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IDマガジン第67号

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2017年6月10日━━━━
<Vol.0067> IDマガジン 第67号
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皆様、いつもIDマガジンのご愛読ありがとうございます。
梅雨入りの声も聞こえて参りました。寒暖差が激しいこのごろですが、IDマガジンは今回も熱い内容でお送りします!
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《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(63)~ファシリテータとインストラクタとデザイナは何が同じで何が違うか~
2. 【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第7章「経験を用いたアプローチ」
3. 【報告】教授システム学センター設立記念セミナー開催のお知らせ
4. 【イベント】第28回まなばナイト@東京のおしらせ
5. 【イベント】その他、近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(63)~ファシリテータとインストラクタとデザイナは何が同じで何が違うか~

ひげ講師はNPO法人日本ファシリテーション協会主催のファシリテーション・シンポジウム2017基調講演にお呼ばれした(https://www2.faj.or.jp/activity/symposium/s2017/content1.html)。「ファシリテーションであなたの明日と社会の未来をつくる」というテーマで、サブテーマが「他者の実践を自分のチカラに変換する2日間」。その基調講演の演題はサブテーマをそのままいただき「他者の実践を自分のチカラに変換するインストラクショナルデザイン」。ファシリテータさんたちが集まる場所で、講義をする訳にもいかず(どこでもやりませんけど)、IDを知りたいと思っている人が集まっているわけでもないのでいつもの調子でやる訳にもいかず、準備に難渋しました(=直前まで充実した時間を過ごしました)。

結論はこれ(もちろん2枚目のスライドに示したもの)。他者の実践を自分のチカラに変換するためには、真似するだけじゃダメで、基礎となる理論やモデルの目線で他者の実践を分析し、一般化・抽象化のレンズを通してみること。理論やモデルを学ぶためには、それを他者の実践の分析に用いるのと同じように、自分の実践にも応用して具体化すること。これが自分のチカラに変換するという意味でしょう。要するに、コルブの経験学習のサイクルを回すということです。もともと理論やモデルは数多くの実践知から導き出されたものですからね。
これだけ言わせてもらったのでもう帰ってもいいぐらいだ、というのは常套句。そこからが、もちろん、いつも通りに長い。

次なるヒゲ自身への問いは、ご参集のファシリテータの皆さまが、なぜIDを学ばなければならないのか、という疑問をどう払拭し、「それならばIDを学んでもいいかもしれない」と思ってもらうにはどうしたらよいか、というもの。そこで次なる問いを投げかけて、グループ討議・鈴木の私見とその理由の披露・それを受けてのグループ再討議・全体質疑のサイクルを3回まわした。いつものマイクロフォーマット方式だが、冒頭に何も情報提供しないでグループ討議を入れたのが、みんな一家言持っているだろうと想定したベテランをリスペクトするための一工夫。
1)ファシリテータはインストラクショナルデザイナか
2)ファシリテータはデザイナか
3)ファシリテータはインストラクタか
再討議のときは、AはBか、という問いを一歩深めて、「何がそうで、何が違うか」を議論してもらった。いつもながら「鈴木の私見とその理由の披露」の話が長くなるきらいはあったが、ファシリテータさんたちが集まるグループワークは、講師のファシリテーションいらずで盛り上がり、???だらけの2時間になったのではないかと思う。最後の全体質疑に「今演じたあなたの役割は、インストラクタかファシリテータだったのか」と高級な質問を頂戴し、「私はファシリテーションはしなかったです」と答えたぐらい何もしなかった。まぁデザインが良かったからですね、きっと。

もちろん上の3問に正解などない。それぞれがそれぞれの異同について考えて議論し、その結果として、「そう考えれば、そう言えないこともない」という結論をシェアして、何が考え方や印象の違いを生み出しているのだろうか、と考えることが重要である。ただその上で、鈴木の私見とその理由にも一筋の理屈を感じてもらい、そして、それがきっかけとなって「IDをもう少し学んでみてもいいかもしれない」と思ってもらえれば大成功だと考えていた。そのために、1)ではADDIEモデルと出入口+効果・効率・魅力のことや、2)では水戸岡鋭治氏の『電車をデザインする仕事』などからの引用、3)では反転授業やibstpiのインストラクタコンピテンシーを話題に乗せた。これらの材料が議論を深め、誤解を解き、新たな視座を得ることにつながったかどうか、アンケート結果が楽しみである(まだわからない、という意味です)。

