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IDマガジン第34号

ID マガジン第34号

IDマガジンのご愛読ありがとうございます。
ご無沙汰しております。久しぶりの発行となりました。
今回は新しい特集を組むことができましたのでご案内いたします。
パフォーマンスという言葉を良く聞くようになりましたが、今回からご紹介するのはパフォーマンス コンサルティングについてです。
生産性や能力の向上を目指したアプローチをHuman Performance Technology (HPT)と呼び、米国のthe International Society for Performance Improvement (ISPI) (http://www.shidaiky>http://www.ispi.org/)という学会では、HTPに感する実践や研究、専門家の認定などを行っています。日本ではあまり活動されている方が少ないのですが、ワークプレースの実践に焦点を当て、教育をより幅広い範囲でとらえたIDと類似する分野です。新しい特集は、このHPTの一部として注目を浴びているパフォーマンス コンサルティングに関してです。企業で活躍される皆様はもちろんのこと、ID関連の知識を深めるのにとても有効ですので、皆様にお勧めのコンテンツです

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(31) ~サンチアゴのibstpi理事会~

ヒゲ講師は、2010年10月3日の朝、チリの首都サンチアゴ空港に降り立った。全員無事救出された炭鉱労働者に会いに行くため、ではなく、ibstpiの理事会に参加するためであった。南米へは2007年のブラジル訪問以来2度目の旅。今回はアメリカで1週間を過ごして時差ボケをある程度解消してからのチリであったが、マイアミからの夜行便は満席で、かなり疲れた状態での到着であった。今回の理事会開催をサポートしてくれた地元大学からの出迎えタクシードライバーの出迎えを受け、ガタガタ揺られて1週間を投宿するツーリストアパートに無事チェックイン。インターネットアクセスがまぁまぁのスピードが確保できていることに安心し、早速、普段からの遅れ気味のToDoリストに追いつく作業に着手した。

ibstpi理事会は3日間缶詰で朝から夜まで集中審議を行う。今回の主たるテーマは、改訂中のインストラクショナルデザイン(ID)コンピテンシーの最終案決定とユーザー登録管理方式のリニューアル。今回は遠方での開催ということもあり、在任理事10名のうちの5名しか現地参加できなかった。遠隔地からのバーチャル参加を加えないと定足数が満たせず、何も議決できない状態であったが、それでも数々の決定を重ねた。

現行のIDコンピテンシーは2000年に公表した第3版。そろそろ見直しの時期だろうということで一昨年に改訂チームをつくり種々の調査を実施し、チームと理事会全体で議論を重ねた結果、改訂の骨子がまとまったのが昨年。それを英語からスペイン語・韓国語・日本語などに翻訳して全世界調査にかけた結果を精査して「これでいきましょうかね」という決定を下すのが今回の理事会での重要案件。チームからの報告にいくつかの意見はついたが、「これでいきましょう」との決断がなされた。つまり、日本でも読者各位にご協力をいただいたコンピテンシー案がほぼ踏襲された形で、第4版が公表される見通しになった、ということです。来年早々にもWebサイトを通じて公表され、改訂のプロセスなどをまとめて解説をつけた単行本も発刊される見込みになりました(本の中身はこれからですが)。

もうひとつの主要議題は、ユーザー管理と広報の問題。Webサイトのリニューアル案とそこに載せるべき新しいユーザー登録管理方式を議論。ibstpiが公表している4種類のコンピテンシーは、全世界500以上の団体・組織で使われている(といわれている)が、必ずしも正確にその実態が把握できているわけではない。利用権をきちんと申請し、営利・非営利、内部利用・外部利用のスキームに基づいてしっかりと利用料を支払っている団体ばかりではない、ということ。それを少なくとも今回のIDコンピテンシー第4版を公表するまでにはきちんと整理しましょう、となった次第。これも数年かけて議論してきた重要案件である一方、誰もしっかりとリーダーシップをとってこなかった。何が因果か、今回ヒゲ講師がこの案件を仕切ってもいいよ、と言ってしまい、えらい仕事を引き受けてきた。まぁ昨年引き受けた収入役の業務と切っても切れない利用料問題が絡んでいるので、これも自然な流れだったと言えなくもないのですが、参ったなぁ・・・。しばらくは縁の下の力持ちに徹することにしましょう。

