━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2013年11月29日━━━━
<Vol.0050> IDマガジン 第50号
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IDマガジンのご愛読ありがとうございます。
11月も終わりに近づき冬の訪れを感じる今日この頃ですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
2004年に始まったIDマガジンも今回で50回目の発行となりました。
みなさまのご愛読に感謝いたします。これからもどうぞお付き合いくださいませ。
今回もID関係者のレポート、ブックレビュー、ヒゲ講師の活動日誌と盛りだくさんでお届けいたします。
今回のコンテンツメニューはこちら↓
《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(46)
2. 【ブックレビュー】谷川裕稔ほか「学士力を支える学習支援の方法論」
3. 【報告】熊本大学 第22回eラーニング連続セミナー参加報告
4. 【報告・イベント】「第11回 まなばナイト」実施報告・第12回のお知らせ
5. 【イベント】その他、近々行われるイベントは?
★ 編集後記
【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(46)~中国における大学教員開発:国際FDカンファレンス2013参加報告~
ヒゲ講師は2013年10月29日青島ビールで有名な中国山東省青島空港に降り立った。福岡空港から約2時間だが国際線だから一応食事が出る。そのことを忘れて満腹で機上の人となったヒゲ講師は、機内食に手が出なかった(ちょっとだけ残念、そんなに残念ではない中身でした)。預け入れ荷物もないヒゲ講師は到着ロビーに1番乗りしたところ、迎えの人がいない。不安のうちに10分も経っただろうか、「早かったですねぇ」と流ちょうな日本語で東北師範大学の董(Dong)教授の出迎えを受けて、安堵。董教授はかつて宮城教育大学の本間先生のところに留学していた折にヒゲには会ったことがあるという。物覚えの悪いヒゲはその話にはお茶を濁し、共通の知人の安否情報の確認に話題をシフトしてホテルまでの道中を過ごした。
今回の中国行きは、高校教員発展国際会議での招待講演。中国では高校はHigher Educationを意味するので大学教員のこと。発展はDevelopmentだからFaculty Developmentとなる。FDの先進大学がいくつか集まり第1回の国際会議を開催したのが2011年長春でのことで、今回は第2回とのこと。参加者は中国全土から500人ぐらいいたかな。他の招待講演者には、台湾政治大学(文系理系分離批判のそもそも論)、華中技科大学(心理学の動向)、北京大学(Moocsの話)、香港理工大学(学習者中心、ゴールを意識した学生を育てる)の教授陣とホストの中国海洋大学にサバティカルで滞在中のLynn Sorenson博士(組織開発)がいたが、ヒゲとSorenson教授以外はすべて中国語での講演。2日目の分科会も全部中国語だったが、通訳とPPTの漢字に助けられて情報収集。なかなか興味深い体験でした(次からは私の英語版PPTにも漢字を併記すべきだと思いました)。
Sorenson博士の講演は初日の最後に行われたが、最も興味深かった。何しろ初めて、「この人はFDer(ファカルティ―デベロッパー)だ!」と実感できる人に会えた。Sorenson博士はユタ州立大学のFDを立ち上げるためにオクラホマ大学から1992年に赴任。来年の6月まで中国海洋大学に滞在中の招聘研究者。FDは教育能力だけでなく、大学教員の仕事全般を扱い、大学教員としての成長を促すものだとの次の定義が印象的だった。FD関係者には常識かもしれませんが、ヒゲにとっては目から鱗が落ちた瞬間でした。
Faculty development focuses on all the roles of a faculty member — teaching, research, pubishing, getting tenure (or rank advancement), time management, life balance, etc. — all the component of a faculty career. Faculty developer supports faculty members in developing their effectiveness in all areas of their professional life. (Sorenson, 2013, p.13)
三重円の中核にInstructional Development(授業の実施や学生の学びに焦点化)、次にFD(教員自身の発達支援)、一番外円にOD(組織開発:Institutional developmentとも呼ばれる)を配置する教育開発モデルを提示し、教員の発達は、大学教育に関する文献+自己の経験+同僚との共有の3つで達成できる(学ぶ→使う→評価→共有→省察のサイクルの図あり)、それを支援するのがFDerの役割だとした。論文の最後には、Dee Fink(元オクラホマ大)とともに1990年代から収集してきた大学教育に関するヒント集(文献)のリストをヒントを1例ずつ抜粋掲載して提供(上記の「学ぶ」に相当)。「こういうのを提供するのもFDerの役割の一つです」。なるほど、かっこいいと思いました! ちなみにFink著作は土持ゲーリー法一氏が和訳出版あり、その筋では著名な研究者のようでした。
