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IDマガジン第23号

ID マガジンのご愛読ありがとうございます。
先日「今年も残り二ヶ月ほどになりましたね。」と言われ、ドキッとしました。学会などのイベントシーズンが終ってホットしたらすぐに年末。早いですね。話は変わりますが、前回の編集後記で書いた「ブックレビュー」の案が実現しました!ご協力頂ける皆様、感謝です。

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《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(23) ~日本教育メディア学会の温故知新~
2. 【ブックレビュー】「フロー体験 喜びの現象学」M.チクセントミハイ
3. 【報告】日本教育工学会第25回全国大会に参加して
4. 【イベント】近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(22) ~日本教育メディア学会の温故知新~

2009年9月11日(金)ヒゲ講師は熊本から羽田経由でMaxとき325号に乗り新潟駅に着いた。日本教育メディア学会の新旧理事会と全国大会に参加するためであった。どこの学会でもそうだが、会長が任期満了を迎える頃に次の会長選挙が行われ、執行部が交代する。この日、前執行部の理事で構成する最後の理事会(旧理事会)と新しい会長の下に組織された最初の理事会(新理事会)が同日開催された。ヒゲ講師は幸いにも(かどうかは分かりませんが)両理事会の構成員であるが、旧理事会が終わって新理事会が開催される間の30分で、これまでの功績に感謝されながら会場を後にする重鎮たちに代わって、フレッシュな新人たちが登場する悲喜こもごも。こういう場面が目撃できる学会も珍しいですね。

日本教育メディア学会の歴史は古い。1956年創立の日本放送教育学会と1964年設立の日本視聴覚教育学会をその前身としている。「日本教育工学会論文誌」の前身「日本教育工学雑誌」の第一巻刊行が1976年であったことと比べると、20年先輩にあたる。両者が合併して設立された日本視聴覚・放送教育学会を経て、名称を現在のものに改めたのが1999年。その間、『経験の円錐』の著者エドガー・デールを招聘したり(1956年)、1960年代初頭には、ティーチングマシンとプログラム学習の研究を推進、のちにCAI学会(現在の教育システム情報学会)や日本教育工学会ができるまでは教育工学研究の最前線にあった。「由緒正しい」学術団体なのです。

この学会での見聞をもとに、かつて、教育メディア研究が今日に示唆するところを一段落でまとめたことがある。それは次のものだ。昔を知ると歴史は繰り返されているなぁと思うし、最先端の研究に参考にもなる。まさに温故知新だと思う。

(ここから引用)
技術革新で利用が可能になる様々な教育メディアでは何ができるのか、またそれらをどのように活用するのが良いかが検討されてきた。適性処遇交互作用(ATI:Aptitude Treatment Interaction)研究の手法を援用した教育メディア比較研究の知見としては、「どのメディアも万能薬にはならないが、どのメディアでも学習は成立する」ことや、「学習課題の特性と学習者の特性に応じて、最適な学習環境が異なる」、「より新しいメディアを使う方が学習効果は高まる(新奇性効果)」、「どのメディアを選ぶかよりも、そのメディアをどう使うかで差が出る(メディア属性、機能的同等性)」、「使うメディアに対する構えによって学習効果に影響が出る(メディア知覚)」、あるいは経済性の観点から「(どのメディアでも学習が成立するのだから)より簡単なメディアを使って、学習者を能動的にするのが良い(シュラムのまとめ)」などが主張されてきた。
(ここまで引用)
http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~idportal/wp-content/uploads/2005a2.pdf