ibstpi理事会の前日は、ホスト大学と共催でワークショップを開催。ibstpi理事長Sleezer博士(Baker
Hughes社人材部タレントマネージメント担当部長)が専門とする昨今はやりの「タレントマネジメント」をテーマに、ibstpi のコンピテンシーがどのように活用できるかなどを紹介。ヒゲ講師も、日本でのIDコンピテンシー活用の状況を少し紹介した。その中で、ヒゲ講師がIDを学んだ頃はアメリカへの留学が必要だったが、今では自前での専門家育成のオンライン大学院を日本につくったことを紹介した。「その大学院は英語で教えているの?」と質問され、「もともと日本語だけど、英語でも学べる課程をつくった」と言えば、チリからでも受けられるのね、となり、オンライン大学院のパワーを感じた。日本で学べる場所であると同時に、世界に通用する教育課程にしなければ、という決意を新たに、ダラス経由のニ連続夜行便で帰国の途についた。

帰国後1週間経ちましたが、時差ボケ「解消中」の状態が続いています・・・・

(ヒゲ講師記す:2010.10.19)

【パフォーマンス・コンサルティング】(1)パフォーマンス・コンサルティングとは

(株)ヒューマンパフォーマンスの鹿野と申します。IDマガジンの編集、根本さんから「パフォーマンス・コンサルティング」の解説記事の打診があり、身の程も知らず、お引き受け致しました。この記事では、背景にあるISDやHPT、現在の広がりなど、ふれたいことはいくつかありますが、今回は「パフォーマンス・コンサルティングとは」についてです。

パフォーマンス・コンサルティングは、Robinson & Robinson “Performance Consulting”1995(拙訳『パフォーマンス・コンサルティング』2007年)が始まりだと言われています。この本は世界の人材開発関係者の間で大きな反響を呼び、スペイン語、アラビア語、中国語、そして、日本語(遅れましたが)に翻訳され、大学のテキストにもなっています。

いきなりですが、次のような状況を考えてみてください。営業本部長から「若手の提案書はひどい。提案スキルを高める研修をしてほしい」という要望がありました。そこで、人材開発担当者が現状をアセスメントしたところ、確かに「若手の知識・スキル不足」は見られますが、同時に「上司が提案書の指導をしていない」「残業中に先輩社員が若手に雑用をさせるため、若手は提案書をじっくり考えられない」ことがわかったのです。さて、この状況で提案スキル研修を実施するだけで、若手の提案書の質は改善するでしょうか?

パフォーマンス・コンサルティングの定義は次のとおりです。
「パフォーマンス・コンサルティングとは、クライアントとコンサルタントが協働し、職場のパフォーマンスを事業目標の達成に役立つように最大化することで、戦略レベルの成果を実現するプロセスである」―拙訳『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』2010年

先の例で言えば、営業本部長がクライアント、人材開発担当者がコンサルタント、質の高い提案書をつくることがパフォーマンス(従業員の実務行動)です。パフォーマンス・コンサルティングとは、事業目標の達成に役立つパフォーマンス(従業員の実務行動)を最大化することで業績向上に貢献する、「人材開発の仕事の進め方」です。重要なポイントは、「事業目標の達成にカギとなる従業員の実務行動」とそれらを「最大化」するための促進・阻害要因(上司の指導や役割分担など)を特定し、合わせ技の手を打つところです。

パフォーマンス・コンサルティングでは、企業内の実務家が実践するために、分析モデル、成果物、インタビューのコツなどが体系化されています。そして、「事業目標~職場での実務行動~(学習を含む様々な)施策」を連動させて設計するので、行動レベルの効果測定がわかりやすいというメリットがあります。このパフォーマンス・コンサルティングの源流には、HPT、ISD、IDがあります。次回はそのあたりをみていこうと思います。

株式会社ヒューマンパフォーマンス 鹿野尚登
http://www.shidaiky>http://www.human-performance.co.jp

パフォーマンス・コンサルティング・ワークショップ
http://www.shidaiky>http://www.human-performance.co.jp/article/13478992.html

