ID マガジンのご愛読ありがとうございます。 定期便にすべきところ、私の力不足でこのように発行が遅れています。地道にコツコツと。
話は変わりますが、熊本大学eラーニング推進機構 eラーニング授業設計支援室では、今年からランチョンセミナーを開始しました。毎週水曜日12時から行っています。オンラインでConnect経由でアクセスすれば、どなたでも参加できます。詳細は以下のWebサイトで確認ください。実施で改善が必要なところがまだ残っていますが、少しずつ充実したセミナーにしていきたいと思います。
http://adev.ield.kumamoto-u.ac.jp/wpk/
さて、今回のコンテンツメニューはこちら↓
《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(19) ~韓国教育工学会国際会議参加記~
2. 【報告】熊本大学eラーニング連続セミナー:eラーニングにおける学習持続
3. 【報告】アメリカ取材@PSU(ペンシルベニア州立大学訪問記)その3
4. 【イベント】近々行われるイベントは?
★ 編集後記
【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(18) ~韓国教育工学会国際会議参加記~
5月14日ヒゲ講師はソウル近郊の金浦空港に降り立った。招待講演者として韓国教育工学会が年1回開く国際会議(KSET2009)に参加するためだった。折りしも新型インフルエンザの警戒の中、風邪気味で誤解を受けないか心配しての海外渡航であったが、韓国の入国審査は拍子抜けするぐらいスムーズだった(日本は島国で過敏な反応なのは仕方なしか)。
翌15日は、国際会議に併設されていたワークショップの手伝いをした。ibstpi代表理事のGrabowski教授がibstpiのインストラクタとインストラクショナルデザインコンピテンシーについてのワークショップを頼まれた。ついては同じ理事のヒゲ講師が(たまたま)韓国に招かれているのであれば、一日早く来て手伝ってくれないか。Noとは言えず。40人も集まっただろうか、ibstpiがどのようにしてコンピテンシーリストを作成・提案しているのかの説明から両コンピテンシーについての充足度自己チェックや利用シーンの協議など、活動的で有意義なワークショップができたと思う。大学院生や若手研究者が対象であったが、英語でのワークショップができてしまうところが韓国の実力の高さ・研究者層の厚さを物語っている。そう実感した。
このワークショップには、AECT次期会長予定者としてKSET2009に招かれていたジョージア大学のSpector教授も参加してくれた。ibstpiの元理事・現在Fellowという肩書きを持つ経験豊富な研究者だけに、ibstpi理事として新参者のヒゲ講師にとって、初めて聞く逸話などもあり興味深かった。たとえば、インストラクタコンピテンシー2000年版を改訂した際、オンラインと対面のインストラクターコンピテンシーは違うか同じかの議論をした末に、2つのチームでそれぞれオンライン用のコンピテンシーと対面用のコンピテンシーの作成を試み、両者を付き合わせた。その結果、一つのコンピテンシーとして提案するのがふさわしいとの
結論を得たとのこと。書籍には書いていないエピソードとして興味深かった。
KSET2009は5月16日の一日かけてソウル国立大学で行われた。オープニングセレモニーでは新型インフルの影響で海外渡航が不可になった赤堀JSET会長のあいさつ文を読み上げる大役を無事果たし(幾度か笑いもとり)、自分の研究発表も練習もしなかった割には時間ぎりぎりで終えて、最後のラップアップセッションでのパネルを迎えた。Spector教授とともに登壇し、海外からの参加者を代表しての所感を述べるという役割だったが、次の2つを述べた。
1)併設ワークショップの開催は日本にも持ち帰りたい点だった。一つのテーマで長い時間をかけてじっくり協議し、最新動向に触れることができる方式であり、参画型の企画は学びあう場にふさわしい。自分は講師を補助する役割で参加したが、学ぶことが多かった。
2)研究発表のセッションごとに指定討論者を設けるやり方は刺激を受けてよい。少なくても自分の発表原稿を予め読んできてコメントをくれる人がいる緊張感は良いし、コメントの中身も建設的でその後の討議を誘発した。自分が学生時代に参加したAECTでの指定討論者と発表者の間で繰り広げられていた熱い意見効果に圧倒されたことを思い出した。この伝統はぜひ今後も引き続き守ってほしいと思う。
韓国へ行くたびに、教育工学関連の研究者の層の厚さを再確認することになる。今回も、旧友との再会が多くあったが、それと同時に新しい研究者との出会いも多くあった。まだまだ奥が深い。そういう思いを強くした訪問だった。8月末にICoME2009で再びソウル国立大学に来る日がますます楽しみになった。
ヒゲ講師記す
ICoME2009 8月27-30日@ソウル国立大学
【報告】熊本大学eラーニング連続セミナー:eラーニングにおける学習持続(1)
本セミナーも今回で16回目となりました。今回は米国南アラバマ大学からお二人の教授を迎えました。なんとこの御二人は鈴木先生のフロリダ州立大学の同級生。私たちも先生方と楽しい時間を過ごしました。セミナーの内容を簡単に紹介します。
■エレメントの学習、バーチャルリアリティ、そしてデジタルゲーム
Elemental Learning, Virtual Reality, and Digital Game
