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IDマガジン第73号

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2018年5月21日━━━━
テスト<Vol.0073> IDマガジン 第73号
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皆様、いつもIDマガジンのご愛読ありがとうございます。
春が来た!と思ったら、もう蒸し暑くなってきました。

どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

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《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(69):~評価は白黒をつけるために行うものではない、黒を白にして終わるためのもの~
2. 【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ: 第13章「複数の領域にわたる総合的学習を促進する」
3. 【ご案内】第33回まなばナイト6/16(土)(東京)第34回まなばナイト7/1(日)大阪
4. 【イベント】その他、近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(69) :~評価は白黒をつけるために行うものではない、黒を白にして終わるためのもの~

『学習設計マニュアル』が増刷になるという嬉しいニュースを知らせるメールが届いた。この本は爆発的に売れるはずだ、と思って世に出したものだが、出だし好調はありがたい。爆発的、と言える結果が出るかどうかはまだわからないので、まだ「爆発的に売れるはずだ」という思い(願い)を捨てずに、もうしばらくの間は夢を見ていることにしよう。

さて、一つ手離れになると次を考え始めなければならない。そういう気分が徐々に高まってきた。どこでどのような実践に接しても、今度は「評価」のことが気になりだした。

あるプロジェクトでロールプレイで接客の実技を身につけてもらう研修を大幅に変えようという改訂案へのコメントを求められた。講師が受講者全員分のロープレをチェックできれば良いが、時間の制約からグループ相互評価を採用している事例だ。

ロープレだから当然それは、運動技能が伴う学習課題。知識が豊富でも実行できなければ接客はできない。その基礎になるのはどういう場面ではどのように対応すべきかという応用的な知識(すなわち判断力などの知的技能)。さらにその基礎になるのは関連知識を覚えておくこと(こちらは言語情報)。全部のパターンを覚えてそれをロープレする(つまり言語情報と運動技能だけで構成する)だけだと応用力はつかないので知的技能を意識することが肝要。それらの学習成果が絡まって、「ロープレができる」という状態になる。

ロープレの評価には、チェックリスト(あるいはルーブリック)を用いるのが常套手段だろう。観点をいくつか決めて、それぞれがOKの状態かどうかをチェックする。ロープレのたびに「未知の要素」が登場し、それで適用力を評価する。状況設定を十分用意すれば、丸暗記ロープレからの脱却が図れる。

試行した改訂版研修では、いくつか問題が出てきたという。最大の問題点は、相互評価ではよい点数がついていたが、研修を観察していた外部評価者がその妥当性をチェックしたところ、「この出来栄えでこの点数は過大評価ではないか」という疑義が生じたことだという。どうしてそんなことになってしまったのか。相互評価の限界なのか。やはり時間をかけてでも講師が受講者全員分を評価しなければダメなのか。何かやり方を工夫することで過大評価を避けることができないものか。

いろいろと考えを巡らせていると、「評価は白黒をつけるために行うものではない、黒を白にして終わるためのものだ」という名言を思い出した(出典不詳、もしかすると自分がどこかで書いたことかも・・・)。相互評価が甘めになるのは、もちろん遠慮もあるだろう。でも「このロープレで評価を5(合格)とした根拠は何か」と問われれば、その答えに詰まる局面になるのだろうか。それとも「これは5で良いと思った」と主張されるのだろうか。そもそもチェックリストに合致したロープレなのか(あるいはこのロープレはルーブリックのどのレベルか)という判断が正確にできる準備が十分なされてから相互評価を行ったのだろうか。

他者のパフォーマンスを正確に評価するのはそう簡単なことではない。ましてや自分自身が学んでいる最中の相互評価であればなおさら困難だ。それは認めつつも、他者のロープレを見て評価し、その審美眼を鍛えていくことは有効な学びのプロセスだ。自分ではわかりにくい点は他者からの評価を受けて気づいていく。他者を評価する経験を積んで自分の振る舞いを客観的にチェックできる評価力を身につける。そういう意味からも、相互評価がしっかりできるようになることを目指すのは、あながち無意味とは言えない。