【ブックレビュー】「デジタルゲーム学習―シリアスゲーム導入・実践ガイド」

2010年日本教育工学会(JSET)第26回全国大会第一日目最後に開催されたワークショップで「大学」をテーマにシリアスゲームをデザインする(1)、のセッションでシリアスゲームを初めて知り、これはストーリー中心型カリキュラム(SCC)とのマッチングがとてもよいのではないかと思った。それというのも私の研究テーマが、SCCをSNS上で展開するもので、ストーリーの点で共通項が見つからないかを、知るために参加した次第である。ワークショップをしてくださった藤本先生には不躾ながら、シリアスゲームの外観をつかむにはどの書籍から読んだほうがよさそうでしょうかと、質問した。先生は、その場で本書のご紹介をいただき、少し分厚いけどこれが一番と教えてくださった書籍だった。早速注文をして購入したが、確かに370ページにわたる詳細な本書は、10月の三連休には十分すぎるボリュームと本書にかけるマーク・ブレンスキー氏の熱いメッセージが伝わってきた。

尚、シリアスゲームに関しては本ブックレビューで宮崎氏が[024-03]【ブックレビュー】「シリアスゲーム 教育・社会に役立つデジタルゲーム」(2)と題して投稿されているのであわせて参考にされるとより深く整理できるであろう。書籍の発行年数は、本書のほうが後であるが、宮崎氏のブックレビューは藤本先生の著書であり日本に即した内容であるが、本書は、デジタルゲーム学習の第一人者の一人としてマーク・ブレンスキー氏が書き下ろしたものを日本に合うよう藤本先生が翻訳したものであるため、本書のほうがより広範囲より歴史的背景等深く書かれており、リファレンス文献も多数掲載されているため、研究として始めて読まれる場合は、藤本先生のご助言どおり本書が良いのではないかと思う。インストラクショナル・デザイナーの一人であるマーク・ブレンスキーらしく、分かりやすい構成と、説明でイントロダクションを読むことで、読者の目的に沿った読み方を提案している。今の学習者たちがどのように違うのか、教育改革がいかに重要で、なぜ困難かという問題に興味がある読者は第2・3章を、デジタルゲーム学習がどのようなもので、どうなっていくかを知りたい読者は第6章を、デジタルゲーム学習がさまざまな分野で、どのように実践できるのかを知りたい読者は、第7・8章を、デジタルゲーム学習の事例を見てみたい読者は、第9章を、すでにデジタルゲーム学習の考え方に賛同して
おり、実践上の障害を取り除くための手段、上司をどのように説得する方法を知りたい方は、第12章にとガイドしている。また、くれぐれもと念を押して、楽しく効果的な学習法だと言っても、あくまで数多くの学習方法の中の一つの方法であって。万能でないことを添えている。

スペースインベーダーというゲームをご存知の方はどのぐらいいるだろうか?デジタルゲームが本当の意味で大ヒットしたのはこのゲーム(1978年)が初めてで、これを中学生の時から触れて育っているのが2000年の時点で30~39歳だそうだ。現在に置き換えると2010年であるので40~49歳がデジタルゲームと一緒に育った世代になる。同じころスターウォーズ(1977年)やMTV(1981年)そして、IBMのPCは1981年に登場したそうである。そんな中で、大人たちにとってのコンピュータスキルは道具の一つであるが、ティーンエイジャーにとっては「第二言語」になっていると言われている。このゲーム世代は、「デジタルネイティブ」でありデジタル以前に生まれて大人になってから取り入れた世代は対比して、「デジタル移民」と呼ばれ一線を画している。

このようなデジタル世代に対して、学習方法もいつまでも同じであるべきでなく、デジタルゲーム学習などが途上の段階ではあるが受けいれられていくのは当然であろう。また、別の切り口としては、テレビとデジタルゲームにも違いがあり、テレビは受動的一方、デジタルゲームは能動的である。このように足早な技術革新が世代間の違いを生み出しているようだ。