Jack Dempsey教授は、学科長やオンライン学習研究所長などを歴任された方である。最近はゲームに関する研究を中心に行っているということでゲーム的要素を含むデジタル教材を事例に基礎学習デザインについてお話し頂いた。
学習設計を忠実に行うことには学習の分析と評価が重要であるが、その作業はとても複雑であり、十分に時間をかけることができないのが現場の声である。分析や評価にはさまざまなな手法が存在するが、実践的には学習活動と有意義な評価(真正・パーフォーマンス・ポートフォリオ評価など)を結び付けながらどのような学習が良いのかを考え分析するのがよいとし、その整理に役立つフレームワ
ークについて説明された。
有意義な学習の設計や評価には、従来の学習設計に用いられてきたルール学習や基礎知識などの習得成果について考えること(Synthetic)と実際の活動やバーチャルな環境を活用した学習者主体の活動を考えること(elemental)の両方が必要であると言う。Dempsey氏がSyntheticと呼ぶ従来型の分析・設計に関しては、これまでさまざま研究があるため、本公演の中では、elementalな分析と呼ぶ分析は
より具体的な活動から、その活動の構成要素となる成果を考えるためにか活用可能なDempsey教授が考えたElemental学習ピラミッドの説明があった。
<elemental ピラミッド>
1. Actual element (実際のエレメント)
2. Simulated element(バーチャルなエレメント)
3. Procedural Understanding (手続的理解)
4. Conceptual Understanding (概念的理解)
5. Related Knowledge (関連知識)
話を聞いていて、MerrillのID第一原理を思い出した。現実的に起こりそうな問題に挑戦させることで理解を深めるという点で類似していると思われる。
(熊本大学大学院 根本淳子)
【報告】熊本大学eラーニング連続セミナー:eラーニングにおける学習持続(2)
■eラーニング学習効果を高める自己管理型学習能力
Using Self-regulated learning skills to enhance elearning
Brenda Litchfield教授は小中高の理科教師を11年間経験した後大学院教育に携わり、全米科学財団や環境保護局等のマルチメディアプロジェクトを手がけている。彼女の講演では、自己管理型学習(Self-Regulated Learning = SRL)によってeラーニングの学習効果向上を目指す研究が紹介された。自己管理という言葉からは「自らを律する」とうような辛いイメージを受けるが、方略さえ知れば誰でも簡単に実現できるという。「旅行の前に何をしますか?――計画して、準備しますよね。それと同じです」と教授。例えばSRLの6つのプロセスのうち最後の「自己評価」は、帰宅後に「いい旅だった」「あの街には二度と行きたくない」と判断するのと同じであ
り、毎週(^o^) (>_<) のような顔文字をつけるだけでもよいとのこと。eラーニング30科目の運用経験から、「学習者がSRL実現のために自分で使うことができる」ということを第一に考えて整理されたプロセスなのである。
研究結果によれば、様々な集団に対しSRL実現のための方略を教授したところ、多くの学習者から「これはすばらしい、もっと早く知りたかった」という評価を得、達成度も高まった。また、方略だけでなくその目的や根拠も説明することによってさらに効果が上がったこと、下位者に対してより効果的であった(上位者は自然とSRLを実行していた)こと等も報告された。フロアからは遠隔教育のポイントや研究の詳細について質問があり、「教員がまずSRLを身につけることが必要だ」という意見も聞かれた。講演の最後は「SRLの将来」として「eラーニングに限らず、どのような学習形態であってもSRLは必要である」という言葉で締めくくられた。学習者としてもインストラクタとしても、自分の取り組みを反省させられ、かつ希望を持たせてもらえる講演であった。
(熊本大学大学院教授システム学専攻博士後期課程1年 曽山 夏菜)
【報告】アメリカ取材@PSU(ペンシルベニア州立大学訪問記)その3
■スーザン・ランド教授(Susan Land)
スーザン・ランド(Susan Land)は現在、PSUの教授システム学専攻代表教授(Professor in charge)を務める。フロリダ州立大学大学院教授システム学専攻で1990年代初頭に博士号を取得後、ジョージア大学でハナフィン教授のもとで研究を進め、そののちPSUに赴任。ハナフィンと共著でReigeluthのグリーンブック第二巻に構成主義のIDモデルの章がある。
■現在ペンステートで何が起こっているか、そしてそれはなぜか
INSISに学習科学を取り入れようとしたのは、2002年。当時に認知科学から二人の教員を採用した。それまでは伝統的なID主体の教育と研究をうまく実践していたと思うが、同じような内容を違う学問(学習科学)で行っているのに気づき、それがINSISに所属する数名の研究者のテーマと重なる部分が多くあった。それは特に技術的な部分であった。また、当時はIDの中でもトレンドが構成主義にシフトし、より学生主体のアプロ
ーチが求められていた。技術はデータコレクションや実験に使われていて、今までのチュートリアル型CAI教材の中に活用されていたものとは全く異なるものであった。学習科学の分野は、研究費にも恵まれ研究(Research lab)により力が注がれていた。このような背景から新しい人材を採り入れて分野を広げようとした。
■新プログラムの運営について
