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IDマガジン第29号

ID マガジン第29号

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《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(28) ~熊本に来て丸4年が経ちました~
2. 【ブックレビュー】「考えることの科学―推論の認知心理学への招待」市川 伸一 (1997) 中公新書
3. 【シリーズID理論】
4. 【イベント】近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(28) ~熊本に来て丸4年が経ちました~

この4月に熊本大学大学院教授システム学専攻は18名の修士5期生を迎えました。今年度も個性派揃いです。年度末のオリエンテーション科目から始まって、4月の新学期開始を迎え、もう1ヶ月が過ぎようとしています。少し遅れ気味の進捗をきっとこのGWで挽回するぞ、という意気込みに燃えていることと思います。ストーリー中心型カリキュラムも3回目になり、微調整の段階に入ったにもかかわらず、結構いろいろとハプニングがあり、退屈しない毎日です。小生も、熊本生活が5年目に入りました。今年度こそは、もっと熊本を満喫したいなぁ、と思っています。

年度当初ということもあり、これからの予定を書いてみます(宣伝も兼ねて)。

1)5月17-20日はマレーシアのペナン島で開かれる第1回Global Learn Asia Pacificに参加・発表します。AACEが開催する(E-Learn、ED-MEDIA、SITEに続く)第4弾の国際会議の初回ということで、日本からも多くの方に参加いただけると良いなぁと思っています。

2)5月28日の教育システム情報学会の研究会(今年は明治大学で開催)には、例年何とかネタを探して発表するように心がけてきましたが、今年はそれを断念。でも顔だけは出そうと思っています。

3)6月11-12日のソフトウェア技術者協会教育分科会(SIGEDU)事例研究会にも参加予定。詳細はまだ明らかにされていませんが、企業内教育や大学教育での実践事例(ソフトウェア技術者教育に限らず)を持ち寄って、たっぷり時間をかけてメッタ切りするという怖くてためになる集会。初参加の方も歓迎します(二度と戻ってこない人と常連になる人に二分されます)。

4)6月下旬にはibstpiの理事会でオレゴン州ポートランドに行く予定。ここで話し合う「インストラクショナルデザイン」コンピテンシーの改訂と、新たに策定中の「オンライン学習者」コンピテンシーに向けて、そのうち皆様にもアンケートへの協力をお願いしたく、どうぞよろしくお願いします(詳細は追って)。世界標準に日本の事情も反映したい、と言う思いで、目下、日本語訳を準備中です。それができたらWebアンケートを実施しますので、あなたの声も是非聞かせてください!

5)7月にはARCSモデルのジョン・ケラーが再来日します!この5月でフロリダ州立大学を引退し、名誉教授になるので、少し時間的余裕が出ると聞いたので、7月の国際会議(ICoME2010@熊本)に招待。ついでに(と言うかこちらが本丸ですが)ケラー教授の近著日本語訳版出版記念サイン会を各所で開催予定です。各所、と言っても当面は東京と熊本ですが、訳本を手にサインをもらって握手するチャンスを設けますので、お楽しみに(目下の最大の懸案事項は、翻訳本の出版がサイン会に間に合うかどうか、なのですが・・・)。

盛りだくさんの年になりそうですが、しっかり前を向いて歩いていきたいと思っています。

【参考情報】
○2010/07/14(水)  ~ 2010/07/16(金)
ICoME2010@熊本大学
URI:http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~icome2010/

○2010/07/17(土)  ~ 2010/07/18(日)
日本教育メディア学会弟17回年次大会@熊本大学
URI:http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~jaems2010/

(ヒゲ講師記す)

