トップメールマガジンIDマガジン第58号

IDマガジン第58号

IDマガジン 第58号

皆様、いつもIDマガジンのご愛読ありがとうございます。
前号から4か月あいてしまい、季節はすっかり秋ですが、お元気でお過ごしでしょうか?

今回のIDマガジンは、ついに名前を明かした(?)ひげ講師のID活動日誌、米国訪問記の続編、教授システム学専攻修了生キャリアレポートの3本立てでお送りします。

どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

今回のコンテンツメニューはこちら↓
《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(54) 鈴木流・学習環境設計術10か条
2. 【報告】米国訪問記(その2:Pennsylvania State University編)
3. 【キャリアレポート】教授システム学専攻7期修了生 森田 淳子さんのインタビュー
4. 【イベント】その他、近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(54) ~鈴木流・学習環境設計術10か条~

熊本大学でeラーニング専門家養成の大学院を始めて10年目になる今年度、様々な企画を同窓会が世話してくれている。頼もしい限りである。このIDマガジンの発行も同窓会に委ねることになった。これで滞りがちであったマガジン発行も軌道に乗ってくれることと期待したい。

10年目の同窓会行事の一つとして「あのeラーニングワールドで毎年やっていた屋形船を復活しよう」プロジェクトが行われた。8月22日のことである。折角だから、屋形船のために集まるという色を少しでも薄くするために(・・・)、セミナーも企画してもらった。早稲田の向後千春さんとヒゲ講師が対決するという構図で、「○○流」と銘打って、それぞれの思いの丈を述べた。ヒゲ講師は「鈴木流・学習環境設計術」を以下の10か条にまとめた(なんと、ヒゲ講師=鈴木ということが直接的に明るみに出たのは今回が初めてかも知れない)。

(1)講義と期末試験をやめる(反転授業・学習)
(2)再利用できるものをつくる(教材シェル:LO)
(3)くすぐってその気にさせる(教えない授業)
(4)体験を次に伝える仕組みをつくる(ランチョン)
(5)学習者の文脈を想像する(ユースケース)
(6)現場で組み立てる(オーダーメイドの教育)
(7)手ぶらでは集めない(アクティブラーニング)
(8)今までの要素を再定義して一つだけ付け加える
(9)やるべきことをやる(Practice What You Preach!)
(10)常に最先端の実験場たれ(率先垂範)

これまでにいろいろとやってきたけど、結局のところ、教育提供者側が手を抜くことで学習者の自律を助ける(邪魔しない)というのが目指してきたことなのだと気づいた。やはり親切過ぎるのは(押し売りは)よくない。提供者としては「よくやった感」があっても、受ける側の学びは限定的になってしまう。単なる放任ではなく、仕掛けをつくって実行責任を移譲する一方で結果責任は負うという姿勢を堅持する。矛盾しているようだが、そこからアウフヘーベンして新しいものをどんどん作っていかなければならない。モノ作りは楽しくてやめられませんね。

この10か条がとても気に入ったので、ランチョンセミナーで3回シリーズで取り上げてもらった。アーカイブもありますので、ぜひご覧ください。

さて、次の10周年記念行事は何だろうか。同窓生が次々と仕掛けてくるイベントを楽しみながら、10周年が終わったら次にどういう方向性を模索すべきかを考えていこうと思う。

(ヒゲ講師記す)

【報告】米国訪問記(その2:Pennsylvania State University編)

さて前号に引き続き、米国訪問記をお伝えします。シカゴを後にした我々はペンシルバニア州のPennsylvania State University(以下、PSU)を訪問しました。今回はそのお話を・・・

シカゴの大空港と対照的な平屋1階建のCollege State空港を降りると、Happy Volleyと呼ばれる緩やかで広大、そして美しい土地にそのキャンパスが広がっています。ここでアテンドしてくださったのは、PSUのThe Schreyer Institute for Teaching Excellenceで授業コンサルタントをされているDr. Kathy Jackson(ibstpi理事)。彼女は我々のために二日間で実に17名のInstructional DesignerやInstructional Consultantとの対面の機会を作ってくださいました。訪問先の部局を挙げると・・・

