ID マガジン第18号
ID マガジンのご愛読ありがとうございます。
皆様お休み中のところだと思いますが、IDマガジンをお届けします。
9月には熊本大学にて、教育システム情報学会全国大会が開催されます。
皆様ご参加お待ちしています。
さて、今回のコンテンツメニューはこちら↓
《 Contents 》
1. 【ご案内】熊本大学 第15回eラーニング連続セミナー「eラーニングと教育改革 -韓国と米国における教育実践の最新事情-」(8月29日)
2. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(18) ~教育工学研究の固有性:AECTの定義2008~
3. 【報告】アメリカ取材@PSU(ペンシルベニア州立大学訪問記)その2
4. 【報告】e-Learning World カンファレンス登壇体験記~熊大SCCの裏舞台~
5. 【イベント】近々行われるイベントは?
★ 編集後記
【ご案内】熊本大学 第15回eラーニング連続セミナー「eラーニングと教育改革 -韓国と米国における教育実践の最新事情-」(8月29日)
韓国と米国から計3名の研究者をお招きして、教育実践の最新事情を講演いただきます。参加お待ちしています。(Grabowski先生は今週のアメリカ取材@PSUにも登場されていますので、こちらも要チェック!)
◆日 時 : 2008年8月29日 (火) 15:00 ~ 18:00
◆会 場 : 熊本大学大学教育機能開発総合研究センター 多目的会議室
(▼下記地図中34番▼)
http://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/campusjouhou/shuyou_shisetsu/index.html
◆プログラム :
「eラーニングと教育改革 -韓国と米国における教育実践の最新事情-」
○「 韓国におけるICT教育の現在と未来(仮) 」
講演:Insook Lee 氏 (Professor, Sejong University, Korea)
○「 ibstpiの教育・研修担当者職務能力水準について(仮) 」
講演:Barbara L. Grabowski 氏 (Professor, Penn State University, USA)
○「 学生が情報社会に自分の将来を見つけるための支援(仮) 」
講演:Kenneth C. Gray 氏 (Emeritus Professor, Penn State University, USA)
◆申し込み:下記URLから事前登録ください。
http://el-lects.kumamoto-u.ac.jp/
◆参加費 : 無料
(注)本セミナーでの使用言語は英語です。同時通訳はありません。
ただし、講演内容を理解できるように援助します。質疑は通訳致します。
【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(17) ~教育工学研究の固有性:AECTの定義2008~
8月9-10日ヒゲ講師はこの夏2度目の秋田大学にいた。前晩の旧来の友人宅での美酒の残り香を少し頭の片隅に感じながら、日本教育工学会の夏の合宿に参加した。テーマは「教育における”技術”を考える」。ヒゲ講師は担当理事ということもあり、最終日の小講演「教育工学研究の固有性とは何か?」を担当した。
「相変わらず鈴木さんの着眼点はおもしろいね」と、巨匠西之園晴夫先生のほめ言葉にテレながら、返す言葉での質問「それで教育工学の成果として大学の授業料がタダになったという事例はあるの?」「教育工学がなくなって学校現場の先生方が困るの?誰も困らんでしょう、そこが問題だよね」という鋭い刀を浴びて、照れている場合ではないと覚悟した自分がいた。まぁいつものことながら、質疑応答時間の時間切れに救われることになるのだが。
依頼されたテーマ「教育工学研究の固有性とは何か?」にまともに体当たりしたヒゲ講師の答えは、最初のスライドに小さく書いた次の結論:それは
・研究方法がばらばらなこと
・実践に役立つ知恵を集積すること
・楽観主義と折衷主義
・<自分探し>を続けていること
・研究テーマが変わり続けること
・固有性が<とくにない>こと