【ブックレビュー】「考えることの科学―推論の認知心理学への招待」市川 伸一

先日、机と本棚の整理がてら、読んだ本と読んでいない本を仕分けした。表紙を数ページでもめくった記憶がある本は読んだとみなして、全くページをめくっていない本が10冊強。どうしたものでしょうね。GWの目標は、この買ったのに全く読んでいない本を減らすことと、教授システム学専攻の課題に決定した。まずは、スモールステップの原則にしたがって(?)一番薄い本を手に取る。表紙を見ても、いつ、何がきっかけで購入したのかは記憶にない。巻末を見る。著者は東京大学大学院教育学研究科の教授で、認知心理学や教育心理学の分野で多数の著作がある。私が手にしたのは2008年の第9版。1年以上寝かせたであろうことはさておき、9版もされていると期待が膨らむ。予想どおり、読み始めるとおもしろい。

本書は、人間の「推論」を認知心理学の研究成果を中心に解説した本である。私たちは、無意識で直観的に推論していることもあれば、熟考を重ねるときもある。また、考えた結果(あるいはたいして考えなかった結果)、予想が当たることもあれば、外れることもある。

夕焼けを見て、「明日は晴れそうだ」と思う。(中略)
クシャミがやたらに出るので、「カゼをひいたのかもしれない」と思う。
前にやった問題と似ているので、「同じ解き方で解けるのではないか」と思う。・・・
(本書の「はじめに」より)

本書は3部構成になっている。第1部は論理的推論、第2部は確率的推論、第3部は日常場面における推論である。第1部、第2部も興味深いものだったが、私が特におもしろかったのは第3部である。たとえば転移に関する話題を紹介しよう。

心理学では、ある問題を解いた経験が他の問題解決を促進することを「転移」と呼ぶ。本書によると、転移がうまく起こるのは結構難しいことが実験的に確かめられている。そしてうまく転移が生じるのは、あらかさまに「前の問題がヒントになっている」と提示するか、問題解決の後にどのような問題だったかを要約させて一般的な教訓(本書では「収束スキーマ」と呼ぶ)を引き出したときだとしている。ここで的外れな教訓では転移は起きないことに注意したい。「要するに努力すればいいんでしょ」のような教訓では転移は起きないのである。インストラクショナルデザインにおいて、ガニェの9教授事象の9番目は「保持と転移」である。転移の設計としては、応用問題の提示やリフレクションが重要だとされている。本書から、リフレクションの「質」が転移を促す重要な要因になることを再認した。

なお、この転移の話はたった数ページにまとめられている。本書はどのテーマ(理論)も事例を提示しながら短く解説されているので、非常に読みやすいことを申し添えておこう。

さて、読んでいない本が1冊減った。次に薄い本は・・・。

(高橋 暁子 熊本大学大学院教授システム学専攻博士後期課程2年)

【シリーズID理論】「GB-III特集その3:5章 直接的教授法」

今回は、ユニット2で紹介されている5つの主要な教授法(direct-instruction, discussion, experiential, problem-based, and simulation)のうち、直接的教授法(direct-instruction)について紹介します。

GBⅠやⅡでも多くのID理論が紹介されてきましたが、GBⅢではID理論を大きく二つに分けて紹介しています。ひとつは教授法単位、つまりどのような教え方をとるかという視点から理論を紹介しており、これがユニット2に相当します。もうひとつは何を教えたいのかという学習成果の種類ごとに理論を紹介しているユニット3です。今回はユニット2の最初のID理論「直接的教授法」について紹介します。

下記では項目ごとに理論の説明をしていますが、最後にどのように実施すればよいかの重要なヒントとなる「一般共通の方法」と「状況的原理」の二項目があります。「一般共通の手法」は実施する環境がどのような場合にも共通に利用できる方法、ステップ、ヒントなどをまとめています。一方、「状況的原理」はある特定の実施環境において考慮・追加されるべき手法についてまとめてあります。これはGBⅢで新しくライゲルース氏がID理論紹介するために用いた方法です。理論と言っても同じ実践は教育の中ではあり得ませんので、それを意識して整理したものです。

<概要>
直接的教授法(DI)とは、よく検討された教材を用いて行う授業法です。教室で学習のために与えられた時間は限界がある一方、学生の前提知識やスキルには幅があります。これらの制約の中で学習者の能力を最大限に高めようとするものがDIです。DIは50-60年代に作られそれを70年代に見直されたもの。引用されている参考文献にはCarrollのものもありました。