2日目の分科会は、通訳を引き受けてくれた中国海洋大学准教授のLindaさん(英語名)と2つの分科会をはしごした。Lindaさんの解説もあり、「へー」「なるほど」「そうなのね」の連続でした(深謝)。
例えばセンター活動の事例としては、
1)上海交通大学ではセンターを2011年に設置、スタッフ20名(うち専任4名)、ミシガン大学のCRLTと連携して(1)研修:新任教員+学生対象(自由参加)、ワークショップで学生中心主義など10トピック(PPT活用法、最初のクラスをどうやるか、もある)、(2)研究:授業評価アンケートの分析など、学生インタビューを実施して開始直後と終了直前の変化を検証、研究プロジェクト(申請補助)などに取り組んでいること。
2)山東大学ではKrugerの氷山モデルを参照して学生中心を模索。FD活動に政府の支援を受けて海外から研究者招聘し、定年後の教師をアドバイザーとして招く。見せるだけのワークショップから実際の教室を訪問しての助言に変化させた。
3)北京工業大学では、中国高等教育省提供の研修は理論のみで実践がなく役立たたないと感じたため、新任教員研修を独自開発して学科ごとに実施。What to teach+How to teach wellの二本柱で前者は教育内容の問題点を洗い出す。新任1年目は講義担当なし。Undergraduate Teacher Certificateを出している。
4)中国全体の20%を占める(伝統大学211と研究大学985と呼ばれるTop Public Universitiesの外側に存在する)私立大学(上海にある)では、Teacher Efficacy(バンデューラ)を高めることをFDの目標として掲げて実践している。センター教員には教育学だけでなくカウンセリングの専門性も必要とした。
5)ホストの中国海洋大学は2007年にセンターを設立した先進校(今回の主幹大学:センター長は実行委員長の宋教授)。約20の学科を有する(海洋学では世界クラス)学生数1万5千人規模の大学で授業参観+助言者は30人体制。教員の昇格申請にはFDセンターのチェック+OKが必要とされるところまで実現した。
研究例としては、
1)長春市にある教育大学での調査結果University-based Teacher Educatorの特徴(教員200人対象のアンケート)。主な結果として、教育学部所属の教員の教育力は低い、学生の学びに対する関心は低い、テクノロジ利用の意向も低い(中国語の論文あり)
2)モンゴル自治区の4つの大学(師範・総合・民族・財経)での調査結果(教員50人、学生1200人対象)。主な結果として、教育能力が低く期待に応えていない、自己評価よりも管理者からの評価が低い、など。そうはいっても5段階評価の4以上は得ていた。
3)N大学のFDの戦略について(N大学=東北師範大学とのことらしい)。学習・実践・発表のサイクルをまわすモデルを適用して7学部が独自にFD活動をするのをセンターが支援した。学部固有のテーマを設けての実施をセンターが支援し、成果をまとめてWebや報告書として公開、大学当局はプロジェクトとして資金面の支援をした。
などがありました(書き取れたのはこれだけでした。ふぅ)。
それでヒゲは何をしゃべったか、って? IDポータルに英語の原稿を載せておきますので興味がある人はどうぞお読みください。主催者からの要求仕様は、「日本のFDととくにMOOCSについて紹介してほしい」というかなりの難題だったので、日本のFDの歴史を振り返り、MOOCSの前段としてICT利用(eラーニングとJOCW)を位置づけて概観し、その両者をつなげる意味でご自慢のサンドイッチモデルの話をこれまでになく詳しく紹介しました。中国語への流ちょうな同時通訳(董教授の評による)のお蔭もあって、好評だったのではないか、と「体感」しました。この自己評価の妥当性については、次の招待があるかどうかで判明するでしょう。
仕事を受けてから調べて学ぶ。学んだことを専門家のように伝える。
一人の大学教員のデベロップメントにつながる体験でした。
参考文献
Suzuki, K. (2013). University faculty development in Japanese context. An invited keynote address at the International Conference on Faculty/Educational Development 2013, Quandon, China (hosted by Ocean University of China), Oct. 31 – Nov. 1 (Proceedings 1-11).
http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~idportal/wp-content/uploads/ICFD2013suzuki2.pdf
Sorenson, L. (2013). Organizational development and institutional effectiveness. An invited keynote address at International Conference on Faculty/Educational Development 2013, Quandon, China (hosted by Ocean University of China), Oct. 31 – Nov. 1 (Proceedings 12-31).
