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IDマガジン第41号

IDマガジンのご愛読ありがとうございます。
新年を迎え最初のIDマガジンを皆さんにやっとお送りすることができました。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

皆様にとって実り多い一年になりますように。

今回のコンテンツメニューはこちら↓
《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(37)
~2012年辰年を迎えて~
2. 【報告】「第1回 まなばナイト」を終えて
3. 【ブックレビュー】「自己調整学習の理論」Barry J. Zimmerman and Dale H. Shunk
4. 【イベント】近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(37) ~2012年辰年を迎えて~

読者各位におかれては、それぞれに新春を心穏やかに迎えられたこととお喜び申し上げます。
ひげ講師は、赴任6年目にして初めての熊本での越年でした。留学生を招待して、日本流の大晦日と元旦を演出し、プチ文化交流を試みました。そのあと仕事始めは6日の東京。以来、すでに5箇所での外仕事を飛び回り、その点では例年通りの忙しい年を予感させるスタートとなりました。

今年はどんな年になるんでしょうか。あるいはどんな年にしていこうとしてますか?

読者の皆さんにとって、良い年になりますよう、遠方より、そしてバーチャルな空間において、お祈りします。いろんなイベントも仕掛けていくつもりですので、ぜひ一度ぐらいは顔を合わせてお話したいですね。できればそのあとで一献ご一緒できればなお嬉しいです。3月にはマレーシアからの研究者を招聘、8月にはARCSモデルのケラー夫妻が再来日、「まなばナイト」も隔月開催、公開講座もできれば東京だけでなく大阪でも、と策を巡らせています。

今年は3月に教授システム学専攻から2人目の博士号取得者が誕生の予定です。入試への関心はTDMコンサルティング社と同窓会の支援のおかげで上向きです(志願者の皆様にはタフな入試になってしまい申し訳ありません)。良い仲間をどんどん増やして、IDの専門家が世の中に認められるよう、精進していく所存です。

今年の誕生日には、例年になくいろんな方から「おめでとう」のメッセージメールが届きました。なんで?
と思ったのですが、Facebookに登録してある私の誕生日が「おともだち」たちのスクリーンにタイミングよく告知されて、その書き込みがメール転送されてきたわけでした。たまに読みに行くだけでまだFacebookデビューしていない小生にとって、このソーシャルメディアを用いた生活の変化が今年、私にも押し寄せてくるのでしょうか。正月休みにXiをクロッシーと読むことを初めて知った私は、最新機種(L-01D)の所有者になりました。ひげ講師にスマホは似合いませんが、きっとこれを前の機種(F901)と同様、長期間使い続けるのでしょう。

今年もどうぞよろしくお願いします。

(ひげ講師記す)

【報告】「第1回 まなばナイト」を終えて

まなばナイトの幹事をしております、熊本大学大学院 教授システム学専攻(以下GSIS) 3期生の市橋です。

平成23年12月22日(金)、銀座熊本館2階 くまもとサロン ASOBI Bar にて、
主催:TDMコンサルティング(株)、後援:GSIS同窓会の元、記念すべき「第1回 まなばナイト」を開催いたしました。

当日は大変多くの皆様にご参加いただき、お蔭様で、無事に、そして盛大に第1回のまなばナイトを終えることができました。これもひとえに、ご参加いただいた皆様のご協力、関係各位の皆様のご尽力の賜物と心より御礼申し上げます。

今回は、前半はGSISの入科相談会、後半は事例発表という形式で行いました。
入科相談会には9名の方、事例発表には23名の方にご参加いただき、ASOBI Barも満杯状態。とても活気のある まなばナイトとなりました。

前半の入科相談会では、GSIS入科希望の方々が鈴木先生、根本先生に入学後のことや研究テーマ等について熱心に相談をされるシーンが見られ、両先生とも相談者の方々にエネルギーを吸い取られた様子でした。また、GSISのOBOGの方々とのざっくばらんな会話にも花が咲き、「教授システム学に関わる人々」の面白さを感じていただけたのではないかと思っております。

後半の最初は、鈴木先生より、「ストーリー中心型カリキュラム(SCC)とは何か」と題し、教育改革を牽引し続けたいと願う本専攻にSCCを導入した意図と教育改革への思いを熱く語っていただきました。

続いて国内事例として、GSIS3期生の片野俊行さん(TDMコンサルティング株式会社)に、ストーリー型カリキュラム(SCC)に基づいて設計・開発したPMPR(Project Management Professional )試験対策eラーニングコースによる学習効果などについてご紹介いただきました。

そして最後に海外事例として、根本先生より、ストーリー中心型カリキュラムの生みの親であるRoger. C. Schankの実践例をご紹介いただきました。

ご参加いただいた方々にとっては初めてのランチョンセミナー形式ということで、最初は戸惑うシーンも見られましたが、GSIS OBOGの方々のタイミングの良いナビゲーションで、すぐにこの形式にも馴染んでいました。

