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IDマガジン第31号

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IDマガジンのご愛読ありがとうございます。
暑い夏が本格的に始まりました。先週は国際会議と国内学会を熊本で続けて実施したためちょっとしたお祭り騒ぎでした。米国からはARCSモデルのジョン・ケラー先生が新書の翻訳版発売(「学習意欲をデザインする」)のタイミングで来日してくださり、進化したARCSモデルについて語ってくれています。来週28日のeラーニングカンファレンスがケラー先生にお会いできる次の機会です。ご参加お待ちしています。

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《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(29)  ~2010夏の陣前夜~
2. 【ブックレビュー】「デジタルネイティブが世界を変える」
3. 【報告】日本教育工学会設立25周年記念シンポジウム参加報告
4. 【イベント】近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(29) ~2010夏の陣前夜~

梅雨入り宣言もでたといっても何故か真夏の日のような天気だったりして、長旅の身には温度調整への心配りが大切な時期です。

1)先日は、ibstpiインストラクショナルデザイナーコンピテンシー改訂に向けてのWeb調査への協力いただきありがとうございました。目下世界各国からのデータを収集・分析中で、その結果をもとに最終案をまとめます。すべての作業は英語で行われるので、結果が出てからそれを日本語訳して皆様にお届けできるようになります。とは言っても、その前に、何かの機会を捉えて、日本語で回答を寄せてもらった人たちからの意見をまとめて報告できればと思っています。

2)ARCS本の翻訳、二校校正を完了。あとは出版を待つばかりになりました。予定では7月上旬の発行となります。ケラー教授の来日が7月10日なので「ギリギリセーフ」でした。熊本大学でのeラーニング連続セミナー、ICOME2010での名誉教授就任祝いを兼ねた「最終講義」、東京ではeラーニングワールド初日のカンファレンス登壇など、ケラー教授に直接会って、日ごろの疑問点を解消する機会を様々設ける予定です。ぜひふるってご参加ください。

3)先週と今週に2つのまったく異なる業種の教育実践に触れる機会がありました。そこでの共通点は、アセスメントとトレーニングの差別化でした。トレーニングをやる前に、実力診断(アセスメント)をやるのは良いこと。トレーニングをやらなくてもすでにできる人を診断し、無駄なトレーニングに参加することを防止できるから。でもアセスメントでNGの人はそのままにしておくわけにはいかない。トレーニングの最中ではいろいろと手とり足とり成功の経験を積ませるのはいいけど、それで「できるようになった」と錯覚してはいけない。できるようになったかどうかは、トレーニング後にもう一度、自力でやらせて判断する必要がある。1回で終わるはずはない。補助付きの(スキャフォールディングありの)トレーニングから、補助なしの自力走行ができることを確認する段階に進んで、初めて免許皆伝となる。アセスメントとトレーニングを区別することが大事ですね、というのが共通した結論でした。教育実践の現場に赴き、そこでの実践に触れて、何か意味のある助言をする。お決まりの講演をするときよりも、格段と充実した時間を過ごせました。感謝。

さて、いよいよ夏の陣に突入ですね。多くの皆さんに熊本で開催する国際会議(ICOME)と日本教育メディア学会の全国大会でお会いできることを楽しみにしています。
(ヒゲ講師記す:7月5日)

【ブックレビュー】ドン・タプスコット著,栗原潔訳(2009)「デジタルネイティブが世界を変える」翔泳社

本書では,2008年時点での11歳から31歳(1977年~1997年生まれ)までをネット世代(=デジタルネイティブ)と呼んでいる。ネット世代のテクノロジー活用法は親の世代とは異なり,電子メールすらも過去のテクノロジーとなるそうだ。そんなネット世代の中でも生まれが早い人たちは、すでに成人になって久しい。本書は、ネット世代に対する400万ドル規模の米国での調査をもとにしながら、独自の調査も加えて書き下ろされたものである。なお、デジタルネイティブという言葉は、シリアスゲームの文献にもよく登場し、関連が深い。
本書の中心は、ネット世代の「8つの行動基準」である。この行動基準は、親の世代と比べて特に異なっていて、ネット世代を特徴づける姿勢や行動を表したものである。

<ネット世代の8つの行動基準>
1.自由
ネット世代は選択の自由を求め、多様性を当たり前の状況と捉える。親の世代は多数の選択肢があると圧倒されるが、ネット世代は混沌の中から自分のニーズに合致した選択肢を選ぶことができる。仕事にも勤務方法等の選択の自由を求める。
2.カスタム化
ネット世代は、周りにあるものをカスタマイズしたり、パーソナライズすることを好む。親の世代は、手に入れた物がうまく動くことだけを望むが、ネット世代は何かを手に入れると、使いやすく(あるいは美しくみえるように)カスタマイズする。
3.調査能力
ネット世代は、調査能力に長けている。製品やサービスの情報にアクセスする権利は当然と考える。虚偽の情報や詐欺などがあふれているので、真実と嘘を見分ける能力が身についている。「信頼するが検証もする」をモットーにし,そのためにテクノロジーを活用する。
4.誠実性
ネット世代は,誠実性とオープン性を重視する.透明性を維持し,真実を語り、約束を守ることを高く評価する。企業が何か悪いことをすれば、不買運動すら起こる。一方で、誠実性には二面性があり、自己正当化しながら音楽の違法ダウンロードは行っている。
5.コラボレーション
ネット世代は、コラボレーションを得意とする。常に人と繋がっていたいと感じている。コラボレーションの文化を職場や学校などに持ち込み、コミュニケーションのための新たなツールを躊躇なく利用する。仮想的なコミュニティが一日中続いているかのようである。
6.エンターテインメント
ネット世代は、職場、学校、生活において娯楽を求める。仕事と遊びの間に明確な境界を引いていない。親の世代は働くときとリラックスして楽しむときは分けるべきととらえるが、この2つが一緒になっている。ビデオゲームに親しんでいる。
7.スピード
ネット世代は、スピードを当然のものとして受け止める。世界中の誰もが迅速に応答(対応)することを期待し、他人もそれを望んでいることがわかっている。
かつてないスピードでコミュニケーションが進められる一方、プレッシャーを感じるものもいる。
8.イノベーション
ネット世代は、常に新しい方法を求めている。イノベーションがリアルタイムでおきている文化の中で育ってきたこともあり、最新かつ最上の製品を持ちたがる。職場の環境も革新的で独創的であることを望み、最先端のテクノロジーが利用されることが当然と考えている。