・教育&学習へのICT活用を支援するTeaching & Learning with Technology (TLT)
・教員の教育の質向上を支援するSchreyer Institute for Teaching Excellence
・学内のコンピュータ、システム、サービス利用支援窓口であるInformation Technology Service (ITS)
・学科内でオンラインコース配信を行っているCollege of Information Sciences & Technology
・世界規模でオンラインコースの提供を行っているWorld Campus
・オンライン学習に関わる研究を通して教育・学習のイノベーションを目指すCenter for Collaborative Online International Learning (COIL)

など、です。これらの部局それぞれにインストラクショナルデザインを学んで職に就いているスタッフが多数配置されています。また、部局間のインストラクショナルデザイナー同士のネットワークも整備されており、効果・効率・魅力を高める体制がキャンパスワイドで整えられている様子が伺えました。

訪問先の一つ、World Campusというオンライン学習を専門的に配信している部局は、1998年に開設され、学部から大学院までの各レベルのオンラインコースを提供しています。毎年15コース程度の新しいコースが開設され、そこではコースをオンライン化するための授業設計と授業実施のため、担当教員とインストラクショナルデザイナーが協働しています。現在、950名の教員がオンラインコースを配信しているそうです。それだけインストラクショナルデザイナーが活躍する場がある訳ですね。そして、教員との協働は授業支援に留まりません。オンライン教育のためのFDにも力を入れています。FD用の研修コースを設計・開発し、主に新任の教員に効果的なオンライン教育を実施できるようになるためのスキルを身につける機会を提供しています。ここでもインストラクショナルデザイナーは活躍しています。なお、World Campusでは、FDの一環としてティーチングポートフォリオの運用支援を行っているそうです。その主旨は、自身の教育活動の振り返りと改善のため、そして、自身の今後のプロモーションに活用できる教育業績履歴として、とのことですが、後者の方が重視されているような印象でした。日本国内では、ティーチングポートフォリオが広く浸透するには、まだ時間がかかりそうですね。有効活用するためには、各機関がどのような主旨で運用するのか、誰にどんなメリットを生むためなのか、を明確にしておく必要があると思います。この記事の冒頭に記述した熊大で開発する教材パッケージにおけるポートフォリオ活用が、ひとつのよい事例になればと願う次第です。

さて、上述したようなPSUにおける取り組みがうまく動いている最大の要因のひとつは、十分な人数のインストラクショナルデザイナーを擁していること、とWorld CampusのFD担当ディレクターDr. Laurence B. Boggessは言われていました。米国の大学のID人材育成の成果により、加速度的にIDを有効活用した教育が広がっていることを感じさせるWorld Campus訪問でした。我が国でも、ID人材の育成を促進し、効果的なID活用を実践していかなければいけませんね!

穏やかな気候のPenn Stateの日々が終わりますと、第一次調査団の旅程も終了です。今回、現地で見聞きしたことは、今後プロジェクトを推進していくのに当たって示唆とヒントを与えてくれる大変有益なものでした。さらに、ここで生まれた人的ネットワークにより、今後、さまざまな場面、テーマで協働する機会が出てきそうです。とても楽しみであります。

レポートは以上です。プロジェクトが実りあるものとなるよう専心することを誓って、ここで筆を置きます。また調査に行きたいなぁ、と思いつつ・・・。

ちなみに、米国訪問レポートはまだ終わりません。次号では、ニューヨーク州編が掲載される予定ですので乞うご期待!