(ヒゲ講師記す)
【ブックレビュー】谷川裕稔ほか(2012)「学士力を支える学習支援の方法論」ナカニシヤ出版
「学習支援」という言葉を聞いて、皆さんはどのような情景を思い浮かべるだろうか。
私自身、大学職員として日常的に「学習支援」に関わっているが、学校や企業で「学習」に携わっている方、お子さんを学校に通わせている保護者の方、現在「学生」である方…誰しも、自分だけの力で学習を完遂したわけではなく、教師や先輩、友人、そして親や塾などの「支援者」によって助けられてきたからこそ、今日の自分が形成されたのだということを誰が否定できるだろうか?
教育課程を終え、一個人が自立した存在として、自らが持つ能力を遺憾なく発揮し、社会の中で新たな価値を生み出すまでの段階をどのように設計するか、という点に興味を持ち、研究をする中で、「学生生活を成功に導くための学習支援(Learning Assistance for Academic/Student Success)」という実践事例を調査した。それらは、主に米国における事例であり、正直、日本における学習支援は米国に大きく遅れをとっているのではないのか、と理解していたが、この本に出会ってそれが大きな見当違いであったことを知らされた。日本における「学習支援」は理論化され、全国各地で実践されていたのである。
本書は「第1部 理論編」「第2部 実践編」の2部構成からなり、8章290ページに加え、コラム、学習支援関連用語集が収められている。「大学卒業までに最低限身につけなければならない能力」つまり、「学士力」の議論を始めるまえに、まずは学生の学力低下という切実な現実に向き合うこと、そして諸課題を解決するための「可能性」としての学習支援の位置づけがなされている。
「苦闘の中から結晶化した方法論集」と本の帯に書かれているとおり、「学習支援」という明確でありながらまた同時にさまざまな含意を持つ言葉の定義から始まり、それぞれの大学の現場において、担当の教職員による「苦闘」の様子がリアルに描き出されており、大学の教職員であれば、また、大学と関連する業務を行っている企業人もまた、大学で今まさに現実に起きているできごとと、それに立ち向かう人々が持つ信念の力強さを感じずにはいられないだろう。
第1部の前半部分では、概説として学習支援の定義とその変遷について解説されている。
学習支援は、ともすると入学時・初年次の学生のみを対象とした、学力の補完という印象を与えがちだが、米国での学習支援の変遷において、「ラーニング・アシスタンス」という用語が示しているのは、マクスウェル(1997)の定義によると、「すべての学生が受ける一般的学習技術・プログラムであり、そのなかには補習・補償的プログラム、学習資源なども含むもの」として、カサーザら(1996)によると、学部生・院生を問わず、すべての学生を対象にするもので、「個人の可能性を最大限に引きのばすこと」だとしている(p.5)。日本における学習支援の定義については、「学習支援」と「学生支援」という2つの概念について、明確な区別がなされてこなかった。本書では「本書における「学習支援」を、次のように定義されている。
==
”大学院生を含む高等教育機関(ここでは、大学、短期大学、高等専門学校、専修学校専門課程)に学ぶ全ての学生と入学を予定している高校生に対して、必要に応じて学業に係る支援を高等教育機関側が組織的・個別に提供する営み、またそのプログラム・サービスの総称” (p.10)
==
この定義から「学習支援」とはスコープの広い概念であることがおわかりだろう。また、個別のプログラム実施だけではなく、「組織的」というワードを含んでおり、「学習支援が効果的なものとなるには、組織的な運用が不可欠となる。というのも、個人の実践中心に依拠する形は、学習支援の継続性と統一性、測定を伴う効果の明示とその作業の定着という観点から好ましくないからである。」(p.36)との指摘がある。
また、日本ではあまり使われないが、「ディベロップメンタル・エデュケーション」という用語と「ラーニング・アシスタンス」の違いについても説明されている。ヒグビー(2005)は、ディベロップメンタル・エデュケーションを「学力的に準備不足の主として新入生を対象とする傾向」だと説明している。また、前者は科目を担当する教員によって担われるが、後者は科目を担当せず、専門家として学習支援業務に携わるスタッフが担うという区別も存在する(p.8)。
第1部の後半部分では、「大学の授業を改善するための学習支援技法」として、赤堀侃司先生が大学教育の現場での実践知に基づく具体的な技法が紹介されている。その中でも「目標を分析する」(p.69)、「学生のニーズを分析する」(p.70)