教育工学研究者が全員備えている「常識」が存在しないことや、必読書がないこと。誰でも知っている基礎研究・理論がないこと(研究方法がばらばらなこと)からはじめて、5年前の全国大会でヒゲ講師が発言した「教育工学研究はタコツボだ!」を振り返り、人を育てるためには必須の研究態度としての決して諦めない姿勢(楽観主義)と何でも使って問題を解決するのが工学でありえり好みしない姿勢(折衷主義)を併せ持つことこそが教育工学の固有性であるとの持論を展開。さらに教育工学と学習科学の統合が進んでいる米国の事情に触れ、デザイン実験アプローチを持ち出してやっていること・目指していることは似ているがやってる人が違うだけだと解説。<自分探し>を続けていることをAECTの定義の変遷を紹介して語り、最新情報としてAECT定義2008年版に言及。研究テーマが変わり続けることが教育工学研究の固有性だということを、赤堀会長の2007年念頭挨拶「教育工学研究の特性」と2006年に理事会が決めた日本教育工学会が取り組むべき重点研究内容(いわゆる中期目標)を例に説明。最後に、固有性が<とくにない>ことが教育工学研究の固有性なんだから、入りたくなる仲間、役に立つ道具、影響力のある実践を目指して、やりたい研究をどんどんやりましょう! と結んだ。
ちなみに、AECT定義2008年版は下記のとおり。前回の1994年定義と微妙に違っていて、近年の状況変化を反映しているのが興味深いです。
Educational technology is the study and ethical practice of facilitating learning and improving performance by creating, using, and managing appropriate technological processes and resources. (p.1)
[教育工学とは、適切な工学的プロセスと資源を創造し、利用し、管理していくことによって、学習を促進しパフォーマンスを向上させるための研究と倫理的実践である。]
出典:Januszewski, A., & Molenda, M. (Eds.)(2008). Educational Technology: A definition with commentary. Lawrence Erlbaum Associates.
主な変更点(AECT定義1994年版→2008年版)
(1)theory and practice→research and ethical practice
・理論だけでなく反省的実践を含む多様な形式を含むことを示唆
・AECT専門家倫理規定の制定が背景:Critical Theoryの立場
(2)for learning→facilitating learning and improving performance
・直接的な制御から間接的な関与を強調:間接的支援の増加
・専門職の仕事としてパフォーマンス向上は効果・効率の証
(3)appropriate technological processes and resources
・適切=両立可能性、地域性、適正技術、持続可能性、倫理性
・辞書学的には不適当だが「科学的・組織的知識を実践的な課題に
システム的に適用すること」を一語で表現
(ヒゲ講師記す)
【報告】アメリカ取材@PSU(ペンシルベニア州立大学訪問記)その2
■バーバラ・グラボウスキー教授(Barbara Brabowski)
バーバラは、ペンシルベニア州立大学(PSU)教授システム学専攻の古参教授の一人で間もなく定年を迎える。PSU出身で長くここで教鞭をとってきた。量的研究法を担当し、長年「修了生の質を担保することに貢献してきた人物(藤本徹氏談)」。現在、ibstpiの理事代表を務め、訪問中にibstpiについても打合せ昼食会を持った。最終日には隣接専攻に所属する二人の大物教授(Profs. Rothwell & Moore)との面談や、遠隔教育部門訪問をセッティングしてもらった。
注記:バーバラは8月19日に初来日し、各地での講演が予定されている。
・8月20日(水)日本医療教授システム学会主催・講演会
(国際医療センターhttp://www.imcj.go.jp/)
http://www.simclub.jp/modules/bulletin/article.php?storyid=31
・8月26日(火)ICoME2008(関西大学高槻キャンパス)
http://icome2008.ict-education.org/japanese/index-jpn.htm
・8月29日(金)第15回eラーニング連続セミナー(熊本大学)
http://el-lects.kumamoto-u.ac.jp/