ヒゲ講師は、大学時代に選んだ研究室がこの学会の事務局をしていたことから、教育工学の世界に入り込んだ因縁がある。いわゆる古巣なんですね。事務局員(電話番)を学生アルバイトで担当していたりもした。戦後日本に初めて輸入されたオーバーヘッドプロジェクタ(OHP)第一号機にも対面した。この学会の事務局長を長く務めた故石本菅生教授に卒業論文を真っ赤っかになるまで添削指導してもらった。そんなこんなのいきさつもあり、細々とこの学会の一員として名を連ね、たとえばNHK学校放送関連のお仕事や情報教育におけるメディアリテラシー育成など、教育メディア学会らしいテーマの研究もしてきた。毎年皆勤賞とまではいかないものの、全国大会にも参加し、かねてからの旧交を温めてきた(=ICUの同窓会的位置づけ)。今年は、手ぶらでは何だなと思ってまとめた「『学びたさ』の設計を支える研究の動向」を発表したが、嬉しいことに熊大の社会人学生も「同期型教育へのチャット導入に向けた予備的考察」の発表で加勢してくれたので、2本の貢献ができた。この小規模な学会の全国大会で「2本」は、大きい貢献でした。

前理事会におけるヒゲ講師の役割はもっぱらICoME関連であった。日本と韓国を行き来して韓国の兄弟学会と共同で毎年開催してきた日韓合同研究会のInternational Conference on Media in Education(略称:ICoME)。教育メディア研究の若手養成と国際舞台(すなわち英語での発表)の提供。我が国よりだいぶ先をリードする韓国側の研究者との交流も定例化し、日韓の文化差にも慣れて、また、そこから査読付国際ジャーナルも誕生した(International Journal of Educational Media and Technology)。そう、今頃お気づきのあなた、日本教育メディア学会はICoMEの主催組織だったのです。

新理事会におけるヒゲ講師の役割は上記の継続。加えて年3回の国内研究会も所轄する副会長も仰せつかりました。新会長久保田賢一教授@関西大学総合情報学部の要請とあらば、断ることはできません。ということで、来年度のICoME2010は日本教育メディア学会全国大会との同時開催というオマケ付きで熊本にてホストします。由緒ある小粒でピリッと辛い弱小学会が、先輩韓国の力を借りながら精一杯背伸びしている様子を、ぜひ応援しに来てください。開催は、2010年7月15-18日ぐらいを予定しています。読者諸氏ができる最大級の応援は、もちろん学会員になって、研究発表してもらうことだということもお忘れなきよう。

今からカレンダーに記入して、ICoME(私も来ます)熊本へ!

日本教育メディア学会ホームページ
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jaems/

(ヒゲ講師記す)

【ブックレビュー】「フロー体験 喜びの現象学」 M.チクセントミハイ(今村浩明 訳) 世界思想社

何か関心のある事に夢中になっている時に、時間を忘れ、行為の対象そのものに惹かれて楽しさを感じ、その行為に没入していくと、フロー状態(最適経験)に至ると言われている。心理学者のチクセントミハイの「フロー理論」についての最初の著書から約25年を経て本書が執筆された。その間、本人は元より多くの研究者によって、教育分野を含む様々な分野での応用研究、実証研究、モデル化研究等が行われてきた。本書はその集大成的な側面をも合わせ持っている。「フロー理論」を、動機付け的側面、意欲の問題、仕事の効率化等の次元を超えて、「幸せに生きるための原理・処方箋・人生訓」として、本書の中ではまとめられようとしている。そのため、本書で述べられている内容を直接教育現場で実践したり、教育システムに組み込んだりすることは難しいと考えられるが、応用へのヒントに少しでもなりそうな記述についていくつか紹介したい。

単純な活動をフローを生む楽しいものに変える段階として、「(a)全体目標を設定し、現実的に実行可能な多くの下位目標を設定すること、(b)選んだ目標に関して進歩を測る方法を見つけること、(c)していることに対する注意の集中を維持し、その活動に含まれる様々な挑戦対象をさらに細かく区分すること、(d)利用し得る挑戦の機会との相互作用に必要な能力を発達させること、(e)その活動に退屈するようになったら、困難の度合いを高め続けること」が述べられ、目標設定と、能力と挑戦のバランスを保つことの重要性が述べられている。

フローは結果そのものより、プロセスやそのプロセスを通して得られる経験を重視している。著者は、「学校の価値はその名声、または生活の必要に立ち向かうよう生徒を訓練するその能力によってきまるのではなく、むしろ生涯学習の楽しさをどの程度伝えられるかによって決まる。」と述べている。