として、「相手のニーズや特性を知って授業をデザインすることは、当たり前であるが大切である。」として、インストラクショナル・デザインと学習支援との密接な関連性が具体的な事例とともに紹介されている。そして、谷口和也先生からは「大学における授業設計の問題点」として、目標設定、妥当性のある評価方法、達成目標に至るような学習方法の選択について、現状の問題点を投げかけている点で興味深い。
第2部では、伝統的な大学生、つまり中等教育修了後に高等教育機関で学ぶ学生を対象とし、「子供」と「大人」の間にある、青年期に特有な心理状況をも含み、初年次、サービス・ラーニング、資格・免許取得、キャリア教育、障害学生支援など、大学生を取り巻く多種多様な側面から「学習支援」の実践例が図や写真なども織り交ぜながら、紹介されている。
また、コラムとして各界で活躍する研究者による理論と実践の紹介がちりばめられ、読み手に深い共感を与えている。その中には、教授システム学専攻合田美子先生のコラム「自己調整学習理論を活かした学習支援」(p.251)も掲載されている。豊富な事例から、必ず自分の興味のある内容に出会うことができ、また、用語集や引用文献リストなど、さらに学びたい人への貴重な資源としても活用できる。
本書の英文タイトルは「The Methodology of Learning Assistance to Enhance College Student Literacy」であるが、学生の学生の学びと成長を実現する方法だけではなく、それを支援するスタッフ(教職員、学生スタッフ)の学習支援力というものもEnhanceする技法が含まれていると感じる。より効果的で効率的な学習支援を組織的に実行する、という課題に立ち向かい、日々奮闘している「仲間」がいること、直接の知り合いではなくても、ここに掲載されている実践を通じて、熱い「思い」に触れることができる一冊である。いまどきの大学(生)像を知る手がかりともなり、大学・教育関係者だけでなく、企業人や親の世代にも知ってほしいと思う。インストラクショナル・デザインを学ぶことで、何がどう役にたつのか、という疑問へのヒントともなる本である。
(熊本大学 教授システム学専攻 博士後期課程2年 野田啓子)
【報告】熊本大学 第22回eラーニング連続セミナー参加報告
2013年9月27日に熊本大学で開催されたeラーニング連続セミナーに参加しましたので報告します。今回のセミナーの講師はインディアナ大学のカーティス・ボンク先生と、国際基督教大学の鄭仁星先生でした。
1つ目のセミナーは、インディアナ大学のカーティス・J・ボンク先生による「Taking Leadership in Mystery of MOOCs and the Mass Movement towardOpen Education(謎多きMOOCsとオープン教育への大移動をリードするためには)」でした。新しいテクノロジとそれによって教育がどのように影響を受けたか、その問題点とこれから向かう方向についてMOOCsを中心にお話くださいました。
ボンク先生はもともと会計士をされていたのですが、ウィスコンシン大学の通信教育とテレビ授業を受講して感銘を受け、教育の道に進まれました。ボンク先生曰く「この経験がなかったら、今の自分はない」。つまり、テクノロジがボンク先生の運命を変えたということになります。ボンク先生の運命を変えたように、テクノロジは教育を変え、我々や人類の運命を変える可能性があります。
ところで、ボンク先生が紹介してくださった、アップルが1988年に発表した未来の展望である「ナレッジナビゲータ」は、YouTubeにあるので、ぜひ御覧ください(http://www.youtube.com/watch?v=hb4AzF6wEoc)。アップル社がこのビジョンを1988年に持っていて、この25年間、その方向に向けて進んできたことに驚くと同時に、「夢が実現している」ことにけっこう感動してしまいました。
テクノロジの進歩により、現在は「誰もが、いつでも誰からでもなんでも学べる時代」となりました。特に2001年4月1日は、MITが初のオープンコースウェア(OCW)を開始した日であり、テクノロジが教育を大きく変えた日と言えます。OCWの展開により、場所や年齢などを問わず、学ぶことが容易になりました。SkypeやSNSなどで、他の人と話し合ったり情報を共有したりすることがとても簡単になりましたし、動画配信ソフトなどを使えば、視覚的な情報を用いた教育が容易にできるようになりました。教育に対する考え方自体が変化し、協調学習を前提とした学習空間が誕生したり、個人での学びをサポートする様々な手段が開発されたりしてきました。