本書は、この8つの行動基準を踏まえながら、教育、企業の人材管理、消費者、家庭、行政などに論を展開している。本書を通して著者が一貫して述べているのは、ネット世代には独自の文化(8つの行動基準)があるため、それを拒否せずに、その強み(有能さ)を発揮できる環境を整備していくべき(あるいはその特徴を踏まえてサービスを提供すべき)で、そのためには革新が伴うというメッセージである。

インストラクショナルデザインにおいて学習者の特徴を把握することは重要であり、私は大学の教員として、まさにネット世代を相手にしているということもあって、本書を手にとってみた。もちろん米国と日本の違いもあるために、すべてが日本に当てはまるとは言えないだろうし、著者が多少誇張している面もあるかもしれない。一方で、うちの研究室の学生も多彩な最新のコミュニケーションツールを駆使しながら、学生同士や友人同士、卒業生ともつながっていることも事実である。自分の大学で行っている授業を振り返ると、学生のネット世代としての強みを生かしているとは言い難い面がある。もっと今の学生たちに合った面白い授業ができるかもしれない。そんなことに想像力をかき立てられながら、この本を読んだ。

(岩手県立大学ソフトウェア情報学部 市川 尚)

【報告】日本教育工学会設立25周年記念シンポジウム参加報告

2010年6月19日、梅雨の間の晴れ間に、聖心女子大学にて行われました25周年記念シンポジウムに参加しました。25周年記念の豪華な内容で、第1部は「研究方法論を探る」として若手研究者の方々による最近のトレンドを交えた発表、第2部は「日本の教育、これからの10年」として、教育工学分野と周辺領域の著名な先生方による発表でした。今回は、第2部の発表の中から、隣接学問分野でありながら、なかなか聞く機会がなかった村井純教授、市川伸一教授のお話をピックアップさせて頂き、参加報告とさせて頂きます。

まず、「日本のインターネットの父」村井純教授の話。
「クラウドコンピューティング」というBuzzWordが出ている時代。サービスを手に入れられれば、コンピュータを意識する必要は無く、社会としてのグローバルな空間が出来た。それに教育はどうか関われるのかが今の課題。日本語・日本文は、グローバルな空間に対して、どう貢献できるかを考えること。例えば、日本は「ものづくりが強い」ので、「強い商品を開発」し、「ものをたくさん出していけば良い」という考え方となりがちが、「ものづくりということに日本文化がどう貢献できるのか」、という考え方となる。

そして、教育心理学者 市川伸一教授の話。
学校での学習の2サイクル「習得」と「探求」。このサイクルは時代によって大きく動いてきた。昔は習得サイクル中心、今は探求サイクルが中心で、どちらかに偏った時代が続いている。どちらが大事というわけではなく、振り子のように今度こそバランスを保つべきだ。また、学習・教育に関する学問分野で、教育工学は実践的かつ実証的な「オイシイ」ポジションにいる。教育工学に関わる研究者・企業・自治体すべてが現場に入り、実践を進められる学問だ。

これらの話から、私自身は企業で教育サービスを提供する側として、
・「グローバルな空間」を意識した考え方、発想の転換が必要
・教育工学は、専門性と実践によるエビデンスが大事
という2点がこれから特に意識すべき点と感じました。
最近iPadやタブレットPCなどのハードウェアの登場と、学校で子どもが使うデジタル教科書などの政策で、教育分野が活気づいている感じがします。その時こそ、教育工学者・社が「グローバルな視点」で「バランスを保った」有益な実践につなげ、エビデンスを広く知らせるべきと強く感じました。

(山本雅之 ソフトウェアメーカー勤務・岩手県立大学時代のヒゲ講師の弟子)

【イベント】近々行われるイベントは?

○2010/07/28(水)~2010/07/30(金)
e-Learning WORLD2.0@東京ビックサイト
URI:http://www.elw.jp/

○2010/07/30(金)
人工知能学会 ALST研究会@早稲田大学 所沢キャンパス
URI:http://home.hiroshima-u.ac.jp/jsai-sig-alst/

○2010/08/18(水)~2010/08/20(金)
情報処理学会・コンピュータと教育研究会 情報教育シンポジウム
SSS2010@伊香保温泉
URI:http://ce.eplang.jp/index.php?SSS2010

○2010/08/26(木)~2010/08/28(土)
教育システム情報学会第35回全国大会@北海道大学
URI:http://pirika.ec.hokudai.ac.jp/jsise2010/

★ 編集後記

この数週間、イベント続きで自分でも何をしていたか忘れてしまうぐらいあっという間に過ぎていました。言い訳ですが、今回ご担当いただいた方の記事は7月上旬には集まっていのにもかかわらず、マガジン発行が遅れてしまいまして本当にごめんなさい(*_ _)。

今後ともIDマガジンをご愛読お願いします。よろしければ、お知り合いの方に、Webからの登録をお勧めしてくださいませ。

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【 mail to: idportalあっとml.gsis.kumamoto-u.ac.jp】

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本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

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