■PSUが学習科学者2名を2002年に雇用してからの変化
1970年代に教授システム学の研究者として育った頃から、行動主義の限界を感じ、頭の中に起きていることに注目してきた。メディアの専門家ではなくシステムの専門家となることを心がけ、PLATO(インターネットゼロと呼びたいと思っている)を用いた研修システムの設計・開発に当たっていた。当時の新しいメディアをツールとして使い、学習のために何ができるか模索していた。
当時から新しいメディアに興味を持ってきたが、このクリスマスにiPhoneを夫からプレゼントされたときに、かつてからのメディアへの興味が再び呼び覚まされた。iPhoneによって自身の生活に変化が生まれ、1970年代後半に感じていたかつての興奮が蘇り、このメディアの変化で何が持たされるか、ユビキタスコンピューティングなどの新しい可能性で何ができるか、久しぶりに楽しみになった。
教授システム学の成果として、たとえばARCSモデルなどたくさん学ぶべきことはある。一方で、構成主義の考え方など、これまでの考え方に挑戦し、学習者の役割を見直し、何か違う考え方で新しいタイプの技術を利用できないか、と我々にチャレンジすることを迫っていると感じている。
PSUの修了生が何をする(何が出来るようになっている)ことが求められるか。その点がこの専攻で起きている変化を見るときに、重要な視点だ。学習科学の要素を取り入れてきた専攻の変化は歓迎すべきものだと思う。PSUの教授システム学専攻にずっと育ってきた哲学は、創設者ポール・ウィーバー(自身の指導教員)によってスタートした「その時代のテクノロジーと教育心理学の考え方を統合する」というものだった。PSUの修了者には、理論を理解し、戦略的なプロセス(学習ニーズの分析を含む)をマスターしていることが求められてきた。テクノロジーの専門家になるのではなく、プロトタイプを作って技術専門家と会話ができる程度になることを目指していた(当時はテレビ番組の製作)。その後、理論がより重視され、テクノロジーに手を染めることが少し疎かにされてきたと思っている。学習科学者の追加によって、テクノロジーのハンズオン経験がまた重要視されるようになった。
IDの各ステップでやらなければならないことは今も昔も変わらない。(数々の批判はあったが)IDはいつの日も直線的なプロセスではなかった、と私は思っている。学習科学者はテクノロジーの領域でのすばらしいスキルをこの専攻に持ち込んできた。もはや自分自身ではついていけない今日のテクノロジーの第一線のスキルを提供してくれている。「Design Studio」(新設科目名)はその好例だ。テレビ番組制作が当時の最先端であったのと同じように学生たちが今日の最先端テクノロジーに触れる機会を持つことは重要だ。一方で、学生たちに、コンピュータ科学の最先端レベルのスキルを身につけさせることを期待するのは行き過ぎだと思っている。そういう観点から、修了者に期待されるスキルセットをしっかり定義する必要性を感じている。
学習科学者によってもたらされた最大の恩恵は、理論でもプロセスでもなく、テクノロジーだと思っている。理論を活用できることは重要な要素であり、基礎だというのが本専攻の哲学である。その当時、映像技術の専門家が専攻に所属しており、その人たちのおかげでテクノロジーの活用についての経験を与えることができた。それと同様に、現在我々のチームにいる学習科学者によって、今日の最先端技術についての経験を学生に与えることができている。
(このインタビュー結果のまとめはヒゲ講師が担当した)
【報告】e-Learning World カンファレンス登壇体験記 ~熊大SCC舞台裏~
先日、7/30~8/1と東京ビッグサイトで行われたe-Learning Worldのカンファレンスにて、熊大・教授システム学専攻で取り組んでいるSCCについて発表させて戴きました。
http://www.elw.jp/conference/program.htm
SCCとは、「ストーリー型カリキュラム(Story Centered Curriculum)」の略です。従来は同時並行に進行する複数科目を直列に並べ替え、そこへ学生が没入できる「文脈」を導入することで、学びの「血肉化」を図ろうとする科目統合型のカリキュラムのことです。熊大ではこのSCC化プロジェクトが昨秋からスタートしたのですが、今回は、この春4月の新参者である私と柴田先生が、鈴木先生のお力を借りながら発表させて戴いたわけです。