最後の問いは、「IDの道具箱には何が入っているか」であったが、ここに来るまでに1時間半が経過していた。残りの30分はARCSモデルの紹介と「この道具はファシリテータにとって有用か」という問いをめぐるグループワークとなった。他にもいろいろな道具があるから、『IDの道具箱101』という書籍もあるし、熊大で様々な形で学びを深めることもできますよ、という宣伝も忘れずにしっかり結んで演台を降りた。

そういえば、インストラクショナルデザイナとインストラクタの違いについては、過去にこの連載でも取り上げたことを思い出した。上記の3つの問いについての鈴木の私見は何か、ということの直接的な答えにはならないけど、興味がある人は以下を復習してくださいませ。
【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(42) ~教える内容を知らない教育専門職:教育設計者とインストラクタの違い~(2013/4/3掲載) http://idportal.gsis.kumamoto-u.ac.jp/?page_id=55&cat=32&n=3712

ちなみに、基調講演の後に昼食をご一緒した当協会の設立者堀公俊氏は、基調講演を振り返り、弁当箱のフタに「コンテンツvsプロセスと実施vs設計」の四象限を描いて、「このあたりがファシリで、このあたりがデザイナかな」と見事な筆さばきを見せてくださった。ヒゲの質問には、「内容を知らないファシリには二回目のお呼びはかからない」という言い方で、ファシリ原理主義はダメだとも答えてくれた。そのあたりもファシリとIDerが似ているのかもしれないですね。

【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第7章「経験を用いたアプローチ」(リー・リンゼイ&ナンシー・バーガー)

アクティブラーニング、PBL、サービス・ラーニング、インターンシップ、企業における人材開発等々、経験・実践を重視する学習方法は多々ありますが、単に何かを「経験」すれば良いというわけではないようです。デューイ(Dewey)によれば、すべての学習は本質的に経験からの学習ですが、この章で取り扱う「経験的教授」とは学習者中心のものを指し、学習者は受け身ではなく、どのような経験をするかを能動的に協議する交渉者(negotiator)です。また、「真正(authentic)」な経験、学習者が「自己主導(self-direction)」的に意思決定を行うこと、経験から学ぶためのフィードバックが重視されます。
経験学習理論といえば、コルブ(Kolb)の経験学習モデルが有名です。
具体的経験 → 省察的観察 → 抽象的概念化 → 積極的実践
という循環的学習モデルです。しかしこのモデルに対しては、必ずしも順番に学習が進むわけではない、いくつかの段階が同時に起こることもある、経験から何も学ばない人もいる(経験から学ぶには認知的能力が必要)といった批判があります。また、経験を学習の基盤とすること自体に対して、すべての経験が成長につながるわけではないという反論もあります。本章では、これらの批判への解決策として社会的構成主義のアプローチが提案され、「経験の枠組みづくり」「経験の活性化」「経験の省察」というメリルの第一原理に似た3段階で、経験的教授の普遍的原理が説明されています。
(1)経験の枠組みづくり
枠組みづくりは、何のためにその経験をするのかを明らかにする教授目標の定義から始まります。たとえばインタビュー活動をする場合、調査における資料へのアクセス方法を学ぶ課題なのか、インタビュースキルの練習という目的で行うのかによって、経験の位置づけが異なってきます。次に、教授目標に対応する形で、評価基準を伝えます。そして、参加者の関係性や教室外の環境など、経験が行われる社会構造を定義し、参加者に期待する行動を明確にします。
(2)経験の活性化
枠組みができたならば、次はそれを活性化します。この段階で必要なこととして、真正な経験であること、学習者の意思決定が真正な成果に結びつくように経験を構成すること、ある程度問題指向であること、そして学習者がチャレンジしたいと思う最適な難易度であることが挙げられています。
(3)経験の省察
学習者が経験から意味を見出して深い省察を行うように、教師はファシリテータの役割を果たします。また、学習者が経験を共有し批判的省察を行うためのコミュニティを構築します。そして、省察のプロセスを引き起こすように「何が起こったか?」「なぜそれが起こったか?」「何を私は学んだのか?」「この知識を将来の経験にどのように適用できるだろうか?」という問いを学習者に投げかけます。
詳細な教授設計については、状況に応じた方法(状況依存原理)が多数挙げられており、既に何らかの経験学習を実施して改善を考えている方の参考になりそうです。たとえば、経験の枠組みづくりにおいては、遠隔コミュニティ形成の方法が紹介されています。また、先行経験の活性化の手法としては、ディスカッション/ストーリーテリングによるナラティブ・アプローチ/デジタルストーリーが、省察の手段としては日誌/ポートフォリオが挙げられています。
すべての学習は何らかの経験からの学習ですが、本章では経験の解釈の共有と経験の省察を通じて最も効果的に学習が起こるとされています。私自身も地域での活動、学外実習などの実践を通じて、単に経験をすれば良いというものではなく、経験した後にどう振り返るかが肝心だと常々感じていましたが、社会的構成主義アプローチによる経験学習を実現するにはデザイン・準備が大変でなかなか手をつけられずにいました。本章では、インストラクションにおいて学習を促進するためにどのように「経験」を用いるべきか、処方的モデルが提示されています。経験学習を始めようと考えている方、あるいは単に「やらせてみる」経験学習を脱却したい方は、ぜひ本章を活用してみてください!
(熊本大学大学院教授システム学専攻 博士後期課程 桑原千幸)

