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IDマガジン第79号

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2019年5月24日━━━━
<Vol.0079> IDマガジン 第79号
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皆様、いつもIDマガジンのご愛読ありがとうございます。
急に暑くなりましたが、お住まいの地域ではいかがですか?
どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

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《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(75):果たして300人収容の会場を埋め尽くせるか、満足して帰ってもらえるか、それが問題だ!
2. 【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ: 第17章「理論の構築」(チャールス・M・ライゲルース,ユン=ヨ・アン)
3. 【ご案内】第39回 まなばナイト「インストラクショナルデザインハッカソン」
4. 【ご案内】第40回 まなばナイト@名古屋『基礎教育と臨床教育の場面紹介 〜評価方法改善への取り組み〜』
5. 【イベント】その他、近々行われるイベントは?
★ 編集後記

IDマガジン 第79号【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(75):果たして300人収容の会場を埋め尽くせるか、満足して帰ってもらえるか、それが問題だ!
ヒゲ講師は、来る2019年5月29日に300人収容の会場で講演することを引き受けた。場所は有楽町の国際フォーラムセミナー会場A、ラーニングイノベーション2019の特別セッションS-10A。お題は「アウトプットをデザインする」となった。昨年までも同じイベントで講演をしてきたが、去年までの会場の収容者数は80名。申し込み開始後すぐに満員となり、当日申し込みしているのに来ない人もいる中で、毎年立ち見の観客も出る盛況ぶりが続いている。でも、だからと言って、一気に4倍弱ですか、しかも初日の10:40からですよ。これは困ったものだ、と弱腰になったヒゲ講師が「ちゃんと集まるんでしょうか」。主催者は「何とかします」。そうなると、何を話すかを真剣に考えなければなるまい。

インプット中心の(つまりしゃべるだけの)研修が多い中、アウトプットのデザインは重要な視点である。お勉強で終わる研修がまだまだ多い中、アウトプットといってもレベル2ではなくレベル3をデザインすることが肝要。そうなるとカークパトリックの4段階評価モデルは外せない。そこから拙著『研修設計マニュアル』なんていう良い本がありますよ、と逆三角形研修設計モデルに繋げられそうですねぇ、これは良い。

でもその本を引き合いに出すのならば、それよりも新しい『学習設計マニュアル』にも触れたいところ。自分でどんどん学ぶ社員が欲しければ、まずは学び方を教えるのが良い、という文脈で紹介できるかな。これも良い。放っておくとつい、宣伝が多くなってしまう。これはあまり良くない傾向だが無理のない範囲で盛り込もう(人数が増えるということはヒゲのことを知らない人も多く聞いてくれる、という前提が使えるのが嬉しい)。

ヒゲ講師の著作に精通している人は、「またその話ね」と呆れてしまうかもしれないが、それはそれで仕方ない(毎回定番の古典芸能だと思ってください)。でもヒゲ講師のことは知らなくても研修に関係している人が良く知っている話題もないと、何がどうつながっているかが分かりにくいでしょう、きっと。それに最適なものはさて何でしょうか。インプットでなくアウトプット。学んでから応用でなく、具体的経験からマイセオリーを紡いでいくのが学びだ、という誰でも知っているあの理論を引き合いに出すのが良さそうですかね。さて、それは誰の何という理論でしょうか。読者諸氏にはすでにお判りでしょう。

しかも、4段階の背後には、実は学習スタイルの違いが組み込まれており、その得手不得手を超えて成長していくことこそが学び方を学ぶことである、と『学習設計マニュアル』の第17章でも扱っている。これで自然な流れとして拙著が2冊とも紹介できますねぇ、素晴らしい。良く知っていると思っていたあの理論も実は知らないところがあった、という驚きがあれば、これからもヒゲ講師の動向・言動に注目してくれるかもしれない。やっぱり「知っているつもりだったが一段深まった」という落としどころが重要ポイントだよねぇ。