グループごとに分かれて相互評価をする前に、全体を相手にロープレのデモをするという実践事例にどこか他で接したことを思い出した。全員を相手にデモして、「このデモはどのレベルか?」と問う。「そう思う理由は?」「それは違う。なぜならば・・・」これらのやり取りを通じて、評価のブレを修正していく。そしてその後でグループごとの相互評価に入っていく。一斉デモと評価練習・フィードバックを経ることで、3段階目のロープレを見て「私はこれは5段階だと思った」という誤解に基づく相互評価は避けることができるだろう。

グループごとの相互評価も、最初から評価結果を記録して提出、ではダメだろう。そういう一発勝負の状態では、評価は遠慮がちになるのが自然である。そうではなく、グループ内の相互評価を一巡したら、その結果を本人に開示し、そう評価した理由を説明・合意し、修正の練習と再評価のサイクルを回すのがよい。修正箇所を見つけてそこに集中して直していくための最初の評価だ、という位置づけが浸透すれば、遠慮なく(できるだけ正確を期して)評価することができるだろう。

理由の説明を求められれば、いい加減なチェックはできなくなる。互いに未達成ポイント、つまり「伸びしろ」を確認し、修正練習の結果「伸びた」ことを確認し合うことができれば、全員合格への道に通じるのではないか。つまり、黒を白に近づけて終わるための評価、という本来の役目が果たせることになる。

そこまで念入りに評価をやる必要があるのか。→その通りです。
そんな時間は確保できない。→そうであれば確実に実技を身につけることはできません。
情報提供を集まってからやっている時間はないので事前課題にする必要があるということですね。
合格できない人には再チャレンジのチャンスを設ける必要があるということですね。

評価を考えていたつもりだったが、自然と教える手順のアイディアにつながっていった。これこそが次作『評価設計マニュアル』の構成枠として考えている「教材開発の三段階モデル」(『IDの道具箱101』p.120-121)であり、「評価は最後に行うものではない」とするTOTEモデル(同書p.162-163)が説くところでもある。

設計の中核に評価あり。評価から設計が始まる、ということを再認識した経験だった。まだ緒に就いたばかりの段階ではあるが、なるべく早く『評価設計マニュアル』を世に問えるよう、精進します(有言実行宣言でした)。

(ヒゲ講師記す)

【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第13章「複数の領域にわたる総合的学習を促進する」(ブライアン・J・ベイティ)

第3部では、インストラクションの4つの異なる成果についての理論を扱っています。この4つの異なる成果のうち、第13章では、「テーマ中心型教授」について扱っています。

ここで扱う「テーマ中心型教授(theme-based instruction)」とは、総括的なテーマを設定することによって領域横断的な学習を促す教授法のことです。この教授法は具体的なカリキュラムのために採用され、総括的(抱合的・根本的・基礎的)なテーマと直結した教授ゴール、活動、リソース、評価を伴います。教授内容と学習経験を総括的なテーマによって結びつけることで学習を向上させるといわれています。

テーマ中心型教授の理論的基盤は、脳研究に基づく教育研究および多重知能理論(ガードナー)です。

脳研究から導き出されたITIモデル(integrated thematic instruction)では、(1)知能は経験と相関する、(2)学習とは脳と身体の間の不可分のパートナー関係である、(3)問題解決や生産的な行為のためには、多様な知能と方法がある、(4)学習とは2段階のプロセスである―<1>有意義な問題解決を通じてパターンを発見・識別し意味形成をする、<2>理解したことを利用して長期記憶に結びつける、(5)人格は学習とパフォーマンスに影響を与える、という5つの学習原理を述べています。テーマ中心型教授に特に関係するのは、このうち原理(4)―<1>です。

多重知能理論(multiple intelligence theory)は、人が学習に用いることのできる知能を10種類(論理・数学的、言語的、空間的、身体・運動感覚的、音楽的、個人の内面的、対人関係的、自然主義的、実存主義的、精神的)に分類しています。テーマ中心型教授はその課題特性により、さまざまな知能の活用を促します。

テーマ中心型教授の利点は、(1)教授内容と学習活動を総括的テーマと関連させることで学習を向上できる、(2)より自然な学習形態である、(3)個別地域の文脈を扱うのにふさわしい、(4)特定の学習者集団に特有のニーズにフォーカスできる、(5)単元の開発によって教師の成長を促すことができる、などです。