【報告】教授システム学研究センター(RCiS)設立記念セミナー

2017年4月8日、東京都田町のキャンパス・イノベーションセンター東京にて、「熊本大学教授システム学研究センターの設立記念セミナー」が開催されました。
まず、原田信志熊本大学学長から、『大学院社会文化科学研究科教授システム学専攻』『eラーニング推進機構』『大学教育センター』を発展的改組し、『熊本大学教授システム学研究センター(Research Center for Instructional Systems; 以下RCiS)』を設立したことが説明されました。
続いて鈴木克明センター長によって、センターのホームページが初公開されました(http://www.rcis.kumamoto-u.ac.jp/)。センターは3つの研究部門(インストラクショナルデザイン研究部門、学習支援情報システム研究部門、地域連携システム研究部門)と、それを支える事業部門としてのeラーニング推進室で構成されることなどが紹介されました。また、連携研究員や共同研究を行う企業の発表もありました(詳しくはホームページをご参照ください)。ちなみに、略称の「RCiS」は「あーるしす」と読むそうです。
その後は、センター所属の各教員が抱負を述べる(吠える!)時間へ突入しました。どの先生も、時間を忘れて(?)熱く抱負を語られました。以下は、私が印象に残った部分を紹介します。
■インストラクショナルデザイン研究部門
インストラクショナルデザイン研究部門の先生方は決意表明が印象的でした。鈴木克明先生は「教授システム学専攻の業務を2割、それ以外は研究に時間を使う!」と宣言されました。北村士朗先生は、楽天イーグルスの嶋選手の言葉を使って「見せましょう、IDの底力を!」と宣言されました。合田美子先生は「(今まではちょっと萎縮していたが)これからは私が引っ張っていきます!」と宣言されました。平岡斉士先生は回し車に乗るハムスターの映像をメタファーに、「自ら学ぶ学習者を育てます!」というような宣言をされた・・・と思います。
■学習支援情報システム研究部門
学習支援情報システム研究部門の先生方は、これまで行われた開発研究のご紹介がメインでした。喜多敏博先生は、「二次元クリッカー」で会場を盛り上げてくださいました。二次元クリッカーでは、「研究内容がよくわかった/わからなかった」「一緒にできそう/できなさそう」の二軸が示され、参加者がスマートフォンで自身の気持ちをポイントしました。続いて、松葉龍一先生、中野裕司先生、戸田真志先生(代理で喜多先生)、久保田真一郎がご自身の研究についてご紹介され、途中で「二次元クリッカー」で会場の反応が示されました。
■地域連携システム研究部門
都竹茂樹先生は、これまで開催されたインストラクショナルデザインの公開講座や、保健健康プログラムの書籍等のご紹介をされました。また、江川良裕先生は、ご自身の授業で行われているPBLのご紹介などをされました。教授システム学専攻はフルオンラインの大学院ですが、地域連携システム研究部門の先生方は学習者と対面で行っている実践が多いのが特徴ではないかと思いました。
最後に、来賓の先生方から激励のお言葉がありました。
仲林清氏(千葉工業大学教授 /NPO法人日本eラーニングコンソシアム副会長/教育システム情報学会会長/本学客員教授)からは、RCiSは「産業界」「教育機関」「学界」の3つの世界の交わる部分が対象領域であり、これまでのGSIS以上に研究や実践成果を示してほしいという期待が述べられました。
寺田佳子氏(株式会社ジェイ・キャスト執行委員/NPO法人日本eラーニングコンソシアム理事/本学非常勤講師)は、海外の企業などへ行くとは新しい取り組みが歓迎されるが、日本ではまず成功事例を持ってこいと言われがちであると述べられ、RCiSの新たなチャレンジに大きな期待をされていると話されました。
大森不二雄氏(東北大学高度教養教育・学生支援機構教授/東北大学大学教育支援センター教授/本学客員教授)からは、RCiSにおける高等教育を対象とした研究への期待が述べられ、大学教育イノベーション日本など、東北大学大学教育支援センターの様々な取り組みのご紹介がありました。
以上、予定時間を少々オーバーしながら、熱いメッセージが発せられたセミナーでした。
日本の教育工学の分野では「教授システム学、インストラクショナルデザインなら熊本大学」というイメージがだいぶ浸透していると思うのですが、「世界的研究拠点」と呼ばれるよう、今後の発展に期待したいです。私自身も、RCiSと一緒にどんな研究ができるだろうとわくわくしています。
(教授システム学専攻修士2期生/博士後期課程2期生 高橋暁子)