身体のフロー、思考のフロー、家族関係、孤独と人間関係、ストレスへの対応等、本書全体に渡り、自己統制、つまり、自分の意識を自分でコントロールする能力がフロー体験の獲得には不可欠であることが繰り返し述べられている。「外的条件が最も好ましいものであっても、人がフローに入ることを保証することはできない。」と述べているように、自助努力なしにはフローに到達することはできない。しかし、自己目的的なパーソナリティを有する人はフロー体験を得やすいことに関しても述べられており、このような資質を開発/支援できる環境が提供できれば、フロー体験が得やすくなることも考えられる。

尚、チクセントミハイのフロー体験の研究方法についてより詳細を知りたい方は、「フロー理論」についての最初の著作である“Beyond Boredom and Anxiety” (1975) (邦訳:「楽しみの社会学(改題新装版(旧題:楽しむということ))」(2000)、新思索社 を読まれることをお奨めする。

本書は様々な日常生活のシーンにおいて、目的意識や向上心を持つことで,生活をより楽しいものにできる可能性があることについていくつかの実例を挙げながら述べられている。全ての活動を理想状態で維持することは難しいが、少なくとも、自分が設定したゴールに向かって自分自身で進むことが重要である。翻って、教育シーンを考えると、現在の学校教育,生涯教育が,「学ぶことの楽しさ」を伝えられているのかについては疑問がある。教える側が、フロー体験を得やすい学習環境を提供するだけでなく、教えられる側も学習に対して真剣に取り組んで初めてフロー体験が得られる、ということは当たり前ではあるが、注意が必要である。

おわりに、私は、現在社会人学生として教授システム学専攻で学んでいるところであるが、学習者が「学ぶことの楽しさ」を実感し、自律的に学習を継続できることを支援するシステム・仕組み・環境について考えている時間が自分にとってのフロー体験となるよう努力しているところである。近い将来、是非具体的に提案したいと思う。

(熊本大学大学院教授システム学専攻博士後期課程1年/日本電信電話株式会社 加藤泰久)

【報告】日本教育工学会第25回全国大会に参加して

2009年9月19日から21日までの3日間,東京大学で開催された日本教育工学会第25回全国大会に参加いたしました。筆者自身は昨年の24回全国大会には参加しなかったため、今年は2年ぶり、そして熊本大学教授システム学専攻の一員として初めての、全国大会参加となりました。
■9月18日(全国大会前日)
この日、教授システム学専攻メンバーが続々と東京入りしました。集合・宿泊場所はJR神保町近くの旅館。我々にとって旅館は単なる宿泊場所ではなく、部屋の壁にプロジェクターを投影し、また壁一面にポスターを貼り、発表のシミュレーションを行う、言わば前衛基地であり決起集会場所となります。
この日も深夜まで活発な議論・修正が繰り広げられました。

■9月19日(全国大会1日目)
学会初日、我々教授システムメンバーは旅館から東大まで歩きで移動しました。徒歩約40分、9月とはいえ暑くびっしょり汗をかきました。この日のセッションは、ポスターセッションを含む一般研究発表とシンポジウム、そしてワークショップでした。

シンポジウムB「ICTを利用した教育・学習システムの目標設定と評価法-研究の「モザイク」から「るつぼ」への発展を目指して-」では、様々な分野の研究者が集まる教育工学という分野で、ゴール設定と評価法についてパネリストから意見が出されました。

教授システム学専攻でも、教育系の先生・工学系の先生・様々なバックグラウンドを持つ学生さん・推進機構の人々と本当にたくさんの人が関わっていて、「モザイク」から「るつぼ」というキーワードは大きく共感いたしました。「なんとなく仲良く」ではなく、お互いを理解し意見を言える「クリティカルな関係」そんなチームが理想だと思いました。

一般発表では、筆者はポスターセッションにて発表をいたしました。教育工学会におけるポスターセッションでの発表は、筆者自身初めての経験で、発表者と聞く人の距離が近く、より率直な意見交換ができます。一般発表にある独特の緊張感はありませんでしたが、興味の無い方には素通りされてしまい、一般発表とは異なるプレゼンスキルが必要だと感じました。
この日の夜は、教授システム学専攻の教員・学生・OBOGが一堂に会する「熊大ナイト」が開催され、近況報告や,この日誕生日を迎えた学生さんのためにサプライズでケーキを用意するなど,非常に楽しい夜となりました。