とまぁ、こんな具合に妄想を広げながら、講演の準備をしているわけです。この連載に精通している人には、あの4段階のプロセスモデルの背後にある学習スタイルの違いについては、すでに連載61で紹介してましたよね、と言われそうだ。たとえそうだとしても、ヒゲ講師のことや、ましてはIDマガジンのことも知らない人もたくさん来るだろうから、むしろ紹介すべきことが増えて良いのではないか。繰り返しが多いと呆れられる部分が多くなるのはやむを得ない、新しい顧客獲得のためには・・・と、堂々巡りをしている今日この頃でした。

むろん、連載で初めてとなる「将来のとある日のヒゲ講師の予定」について書いたのは言うまでもない、ぜひあなたも来てくださいね、というメッセージを伝えるためである。主催者は「集めます」と言ってくれてはいるが、事前申し込みサイトで「まもなく締め切り」と表示されようが「締め切りました」と表示されようが、当日ノーショー(ドタキャン)が何人出るか、無料イベント故の不安は尽きることはない。「満席」になっても当日、会場前の申し込みなしの列に並べばきっと入れます、ぜひお越しください!

(ヒゲ講師記す)

IDマガジン 第79号【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ: 第17章「理論の構築」(チャールス・M・ライゲルース,ユン=ヨ・アン)
新しいID理論を作り出すには、どうしたらよいのか。本章を読むにあたり、私の関心はこれでした。

本章は、教授理論を開発するための指針を提供することを目的として書かれています。

まず最初に述べられているのは理論と研究の基礎です。エッセンスをまとめると次の4点でしょうか。
(1)本章では、設計理論と記述理論(この違いは、第1章で説明)の両方の知識を同時に構築することを推奨しています。しかし、本章は設計知識の構築方法に焦点を当てています(記述理論の構築方法はすでに多くの記述があるので)。
(2)本章では、機能的文脈主義を採用することを強く支持しています。機能的文脈主義というのが難しいのですが、私の理解だと、類似の状況に応用できる実践的なもので、なおかつ教育改善を試みている人々の心のよりどころになるものが、ホンモノの設計理論だと考えることでしょうか。
(3)設計理論の研究上の関心は「好ましさ」です。これは実用性重視と言っていいと思います。
(4)本章では、理論開発の初期段階では方法や設計理論を「改善するため」の研究を、成熟段階ではある方法が別の方法よりも良い方法であることを「検証する」研究を勧めています。

次に、設計理論を構築するためのアプローチとして、次の4つを挙げられています。
1.データ中心型(data-based)理論開発
2.価値中心型(value-based)理論開発
3.方法中心型(methods-based)理論開発
4.実践者主導型(practitioner-driven)理論開発
1は「何がうまく作用するかというデータをもとに機能的に理論を構築すること」だそうです。一般的には「グラウンデッド理論開発」という方法が用いられます。
2は「価値観」を中心とした理論開発です。たとえば、「学習プロセスを振り返る能力を開発することは重要である」といった価値観があって、この価値観を具現化する学習(教育)方法を考え、実施し、この方法がどれくらいうまくいくか、改善点は何かを検証していきます。「形成的研究」と「デザイン研究」が有効な手段とされています。
3は「データ中心型」と「価値中心型」の合わせ技のようです。一般的な方法を選択して、それを適用したい状況にあわせてより精緻にカスタマイズして実施し、この方法がどれくらいうまくいくか、改善点は何かを検証していきます。ここでも「形成的研究」と「デザイン研究」が有効な手段とされています。
4は実践者の直感を重視したアプローチです。まずは用いられている状況を整理して、たいていの場合は暗黙知なのでそれを明示して、今やっている方法を精緻化します。そして、明確になった方法を別の状況でも試してみて、更なる改善について検討します。ここでも、「形成的研究」と「デザイン研究」が有効な手段とされています。

