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IDマガジン第131号

IDマガジン 第131号
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2024年 3月27日━━━━
<Vol.0131> IDマガジン 第131号
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皆様、いつもIDマガジンのご愛読ありがとうございます。
旅立ちの春を迎え、桜の開花が待たれるころとなりました。今回も、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

 
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《 Contents 》

  1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(104):ビデオ講演の聴き方・学び方 
  2. 【ブックレビュー】『「Why型思考」が仕事を変える:鋭いアウトプットを出せる人の「頭の使い方」』細谷功 (2010)PHPビジネス新書
  3. 【報告】第64回まなばナイトレポート「GSIS修了生のいま:IDをどう伝えればよいのか? -彼と己を見つめ直す-」
  4. 【ご案内】2024年度まなばナイト開催スケジュール
  5. 【イベント】その他、近々行われるイベントは?

★ 編集後記

 
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【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(104) :ビデオ講演の聴き方・学び方
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ヒゲ講師は、とある3月の休日、「教育でのAIの動向と将来への新しいコンピテンシー」と題する講演をビデオ録画で聴いた。話者はスタンフォード大学教授のPaul Kim氏。何度か国際会議で面識がある国際派のやり手がこのタイトルで何を話すのか、興味深く拝聴した。2024年3月8日にカリフォルニア州立大学で開催された学会の講演ビデオ録画がもう視聴できるようになっている。時差ボケに悩まずに聞けるのは嬉しい限りである。「新しく学んだことが多くて2回聞いた、もう一度聞き直すかもしれない」と、この情報源をFacebookで紹介してくれたのは、これも長い知り合いのインディアナ大学教授Curtis Bonk氏。昨年12月に松江で開かれた国際会議ICCE2023にも招かれていたのに会いに行けなかったが、顔が広くて情報通(早口過ぎて、追いついていくのが大変な人ではあるが、PPTはいつも公開してくれている)。

ビデオ講演を聴くときに最近便利に使っているのは画面キャプチャ―(Print Screen)。これをPPTに貼りつけていき、必要に応じてメモを取る。キム教授の講演メモはこんな感じになった。

https://www.futuretools.io/
Merlyn Mind GenAI platform
Khanmigo
Chegg
生成AIの主なユースケース:
 A.コンテンツ生成(Copilot for Education等)
 B.チュータリングと支援(カーンアカデミー等)
 C.追跡とフィードバック(markr等)
 D.学生ライフサイクル管理(aible等)
学習機会の創出:
 1.問題点や齟齬の同定課題(AIからの回答を注意深く分析して正確さ・真正性・バイアス・引用元などをチェックさせる)
 2.思考プロセスの説明課題(どんな質問をどの順序で投げかけて結論に至った経緯を説明させる)
 3.比較と改善課題(複数の生成AIツールを使って複数の回答を引き出し、自分の回答と比較させる。個人的な考えや経験を追加することを推奨)
 4.創造性を育む課題(ブレストや常識を超える思考、前提や伝統を疑うこと等で生成された反応を超えるイノベーティブな創造性や想像性を要求する)
Stanford Mobile Inquiry-based Learning Environment(SMILE)
Seeds of Empowerment(ゲーム、SMILE質問生成、SMILEコーチ)

改めて見直すと、知らない言葉だらけでした。やっぱりもう一度講演を聞きながらメモにあるWeb上の情報を確認する作業が必要ですね(すぐにはやらないかもしれないので、この時点でメモを共有しておきます)。

以下は講演終了後の質疑応答の超訳。初回には「おいおい、それを聞くのか」というような質問ばかりだな、という印象を持った程度だった。この日誌を書くのに聞き返したら、「スマートに答えていてすごいなぁ」という印象に変わりました。

Q:世界中の大学で最初の2年間はGoogleで検索可能な基礎知識を中心に教えているという現状を考えると、大学の将来をどう考えたらよいか。本質的に問う力を育てるはずが、質問をするという文化が根づいていない国が多く困惑している留学生が多い。

A:質問すること、とくに本質的な問いを発することを怖がらないような文化を醸成することが重要。匿名で聞くことを恐れない相手としてAIを使う事例もある。大学では情報を供与することではなくコーチングの文化を醸成すること(そのためには個々の学生を知ること)が重要。アントレプレナーシップを誰もが育み、先が読めない世界に備えるためには、コンパッションとコミットメントを育てることを重視するカリキュラムや授業が重要。

Q:テクノロジー恐怖症にどう備えるのか。

A:AIについての様々なワークショップを開催しているが、まずはアンケートを取り、受講者に寄り添うことから始めている。成功者の事例のみならず、恐怖を感じていた人・この人さえも使って成功しているのか、という事例を紹介している。現地の先輩や同僚にワークショップをリードしてもらうのも効果的。

Q:単位を認定する、成績を付与するときに、点数を取ることにしか関心がない学生の見方をどう変えていけばよいのか。

A:高得点をとることが重視される分野でもコンパッションやコミットメントは必要。韓国では医学生の定員を増やす政策に医者が反対をしている状況だが、一日200人の患者を診るために電子カルテを眺めて一人30秒で診察が終わるような現状でよいのかどうか考え直す必要があるのではないか。

