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IDマガジン第65号

皆様、いつもIDマガジンのご愛読ありがとうございます。
新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
今年も、熱いIDの世界に皆様をご案内いたします;)

今回のコンテンツメニューはこちら↓
《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(61)
2. 【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第5章「直接教授法を用いたアプローチ」
3. 【報告】第26回まなばナイト@東京」実施報告&第27回まなばナイトのお知らせ
4. 【イベント】その他、近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(61) ~コルブの経験学習論って学習プロセスじゃないの?~

コルブの経験学習論はもちろん、有名な4サイクルモデルですから、皆さんご存知でしょうかね。具体的な経験から始まり、それを多様な観点から振り返り、他の状況でも応用できるように概念化し、新しい状況の下で試してみる。(1)具体的経験→(2)省察的観察→(3)抽象的概念化→(4)積極的実験の4ステップを繰り返して学習が進むという説です。

ここで大事なのは3つ。まず、何よりも行動して具体的な経験をしなければ始まらないこと。新しい知識を聞きかじっても、それを自分で試してみるまでは経験にならない。次に、単に行動するだけでなく、振り返ること(リフレクション)が大切であること。同じ経験をしてもそこから多くを学ぶ人とそうでもない人との差がここで生まれる。そして、単に振り返っているだけではなく、それを次の行動に活用することが大切であること。たぶんこうなると思うことを試して、腑に落ちて、自分なりに理論化する。

このサイクルをらせん型に繰り返して人は賢くなっていく、というのが経験学習論のあらましであります。学習してから応用(経験)ではなく、経験から自分なりの理論を紡いでいくのが学習である、という発想が広く受け入れられて有名になりました。まぁ元をただせばデューイの「経験の連続性」に行きつくわけです。

でもこのモデルには続きがあるのです。それは、4つのサイクルのうちどれが得意か、あるいはどれを重視しているかによって、4つの学習スタイルがある、とするもの。(1)を上、(2)を右、(3)を下、(4)を左の時計回りの円形に並べる。縦軸は具体-抽象の情報認識軸であり、上が「感じる」で下が「考える」。横軸は左に「やってみる」で右に「観察する」の対照的な情報処理軸。ここまで描けましたか? 典型的なコルブの4ステップ図ですが、縦軸横軸に意味があるんですね。

その上で、右上の第一象限が得意な人は(A)発散型。感じて観察することが好きな人。右下の第四象限は(B)同化型。観察して考えることが好きな人。左下の第三象限は、(C)収束型。考えてやってみることが好きな人。そして左上の第二象限は、(D)適応型。やってみて感じることが好きな人、というわけです。第○象限という場合は反時計回りなのでややこしいですが、ここまで描けましたか?

ちゃんと描けたかどうかチェックしたい人はこちらをどうぞ(英語ですが)。
http://www.businessballs.com/kolblearningstyles.htm
http://www.businessballs.com/freepdfmaterials/kolblearningstylesdiagram.pdf

それぞれの学習スタイルの人たちの特徴はどうでしょうか?
(A)感じて観察することが好きな発散型の人は、想像力旺盛で、価値や意義について考えることが多い。状況を様々な角度から見、行動よりも観察により適応する。人との関わりを好み、感情を重視する。
(B)観察して考えることが好きな同化型の人は、帰納的に考え、理論的モデルを 構築する傾向にある。人より抽象概念や理論に興味があり、実践的よりも理論的な考えを重視する。
(C)考えてやってみることが好きな収束型の人は、問題解決、意思決定、アイデアの実践に優れ、感情表現は少なく、対人的問題よりも技術的問題に取り組むことを好む。
(D)やってみて感じることが好きな適応型の人は、計画を実行したり、新しいことに着手することが好きである。環境に対する適応力が強く、直感的な試行錯誤によって問題解決をする場合が多い。気楽に人と付き合うが、忍耐に欠け、でしゃばりと思われがちである。
(以上の説明は、青木久美子(2005)学習スタイルの概念と理論―欧米の研究から学ぶ.メディア教育研究:2(1), 197-212 http://www.code.ouj.ac.jp/media/pdf2-1-3/No.3-18kenkyutenbou01.pdfより引用)

なるほどね。でもここで終わったら性格テストの類と同じ。自分はこの傾向が強いなぁ、とか、あの人はこのタイプの人だと思う、とかで安心することになるぐらい。それを知って何の得があるの、どう生かすの、と追及するのがID的です。