また、今回は国内での事例に興味を持つ方が多かったようで、片野さんの事例紹介のときには、コスト、効果などについて具体的な数字を質問する場面が多く見られました。

まなばナイトは、鈴木先生、根本先生をはじめ、GSISのOBOG、現役生によって企画されたものです。関わりの度合いは大小それぞれありますが、GSISを核として企画されたものと、私は思っております。

まなばナイトは、以下の趣旨で取り組まれています。
===
日本での教授システム学の必要性や認知度はまだまだ低く、GSISの受験者数も減少傾向にあります。
これらを打開するためには、教授システム学の社会貢献をアピールすることはもとより、教授システム学を学んだ人たちが常に社会から必要とされるために、各人の継続的な学びが不可欠です。
本企画がこれらの機会と場を提供していくことで、「教授システム学の社会貢献」ひいては「GSISのさらなる発展」に一役買えればと思います。
===

幹事としては、
教授システム学を学んでみたいと思っている人
GSISを修了したけど、継続的に学びたい人
今の教育環境を何とか改善できないかと悩んでいる人
が集まる場所にしたいと思っています。

第1回も無事終わり、GSISの受験者数も昨年度より増え、この場は、微力ながらお役に立てたのではないかと思っております。

しかし現在は、「参加者の募集」、「会場選び」、「会場レイアウト」、「雰囲気作り」など、まだ課題は山積です。
特に、「参加者の募集」は非常に大きな課題です。ホームページを立ち上げたり、FaceBookを使っても、すぐに満員御礼になるというものではありません。興味のある人にはタイミングよく情報提供やイベントを仕掛けたり、さらに、日頃から密接な人間関係を構築しておくことも大切だと思っています。
なお、第1回は、まなばナイトの1ヶ月ほど前に開催された「熊本大学公開講座」(担当:3期生 都竹さん)からの繋がりで参加された方も多かったようです。

これからも、ご参加いただいた皆様が満足感を得られるような「まなばナイト」を開催できるように頑張りたいと思いますので、今後とも、関係各位の皆様のご協力を何卒よろしくお願いいたします。

※ 次回のまなばナイトは、2月11日(建国記念日)に開催いたします。
詳しくは、こちらをご覧ください。

【関連リンク】
まなばナイト公式ホームページ
http://www.manabanight.com/index.html

熊本大学公開講座(政策創造研究教育センター)
http://www.cps.kumamoto-u.ac.jp/syogaigakushu/koukaikouza.html#koukai16

主催:TDMコンサルティング株式会社
http://www.tdmc.co.jp

【ブックレビュー】「自己調整学習の理論」Barry J. Zimmerman and Dale H. Shunk

ご紹介するのは、「自己調整学習」=Self-Regulated Learning (SRL)について書かれた書籍です。このキーワードを聞いて興味を惹かれる方は多いことと察します。学習者が自分で自身の学習をコントロールできたら、そして周りからこれをうまく支援できたら、その学習は順調に促進されそうですよね。

私は、学習意欲動機づけモデルであるJ.M.Keller教授のARCSモデル(ならびにARCS-Vモデル)に関心がありまして、ARCS-Vモデルが「V」(=Volition=意志)の継続を実現するために、学習者の自己規制や活動制御を支援することに着目していることから、その関連文献を求めたところ、GSIS同期生からの紹介で(→高橋さん、ありがとう!)この書に辿りつきました。ではまず、書籍のコンテンツをご覧いただきましょう。

第1章 自己調整学習と学力の諸理論:概観と分析
第2章 オペラント理論と自己調整に関する研究
第3章 自己調整学習と学力:現象学的視点
第4章 社会的認知理論と自己調整学習
第5章 情報処理モデルから見た自己調整学習
第6章 自己調整学習の意思的側面
第7章 自己調整学習と学力:ヴィゴツキー派の考え方
第8章 自己調整的な学習者はどのような理論・アイデンティティ・行動を構築するか
第9章 自己調整学習と学力の理論についての考察

ご覧のとおり、各章では様々な見地から自己調整学習についての考察がされており、豊富な文献参照に基づく論考により、これらを比較して捉えることを促されます。とはいえ、オペラント理論から構成主義までの諸理論を取り上げたその広範さは、「自己調整学習」研究の全貌を捉えることの容易ならざるところを示すものと感じる次第です。本著によれば、学習の自己調整についての研究は、まだ「始まって20年足らず」(p.286)であり、例えば、「動機づけと意思の区別は、依然未解決のまま」(p.304)であるなど、まだまだこれから研究され、発展することが望まれる領域であるのです。

さて、そんな本著で私が特に注目している個所を少しご紹介します。まずは、第6章「自己調整学習の意思的側面」です。ここでは、自己調整学習のための意思的制御方略(注意制御/符号化制御/情報処理制御/感情制御/誘因増大(動機づけ制御)/環境制御の6つ)が紹介されています。学習者がこれらの内面的過程、外面的過程に関する制御に取り組むことで学習遂行のための意思が制御されるという考え方です。J.Kuhlによって示されたこの方略(活動制御理論:action control theoryとも言われる)は、本著における、先述したARCS-Vモデルとの接点となっています。Keller(2010)は、この制御方略は学習者がある目的を達成することにコミットしたあと、課題をやり遂げるところまで到達するための作戦を提供するものである、としています。つまり、Kellerの考えは、「意志の継続」を果たすために「意思の制御」方略を利用するのがよい、ということになります。では、その具体的な作戦はどんなだろう?という興味が湧いてきますね。また、Kuhlが「意思的な方略は訓練可能である。(p.198)」としている点についても、どんな訓練が有効だろう?と関心が惹かれます。これらのことは、これからの研究活動で調査していきたいと思っています。

