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IDマガジン第21号

ID マガジンのご愛読ありがとうございます。
eラーニングワールドの出展とカンファレンスやビジネスセッションでの発表を終えてホッとしている間もなく夏が過ぎようとしています。多くの方々に熊本大学大学院教授システム学専攻にもお越し頂き本当にありがとうございました。

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《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(21) ~夏のイベント1つ終わりました~
2. 【報告】第17回 eラーニング連続セミナー「eラーニングと生涯学習」に参加して
3. 【報告】熊本大学大学院GP国際セミナー:リバプール大学のeラーニング戦略
4. 【イベント】近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(20) ~夏のイベント1つ終わりました~

ヒゲ講師の今年のeラーニングワールドはとても充実していました。初日はカンファレンスでの登壇。根本淳子助教と臨んだ最初のコマではライゲルースのグリーンブックIIIを紹介しました。数多くの質問をいただき、関心の高さが分かりました。我が国のIDも随分成長したな、と実感しました。たぶん5年前だったら、???で終始した中身でしたが、スルドイ質問が出ただけでもすごさを感じました。この本は是非訳したいですね(その前にケラー教授のARCS本も訳さなければならず、その次に着手、かな?)。

2コマ目は、IDの美学第一原理を紹介しました。これについても様々な質問を頂戴し、嬉しく思いました。IDの最新動向ということで、ヒゲ講師の苦手分野(美的センスゼロを自認しています)なので少し心配しましたが、チャレンジしてよかったと思っています。今後も、新しいところを果敢に攻めて紹介していきますので、乞うご期待。

eラーニングワールドの二日目は、サウジアラビアからのご一行受け入れで長~い一日が始まりました。今年3月に同国で開催された第一回のeラーニング国際会議に招待を受けて、とても楽しい1週間を過ごしてきましたのでその恩返し、ということで、サウジ国内でeラーニングの推進役となっている25名の大学教員のグループに熊本大学の取り組みを紹介して欲しいとのオーダーを受け、「それならばeラーニングワールドの見学も兼ねて、お台場でやりましょう」ということになった次第。eラーニングワールドだったらVIPにも会っていただけるし、熊大のブースも見てもらえるし、熊本大学に来てもうちの学生はいないので好都合。とりあえず、貴国での歓迎ぶりに謝意を示し(エンジョイしているヒゲ講師の写真などを紹介)、バーチャル熊本大学ツアーにお誘いし(単なる10分程度のプレゼン)、そのあと展示会を見てもらいました。「英語を話せる人が展示会に少ない」とかいろいろ文句を言われましたが、砂漠の民AND大学人ですからそれぞれ一家言あるのは想定内。楽しくお帰りいただいたと自負しています。来年も来てくれるかな(来年はお台場がNGならば、阿蘇の大自然でも堪能してもらいましょうかね)。

午後は展示会での無料ビジネスセッションで、eラーニング専門家をeラーニングで育てる大学院の紹介。IDに基づいてやっていると言っている以上、高い期待を裏切れないし、こういうeラーニングを展開すればいいんだ、という見本になるような学習体験にしたい、という思いで緊張感ある毎日を過ごしてます、という趣旨の専攻長のまとめのことばで無事終了。無事というのはとりあえず予定時間内に最後まで終わったという意味においてですが、本当に「無事」だったかどうかは、来年度の入学志望者数で判断される、というのがせちがない世の中です。ブースでの出展も含めて、ROIを確保できるかどうか、毎年のチャレンジは続くのであります。

夜は恒例の屋形船で昼間の緊張を解きほぐし、旧交を温め、また新人を歓迎する対面・一体型・逃亡不可のイベントを挙行しました。東京湾の海の幸と食べきれない天婦羅で美酒を傾け、全員が一言しゃべる中の意外性に酔いしれ、あっという間の二時間でした。無論、それで終わるわけもなく、下船した月島でもんじゃを肴にさらに話題は膨らみ、そのあとも続いたような気もします(しっかり記憶していませんが)。日常が会いたくても会えないインターネット大学院の我慢強い生活ですから、こういう対面の会の盛り上がりは非日常的です。今年もまた、ヒゲ講師は至福の時を過ごしました。呑み過ぎに気をつけて、という周囲の気遣いはありがたいと思っていますが、こういう非日常は別格ですね。多謝。

さてと、明日から名古屋で教育情報システム学会の全国大会です。今年は熊大関係者だけで20件を超える発表があり、発表練習を肴にして名古屋の合宿所での非日常がまた繰り広げられることでしょう。様々な行事を糧として我が同士の結束はまた一層強固なものになり、次の同士を迎え入れる準備をすることになります。

いつの日か、IDマガジン読者諸氏も、熊大の門をたたかれる巡り合わせになりますことを楽しみに。

(ヒゲ講師記す)