そして近年、MOOCsの展開が始まり、またもや我々の学びに変革を起こしました。MOOCsとは、Massive Open Online Coursesの略称であり、インターネットを使って大学などが講義を提供する仕組みです。MOOCsの大きな特徴のひとつは、講義の内容についてのテストやレポートなどが課され、終了するとその講義を修了証が取得できることです。MOOCsでは、理論・動向駆動型、リメディアル型、学位・資格付与・システムボトルネック型、専門性開発(実践)型など、多様な授業が提供されます。つまり、MOOCsを使えば、誰もが簡単に有名大学の講義を受講でき、それなりに苦労すれば修了証まで取得できるようになったのです。
このように夢のような状態をもたらしたMOOCsですが、批判もあります。例えば、登録者数に比して、修了者数が極端に少ないということや、続かないということです(これは従来の学習環境でもそうじゃないかと思うんですけどね…授業には出席していて姿は見えるけど、興味を失って聞いていないということも多々あるでしょうし)。その他、有名大学以外の教員からの反発もあります。つまり、MOOCsによるイノベーションは思ったより小さくなってしまう可能性もあります。そこで、ボンク先生はMOOCsを活用する方法をたくさん提案してくださいました。曰く、「最初にやれ!」「何か新しい特別なことをやれ!」「戦略的協定を結べ!」「証言を集めよ!」「ニッチな領域で強さを磨け!」「性急な決定をするな!」「心配事には先回りして対処せよ!」「質問せよ!」「地元・自国に奉仕せよ!」「形成的に評価せよ!」…あれ?なんだかこれはどこかの専攻がやってきたことのような…(笑)
MOOCsは無料で講義を提供しているわけですが、どうしてそんなことができるのか。その当然の疑問に対する答えも、ボンク先生は教えてくださいました。ざっとまとめると、講義自体は無料であっても、テストや修了証の発行にお金をかけたり、受講者たちの受講のデータを企業に売ったりすることで収入を得ているそうです。
そして最後のキーワードは、We All Learn! ボンク先生はこのフレーズを「学びの世界を開いた10個のちから」に対応させています。最初の三文字は、”Web searching”, “E-learning and blended learning”, “Availability of open source and free software”です。続きは…?ボンク先生のウェブサイトにeラーニング連続セミナーでの講演のPDFがありますので、そちらをご参照ください。
http://www.trainingshare.com/pdfs/MOOC_Leadership-Principles_World_is_Open.pdf
このようにテクノロジの恩恵を受けた現在では、さまざまな学びの方法や形態があります。ボンク先生の最後の問いは「オープンな世界ではインストラクタはどうなるのか?」です。ボンク先生は、インストラクタはキュレーター(学芸員)やコンシェルジェのような存在になるだろうとおっしゃっています。学ぶのは学習者自身であり、そのための方法や材料を紹介する役割こそ、オープンな世界でインストラクタが行うべきことであると。
このようにさまざまなオープンな学びの世界を我々はどんどん活用していくべきです。ただし、良質のコンテンツがなければ、せっかくのオープン教育の環境があっても、人は学ぼうとしないでしょう。だから、良質のコンテンツを提供するということも我々が行うべきことのひとつなのでしょう、というようなことでまとめとなりました。
ボンク先生の講演を聞き、当たり前のように使っているさまざまなテクノロジと、それを活用した教育・学習について改めて見直すことができました。そして、今後、新たなテクノロジが現れたときには、今回学んだことを活かしていきたいと思いました。
2つ目のセミナーは、国際基督教大学の鄭仁星(Insung JUNG)先生による「Quality in e-Learning: An Asian Perspective (eラーニングの品質保証:アジアの視点)」でした。これまでeラーニングの品質は提供者側の視点から保証されることが多かったが、学習者の視点を国際的、社会文化的な面も踏まえて保証していくべきというお話でした。
鄭先生のセミナーは「eラーニングの品質とは?」という問いから始まりました。鄭先生は、高い期待をもたせること(例;特別感があるもの)、標準を順守すること(例;基本を押さえている)、完全性があること(例;きちんとしていること)、目的に合致していること(例;目的とサービスが一致していること)、金銭的に価値があること(例;コストパフォーマンスが高い)、変革をおこせる(例;受講者の質的変化)を挙げられました。
続いて、それらの品質をどのように保証するかについて、2つのアプローチをご説明くださいました。ひとつは「生態学的アプローチ」、もうひとつは「成果物に基づくアプローチ」です。