テーマ中心型教授の5つの原理は、メリルの教授原理とよく合致します。例えば、(1)統括的テーマを利用することは、メリルの教授原理1および2、(2)主要な学習ゴールに教授の焦点を合わせることは原理1、(3)さまざまな教授活動を活用する(“経験学習のサイクルを玉ねぎの皮のように配置する”)ことと(4)有益な教授リソースを提供することは原理2・3・4、(5)真正なアセスメントを用いて達成を評価することは原理4および5に合致します。

テーマ中心型教授の実践にあたっては、次の5つの事項を検討すべきです。(1)教師やその他の教育組織の重要なステークホルダーと価値観と信念体系(学習者中心、学問分野の相互関連性、過程中心、学習の個別性)を共有する。(2)カリキュラム計画と教授リソースの開発のために充分な時間を確保する。(3)伝統的な教育プログラムの内容領域に対する思い込みを学びほぐし、カリキュラムや教授活動における教師の権力性を放棄する。(4)学習が内容と教授手法と密接に結びつく、真正で有意義で妥当なアセスメントを採用する。(5)標準化された評価システムに対応できるように配慮する。

以上のように、テーマ中心型教授は、有意義で真正で段階的な経験学習による学習効果の期待できる教授方略であり、教える立場にある者としては、非常に興味をそそられる手法です。しかし、理論的基盤はあるものの、その有効性を裏付ける実証的研究はあまり見当たらないことから、その成否を教師の経験・勘・度胸、はたまたプログラム関係者の経験と支援、時間的な柔軟性、物理的環境の柔軟性、リソースの豊富さに左右される面があります。また、学習の個別化が設計時に重要な要素であることから、なかなかhard funな授業準備が要求されるでしょう。教育実践と実証研究の双方の広まりが待たれる教授法です。

(熊本大学大学院教授システム学専攻 博士後期課程科目等履修生 小林ひとみ)

【ご案内】第33回まなばナイト(東京)&第34回まなばナイト(大阪)

第33回まなばナイト(東京)
「Moodleのログ解析から見る教学IR」
日時:2018年6月16日(土)17:00~19:30
場所:ビジネス・ブレークスルー大学 麹町校舎
今回は、IT×IDでまなびを考えようという企画です。Moodleは、教育現場でICTに取り組まれる方には、馴染みとまでいかずとも、一度や二度は聞いたことはあるのではないでしょうか。そのMoodle界隈で積極的に活動されております、教授システム学専攻OBの淺田さんと喜多先生をメインスピーカーにお迎えします。
(続きは→http://www.manabanight.com/event/manabanight33)

第34回まなばナイト(大阪)
「おとなの『学び』を考える(仮)」
日時:2018年7月1日(日)※夜ではなく午後開催の予定
場所:大阪市立男女共同参画センタークレオ大阪西
2018年3月に発売された『学習設計マニュアル』と修了生の事例紹介をもとに、おとなの「学び」を考えるワークショップを行ないます。

各回のテーマや登壇者など、最新情報は以下に随時アップしていきます。
http://www.manabanight.com/
https://www.facebook.com/manabanight/

【イベント】その他、近々行われるイベントは? 2018/5~2018/7

2018/07/07(土)
日本教育工学会研究会「質的研究/一般」@明治大学

2018/07/21(土)
教育システム情報学会「ICTを活用した学習支援と教育の質保証/一般」@内田洋行教育ICT事業部名古屋丸紅ビル

★ 編集後記

★ 編集後記 ★最近、毎日毎日、学生の就職・進学支援の相手をしています。本番を模した面接練習などは、実際にやってみることが大切ですが、その前段階には、なんらかの評価指標(ルーブリック)があるといいですねぇ。作りますか・・・(第73号編集担当:竹岡篤永)

よろしければ、お知り合いの方に、Webからの登録をお勧めしてくださいませ。
また、皆さまの活動をこのIDマガジンに載せてみませんか?
ご意見・ご感想・叱咤激励など常時お待ちしております!
【 mail to:id_magazine@ml.gsis.kumamoto-u.ac.jp】
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編 集 編集長:鈴木 克明
ID マガジン編集委員:根本淳子・市川尚・高橋暁子・石田百合子・竹岡篤永・仲道雅輝・桑原千幸
発 行 熊本大学大学院社会文化科学研究科  教授システム学専攻同窓会
http://www.gsis.jp/
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謝辞

本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

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