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IDマガジン第40号

IDマガジンのご愛読ありがとうございます。
ずいぶんと寒さを感じると思ったら、もう10月も最後です。
我々の周りは、さらに一歩成長しようと寒さに負けず活動中です。
11月26日には、IDの普及を目指し熊本大学公開講座としてワークショップを開催することにしました。
IDについて勉強してみたいけど、きっかけがないなぁと思われている方、あなたが対象です!お申し込みください。
ひげ講師日誌で紹介のあるTDMコンサルティング(株)の皆さんも講師&ファシリテーターとして参加されます。
申し込み締め切りは、11月11日です。
詳細はこちらから↓
http://www.cps.kumamoto-u.ac.jp/syogaigakushu/koukaikouza.html#koukai16

そして、鹿野さんによるエッセイ「パフォーマンス・コンサルティング」は今回で一度シリーズが完了します。HPI関係の情報をこのように簡潔にまとめて
下さる人は国内ではとても貴重です。必読です。

今回のコンテンツメニューはこちら↓
《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(36)
~これほど嬉しいことはない~
2. 【特集】パフォーマンス・コンサルティング(6)パフォーマンス・コンサルティングの現在
3. 【ブックレビュー】おとなの学びを創る:
Professional development as transformative learning: New perspectives for teachers of adults (Patricia Cranton著)
4. 【イベント】近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(36) ~これほど嬉しいことはない~

われらが熊大GSIS修了生たちが、会社を立ち上げました。
会社の設立はフランス革命の7月14日(2011年)。
その名前はTDMコンサルティング株式会社。

代表取締役(われらが3期生)曰く:
私は、この専攻を修了したことで、人々の成長を支援する仕事を通して社会に貢献したいという思いが一層強くなり、
同じ志を持つ修了生の仲間達と、新たに人材教育コンサルティングの会社を立ち上げるに至りました。
(中略)
私たちは、これからの日本の教育には大きなパラダイムシフトが起こる、起こさなくてはならないと考えております。貴社の人材開発のための教育設計やeラーニングの構築を進められる際のパートナーとしてTDMコンサルティング株式会社がお役に立てるよう、日々精進してまいります。今後とも、ご愛顧、ご支援のほど、何卒宜しくお願い申し上げます

これほど嬉しいことはないですね。
ミッションステートメントは、私たちは人々の成長を支援することで、社会に貢献します!(当然、学習者中心ですな)
ビジョンは、効果的、効率的、魅力的な 学習環境を提供する(おー、IDの目指す3つの目標じゃないですか!)。
バリューは、Customer、Change
Learning、Cognoscenti、Crewの4つのCだそうです(あれ、ヒゲ講師も知らない単語も入ってますが・・・)。

思い起こせば、2008年4月、熊本の大学院を立ち上げてようやく2年がたち、修士課程が完成したときにわが専攻の門を叩き、タイミングよく文科省の大学院GPに選定されて着手した「ストーリー型カリキュラム(SCC)」の洗礼を受けて、大学院入学と同時に仮想会社MTM社に途中入社した3期生たち。その人たちが、えらくSCCを気に入ってくれたのか、仮想会社から巣立ったわれらが同窓生が、現実の会社を立ち上げたのであります。もちろん、ヒゲ講師をはじめ、全面バックアップ付です。何故って、この会社がいい仕事をしなければ、我々の教育の成果が問われますからねぇ。

この小さい会社で何ができるのか。それはすべてこれからです。その第一歩としてイーラーニングコンソシアムの準会員になりました。IDの専門性をウリにして何かをやらかそうとしてくれる若輩者たちを、皆様どうぞ暖かく応援してあげてください。

もしかして、ここから何かが始まるかもしれない。
そんな予感がして、鳥肌が立っています。

(ヒゲ講師記す)