教授システム学専攻 中嶌康二(第2期生)

【キャリアレポート】教授システム学専攻7期修了生 森田 淳子さんのインタビュー

熊本大学大学院教授システム学専攻修了生の高橋です。このコーナーでは、修了生のみなさんの活動やお仕事についてインタビューしたものをお届けします。
今回は、7期修了生で、ウクライナで日本語教師をされている森田淳子さんの登場です!

---
■森田さんのキャリアについて教えてください。
大学卒業以降、いくつかの仕事を経て現在は日本語教師です。韓国ソウル市(語学学校)、中国大連市(高校)、福岡市(大学)で教えた後、GSIS在学中はロシアサンクトペテルブルク市(大学)や北方領土国後島(島民向け日本語講座)で教えていました。教育機関種別も雇用・派遣形態もそれぞれ異なりますが、日本語教育という点で共通しています。

2014年3月の修了後、同年8月末からウクライナで仕事をしています。国際交流基金が実施する日本語教師派遣事業で、受入機関のキエフ国立大学での授業をはじめウクライナおよび隣国モルドバの日本語教育支援業務を行っています。授業以外の業務の例を挙げると、日本語能力試験*1、国内や隣国で開催される日本語弁論大会、日本研究シンポジウム*2、日本語教育セミナーなどの実施です。

*1 日本語能力試験(JLPT) http://www.jlpt.jp/(JLPT公式サイト)
*2 第7回全ウクライナ国際公開シンポジウム2015
(1)http://www.univ.kiev.ua/news/6352(キエフ大学サイト)
(2)http://www.ua.emb-japan.go.jp/jpn/taishi/info/2015report_14.html(在ウクライナ日本国大使館サイト)

■GSISで学んだことは、現在、役に立っていますか?
もちろん、役に立っています。GSIS入学・修了させていただいたおかげで、現在キエフで仕事できているといっても過言ではありません。インストラクショナル・デザインは、日々の授業をはじめとした業務の効率・効果・魅力を高める上で欠かせません。上述のとおり、授業以外の業務も多いのですが、数か月にわたる大きな事業を運営する上でもやはりGSISで学んでよかったと思うことが多いです。例えば、新しい事業を立ち上げる時など、特に実感します。2014~2015年の冬はウクライナ情勢の影響による燃料不足の懸念から大学の冬休みが長めだったため、この期間を利用して一般向けの日本語入門講座*3を開催しました。在ウクライナ日本国大使館の領事部待合室を会場として初めて実施した試みでしたが、企画提案して会場使用許可を得てコースや授業の設計・実施の過程を経ながら、IDだけでなくIM科目で学んだことも生かしていると実感しました。

私は修士2年在籍時に現在のポストに応募し修了後ウクライナ着任に至ったのですが、面接時や派遣前訓練中に「熊大の教授システム学専攻って、鈴木克明先生のところですよね」と声をかけてもらい話が広がることが何度かありました。また、今年1月の一時帰国時には、鈴木先生が講師をなさった日本語教育関係者を対象にしたワークショップ(主催:国際基督教大学日本語教育研究センター)*4でアシスタントを務める貴重な機会をいただきました。学んだ内容そのものも役立っていますが、GSIS修了生ということで得られたチャンスにも感謝しています。

*3 日本語教室の開催 http://www.ua.emb-japan.go.jp/jpn/news/2015_3.html(在ウクライナ日本国大使館サイト)
*4 「動機を高める授業と教材作成 -インストラクショナル・デザインの手法を生かして-」http://ocw.icu.ac.jp/sl/sl_20150121/(国際基督教大学Open Course Ware)

■現在興味があること(これから学んでみたいこと、やってみたいこと)を教えてください。
キエフでの1年目は、既存の事業を概ね前任者から引き継いだとおりやってみて、課題も把握してきました。現在、やりたいと考えているのは、ウクライナ人日本語教師向けの研修改善とウクライナ人日本語学習者向けの教科書作成です。いずれも、GSISで学んだことを生かし、さらに学びが必要になると思います。キエフでの任期は「原則として2年間(1年間の延長の場合あり)」なのですが、この度、1年間の延長つまり合計3年間(これから2年間)のキエフ滞在が決定しました。やってみたいと感じていたことが実行しやすくなったと思います。