現在のところ徐々に二つの領域を積み重ねながら実施している。今まであったETの強みに新しいものを加え、力を増す方向にある。新しいものをゼロから作るのではなく、今まである強力なINSISのプログラムをつぶして転換するというよりは、その強みを生かして、学習科学領域を強化することで、二つの領域を組み合わせて発展させてきた。この考え方は正しかったと思う。受講者側から見れば、学習科学者二人を迎えてからの改革は、いわばPiecemeal的なアプローチでカリキュラムを実施しながら考えてきたと言えるが、現在ではかなりカリキュラムの幅も広がり、かなり方向性が見えてきたと思う。
■リサーチアッパレンタシップ(RA)の位置づけについて
現在のところ既存の研究基礎科目の前後どちらにでもRAを受講できる体制をとっている。ただし、その我々の決断が本当によいのかはまだわからない。今のところ、博士課程1年1学期目の学生と4年目の学生が一緒にRAに参加することが可能である。後者の学生は研究について理解しているが、前者のような学生は何をしてよいかわからない状態になる。哲学としてそれぞれの学生ができることをし、貢献することが重要であるということが根底にある。1年目の学生が全体を把握仕切れなくても4年目になればリーダーシップを発揮できるようになるだろうし、1年目の学生はデータのコーディングや分析の一部を担当すればよい。といっても理論的に考えるのは簡単でも、実践は難しい。他の教員がどのようにRAをやっているのか、みんな興味があるところだろう。どの学生がどのRAグループに所属するかによる。たとえば、あるグループで、学会のプロポーザルを書くのが主な活動になった場合、もしその期がはじめてのRA参加だった学生は何もすることができなくなってしまう。そういった意味でまだチャレンジングであるが、これは正しいやり方であると信じているし、必要な知識をすべて教えてから実践をやらせるよりは良い。構成主義の考え方に沿ったやり方だと思っている。それがこの実践の背景にある。
■学習科学の要素を取り入れるための全体設計は?
IDの定義が広いように、学習科学の分野も幅広い。その内容は、研究者によって変わるが、学習科学に関する基礎科目がより多く必要となっている。デザインの考え方とコンピュータ(computation)そして認知学(Cognition)が必要である。また、認知とコンピュータまたは認知とインストラクションを中心にした教育心理学の授業が必要である。IDの基礎は充実しているが、ID以外の基礎も必要だ。願わくば、新しく採用される教員が担当してくれるとうれしい。
今のカリキュラムは3つの柱から成り立っており、それは、研究法の基礎科目、RAそしてデザインスタジオの3つである。どれが欠けても成功しないので、どうしても現在の科目は見直す必要がある。RAを導入したからには基礎科目を減らす必要がある。基礎科目の単位を(たとえば18単位)揃えてからRAにシフトするという考え方を捨てて、最初からRAに取り組ませているわけだから、基礎科目に割ける割合が減ることは避けられない。隔年開講という可能性は残っており、今でも一部そうしている科目もあるが、新しい人事が済めばこれも解消できると願っている。いずれにせよ、人事はすぐにできるが、カリキュラムの改革には時間がかかる。ゼロからカリキュラムを開発している熊本の例と異なり、長年の歴史をもつPSUの場合、変革を受け入れる者もいる一方で、固執する者もいる。
私がもしゼロからカリキュラムをデザインできるのであれば、研究法(RA)とデザイン(Design Apprenticeship)の二つのApprenticeshipを主軸にしていきたいと思う。長期間にわたってRAとDAを並行して展開し、すべての基礎科目をこの2軸の周りに配置するようなグランドデザインを考えたいところだが、まだそこまで我々のカリキュラムは至っていない。ようやく、科目を設置するレベルで見えてきたところだ(DAはデザインスタジオとして)。
(このインタビュー結果のまとめは根本淳子が担当した)
【イベント】近々行われるイベントは?
○2009/05/30(土)
日本教育メディア学会2009年度第1回研究会 教育メディア研究の方法論@長崎大学
URI:http://wwwsoc.nii.ac.jp/jaems/pdf/2009-1kenkyu.pdf
○2009/06/12(金) ~ 2009/06/13(土)
第11回 SEA教育事例研究会2009@芝浦港南区民センター(鈴木登壇あり)
URI:http://www.sea.jp/SIGEDU/CaseStudyWS.htm
○2009/06/17(水) ~ 2009/06/19(金)
SEAソフトウェア・シンポジウム2009@札幌(鈴木登壇あり)
URI:http://oide-osaka.org/ss2009/
★ 編集後記
教授システム学専攻では二期生が修了し、今年度になって新しい仲間が加わりました。徐々に大きなチームになりつつあります。研究員らの活発な活動により、プロジェクトやイベントなども少しずつですが着実に進んでいます。ある研究者が指摘するように、学びをデザインする活動は一人よりも、チームで行う時代ですので、多くの方と協働できる機会をより大事にし、私もCoPから学び、何か新しいものを生み出していきたいと思います。
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編 集 ID マガジン編集部 根本 淳子
発 行 熊本大学 大学院社会文化科学研究科
教授システム学専攻 鈴木 克明
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