<対象者>小・中・高校生向け

<学習内容>情報、スキル、理解力、高次思考

<学習方法:一般共通の手法>
提示、練習、評価、そして観察とフィードバックの4フェーズで構成されて、これらを繰り返し行うものです。提示、練習、評価の学習活動をモニタリングし、フィードバックを返していくという決して新しいやり方ではありませんが、教師がしっかりと学習全体を管理し、このDIを用いることで学習した内容を学習者に定着させる仕組みを提供しています。学習者主体というと学び手に経験させるところから始まる方法が多いですが、このDIは教師がしっかりと必要な情報を学習者へ提示し教えることから始めるのが特徴です。
―直接的教授法(DI)の基本モデル―
1.提示:1)既存知識の確認、2)学習スキルや知識の提示、3)関連性の説明、4)学習スキルや知識のはっきりとした説明、5)例示
2.練習:1)教員監視下での練習、2)個人での確認、3)詳細確認
3.評価:1)毎日の進捗確認、2)週・月など長期的なデータ
4.モニタリング&フィードバック:1)ヒントの提示、2)矯正するためのフィードバック

<学習方法:状況的原理>
今回はDIを用いた事例としてスクリプトを用いた学習方法について紹介されています。短いスクリプトを用意し学習者に提示し、その中にある用意された質問を教師は学習者に問い、その質問に学習者はその場で回答することが求められます。この短いやり取りが何度か繰り返し行われるのがスクリプトを用いた学習です。これは、上記で紹介した一般共通の手法の4つの手法に基づいて実施されますが、その中でも質問とその対応のやり取りに特化している部分が本学習法の特徴です。英語学習で短い場面の説明などが出てきてそれに対して考え、質問に回答をする学習方法を経験したことがありますか。それがここで紹介されている方法に近いと思います。教師から提示されるスクリプトにはこれまで習ったことの復習が多く含まれており、新しい情報は10-15%ぐらいにします。1話完結型ではなく複数のスクリプトを繰り返し学習することが基本ですので、同じ内容を何度か繰り返し学習しながら理解を深めていくのが重要です。この部分は一般共通の手法で求められるものと同じです。しかし、1回の学習は短く、長期間実施することが成功のスクリプト学習独自のポイントです。

(熊本大学大学院 根本淳子)

【イベント】近々行われるイベントは?

○2010/05/13(木) ~ 2010/05/14(金)
情報処理学会 CLE研究会 第1回研究会@放送大学 本部図書館
URI:http://www.ipsj.or.jp/sig/cle/

○2010/05/15(土)
日本教育工学会研究会「情報モラル教育・ネットいじめ対策/一般」@北海道教育大学旭川校
URI:http://www.jset.gr.jp/study-group/index.html

○2010/05/17(月) ~ 2010/05/19(水)
Global Learn Asia Pacific 2010@ペナン
URI:http://aace.org/conf/glearn/

○2010/05/28(金)
教育システム情報学会2010年度第1回研究会:eラーニング環境のデザインとHRD(Human Resource Development)/一般@明治大学
URI:http://www.jsise.org/

○2010/05/29(土)
日本教育メディア学会平成22年度第1回研究会「情報社会におけるメディア・リテラシー教育」@武蔵大学
URI:http://jaems.jp/

○2010/06/11(金) ~ 2010/06/17(土)
第12回ソフトウェア技術者協会教育分科会(SIGEDU)事例研究会
URI:http://www.sea.jp/SIGEDU/CaseStudyWS.htm

○2010/06/15(月) ~ 2010/06/17(木)
2010 Sakai Conference@Denver, Colorado
URI:http://sakaiproject.org/static/conference-2010.htm

★ 編集後記

自分の居場所は一切変わっておりませんが、周囲の人が変わるとずいぶん違う雰囲気になるものだと感じています。このまま相互によい影響を与え、よい学び場にしていけたらと思います。自分が学ばないと学びのデザインは考えられませんからね(自分に喝を入れる・・・)。

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謝辞

本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

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