IDマガジン 第156号
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2026年 3月24日━━━━
<Vol.0156> IDマガジン 第156号
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皆様、いつもIDマガジンのご愛読ありがとうございます。
日々の穏やかな暮らしに感謝しつつ、世界の各地に思いを寄せるこの頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
今回も、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。
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《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(116):至福の合同ゼミ合宿@土湯温泉
2. 【ブックレビュー】『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤陽子(2009)朝日出版社
3. 【報告】第75回まなばナイトレポート
4. 【ご案内】2026年度まなばナイト開催スケジュール
5. 【イベント】その他、近々行われるイベントは?
★ 編集後記
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【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(116) :至福の合同ゼミ合宿@土湯温泉
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ヒゲ講師は2026年3月の最初の週末、福島県にある土湯温泉で行われた合同ゼミ合宿に参加した。いわゆる「泊食分離」での温泉街活性化策でインバウンド+若者ねらいでリニューアルした老舗温泉の朝食のみプランでの宿泊である。夕食はどうするか、と言えば、自炊である。この自炊のために早めに福島駅前に集合し、自炊グループごとに定められた予算で8人分の夕食1回分を考えて買い出しするところからこのイベントは始まった。2泊のうちのどちらかの夕食を4人グループで担当、担当しない日は相方グループが用意した食事をいただく。それで4人×2グループ分、合計8人分の夕食1回分を担当することになる。
各グループは岩手・宮城・千葉・東京にある大学のゼミ生混合チームで構成。初対面のメンバー同士で夕食メニューのアイデアを出し合い、予算内に収まるように買い出しをする。昨今の生活体験が不足がちな大学生にとっては、かなりチャレンジングなスタートだろうと思う。学生の動きを遠目で見つつ、ゲストを含めて7人となった教員チームも同様に買い出しをする。定められた予算は、自腹を切って多少(かなり?)オーバーしつつ、地の「つまみ」中心に献立を考えて買い物をした。もちろん地の酒も、である。
さて、福島駅から温泉宿の送迎バスに揺られて合宿所入り。夕食を楽しみにしながら、来年度1年間かけて取り組む卒業研究について、教員からポイント解説を聞き、グループ内で紹介し合い、そして教員7人のブースを回ってアドバイスをもらう。そのために1-2ページの「研究計画」を合冊した資料をあらかじめ持ち込む。あれこれ言われ、あれこれ気づき、あれこれ持ち帰る。チームづくりから他大学交流、なんでも発言しやすい空気が出来上がっているので打ち解けた時間が進む。まじめな時間の後は夕食の準備。意外に、と言っては失礼だが、グループごとに工夫を凝らした夕食のメニューが準備できていた。中華風コースあり、てんぷら定食あり、デザートまで作ったグループもあった。作った4人もごちそうになる4人も楽しそう。2日目は朝食の後まじめな時間。昼食をみんなで外で取った後、自由時間での温泉街散策もあり、最終日は駅前のスポーツ施設でのチーム対抗戦で優勝賞品を競う。とてもよくデザインされた合同合宿だと思った。
この合同ゼミ合宿は、実は3年目。過去2回は岩手時代の旧ヒゲ研ゆかりの南花巻温泉郷の湯治場でやった。より古風な雰囲気の中で行われ、男女別の大部屋で雑魚寝というスタイルだったが、自炊などの仕組みは1回目から続いている。今回はリニューアル間もない、おしゃれな温泉宿ではあったが、男女別の相部屋というスタイルも踏襲。社員寮ですら相部屋は「あり得ない」令和の世の中には抵抗感も感じるだろうと思うやり方である。だが、先輩からの「うわさ話」を聞いているだろうにもかかわらず、後輩学生たちの「私たちも行きたい」という希望で今年も実現したと言う。こういう失われつつある文化の伝承って大事なことですよね、としみじみ思う。
思えば3年前、ゼミ合同で合宿をやるから来ませんか、と唐突に誘われた。えー、学生に自炊させるのか、と驚いた(旧ヒゲ研合宿では自炊部ながらも2食付だった)。買い出しからグループごとにやらせる、という話にも驚いたし、そんなやり方もあるのか、と勉強になった(まぁ令和だからこそ、初対面同士だからこそ、そこからやるのが効果的なのだろう)。当初は学生が参加してくれるのか、果たして喜んでくれるのかなど、不安なスタートだったと思う。3回目となれば、不慣れであった教員チームも、微修正を繰り返して落ち着いた運営ができるようになったようだ。