でも、ご安心あれ。ここからもさらに続きがあるのです(今回の日誌は、長編ですねぇ)。題して「コルブの発達の3段階説」。 第一の獲得段階では、4つの基本的な学習スタイルをそれぞれ身につける。個人の特性や経験によって、得手不得手が生じる。第二の専門段階では、複数の学習スタイルを身につけ、専門的な仕事ができるようになる。仕事によって求められるスタイルが異なりますから。そしてそれに続く第三の統合段階では、4つの基本的学習スタイルの全てを身につけ、総合的な態度で学習することができるようになる。学習スタイルの適応的な柔軟性を身につけることは、言い換えれば大人になることを意味する。様々な学習方法を試みたり、あるいは不得意だと思っている領域を経験することによって、自分の学習スタイルにマッチする方法とマッチしない方法の両方を取り入れる経験を重ねていくことが重要。なるほど。長所を伸ばし、弱点を補うことで、学習スタイルを拡大できるというわけですね。この3段階説も青木(2005)に図示されていますので、イメージを膨らませてください。

なぜ今頃コルブかって? 実は、現在鋭意執筆中の『学習設計マニュアル』の第二章「学習スタイルを把握する」を書こうとしていたとき、「そういえば数年前のランチョンセミナーで同じタイトルで話をしたなぁ。この日誌にもどこかに書いたはずだ」と探したのですが、日誌には見つかりませんでした。でもランチョンセミナーでは確かに話していたので、そのときのパワポをもとにして今回の原稿にしました。これで第二章にも二次利用できます(作業効率アップと「チラ見せ」効果を狙っています)。

皆様もどうぞ、今年もプロダクティブな時間が過ごせますように。

(ひげ講師記す)

(参考リンク)
熊本大学ランチョンセミナー第87回(2011年4月20日)コルブの経験学習論ってプロセスじゃないの?
http://cvs.ield.kumamoto-u.ac.jp/wpk/wp-content/uploads/2011/04/e383a9e383b3e38381e383a7e383b387ver4.pdf

【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第5章「直接教授法を用いたアプローチ」 (ウィリアム・G・ヒューイット、デビット・M・モネッチ、ジョン・H・ハンメル)

第5章では、直接教授法(Direct Instruction)が紹介されています。直接教授法は、Siegfried Engelmannによって開発されました。オレゴン大学名誉教授であるEngelmannは、1964年にイリノイ大学特殊児童研究所で直接教授法を開発しました。直接教授法は、文化的環境に恵まれず知的に阻隔されている子どもの知的遅れを取り戻し、支障のない就学を実現するための就学前教育プログラムとして提案されました。対象は、K-12の全児童・生徒です。標準学力テストの成績を上げるという実証研究もあり、改めて注目されています。

冒頭では、良質なインストラクションとは何かという問題が提起されます。教育過程や方法のよりも「カリキュラムの目標、評価の形式と測定方法、および評価基準に関する決定」が重要であると述べています。標準化テストでは、直接的あるいは明示的な教授法が高い成績をもたらすことが最も多いことを考慮するべきだとしています。学校など正規の学習環境で過ごす時間が比較的短い場合には、ALT(Academic Learning Time)の最大化が肝要です。量を最大化する解決指向の教室運営プログラムと、質を最大化するために授業の課題で成功できるようにする「学習者配置の原則」や試験で出題される内容を網羅する「カリキュラム一貫性の基本原則」によって、良質なインストラクションを提供できます。
直接教授法では「学習者配置の原則」に従い、事前テストに基づいてクラス分けをして学習者を均質化します。教育目標と教授方法は、学習者の背景や能力に合わせて選択され、進度の遅い学習者には、追加的な学習時間が提供されることによって、可能な限り前提条件の獲得を保証します。重要な内容は、教師主導で積極的に情報提示します。
直接教授法の一般モデルは、教師と学習者との相互作用を重視するためトランザクショナルモデルと呼ばれます。トランザクションは、順番に実施される「説明提示」、「練習」、「総括的評価と測定」の3段階と、それらを通じて実施される「モニタリングとフィードバック」から構成されます。

「説明提示」では、先行オーガナイザーの理論に従い、既存の学習概念やスキルを活用できるように、「復習」、「学習内容」、「学習理由」、「解説」、「問いと応答」の順序で提示されます。特に「学習内容」の明確化が良質のインストラクションに重要です。具体的には、形成的評価のための活動目標と、総括的評価のための最終目標を可能な限り学習者に示すことになります。形成的評価として実施する「問いと応答」では、問いのレベルや待機時間を考慮しつつ、初期段階での理解を徹底的に調べます。
「練習」は、個別やグループで即時フィードバックのある指導付き練習や、宿題などの後で採点される個別練習、最近学習した内容やスキルと以前学習したものの両方を組み込んだ課題などによる定期的な復習によってなされます。「総括的評価と測定」では、「練習」の過程で日常的に教師は学習者の形成的評価に加えて、「カリキュラム一貫性の基本原則」に従う総括的評価として、単元テストやプロジェクト課題があります。