■9月20日(大会2日目)
この日は一般研究とシンポジウムに加え,夜は懇親会が開催されました。懇親会では,お世話になった先生にご挨拶をしたり、知り合った方と名刺交換をしたり、院生時代に所属した関西大学のメンバーと話したりして楽しい会でした。

懇親会に続き、教育工学若者飲み会に参加しました。受付でとてもカラフルで怪しげなハッピを受け取りました。何に使うのかと思っていると、どうやら同じ色や色の組合せの人と集まったり話したりするためのコミュニケーションツールでした。どうしても仲の良い人とばかり集まりがちな飲み会で、交流を促進する仕掛けは非常にいいアイディアであるし、是非参考にしたいと思いました。

■9月21日(大会3日目)
最終日、午前は教授システム学専攻の博士課程の学生2人が参加するe-Learning(システム)のセッションに参加しました。毎晩行われていた旅館での発表練習の賜物か,お二人とも堂々とした発表で,質問時にフォローに入る先生とのチームワークも見事でした。

午後の課題研究は、かつて筆者が所属した、関西大学の授業支援の発表を聞くため「高等教育・FDにおける教育工学の役割」に参加しました。微力ながら立ち上げに関わったプロジェクトが年々進化していることに感慨深い思いでした。

■おわりに
熊大教授システム学専攻という大所帯で参加した始めての全国大会では,「学」と「会」に満ちた時間を過ごすことが出来ました。筆者自身のポスターセッションでは貴重なご意見をいただき,他の方の発表から得た「学」,発表やイベントを通じた新たな知人や,旧知の方との再会を喜び合う「会」。たくさん学び,たくさんの人と出会った,非常に「記憶に残る3日間」となりました。

【イベント】近々行われるイベントは?

○2009/10/24(土)
日本教育工学会研究会「ICT活用の授業研究と教師教育/一般」@信州大学
URI:http://www.jset.gr.jp/study-group/index.html

○2009/10/26 ~ 2009/10/30
E-LEARN 2009@Vancouver, Canada
URI:http://www.aace.org/conf/ELEARN/
.
○2009/10/27(火) ~ 2009/10/31(土)
2009 AECT International Convention @ Louisville, Kentucky
URI:http://www.aect.org/default.asp

○2009/11/03(火) ~ 2009/11/06(金)
EDUCAUSE 2009 Annual Conference @ Colorado
URI:http://net.educause.edu/content.asp?SECTION_ID=399&bhcp=1

○2009/11/14(土) ~ 2009/11/15(日)
平成21年度 情報教育研究集会@東北大学
URI:http://www.ise.he.tohoku.ac.jp/conf2009/

○2009/11/14(土) ~ 2009/11/15(日)
平成21年度 情報教育研究集会@東北大学
URI:http://www.ise.he.tohoku.ac.jp/conf2009/

○2009/11/20(金)
教育システム情報学会2009年度第4回研究会 eラーニング環境の
デザインとHRD@早稲田大学
URI:http://www.jsise.org/

○2009/11/21(土)
第57回人工知能学会先進的学習科学と工学研究会
URI:http://home.hiroshima-u.ac.jp/jsai-sig-alst/

★編集後記

熊本でも岩手の時と同じような「学びの輪」が徐々にできていることを感じます。この輪は、教員も学生も積極的に学び、活動しようとしなければ成立しません。また、その形はいろいろあると思いますが、通常はチームや学年単位の小さな輪がいくつもあり、それぞれが各輪の中で自由に活動していますが、時に、みんなで一つの輪を作り出します。なぜだか分かりませんが、最近、オンラインでのやり取りと定期的に周囲と顔をあわせ、おしゃべりするオフラインの組み合わせが快適だと思うようになりました。この「輪」のおかげでしょうか。

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【 mail to: idportalあっとml.gsis.kumamoto-u.ac.jp】

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謝辞

本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

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