【報告】第17回 eラーニング連続セミナー「eラーニングと生涯学習」に参加して

7月14日、富山のインターネット市民塾より山西理事長と柵事務局長が来熊され、「eラーニングと生涯学習」というテーマで講演が行われました。講演者の略歴や講演の概略は、eラーニング連続セミナーのウェブサイト(http://el-lects.kumamoto-u.ac.jp/) を参照していただくとして、ここでは、講演の中から印象に残ったエピソードをいくつかご紹介したいと思います。

山西理事長からは、富山における産学官共同の取り組みとして平成10年に始まった「インターネット市民塾のコンセプトや運営モデルについてのご紹介がありました。「Teaching is Best Learning」という山西理事長の印象的なフレーズの中には、日常の知恵や経験といった市民の「暗黙知」を顕在化、明示化することの意義や、互いに教えあい伝え合うための「学びと交流の場」の重要性など深い意味が含まれていることを感じました。それは、受講者が講師やサポーターに変容する(これを知の連鎖と表現されていました)過程の中で、一般の市民が教えることを通じて、主役になる、学び方を学ぶ・学ぶ楽しさを知る、仲間ができる・励まされる、知識が引き出される・形になる、元気になる・勇気が出る、自立的に社会に向き合う・考える…というプラスの変化が生まれることであり、このことが市民塾の最大の存在価値ではないかということです。

柵事務局長は、市民塾における(リアルな)交流やスクーリングの様子を写真や動画を使って紹介されました。就労、健康とIT、リーダー育成、ふるさと伝承、防災などなど、さまざまなテーマで、専門家じゃなくても、自分の好きなことを、楽しく学び伝え合う様子が生き生きと伝わってくるプレゼンテーションでした。市民塾には、講座の受講以外に、テーマを発表する、成果を展示する、活動の仲間を集める、ネット教室やサークルを開くなどといったいろいろな参加形態があり、目的によって講座のスタイルやサイトの活用スタイルもさまざまだと。その中でも柵さんが仰っていた「学びの貯金箱」というキーワードは、経験・交流・学び・活動の『あしあと』としての「ライフログ」や、自身の変化を見る(見せる)ための「eポートフォリオ」といった、市民塾の新しい活用スタイルを期待させるものでした。

また、山西理事長が仰っていた「知の連鎖」に関連して、ティーパーティとパソコン活用をテーマにした講座に参加し触発された70歳代の女性が、3年間がんばって自分の講座「体のためになる食事」を開講したこと、その講座には参加者3名、うち最後まで受講したのは1名だったというエピソードを紹介して下さいました。講師を務めた70代女性は、40年近く栄養士として働いていた経験をまとめる大変良い機会となり、それを聞く人が一人でもいたことがとても良い刺激となって最後まで続けられたこと満足していたそうです。ここで柵事務局長は「3年かけて受講者1名の講座をひらくことに意味がないと思われますか?」と聴衆に問いかけられました。そして、柵事務局長は以下のようにコメントされたのです。

「講座開講がゴールではなく、自身の経験をまとめ、顕在化させることによって共有することがゴールであり、そのための手段として講座開講が存在する。だから、講座のテーマがすでに多くの人にとって既知の事実であってもかまわないし、それに向かってディスカッションや情報収集などの学習活動を行い、目標を達成することにより学習者は満足感を得ることができている。」

私は冒頭で紹介した山西理事長が仰った市民塾の存在価値を、このエピソードから、あらためて実感するとともに、ICTを適切に活用することにより、市民講師や学習者の「満足感」をしっかりとサポートできている点が富山インターネット市民塾の成功要因であることにあらためて気づかされました。参加者それぞれのゴールを見出し、ゴールへの到達という満足を得るためのお手伝いを行うこと、このことが、私たち「くまもとインターネット市民塾」においても、目指すべき活動の本質になるのではないかと考えています。

(NPO法人 くまもとインターネット市民塾 事務局 村嶋 亮一)
http://www.learning-square.jp/

【報告】熊本大学大学院GP国際セミナー:リバプール大学のeラーニング戦略

「180か国から3,000人以上が学ぶオンライン大学院をいかに実現したか」。首都圏を地震や台風が襲った8月11日、東京・田町駅前にあるキャンパスイノベーションセンターにて行われた、このような非常に興味深いタイトルのご講演を、筆者は本マガジンの執筆を念頭に、つまり、ID的見知から考察することを意図して拝聴した。