Q:高次元の学習が必要であることやコーチングの重要性には同意するが、探究することよりも、単に正解を知りたがる学生が多い。どうアプローチすればよいだろうか。

A:学習アドバイザー1人に対して200人の学生がいるような状況では、アドバイザーの人数を増やすのも一案だが、カウンセリング前の予備的対応にAIツールを活用することも検討すべき一つの方策。商用Webサイトのボットの現状は決して満足できるものではないが、もっとよい品質のものが実現している。近い将来、大学教員並みの知識を背景に応対してくれるAIも登場し、人間と協業することができるようになるだろう。
 
さすがでした。二度聴くと、印象は全く違いました。録画で提供することは意義深いことだなぁ、と改めて思いました(連載88の5.学習空間拡張のための録画提供を参照ください:https://idportal.gsis.jp/magazine/doc_magazine/1018.html)。

情報源:https://www.youtube.com/watch?v=DsUEhxlNku8

 (ヒゲ講師記す)


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【ブックレビュー】『「Why型思考」が仕事を変える:鋭いアウトプットを出せる人の「頭の使い方」』細谷功(2010)PHPビジネス新書
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ID的視点で日常業務を眺めてみると、入口出口の視点が欠落していることが多いことに気づかされる。特に出口であるゴール設定がないままに、方法の検討に終始することが多い。そのような折にビジネスの領域において「なぜそれをやるのか」というWhy思考が注目されているということを知った。「Whyそれをやるのか」とは、それをやった成果は何か?を問うているのであり、それはまさにIDのゴール設定と同じだと思ったのだ。日常の現場でゴール設定の欠落にもやもやしたとしても、会議の場や上司に「なぜそれをやるのか?」と真向法でいくと撃沈するのが目に見えているので(これまで多くの無駄打ちを経験した・・・)、ここは戦略を練る必要があるという思いから「Why思考」で検索して、本書に出会ったというわけだ。

本書の中で「WhyなきWhat病」の様々な具体例が紹介されている。「What」「Why」を人の特徴で示すと、「What型人間:そのままくん」「Why型人間:なぜなぜくん」であり、これらは対極にある思考なのである。この「そのままくん」と「なぜなぜくん」とをチェックするWhy型思考度セルフチェック10の項目が示されているので、自分自身や周囲の状況を理解するために活用をお勧めする。

本書の内容をIDに置き換えて考えてみると、Whyとはそれをなぜ目指すのかという到達目標・出口であり、Whatとは何をするかという方略を示していると思われる。本書は単にWhat型が悪いということではなく、「WhyなきWhat」が問題を引き起こすのだと述べている。ID的にいうならば、到達目標を明らかにしないままに、方略だけを考えることが問題を引き起こすことと類似している。まさにIDではメーガーの示すように「どこに行くのか」をまずは明示して、「何をするのか・どうやってそこにいくのか」を考えることが重要なのだ。そうでなければ、課題が解決したかどうかも評価できず、前例主義や形骸化した仕事に終始してしまうことを指摘している。

このような指摘を理解すると「What型人間:そのままくん」はダメダメだから、「Why型人間:なぜなぜくん」を育成しなければという思いに駆られる。しかし本書では、組織づくりという視点からするとそう単純な話ではなく、「What型人間:そのままくん」も「Why型人間:なぜなぜくん」も、どちらも必要な人材であるという。急激な環境変化においては、What型思考が求められていることは確かであるとした上で、What型思考でもやっていかれる、あるいはむしろWhat型思考が求められる職場というのもあるという主張である。
「確かに・・・。」私自身はどちらかというと「Why型人間:なぜなぜくん」で、これまでの慣習に納得がいかない場合には、鼻息が荒くなり大人しく仕事をすることができないという性質がある。一方で、組織の決まり事や言われたことを粛々とやり遂げる人々が一定数は存在しており、それはそれで素晴らしい能力だと思うのである。

なので、本書の結論としては、どちらを選ぶかは、よい悪いの問題ではなく人生をどう生きたいかの問題であるとしている。このように最終的には生き方の問題であるという次元で俯瞰して捉えると、人には向き不向きがあるのであり、「What型」「Why型」のどちらであっても互いにリスペクトし合い、適材適所への配置や人材育成が必要ということかなと理解すると、私の鼻息も落ち着いた気がするのである。

さらに教育という観点で抑えておきたいのは、そのままくんの原点はWhat型教育にあり、What型人材は「育てられ」(他動詞)、Why型人材は「育つ」(自動詞)であると主張している。これは教えなくても学べる教育、自ら成長する人材を育成することを目指すID的な視点からも大変参考になる。またビジネス界が変わらなければ学校教育も変わらないと指摘されており、カークパトリックが評価として示すレベルⅢ(行動)とレベルⅡ(学習)を繋げることの重要性を改めて理解するものである。

