年間中国に滞在(留学・学校勤務)する中で、各国の若者や中国人、訪中日本人研究者との関わりはあったが、英語圏の教授から中国に関する話を聴くのが今回初めてであった。日本で私が中国のデータを元に話をすると、周囲から「中国のデータは信用できない。」と一喝されることが多く、今回説明を聴く前は、サイモン教授が中国の資料を引用されていることに驚きがあった。中国のデータの裏付け方にも賛否両論あると思うが、サイモン教授の説明を受け、中国の信用度が上がってきていることを改めて感じた。また、私は「グローバル化に必要なものは英語」という意識を持っていたが、サイモン教授の語学への配慮についての話は「教材開発者が学習者の使用言語に配慮する時代が到来し、英語ができない研究者の誕生」を想像できる面白い内容であった。今回は「英語圏の教授から見たアジア」も垣間見ることができ、非常に興味深く拝聴させていただいた。

講演内容の詳細に関しては、下記大森教授の実施報告をご覧ください。
http://gp.gsis.kumamoto-u.ac.jp/i_collabo/houkoku_091013.html

(熊本大学大学院教授システム学専攻博士前期課程2年 吉田)

【イベント】近々行われるイベントは?

○2009/12/04(金) ~ 2009/12/05(土)
Bbカンファレンス2009 in OSAKA(鈴木先生登壇予定) @大阪大学中之島
センター&CSKシステムズ西日本
URI:http://csklc.jp/event/2009conf-info.html

○2009/12/19(土)
日本教育工学会研究会「FDの組織化・大学の組織改革/一般」@京都外国語
大学
URI:http://www.jset.gr.jp/study-group/index.html

○2009/01/23(土)
教育システム情報学会2009年度第5回研究会 モバイル&ユビキタスラ
ーニングと新しいユーザ・エクスペリエンス/一般@東北大学
URI:http://www.jsise.org/studygroupcommittee/2009/2009-05cfp.html

○2010/02/27(土) ~ 2010/02/28(日)
日本教育工学会 冬の合宿研究会「教育現場とつくる実践研究のデザイン」
@かんぽの宿 松島
URI:http://www.jset.gr.jp/study2/index.html

★ 編集後記

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