Kemi先生による"本家"SCCについてのご講演を受け、私達のセッションでは熊大で目下進行中のSCCをご紹介し、第1部では具体的な内容や画面遷移を、第2部ではその設計・開発プロセスや今後の課題などについてお話しさせて頂きました。この中で最も強調したことは、やはり、IDの基本思想はSCC化においても重要であるという点でしょう。出口(=修了者像)を明確にし、それを実現する体系的なカリキュラムを設計することは、SCCにおけるストーリーの付与を検討する上でも、とても有効に機能するからです。
さてさて、気になるその効果については、偶然にも来場していた受講生諸氏から、「生の声」という形でお届けすることができました。なかなか本音を出しにくかったとは思いますが(笑)、それでも、「毎週新たなストーリーが提示されるので、仕事が忙しい時などはついて行くのが大変だ」、「グループ学習があるので、良くも悪くも仲間からのプレッシャーがある」といった率直な心境のほか、「学んだことが仕事に結びつき安い」、「課題を出すためにやるのではなく、自分の納得できるクォリティを目指したくなってしまう」といった、スタッフ側としては嬉しくなるような感想も戴きましたよ!
参加者の皆様は企業関係・大学関係の方々が大半でしたが、「海のものとも山のものともつかぬSCCとやらの行く末を、まずはもうしばらく見守ってみようか・・・」といった辺りが多くの方の正直なご心境なのかな?というのが発表してみての感触です。皆様からのこの熱い視線に対し、いかに結果を出して行けるのか?熊大SCCプロジェクトは、これからも走り続けます!
(熊本大学 特定事業研究員 小山田 誠)
【イベント】近々行われるイベントは?
○2008/08/18(月) NIMEeラーニング運用実践セミナー
(講師:鈴木克明教授+向後千春准教授)@メディア教育開発センター
URI:http://www.nime.ac.jp/seminar/seminar_h20/080818/resume.html
○2008/08/20(水)Barbara Grabowski教授JSISH主催講演
「ibstpiの教育・研修担当者職務能力水準について」@東京
URI:http://www.simclub.jp/
○2008/08/26(火)ICoME2008@関西大学
(The International Symposium and Conference for Educational Media
in School)
URI:http://icome2008.ict-education.org/japanese/index-jpn.htm
○2008/08/27(水) 第13回熊本大学東京リエゾンオフィスイブニングセミナー
「eラーニングでeラーニング専門家を育成する日本初の大学院」@熊本大学東京リエゾンオフィス
URI:http://www.kumamoto-u.ac.jp/syakairenkei/sankangakurenkei/whatsnew/2008/news581.html
○2008/08/29(土)「eラーニングと教育改革-韓国と米国における教育実践の最
新事情-」@熊本大学
URI:http://el-lects.kumamoto-u.ac.jp/index.html
○2008/09/3 (水)~5(金) 教育システム情報学会(JSiSE)全国大会@熊本大学
URI: http://jsise08.gsis.kumamoto-u.ac.jp/
○2008/09/06(土) 日本教育工学会研究会@玉川大学
URI:http://www.jset.gr.jp/study-group/files/20080906.html
○2008/10/11(土) ~13(月) 日本教育工学会 第24回全国大会@上越教育大
URI:http://www.jset.gr.jp/taikai24/
編集後記
今年も多くの研究者を海外から招聘しており、毎回多くのアドバイスやアイディアを頂きますが、今回お越しくださったKemi先生とは大変充実した時間を過ごしました。これまでは、Kemi先生から自分たちのプロジェクトに対してアイディアを頂くほうが多かったのですが、今回は、逆に質問を受けることで、自分たちが取り組んできたことの中で、大事だけれども明言化されていなかったもの言葉にする機会を得、改善点なども見えてきました。外の方からご意見を頂けるというのは、大変ありがたいことです。
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