岩手時代の旧ヒゲ研では、湯治場での合宿を年2回やるのが恒例だった(2年生で宴会幹事とランチョンセミナー企画運営を経験し、3年生で合宿幹事を担当し、卒論発表会のあとは4年生だけ自炊部から旅館部にグレードアップし、主客として社会人になったお祝いを受けるという粋な仕上げもあった)。合宿の伝統を踏襲した熊本でも、年2回の温泉宿での合宿が引き継がれている。そんな伝統の中で育った連中も、ここまで大学の先生らしくなったのね。ヒゲにとっては、至福の時間でした。
来年もあるといいなぁ。4回目ともなれば、もはや伝統の始まりと言ってよいかもしれない。
(ヒゲ講師記す)
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【ブックレビュー】『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤陽子(2009)朝日出版社
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Utokyo Biblio Plazaというウェブサイトがある。東京大学の教員が自らの著作について語る場になっており、そこで本書の著者である加藤陽子氏は言う。
大学の教師というのは、「わかったことを、わかりにくく教える」のを、恥ずかしながら本分としているので、かくいう私も、本や史料を一人で静かに繙くのは大好きなのですが、目の前の学生・生徒に教えるのは実のところ苦手でした。ところが、何を血迷ったものか、実際の中高生 (神奈川県の栄光学園の生徒さん) に向けて5日間にわたってお話しした講義風景を本にしてしまいました。
「教えるのが苦手」と謙遜する氏の講義録は、数々の賞を受賞し、重版出来を重ね、新潮文庫の100冊にも選ばれるベストセラーとなる。人気の理由を、考えてみた。
五日間にわたる集中講義の冒頭、加藤氏は生徒に対し、「歴史は暗記ではない」と説く。そして、当時(講義は2007年)の高等学校の学習指導要領における「日本史B」の目標を紹介する。
我が国の歴史の展開を諸資料に基づき地理的条件や世界の歴史と関連付けて総合的に考察させ、我が国の伝統と文化の特色についての認識を深めさせることによって、歴史的思考力を培い、国際社会に主体的に生きる日本国民としての自覚と資質を養う。
なるほど、歴史を学ぶことの目標は「言語情報」を覚える暗記ではなく、その国の歴史を取り巻く諸要素を「関連付けて総合的に考察し」、伝統と文化について認識を深めるという認知的方略であり、また、「自覚と資質を養う」という態度醸成のようなものか。では、その評価方法は?教授方略は?などと思わず考える。すると、すかさず加藤氏はこう語りかけてくる。「日本と世界の関係を考察して、伝統と文化への認識を深めた結果、国際社会で生き抜くための歴史的思考力が獲得出来たかどうか、どうやって確認できるのでしょうか。それには、事象と事象の因果関係を結びつける際の解釈の妥当性を(中略)論述させて、頭の中の考察の過程の巧みさ、正しさ、妥当性を見る必要」(本文より)があると。つまり、学習目標が達成されたか評価するためには、学習者が自らの解釈を語り、それが妥当か「誰か」が「見る」必要がある。そして、氏は講義の中でその「誰か」の役割を巧みに果たすのである。
生徒は、講義の中で日清戦争から太平洋戦争までの歴史を俯瞰的に見ながら、加藤氏から以下のような質問をされる。
「イギリスは、1930年代の間に何をやっていれば、歴史の流れを変えられたと考えていたでしょうか。」
「(日清戦争直前、)清国ら朝鮮政府に派遣されていたアドバイザーになったつもりで、日本側に反論するとしたら、どんなことが言える。」
「なぜ、(三国干渉の後に、民権運動家たちが)突然「普通選挙が必要だ!」と自覚するのでしょうか。」(本文より)
このように、氏は生徒が「総合的に考察」できるよう、多くの問いかけをし、語らせ、それに対し豊富なデータに基づいて同意したり、別の視点を与えたり、発展的思考を促したりする。すると、講義が進むにつれ、生徒からの質問も増えていく。
「(日露戦争の時)どうしてドイツとフランスはロシアを支援したんですか。」
「(太平洋戦争で)日本軍は戦争をどうやって終わらせようと考えていたんですか。」(本文より)
これらに対し、氏はまずこれらの質問がそれまでの学習を踏まえた問いだ、と褒めたうえで、「(一緒に)考えていきましょう」と応じる。
本講義における、加藤氏から生徒への「あなたならどうする」という問いの数々と、生徒の発言、それに対するフィードバックは、IDにおける「態度」の指導方略と重なる。また、回を追うごとに増えていく生徒からの問いと、それに続く議論は、認知的方略の指導において、類似の方略を自発的採用、無意識的採用にもっていく過程のように見える。
読者は、この講義に参加した生徒に自らを重ね、読み進めながら「学習者」として講義を追体験する。ベストセラーとなった本書の人気の背景には、加藤氏の豊富な知見や信念に裏打ちされた講義内容の面白さはもちろん、読者(=学習者)を夢中にさせる授業設計もあると私は思う。教えるの「も」得意な大学の歴史の先生、素敵だなぁ。