【ご案内】第28回まなばナイト@東京のおしらせ 「リーサー教授に質問をぶつけてみよう!」

28回目の開催となります今回は、「インストラクショナルデザインとテクノロジ:教える技術の動向と課題」原書の編集者であられます、リーサー教授をお迎えします。
まなばナイトでは、発刊直後の平成25年10月に4名の翻訳者をお招きしてのワークショップを開催しました。
開催概要 http://www.manabanight.com/event/manabanight11
開催レポート http://www.manabanight.com/info/manabanight11report
その後多くのIDerが手にされ、読み込まれているのではないかと思います。昨年度から開講している新科目「インストラクショナルデザインⅢ」は、教科書として本書を採用したものです。
(http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/curriculum/masters-program/)
本書を読み、活用される中で深まった経験や疑問、課題など、リーサー教授に直接ぶつけられるチャンスです。
【日時】
平成29年7月1日(土)
開場:16:00(受付開始時間)
セミナー:17:00~19:30
【会場】
富士通ラーニングメディア「CO☆PIT」 品川インターシティB棟10階
https://www.knowledgewing.com/kw/map/lc/copit.html
詳細、申し込みフォームは下記ご確認ください。
http://www.manabanight.com/event/manabanight28
(まなばナイト実行委員 加地正典)

【イベント】その他、近々行われるイベントは?2017/6~2017/9

2017/07/08(土)
教育システム情報学会研究会「ICTを活用した学習支援と教育の質保証/一般」@信州大学
2017/07/08(土)
日本教育工学会研究会「教育の情報化/一般」@東北学院大学
2017/08/02(水)~ 2017/08/04(金)
ICoME2017 – 15th International Conference for Media in Education@ハワイ大学(マノア校)
2017/08/23(水)~ 2017/08/25(金)
第42回 教育システム情報学会全国大会@北九州国際会議場
2017/09/16(土)~ 2017/09/18(月祝)
日本教育工学会 第33回全国大会@島根大学
2017/09/22(金)もしくは09/29(金)
教育システム情報学会研究会「組織的なeラーニング実践のための学習支援環境の構築と運用/一般」@サイバー大学(福岡キャンパス)

★ 編集後記

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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編 集 編集長:鈴木克明
ID マガジン編集委員:根本淳子・市川尚・高橋暁子・石田百合子・竹岡篤永
発 行 熊本大学大学院社会文化科学研究科教授システム学専攻同窓会
http://www.gsis.jp/
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謝辞

本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

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