参考URL
TDMコンサルティング株式会社
http://tdmc.co.jp/

【 特集】パフォーマンス・コンサルティング(6)パフォーマンス・コンサルティングの現在

今回はパフォーマンス・コンサルティングが現在どのような広がりを見せているのかをみていきましょう。

結論から言えば、パフォーマンス・コンサルティングは世界の人事・人材開発関係者の基本として広く浸透し、活用されています。以下はそれを示す主なエピソードです。

• Performance Consulting(1995年、邦題『パフォーマンス・コンサルティング』2007年)は、スペイン語、アラビア語、中国語、日本語に翻訳され、6万部以上売れた。
• SHRM (Society of Human Resource Management)は同書を1995年のthe book of the yearに選んだ。
• 同書の出版以降、パフォーマンス・コンサルティング、パフォーマンス改善に関連する書籍が多数出版された(拙訳『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』参考文献参照)。
• 現在、同書はNew Classicとされ、大学や企業のL&D部門のテキストになっている。
• ASTDはロビンソン両氏の業績を高く評価し、Distinguished Contribution to Workplace Learning and Performanceという賞を贈った(1999年)。
• ASTDの国際カンファレンスは、2000~2003年の4年間にわたりPerformance Consulting(2004年以降Performance Improvement)というセッショントラックを設定した。
• ISPIやASTDは、2002年頃からHPTやHPIの実践家に対し、それぞれCPT(Certified Performance Technologist)、CPLP (Certified Performance and Learning Professional)といった資格認定を始めた。
• 2000年前後から、ISPIやASTDのカンファレンスで、パフォーマンス・コンサルティングやHPIに関連するモデル、実践事例が毎年発表されている。
• 今年2011年のASTDでは、韓国の現代自動車のパフォーマンス・コンサルティング事例が、オハイオ州立大学と共同で発表された。

上記で、パフォーマンス・コンサルティング、HPT、HPI(Human Performance Improvement)と並んだので、少し補足しましょう。時系列で見れば、ISPIのHPT→ロビンソン夫妻のパフォーマンス・コンサルティング→ASTDのHPIという流れのようです。

ISPIはHandbook of Human Performance Technologyを1992年に初版、1999年に第2版、2006年に第3版を出しており、2002年頃にHPTの原則を定義しています。ISPIではPerformance Technologyという用語は使いますが、各ハンドブックのIndex にPIやHPIはなく、ほとんど使わないようです。

ASTDのThe ASTD Training & Development Handbook(1995)第18章では、Marc RosenbergがHPTを解説しています。そして、同書のIndexではPI (Performance Improvement)という用語はありますが、HPIはありません。The ASTD Handbook of Training Design and Delivery(1999)でもIndexにHPIという用語は出てきませんが、“Leveraging Technology for Human Performance Improvement”という章があります。

初版のPerformance Consultingが出版されたのが1995年ですが、ISPI・ASTDとも上記の1999年版のハンドブックでとりあげ、Indexに掲載しています。

ASTDは2002年にHPI Essentialsを出版しました。その中で、HPI、HPT、パフォーマンス・コンサルティング、Performance Engineeringを同じ意味のものとして解説しています(同書P2)。

ちなみに、ロビンソン夫妻は、著書の中でパフォーマンス・コンサルティング、HPT、HPI、Human Performance Enhancement、Performance Engineeringは同じ領域のものだと認めています(Performance Consulting 2008、拙訳『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』、P17)。

HPIについては不勉強なのですが、基本的な考え方はHPTやパフォーマンス・コンサルティングと同じと言えます。というのは、HPIも前回紹介したギルバートやラムラーの考え方が基盤にあるからです。微妙な違いは、ADDIEプロセスのAで行う分析プロセスの括り方やモデルの要素の網羅性にあると思います。

以上をまとめると、最近ではASTDのように比較的広義な意味合いで「パフォーマンス・コンサルティング」「HPI」を使うことが多くなっていると言えそうです。それだけ浸透してきたということですが、人によってイメージしている「パフォーマンス・コンサルティング」のプロセスや分析モデルが違うことも考えられるので、少し確認した方がよいかもしれません。

次に、パフォーマンス・コンサルタントについても少しふれておきましょう。HPI Essentials (2002)では以下のような記述があります(P2)。

「実のところ、名刺に『パフォーマンス・コンサルタント』という肩書をつけている人の多くは、本当の意味でHPIを実践していない」
「しかし、HRゼネラリスト、ODの専門家を自認している人で、本当の意味でパフォーマンス・コンサルタントという人を目にすることが多い」

上記から2000年前後の米国で、パフォーマンス・コンサルタントの実態がどのようなものだったのか、少し想像できます。このようなことが背景にあったのかどうかはわかりませんが、ASTDの認定資格CPLPを得るためには、ワークショップの受講、筆記試験、コンサルティングの実績などが必要になっているようです。

ロビンソン夫妻は、今では何千という人が「パフォーマンス・コンサルタント」の肩書をつけていると言っています(拙訳『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』、P10)。

最後に、この連載は今回で一区切りになりますので、少し雑感を述べさせていただきます。

2007年以降、ASTDカンファレンスに毎年参加して、企業の事例発表を聞いていますが、HPIのプロセスに従った実践事例が北米だけでなく、欧州、中東、アジアと広がっている気がします(詳しくは弊社サイトのASTD報告をご参照ください)。