講師のSir Drummond先生は、英国有数の研究大学であるリバプール大学の学長を2002年から2008年9月までお務めになり、その間、大学の国際化にリーダーシップを発揮された方である。ご講演の中では、100%オンラインの修士課程の設立や中国への大学の設立を代表事例としてご紹介下さった。特に、オンライン大学院については、修了者には修士号(MBAを含む)が授与される英国初のeラーニング学位課程(分野は、経営、IT、法律、公衆衛生等)を開始し、2003年に最初の修了者2名を出した後、急激に規模を拡大し、現在、約180か国から3,000人以が学んでいる。そして、このような国際化に関する取り組みを、米国の大手教育企業Laureate Educationとの包括的連携により実現させているという点が特徴的である。

主としてマネジメントの重要性を説くご講演ではあったものの、筆者の不安をよそに、意外にもID的に重要な要素が埋め込まれていたと感じることができ、原稿が書ける!という思いとともにIDの有用性を再認することができ、安堵を覚えた。

まず、先生は、「大学の国際化に取り組むならば、”なぜ”国際化をする必要があるのか、その目的を初めに問うべきである。」と述べられた。そして、これをご講演の最後にも再び強調された。至って普通のことではないか?と思われた方も多いと思う。しかし、これは、一見すると理性的判断の塊から構成されているような「大学」という組織においても、この「至って普通のこと」を出発点とせずに進められるプロジェクトが多いということを、一方では、やはり「目的」の考究こそが成功を導き出すための手段であることを物語っている。”なぜ”その教育が必要なのか?本マガジンの読者ならば、今一度胸に手を当て、皆様が目下取り
組んでいらっしゃるその教育の「目的設定」を考え直してみてはどうだろうか?話を国際化に戻すならば、リバプール大学の場合、その目的とは、「学生や教員のためのより良い環境作り」、「大学をより発展させるための増収」、「ブランド力の向上」の3つだという。

2つめは、「初期分析」の重要性である。マネジメントの視点では、大学側がアカデミックな教育の質に責任を持つ一方で、企業側がマーケティングに責任を持つという連携の枠組みに興味が向かうところではあるが、このマーケティングの部分では、コース設立の前にマーケティングリサーチを行い、それにもとづいたコース開発や運営を行ってきたという。その結果、教育のターゲットとして設定された中間キャリア層の人々は、コンテンツのリッチさよりも安定な動作を求めているといったことが分かり、これらを加味して、LMSとしてはBlackBoardを採用したり、24時間体制のチュータを配備したりしたとのことであった。

3つめは、「入口」と「出口」の問題である。学生の質の多様化が進む中で、一定の質の入学者を得るために、他大学との協力関係や独自ネットワークの構築に注力しているという「入口」に関するお話があったほか、社費等による留学の学生も多いため、出資者に対しては「出口」における学生の質保証も重要な課題であり、今後、その点についても更に努力を重ねていく必要がある旨を伺った。

ID(教授設計)、IT(情報通信技術)、IP(知財)、IM(マネジメント)の4領域を柱とする我らが教授システム学専攻なだけに、このように、IDとマネジメントのクロスオーバーが成功の秘訣といえるような事例に触れられたことは、一研究員として大変有意義であった。

(教授システム学専攻 特定事業研究員 小山田誠)

【イベント】近々行われるイベントは?

○2009/2009/08/19(水) ~ 2009/08/21(金)
教育システム情報学会第34回全国大会@名古屋大
URI:http://home.hiroshima-u.ac.jp/jsai-sig-alst/

○2009/08/22(土) ~ 2009/08/23(日)
日本教育工学会 夏の合宿研究会「新学習指導要領における情報教育の役割」
@和歌山大学
URI: http://www.wakayama-u.ac.jp/~toyoda/jset/

○2009/08/27(木) ~ 2009/08/30(日)
ICoME2009@ソウル国立大学
URI:http://ict-education.heteml.jp/icome2009/

○2009/09/12(土) ~ 2009/09/13(日)
日本教育メディア学会2009年度年次大会@新潟大学
URI:http://wwwsoc.nii.ac.jp/jaems/

○2009/09/19(土) ~ 2009/09/21(月)
日本教育工学会第25回全国大会@東京大学本郷キャンパス
URI:http://www.wakayama-u.ac.jp/~toyoda/jset/

○2009/09/28(月)
教育システム情報学会2009年度第3回研究会 先進的なアルゴリズム/
プログラミング学習・教育支援システム@静岡大学
URI:http://www.jsise.org/studygroupcommittee/2009/2009-03cfp.html

★ 編集後記

イベントをひとつ終えてホッとする前に、夏カゼをひきました・・・。周囲にはインフルエンザと言われ迷惑がられながら、寝込んでしまった夏休みでした。や
りたいことはたくさんあったのに。そんなものですね。いろいろありましたが、イベントを通じ多くの方にお会いできたのは収穫でした。オンライン大学院にいるからこそ、対面でみなさんにお会いできると「嬉しい」とさらに思うのでしょうね。とても多く学ぶ機会であり充実した時間でした。

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謝辞

本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

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