参考サイト:
東京大学「UTokyo BiblioPlaza - それでも、日本人は「戦争」を選んだ」
https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/C_00038.html
(熊本大学大学院教授システム学専攻 博士後期課程 小高葉子)
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【報告】第75回まなばナイトレポート 2月15日(日)@熊本山鹿温泉
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2026年2月15日、熊本県・山鹿温泉にて「第75回まなばナイト」を開催しました。
まなばナイトと言えば、スピーカーのお話を聞きながら、参加者同士でワイワイガヤガヤするのがコンセプトです。ですが、今回はテーマにあるとおり「入口紀男てんこもり」と題し、2025年9月に熊本大学大学院教授システム学専攻(GSIS)をご退官された熊本大学名誉教授・入口紀男先生からじっくりとお話を聞く機会として、講演を中心とした特別回として実施しました。
GSISでは主に著作権分野の科目を担当されていた入口先生。講演では、企業における知的財産権の実務から、メチル水銀による健康被害に関する事例、日本古代史研究における最新の科学的アプローチまで、幅広いテーマが取り上げられました。これらは一見異なる領域に見えますが、「知をどのように検証し、社会に適用するか」という視点が一貫して示されているように感じられました。この点は、参加者にとって大きな示唆となりました。
参加形式は、現地参加をGSIS関係者に限定し、その他の参加者にはオンライン配信を行うハイブリッド形式としました。講演内容を踏まえ、学際的な観点から活発な意見交換が行われました。オフレコの話題も交えた講演は終始臨場感にあふれ、時間の経過を感じさせない密度の高い内容となりました。
まなばナイト終了後には、現地では幹事団および参加者による合宿形式の討議および懇親会が開催されました。GSISにおける教育設計のあり方や、大学におけるIDer(インストラクショナルデザイナー)の役割と今後の動向について、熱い議論は夜遅くまで続きました。
(熊本大学大学院教授システム学専攻4期同窓生 大石奨と甲斐晶子)
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【ご案内】2026年度まなばナイト開催スケジュール
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2026年度は以下の開催を予定しております。
第76回 2026年6月13日(土)@東京
第77回 2026年8月22日(土)@名古屋
第78回 2026年10月25日(日)@大阪
第79回 2026年11月14日(土)@別府
第80回 2026年12月19日(土)@東京
第81回 2027年2月20日(土)@東京
開催地は予定です。社会状況により、フルオンラインになる可能性があります。
詳細はまとまり次第告知サイトにてお知らせいたします。
http://www.manabanight.com/
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【イベント】その他、近々行われるイベントは? 2026/4~2026/5
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2026年5月1日 (金)~2026年6月30日 (火)
デジタルラーニング・コンソーシアム eLPベーシック・eラーニングコース「第68期」開講
2026年5月23日 (土)
日本教育工学会 研究会「教育学習支援システム・AI/一般」@崇城大学池田キャンパス
2026年5月23日 (土)
教育システム情報学会 2026年度春季研究会「DX・AI時代の学習環境/ヘルスケア分野のDX人材育成/SIGセッション/一般」@早稲田大学早稲田キャンパス
★ 編集後記
私はたしか日本語教員だったと思うのですが、現在は本務校の情報メディアセンターにて教育研究システムの更改作業の真っ只中にいます。これまでの授業実践での知見をもとに、学習者中心の学びを支える学習支援システムの在り方を構想し、要求定義書の作成から、設計書のレビュー、マニュアルやサンプルコースの整備まで、同僚や連携企業さんとともに日々取り組んでいます。また、今年は登録日本語教員試験の用語集・問題集にも執筆者の一人として名前を連ねる機会をいただきましたが、これは著作権の大切さを教えてくださった入口先生のおかげだと思っています。気がつけば、GSISでの学びをフル活用している状態になっていました。人生、何が役に立つか分からないものですね。少しやり過ぎてしまったかもしれない、と思うほどの刷新になりましたが、4月からの学びがどのように変わっていくのかを楽しみにしています。
(第156号編集担当:甲斐晶子)
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