さて、学習における楽しさの主な役割は、学習者をリラックスさせ、やる気を高めることだということが分かる。リラックスすることで学習者は物事を理解しやすくし、やる気を持つことで、苦痛なしに努力を重ねることができるようなる。これがデジタルゲーム学習の意味合いのひとつであり、他にも遊びと学習、遊びと仕事など関連付けを本書ではひも解いている。そして、ゲーム自体もゲームがゲームである要素があるようだ。それは構造的要因として、
1.ルール
2.ゴールと目標
3.結果とフィードバック
4.葛藤/競争/挑戦/対立
5.インタラクション
6.表現、ストーリー
の六つの要素に根差している。これらの区分的な要素に加えて、優れたゲームとできの悪いものを分けるデザインの質に関する要素もある。優れた ゲームは高度に集中した、時に難しい課題を簡単に感じたり、何をやっても楽しめたりするような精神状態があり、これがゲームプレーヤーから良く報告される。これは、チクセントミハイが「フロー状態」と呼んでいる。デジタルゲーム学習における最大のチャレンジの一つは、プレーヤーをいかにフロー状態に保ちながら、学習も同時に起こすかということである。簡単ではないが、成功したときの成果はとてつもないとしている。

後半は、各種のデジタルゲームの事例があり、簡単なものから、大規模なものなどの事例が紹介されている。すべてのゲームを知っているわけでは ないがおおよそのゲームのイメージは十分伝わる。さらには、デジタルゲーム学習を導入するに当たり、否定的な意見への対応や、人、費用、とあらゆる導入に関する指南がなされている。本書一冊で、十分にデジタルゲーム学習の理論武装から導入までが記されており、あとは、読者の方がチャ レンジするかどうかである。日本人にとっては有意な条件があり、筆者はメールアドレスを公開していて、質問疑問にも答えてもらえるが、奥様が 日本人ということで、日本語での問い合わせも可能だそうだ。実際のゲームに関する情報はWebサイトにあり何を教えたいかを読者が決めることで具体的に実施に移せることであろう。冒頭に述べたSCC(ストーリー中心型カリキュラム)の元なるゴールベースシナリオ理論の7つの構成要素とゲームがゲームである6つの構造的要因には共通する部分が多い。
SCCをさらにエンターテイメントに傾けたエデュテイメントとして、TPOに合わせた使い分けをするのが、折衷主義をとるインストラクショナル・デザイナーの力量であると改めて感じた。デジタルゲーム学習はまだ、発展途上の段階であり、さらなる深化と、発展に期待すると共に、新たな道を発見することができた。

参考:
(1)http://www.shidaiky>http://www.jset.gr.jp/taikai26/program/program_w.php
JSET第26回ワークショップ

(2)http://www.shidaiky>http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~idportal/?page_id=55&cat=124&n=1920
【ブックレビュー】「シリアスゲーム 教育・社会に役立つデジタルゲーム」

(北村 隆始 熊本大学大学院教授システム学専攻博士後期課程1年)

【イベント】近々行われるイベントは?

○2010/12/6(月) ~ 2010/12/7(火)
「e-Learning Conference 2010 Winter」@東京
URI:http://www.shidaiky>http://www.elc.or.jp/tabid/279/Default.aspx
○2010/12/11(土)
日本教育メディア学会平成22年度第3回研究会@仙台
URI:http://www.shidaiky>http://jaems.jp/contents/kenkyukai/101211-2.pdf
○2010/12/18(土)
日本教育工学会研究会「ICTを活用したFDと大学・高大連携/一般」
@大分大学
URI:http://www.shidaiky>http://www.jset.gr.jp/study-group/files/20101218.html

○2011/01/29(土)
教育システム情報学会2010年度第5 回研究会:新技術の開発と活用
による新しい教育・学習環境/一般@長岡技術科学大学
URI:http://www.shidaiky>http://www.jsise.org/

★ 編集後記

今年は紅葉がきれいということですが、みなさんは秋の景色を楽しむ機会はありましたか。私は紅葉がりには行っていませんが、通りすがりに見た鮮やかな黄色のイチョウの木や、移動途中で見た風景で秋を感じることができました。寒がりの私は外に出たくない病にかかり初めていますが、秋の夜長にゆっくりと読書を楽しむ時間を持ちたいです。

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編 集 ID マガジン編集部 根本 淳子
発 行 熊本大学 大学院社会文化科学研究科
教授システム学専攻 鈴木 克明
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