ひとつめの生態学的アプローチとは、教育の現場だけでなく、ICTの側面や、他国との関係などの文脈の上で、(1)全てのステークホルダを考慮し、(2)世界を指向する一方で地元に適応し、(3)文化の創造をすることを目指したアプローチと説明されました。要するに、一部の要因だけを見て品質保証するのではなく、様々な要因の相互作用を考えながら全体的に保証していこうという考えと解釈しました。
その観点からすると、現在の品質保証は、eラーニングの提供者側の視点が重視され、学習者の意見や視点が反映されていないなどの問題点があると指摘されました。また品質を考える上では、世界でも適応できる品質保証にしつつ、自国への対応も疎かにしない姿勢、つまりバランスのとれた一般モデルの構築を目指すべきというご指摘もされました。さらに品質保証を改善する過程において、教員と学習者の価値観と実践を変化させることを目指す文化創造のフレームワークも提唱されました。
ふたつめの成果物に基づくアプローチは、アウトプット(学習者の成長などの学習直後の効果)、アウトカム(地域社会への経済効果などの短中期的効果)、インパクト(社会・経済・国家の開発などの長期的な効果)を評価する品質保証です。資金、スタッフ、リソースなどのインプットを評価する伝統的な品質保証と比較して、長期的で総合的な評価プロセスであるため、多様な情報を集め、計画、分析、改善を繰り返して評価していくことが必要となります。
このセミナーの最初に「eラーニングの質とは?」と問われ、自分でパッと思いついたのは「教育目的を果たそうとする設計になっていること」とか「インターフェースがきちんとしていること」くらいでした。セミナーで国際社会や社会文化まで視野に入れた質保証の話をうかがい、とても勉強になりました。
ちなみに心理学でも「生態学的妥当性」という言葉がありまして、簡単にいえば、日常場面などで起こりえる状態を想定して研究計画を立てることを言います。eラーニングも心理学と同じく人の行動を対象にするのであるから、多様な観点から「起こっている状態」や「起こりえる状態」を評価していくべきなのでしょうね。このあたりは熊本大学ランチョンセミナーの「インストラクショナルデザインとテクノロジ」輪読シリーズで、ここしばらくテーマになっている構成主義とも関連していて、今振り返っても興味深く思いました。
(熊本大学 教授システム学専攻 博士前期課程 平岡斉士)
【報告・イベント】「第11回 まなばナイト」実施報告・第12回のお知らせ
第11回まなばナイトは、テーマ:インストラクショナルデザイン最新動向ワークショップ
と題しまして、熊本大学大学院教授システム学専攻長の鈴木克明先生、合田美子先生を中心に翻訳が進められた新著を題材に、インストラクショナルデザイン(ID)の最新動向をお伝えするワークショップとして開催されました。
インストラクショナルデザインとテクノロジ: 教える技術の動向と課題
http://www.amazon.co.jp/dp/4762828181
冒頭、鈴木先生から訳書が世に出るまでの様々なエピソード ~予定より大幅に遅れたこと、原著者として一部を英語で執筆されたこと~ など想いの丈を語られました。
続いて合田先生から、2章を中心に本書の構成や読み方について、簡単なワークを交えながらレクチャーが行われました。前半セッションのまとめには、今回のワークをどのようにデザインしたか、理論とひもづけて「たねあかし」をしていただきました。
これも大変参加者には好評だったようです。配布されたA3の資料は合田先生のサイトにて公開されています。
第11回まなばナイトのワークショップ – 合田美子研究室
http://yygg.jp/2013/10/manabanight10052013.html
第二部は、翻訳に参加された4人の先生が、それぞれの場所に分かれて担当された章の中からポスター発表。会場を活かしてのカウンターでのポスターも、なかなかよい雰囲気でした。
第17章 「インフォーマル学習」合田美子先生(熊本大学大学院)
第18章 「経済産業界におけるインストラクショナルデザイン」寺田佳子先生(株式会社ジェイ・キャスト)
第33章 「ゲームと学習?」山田政寛先生(九州大学基幹教育院)
第37章 「変化するというデザインの本質」半田先生(サイバー大学IT総合学部)
写真入りのレポートもありますので、是非下記サイトをご参照ください。
http://www.manabanight.com/info/manabanight11report
【次回「第12回 まなばナイト」開催のお知らせ!】
2013年12月14日(土)17時開催の「第12回まなばナイト」は、
インストラクショナルデザインを教授する「教授システム学専攻課程」のインストラクショナルデザイン
と題しまして、熊本大学大学院教授システム学専攻のデザインをひも解きます。
今回は、熊本大学大学院教授システム学専攻に立ち上げから携わってこられました根本淳子先生に登壇いただきます。