(熊本大学 教授システム学専攻 修士7期修了生 森田淳子)
(インタビュー担当・文責:教授システム学専攻 博士2期修了生・同窓会事務局長 高橋暁子)

【イベント】その他、近々行われるイベントは? 2015/11~2016/1

2015/11/15(日) ~ 2016/01/31(日)
平成27年度熊本大学公開講座
インストラクショナル・デザイン入門編@東京(11/15)、名古屋(11/22)、大阪(11/23)、福岡(11/29)/応用編@東京(2016/1/24)、東京以外(2016/1/31)

2015/11/21(土)
教育システム情報学会2015年度第4回研究会
「新技術の開発と活用による次世代教育・学習環境のデザイン/一般」@岩手県立大学アイーナキャンパス

2015/11/30(月) ~ 2015/12/04 (金)
ICCE2015@Hangzhou, China

2015/12/05(土)
熊本大学大学院教授システム学専攻同窓会特別イベント@京都大学

2015/12/12(土)
日本教育工学会研究会「学校の教育力向上に資する実践研究/一般」@新潟大学

2015/12/13(日)
熊本大学大学院教授システム学専攻入科相談会@CIC東京(田町)

2016/01/30(土)
教育システム情報学会2015年度第5回研究会「身体知・スキル支援/一般」@関西大学

★ 編集後記

IDマガジン58号はいかがでしたでしょうか。

実は、今回より運営体制が変わりました。
これまでは「熊本大学大学院社会文化科学研究科教授システム学専攻」でしたが、定期的な発行を目指して多忙な先生方に代わって同専攻の「同窓会」が運営することになりました。鈴木克明先生には「編集長」にご就任いただき、同窓会の編集委員が輪番で編集を担当いたします。どうぞよろしくお願いいたします。

また、同窓会主催の次の大型イベントは、12/5(土)の通称「熊大vs京大対決」です。8/22の鈴木先生vs向後先生に味をしめ、またしても対決イベントを企画しています。オンライン生中継も予定しています。詳細は、同窓会(http://www.gsis.jp)および専攻(http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/)のWebサイトにて順次発表いたします。

今後も引き続き、インストラクショナルデザインに関するホットな情報をお伝えしてまいります。どうぞお楽しみに!

(第58号編集担当:高橋暁子)
よろしければ、お知り合いの方に、Webからの登録をお勧めしてくださいませ。

また、皆さまの活動をこのIDマガジンに載せてみませんか?
ご意見・ご感想・叱咤激励など常時お待ちしております!
【 mail to: id_magazine@ml.gsis.kumamoto-u.ac.jp】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

※このメールは、メールマガジンの購読を希望するとお答えいただいた方・ IDマガジンWebページより購読の申し込みをして頂いた方に配信しております。

※ IDメールマガジンの登録と解除はこちらから↓
URI:http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~idportal/?page_id=6

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
編 集 編集長:鈴木 克明
ID マガジン編集委員:根本 淳子・市川 尚・高橋 暁子
発 行 熊本大学大学院社会文化科学研究科
教授システム学専攻同窓会
http://www.gsis.jp/
++++++++++++++++++Copyrights(c) id_magazine@ml.gsis.kumamoto-u.ac.jp+++

IDマガジン購読

定期購読ご希望の方はメールアドレスを登録してください。

定期購読の解除をご希望の方は以下からお願いします。

IDマガジンに関するお問い合わせは、id_magazineあっとmls.gsis.kumamoto-u.ac.jpにお願いします。(あっとは@に置換)

リンクリスト

おすすめ情報

教授システム学専攻の公開科目でIDの基礎を学習できます。おすすめ科目は以下です。

謝辞

本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

このページの
先頭へ