最近のISPIやASTDのメルマガやeマガジンでは、自分の専門を“performance improvement and instructional design ”と表記する人をよく目にします。実際に、韓国企業の人材開発担当者にはこの分野のPhDをとった人材が珍しくなく、ASTDのカンファレンスで堂々と事例発表しています。

グローバルな競争が激しくなる日本企業でも、人材開発担当者がこのふたつの領域をセットで学ぶのが当たり前になり、そういう方が世界で活躍される日が早晩来るのではないでしょうか。日本企業の若手の人材開発担当者は、ASTDなどのカンファレンスに参加し、世界各国の若い人材開発担当者がどのような目つきで学んでいるのか、自分の目で確かめることをお勧めします。

IDマガジンの読者の多くは、IDの合理的な設計思想に共感されている方だと思います。これまでの記事で、パフォーマンス・コンサルティングはそのIDの発展形ということをご理解いただけたと思います。今後は企業内で人材開発施策を設計するときに、IDだけでなく、ぜひパフォーマンス・コンサルティングもご活用いただければと思います。

浅い知識にもとづくこのシリーズが読者のみなさまにどれほどお役に立ったのか、はなはだ心許ないのですが、何らかのトピックが一助になっていれば幸いです。もしPCにご関心があれば、ぜひご連絡ください。また、不正確な記述にお気づきの場合もご一報いただけますと助かります。今後ともよろしくお願い申し上げます。

(株式会社ヒューマンパフォーマンス 鹿野尚登)
http://www.human-performance.co.jp
パフォーマンス・コンサルティング・ワークショップ
http://www.human-performance.co.jp/article/13478992.html

【ブックレビュー】おとなの学びを創る:Professional development as transformative learning: New perspectives for teachers of adults (Patricia Cranton著)

前回(IDマガジン36号)の「おとなの学びを拓く」が、成人の学習を推進している人(おとなの教育者)がどのように大人の学習を起こせばよいのかという視点で記載されているのに対して、本書は、おとなの教育者の能力開発という視点で記載されています。

例えば教授システム学専攻(以下gsis)の学生で「おとなの学習者」を教育する方やgsisの先生方は、おとなを教育しているので、「おとなの学びを拓く」を理
解して教育すべきであり、加えて、おとなの学習者を教育する人は、「(本書)大人の学びを創る」が示す能力開発を行うべきであるという論点です。また、お
となの学習者を教育している人(おとなの学習者を教育しているgsisの学生)の能力開発を行う人(gsisの先生方)は、「大人の学習を創る」が示す能力開発者
であるべきであるということを示しています。

IDを基に考えると、大人の学習者を対象に教育を施すのであれば、大人の学習を理解してそこに導く教育方法を考えるということであり、また、その教育者の能
力開発を担う人は、それらを踏まえて能力開発するとなるでしょうから、当たり前と言えばそうなのだとも言えます。
本書が示す、「おとなの学習を推進する人は、自身の能力開発においても自己決定的に能力開発すべき」という論点は、「自身の能力開発は、実際にそうなっているか?」という問いに、「勿論です」と果たして回答できるのであろうかという省察を与えてくれることだと思います。簡単に言うと、「gsisの学生で成人を教育している人であるなら、gsisのプログラムにいちゃもんつけていないで、自己決定的な能力開発を行いなさい」と指摘されているということです。また、gsisの先生には、gsisの学生が自己決定的に能力開発できるようにサポートしなさいと指摘しています。小職の前期課程から後期課程での自己の学習の在り方に対して、グサグサと刺される本であります(読みたくないでしょうが、一読の価値ありです)。少なくとも、gsisが目指しているプログラムは、これらを目指したプログラムであると言えるのではないかと感じました。

【「おとなの学びを創る」の概要】
本書は、成人教育者が成人教育者として能力開発を行うにはどうすればよいのかという視点で記述されている。成人教育者は成人教育を行っていく上での教育訓練を受けていないこと、成人教育者はどのように自己の能力を高めていくべきなのかについて言及されている。

第1章:成人教育者の養成と能力開発
成人教育者は、教えることについて学び、自分の実践について学ぶという意味で学習者である。成人教育者が教えることについて学ぶのは、経験について語り、自分の持っている前提や期待に気づくようになり、その前提を問いなおし、パースペクティブを修正することを通してである。このプロセスこそが、本書の成人教育者の能力開発についての基礎概念となっている。