修了生も加わり、教授システム学とは何だったのか、専攻での学びはどうであったか、デザインと体験の両面からみていきます。教授システム学と専攻を知る、また関係者にとりましては、振り返り、学び直す絶好の機会です。ぜひご参加ください。
日時:2013年12月14日(土) 17:00~19:30(16:30受付開始)
※セミナーに先立って16:00より、入科相談会を実施いたします。
会場:富士通ラーニングメディア「CO☆PIT」 品川インターシティB棟10階
定員:申込み先着 20名様
主催:教授システム学専攻同窓会、後援:サンライトヒューマンTDM
お申し込み・詳細はこちら:
http://www.manabanight.com/event/manabanight12
(まなばナイト実行委員、
熊本大学教授システム学専攻 修士1期修了生 加地正典)
【イベント】その他、近々行われるイベントは?
2013/12/14(土)
日本教育工学会研究会「エンタテインメントを活用した教育/一般」@徳島大学
http://www.jset.gr.jp/study-group/index.html
2013/12/14(土)
「第12回 まなばナイト:インストラクショナルデザインを教授する
『教授システム学専攻課程』のインストラクショナルデザイン」
@富士通ラーニングメディア 品川ラーニングセンター
http://www.manabanight.com/event/manabanight12
2014/01/11(土)
教育システム情報学会2013年度第5回研究会
「スマートデバイスによるこれからの教育・学習環境/一般」@高知工科大学
http://www.jsise.org/society/committee.html
2014/01/26(日)
熊本大学公開講座「教育デザイン・ワークショップ応用編」 @東京
http://www.cps.kumamoto-u.ac.jp/syogaigakushu/news/#1375062838
2014/02/22(土)~23(日)(予定)
2013年度 日本教育工学会冬の合宿研究会@神奈川県近辺
http://www.jset.gr.jp/study2/20140222.html
2014/03/01(土)
日本教育工学会研究会「テーマ調整中/一般」@愛知工業大学
http://www.jset.gr.jp/study-group/index.html
2014/03/03(月)
日本教育工学会 大学教員のためのFD 研修会
@首都大学東京 秋葉原サテライトキャンパス
http://www.jset.gr.jp/work/work140303.html
2014/03/15(土)
教育システム情報学会2013年度第6回研究会
「新しい教育を切り開くICTの利用実践・開発研究/一般」@名古屋学院大学
http://www.jsise.org/society/committee.html
★ 編集後記
今回のIDマガジンいかがでしたか?
感想や叱咤激励などありましたら、下記のメールアドレスまでお送りくださいませ。
さて、冒頭にも述べたとおりIDマガジンも2004年から約9年間で50回目を迎えることができました。
第1回にさかのぼってみると、IDマガジンは、2003年に行われたeラーニングファンダメンタル(http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/eLF/)通して知り合った方々をはじめ、少しでも教育に携わる方、関心のある方へ「魅力あるモノ作り」をコンセプトに、より求められる人材育成とスペシャリストの遭遇ができるコミュニティを作り出せるよう皆様へ少しでもお役に立てるような場を提供するために始まったメールマガジンでした。
今も、人材育成やeラーニングなどの教育に関する最新事情などをお送りしておりますので、皆様のお役に立てていたら幸いです。
次号もご愛読いただけましたらと思います。
また、よろしければ、お知り合いの方に、Webからの登録をお勧めしてくださいませ。
すっかり寒い日が多いですが、みなさまにおかれましても風邪など召されませぬよう気を付けてください。
皆様の取り組みが実を結びますように。
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ご意見・ご感想・叱咤激励など常時お待ちしております!
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編 集 ID マガジン編集部 井ノ上 憲司・根本 淳子
発 行 熊本大学 大学院社会文化科学研究科
教授システム学専攻 鈴木 克明
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