「モニタリングとフィードバック」においては、発達の最近接領域に学習者がいる場合にきっかけや手がかりを与えたり、修正的フィードバックや強化を提供したりします。正解や間違いの理由までをフィードバックします。また、教師の頷き、笑顔、肯定的なコメントによって強化を与えます。

固有名詞の直接教授法は「台本に基づく授業」と呼ばれ、伝統的公立学校のプログラムでは学習面でうまくいかない、主に貧困層の子どもたちを救うための方法です。基本的には一般モデルと同様ですが、より詳細なタスク分析に基づいて、学習内容は小さく分解されます。各授業での新しい情報は10~15%だけで、残りは定着と復習に用いられます。新しい内容は1回の授業で完璧に教えられることはないという仮定から、2~3回の連続した授業で少しずつ提示されます。台本では、教師や学習者がどのような言葉を用いるかが厳密に規定され、学習者に期待されている行動が明示されます。台本に基づく授業のペースは速く、教師も学習者も疲れるため、20分が限度です。台本に基づく授業の訓練のために、教師向けの市販教材(McGraw-Hill Education)が活用できます。

結果としての説明責任が問われるようになっている現在、教師には可能な限り高い品質の授業が求められています。「直接教授法」の実際の様子をご覧になりたい場合、YouTubeで検索語“Direct Instruction”の動画を閲覧されることをお薦めします。教師が次々と子どもたちに問いをし、それに対して元気よく熱心に応答する子どもたちの様子をみることができます。

(熊本大学大学院教授システム学専攻博士後期課程 鈴木 雄清)

【報告】第26回まなばナイト@東京」実施報告&第27回まなばナイトのお知らせ

第26回まなばナイト@東京」実施報告『人工知能とインストラクショナルデザイン』

平成28年12月3日(土)、第26回まなばナイト@東京『人工知能とインストラクショナルデザイン』を開催しました。今回は、久しぶりにIT系の話題でということで、熊本大学大学院教授システム学専攻の客員教授としてもお世話になっております仲林先生にご登壇いただきました。

本編は、まず1期生の加地から、最近気になっている教育系ITサービスの紹介をいたしました。

・ N高校 dwango×プログラミング授業
高校生にWeb上でプログラミングを教え始めたエンジニアがこの8ヶ月間で得た気づき

・ドットインストール 遂にコンテンツ制作スタッフ募集!?
【リモート勤務OK】
レッスン動画の制作をしてくれるエンジニアを募集しています!

二つの事例を通して、決して教育の専門家ではない人が、伝わり学べるデザインを行っていることに着目。エンジニアリング寄りのIDerが振り返るヒントやこれらがスケールするために必要な仕組みとAIの関係など、考えていきたいとまとめました。

そして本題、仲林先生のレクチャーです。

タイトルにある「人工知能とインストラクショナルデザイン」、人工知能は、実は古くて新しいキーワード。仲林先生の経歴やさまざまな学会で取り組まれてきた人工知能やその周辺の研究アプローチと、教授方略の研究との接点を、論文やチャートを引きつつ解説いただきました。

最初の「人工知能のトラウマの歴史:知識獲得ボトルネック」では、誤概念とバグモデルについて、小学生の引き算を例に間違いにはパターンがあること、とはいえ、そのパターンを明らかにすることの難しさ、それに向き合い躓いてきたという経緯が語られました。

続いて「ビッグデータの逆転の発想:因果から相関へ」について。AmazonのレコメンドシステムやGoogleの翻訳、日本語変換から自動運転まで、膨大なデータと劇的に低下した計算機コストにより相関を導き出すことが実用的に行われるようになったが、相関はわかっても因果はわからないと述べられました。

時間内にすべて終わらないことが見えたところで最後のセッション。「人工知能のブレークスルー:「特徴量勝負!」とディープラーニング」。文字認識を例に、判別など何かをさせるには特徴量がカギだが特徴量は結局人が決めていたこと、そこに前出の知識獲得ボトルネックがあることなどの背景、自己符号化器によるアプローチと特徴量の自動抽出への期待について話されました。

それぞれグループディスカッションをしながらセッションを進めましたが、内容が濃く議論もまとめずらく用意いただいたスライドを1/3ほど残してのクロージングとなりました。また機会を設けて続編を開催できればと思います。

まなばナイト実行委員・熊本大学大学院教授システム学専攻同窓生 加地 正典

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●第27回 まなばナイト@東京
「OBOGは今(仮)」というテーマで、参加者皆でワイワイ考える参加型ワークショップを予定しています。
日時:2017年2月11日(祝) 17:00-19:30
会場:富士通ラーニングメディア「CO☆PIT」 品川インターシティB棟10階
お申込み&イベント詳細(随時告知します):http://www.manabanight.com
皆さま、奮ってご参加ください。どうぞよろしくお願いします。

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本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

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