恐らくIDを学ぶ人は「Why型人間:なぜなぜくん」気質が強い傾向があるのではないかと想像するのだが、組織の中で疲れてきたなぜなぜくんに、是非お勧めしたい1冊である。

 (熊本大学大学院教授システム学専攻博士後期課程 菊内由貴)


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【報告】第64回まなばナイトレポート「GSIS修了生のいま:IDをどう伝えればよいのか? -彼と己を見つめ直す-」
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冬日和となった2月の終わり、東京オフィスにて本年度最後のまなばナイトが開催されました。今回は、「修了生は今」をお伝えする企画で、GSISの修了生はどのような活躍をされているのかを紹介するものでした。
 
話題提供者は昨年度までGSISでご指導頂いていた7期生平岡斉士先生と、本年度から非常勤講師として活躍されている13期生小池啓子先生です。
 
お二人から「IDをどう伝えればよいのか-彼と己を見つめ直す-」のテーマで、ID研修や日常業務などIDに対する理解をしてもらえない場合、「彼」にはどうしたら納得してもらえるか、どう考えているか、そして、「己」はどのように対応するかについて話題提供をしていただいた後、現地とオンラインでグループディスカッションを行いました。
 
◆平岡先生
 
JSETでの発表をもとに経験談をお話しになりました。この抄録には、講義形式を選択する積極的な場面と理由が解説されており、今後も講義形式は採用されるであろうと考えているとの事でした。しかし、講義形式なんか「やめてしまえばよい」と心底思っているそうです。
 
参加者からは、「壮大な皮肉だけど、学習塾の場合は、学校よりも上手にやる必要がある。学校の代替であり、学校が不足している部分をカバーしないといけない」「講義を選択するには色々な理由があると思うのだが、分解されていてわかりやすかった。自分がやる時の点検になる」「あまり授業はやっていないのだが、時間潰しに来ている学生にとってはワークショップ形式は嫌なのだと思う」と様々な職種の視点から意見がありました。
 
◆小池先生
 
看護教育に携わる人へのIDの普及に自施設で取り組まれている先生の日々の葛藤についてお話がありました。修了してからのご自身の軌跡を3つの視点で振り返られました。
 
①「自己から周囲へ」
 看護教育にIDはフィットするので、もっとIDを知って一緒にトライする視点

②「アウトソーシングの楽しさ」
 誰かの活躍の裏方をする面白さ

③「看護師基礎教育とその先へのビジョン」
 日々の葛藤を述べられました。

 
参加者からは「医療系のルールは独特のものがある」「教材を作るのは簡単だけど、どうやって使うのかが重要」「学生の評価があがれば、他職員からの評価が下がる。学生中心なのだから学生の声を使って突破できないか」と様々な職種の視点からの意見がありました。
 
その後、「彼」に対して「己」はどのようなアプローチをする必要があるのかについてグループワークを行いました。意見として、「相手の世界観を認めること」「彼のタイプを知って、IDという言葉を出さずにうまくやっていく」「そのステークホルダーができないと困る人を巻き込む」といった意見が出されました。また、「彼」は「本当は困っているのに、困っている事に気づいていないのでは?」という意見もありました。
 
最後に鈴木先生からイノベーション普及学についてお話がありました。新しいものを普及するにはどのようにすれば良いのかを学ぶ工学だそうです。IDは手段であって目的ではないというお話も改めて納得しました。
 
今回も多くの学びがあり、自分のフィールドでもIDを用いた人材育成が進んでいけばと思います。

(熊本大学大学院教授システム学専攻13期同窓生 増永 恵子)

 
○写真入りレポートは以下をご覧ください。
https://www.manabanight.com/info/manabanight64report


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【ご案内】2024年度まなばナイト開催スケジュール
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2024年度は以下の開催を予定しております。
第65回 2024年6月8日(土)@東京
第66回 2024年8月24日(土)@名古屋
第67回 2024年10月12日(土)@関西
第68回 2024年12月21日(土)@東京
第69回 2025年2月22日(土)@東京
開催地は予定です。社会状況により、フルオンラインになる可能性があります。

詳細はまとまり次第告知サイトにてお知らせいたします。
http://www.manabanight.com/


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【イベント】その他、近々行われるイベントは? 2024/4~2024/5
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2024年5月11日 (土)
日本教育工学会 2024年度研究会「教師研究・授業研究/一般」@秋田大学

2024年5月18日 (土)
教育システム情報学会 2024年度第1回研究会@千葉工業大学

 
★ 編集後記
日本教育工学会全国大会に参加するため、何年かぶりに母校・熊本大学に行ってきました。全日制とはいえフルオンラインで学位を取ったので、在学中も熊本には数えるほどしか行かなかったのですが、それでも母校での開催というのはなんだか嬉しいものですね。熊大教職員の皆様、同窓生の皆さんと久々にお会いでき(対面では初だった方も!)、大興奮の2日間でした。お世話になりました。
(第131号編集担当:甲斐晶子)


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<発行>
熊本大学大学院社会文化科学研究科  教授システム学専攻同窓会
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