次に挙げておきたいのが第7章「自己調整学習と学力:ヴィゴツキー派の見方」で、「共同調整学習」という考え方を挙げている点です。「発達の最近接領域(ZPD)」でお馴染みのヴィゴツキーによる視点として、社会的認知や相互作用といったキーワードがあります。ここから本章筆者は、教室における教師と学習者や学習者間の相互作用を表す「共同調整」という考え方を導いています。自己調整学習において、他者との相互作用が有効であると考えることは、学修支援の点で様々な可能性を感じさせてくれます。

その他、第8章では、社会的文脈における構成主義の観点に基づく自己調整学習について言及されており、本著がオペラント理論から始まって構成主義へと視点を進めていく様を見るに、「自己調整学習」に関する研究が、近年の潮流と言える社会構成主義的心理学への適応を目指して推移しているものと推察します(ちなみに原著の出版は2001年)。他方、1983年に提案されたARCSモデル(Keller, 1983)が、「初期の動機づけ」を促すところから「動機づけを得てから学習を遂行するまでの継続意志」の支援にまで守備範囲を広げることを意図してARCS-Vモデルに発展されたのが2008年ですから(Keller, 2008)、企図するところは違えど、こちらも時代の流れに適応しようとしているのだろうと察します。これらの研究に共通することはまだ年数が浅いという点です。インストラクショナルデザインの発展に寄与することを目指して、私もいつか何らかの形でこれらの研究に貢献したいものです。

と、ここまで書いてきましたが、本著の豊富なコンテンツ、豊富なリファレンス、そしてさらなる研究取り組みを求める諸提言に触れ、今、まるで大海に小舟を漕ぎ出したような気分になっています。これからは、学習意欲の動機づけモデルに関する研究、という私にとっての「陸地」を見失うことのないよう注意しつつ、何度も本著を読み返し、リファレンスを参照して、うまくこの大海を航海していこうと思います。「動機づけ」「行動制御」「自己調整学習」などのキーワードに興味がある方、ぜひ一度航海に挑戦してみてはいかがでしょうか?そして機会があれば、航海で出会った知見について一緒にディスカッションしましょう。

【参考文献】
Keller, J.M. (1983). Motivational design of instruction. In C.M. Reigeluth(Ed.), Instructional-design theories and models: An overview of their current status. Lawrence Erlbaum Associates, U.S.A.
Keller, J.M. (2008) ‘First principles of motivation to learn and e3-learning’, Distance Education, 29: 2,175-185
Keller, J.M. (2010)『学習意欲をデザインする:ARCSモデルによるインストラクショナルデザイン』鈴木克明監訳,北大路書房

(教授システム学専攻博士後期課程1年 中嶌康二)

【イベント】近々行われるイベントは?

○2012/2/11(土)~12/16(日)
第2回まなばナイト@家の光会館
URI:http://manabanight.com/instructionaldesign2.html

○2012/2/16(土)
放送大学主催 国際シンポジウム2012
「遠隔教育とeラーニングにおける学習評価」@幕張メッセ
URI:http://www.code.ouj.ac.jp/sympo-2012/

○2012/2/18(月) ~2/19(火)
日本教育工学会冬の合宿研究会
「国際学会での発表スキルを磨く -伝わる英語発表-」
@大学コンソーシアムやまがた ゆうキャンパス・ステーション
URI:http://www.jset.gr.jp/study2/20120218.html

○2012/2/20(土)
日本教育工学会ワークショップ「大学教員のためのFD研修会」
@関西大学東京センター
URI:http://www.jset.gr.jp/work/work120220.html

○2012/3/1(月) ~3/03(火)
第4回 日本医療教授システム学会総会@学術総合センターほか
URI:http://www.asas.or.jp/jsish/08.html

○2012/3/3(火)
日本教育工学会研究会「情報モラル教育の実践/一般」@山口大学
URI:http://www.jset.gr.jp/study-group/files/20120303.html

編集後記

皆様お元気ですか。私(根本)は、おかげさまで風邪もひくことなく元気に過ごさせていただいております。
今日は熊本でも雪がふりました降りました!皆様お体ご自愛ください。
昨年後半は、GSISの修了生とコラボするなど楽しい時間を過ごすことができました。
今年もチャレンジな一年になるといいなと思いながらすごしております。
多くの方と出会い、そして、人材育成分野に少しでも寄与できるよう励んでいきます。
今後ともよろしくお願いいたします。

また、皆さまの活動をこのIDマガジンに載せてみませんか?
ご意見・ご感想・叱咤激励など常時お待ちしております!
【 mail to: idportalあっとml.gsis.kumamoto-u.ac.jp】

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謝辞

本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

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