第2章:従来の能力開発の方策
これまでの教育者の能力開発について批判的に検討している。これまでの教育者の能力開発手法を、①マニュアル・ガイド・ハウツー本、②ワークショップ、③研修、④訓練プログラム、⑤評価・遂行能力査定の5つに分類し実践とどの程度位置しているのかを分析している。

第3章:自己決定的な能力開発のための方策
振り返り(省察)を、自己決定型学習の観点でまとめている。また、成人教育者に自己決定型学習が求められる理由を、成人教育者は、自分の実践についての前提を明らかにし、問い直し、修正することと、学習者に自己決定学習を求めるならば、自らが自己決定学習を身につけておかなければならないことの2つであるとしている。

第4章:批判的な振り返りここまでの章で述べられる批判的な振り返りについて、より詳細に分析し述べられている。デューイやショーンの考え方を参照にして、批判的な振り返りについて整理されている。また、成人教育者の能力開発における批判的振り返りの方策として、前提を明確にする、前提の源を明らかにする、批判的に問い直す、代わりとなるものを想像するという具体的な手法が述べられている。

第5章:意識変容的な学習者になる
メジローの意識変容の概念を、成人教育者の能力開発に関連して述べられている。

第6章:教育者の能力開発に見る一人ひとりの違い
ユングの心理タイプ(8タイプ)論を基に、意識変容を伴う能力開発における成人教育者の特性の違いを論じている。
先に紹介した、第1冊目(おとなの学びを拓く)では、おとなの学習者の自己決定型学習や意識変容学習を進める際に、学習者の心理タイプを考慮すべきと論じられているが、本書では、成人教育者自身の能力開発についても同様な視点で論じられている。

第7章:仕事や社会的背景の中での意識変容的な能力開発
教育者は、変化の媒介者として社会に関わることができると主張している。教育的なプロセスを通じての社会変化は可能であるとしている。制度や社会変革(トップダウン型の社会変革;小職の理解)ありきではなく、教育での変革(ボトムアップ型変革;小職の理解)が可能であるということである。

第8章:専門職の能力開発のための新しい展望成人教育者を取り巻く環境要因が能力開発に及ぼす影響について、また、成人教育者自身が周囲の環境に及ぼす影響について述べられている。

第9章:能力開発担当者のための方策
成人教育者の能力開発を担当する人(能力開発担当者という言葉を使用している)について、能力開発担当者が成人教育者の能力開発に取り組む際に用いる方策を示している。その方策を、個別相談、アクションリサーチ、グループでの取り組みの3つに分けて述べられている。

【本書のお勧め度】
前作同様、成人学習に関するまとまった翻訳本は少ないので、本書はお役にたつと感じました。また、成人教育全体を俯瞰するには良い本であると思います。リ
ファレンスも非常に豊富で、その点でも大変参考になります。
加えて、自身の能力開発の省察にもお薦めかもしれません(読み方によると思いますが)。

(熊本大学大学院 教授システム学専攻 博士課程 早川勝夫)

【イベント】近々行われるイベントは?

○2011/11/05(土)~11/06(日)
日本教育メディア学会 年次大会@国際基督教大学
URI:URI:http://jaems.jp/contents/nenji/

○2011/11/12(土)
教育システム情報学会2011年度第4回研究会
テーマ:協調的学習とその支援技術 @関西大学
URI:http://www.jsise.org/top1.html

○2011/11/21(月) ~11/22(火)
e-Learning Awards 2011 フォーラム@秋葉原UDX
URI:http://www.elearningawards.jp/

○2011/11/26(土)
平成23年度 熊本大学公開講座[公-16]教育デザイン・ワークショップ
-インストラクショナルデザイン(ID)入門編
@(東京会場)キャンパス・イノベーションセンター
URI:
http://www.cps.kumamoto-u.ac.jp/syogaigakushu/koukaikouza.html#koukai16

○2011/11/28(月) ~12/02(火)
ICCE 2011@Chiang Mai, Thailand
URI:http://122.155.1.128/icce2011/

★ 編集後記

今回は、IDワークショップの宣伝をさせていただきました。
初心者向けの半日ワークショップです。
まずはちょっとどんなものか知りたいなと思われている方など、気軽に参加でき
ますよ。残念ながら中上級者向けではありませんのでご注意を。

今後ともIDマガジンをご愛読お願いします。よろしければ、お知り合いの方に、
Webからの登録をお勧めしてくださいませ。

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謝辞

本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

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