以上の4つのアプローチにおいて、研究方法としては次の3つが出てきました。
1.グラウンデッド理論開発
2.デザイン研究(DBR)
3.形成的研究
この3つの研究方法の概要は本章に書いてありますが、もしご自身の研究で使おうとお考えでしたら、グラウンデッド理論開発とデザイン研究(DBR)は、いくつか書籍があるので詳しい解説はそちらにゆずります。形成的研究は、本書のシリーズの2番目、通称GB2の第26章で、本章の著者であるライゲルース先生が解説していますのでご興味ある方は参考文献をどうぞ。
個人的には、デザイン研究と形成的研究がかなり似ているように思えて、どこが違うのか(どう使い分けるのか)が今一つわかっていません。とりあえずの理解として、デザイン研究の一形態が形成的研究としておきます。

本章の締めくくりのメッセージとして「我々は教授理論を構築するすべての人に対し、共通の知識基盤を継続的に改善することを目指して、インストラクションに関する共通の知識基盤を拡大させるという文脈の中に自分の研究を位置づけることを勧める(p.418)」とありました。教育(学習)設計においては、常に改善を続ける姿勢を大切にしつつ、ある段階に至ったら論文投稿しないとなぁと、改めて思いました。

最後に、私もコアメンバーの一人である日本教育工学会SIG-07(インストラクショナルデザイン)にて、昨年から本章を題材にした勉強会(自主ゼミ)を開催しています。宣伝で恐縮ですが、今後もこのような自主ゼミを開催していきたいと思いますので、ご関心がある方はホームページ(https://www.jset.gr.jp/sig/sig07.html)などをウォッチしていただけると嬉しいです。

参考文献:
Formative Research: A Methodology for Creating and Improving Design Theories. Instructional-design Theories and Models: A New Paradigm of Instructional Theory, Volume II: 2 (Instructional Design Theories & Models) (p.633). Taylor and Francis. Kindle 版.

(熊本大学大学院教授システム学専攻同窓生 高橋暁子)

IDマガジン 第79号【ご案内】第39回まなばナイト「インストラクショナルデザインハッカソン」
【日時】
2019年6月1日(土)
まなばナイト受付開始:17:00~
まなばナイト:17:30~19:30
【プログラム】
「現場では●●な課題が起きている。これを対象者一斉トレーニングで解決したいので、君たちのチームに企画立案を頼みたい。しかし考えてみると我々の組織はメンバーが様々な所におり、簡単に皆が同じ場所に集まることはできないな。予算も限りがあるのだが、費用対効果が高い方法を考えてくれ。よろしく!」

と、あなたはある日上司から言われたとすると、どうしますか?

そういえば上司は立ち去り際に明るく言っていました。「そうそう、2時間後に会議があってそこで発表したい。ということで1時間半後に1枚企画書を宜しくね!」

ということでハッカソン時間は超ショートの約90分です(発表30分)。

eラーニングやインストラクショナルデザインについて門外漢だけど興味がある方、大歓迎です。初心者からから熟達者まで、チームとして頭に汗をかきつつ(お酒も飲みつつ)、皆さんでワイワイガヤガヤハッカソンする夜にしたい思います。
【会場】
品川区大崎4-2-16
立正大学 品川キャンパス 2号館12階 「芙蓉峰」
http://www.ris.ac.jp/access/shinagawa/index.html
正門(峰原坂)からお入りいただき、2号館へお進みください。
【定員】
専用フォームからの申込み先着 20名様
※定員に達した段階で申し込みを締め切らせて頂きます。
【参加費用】
今回は、ワンコイン500円での開催です。おつまみお茶菓子をご用意いたします。
※当日現金でお支払い願います。
アルコール等ドリンク類につきましては、BYOD(Bring Your Own Drink)持ち込みで行います。現地販売も予定しておりますが、寄贈も歓迎いたします。

IDマガジン 第79号【ご案内】第40回 まなばナイト@名古屋『基礎教育と臨床教育の場面紹介 〜評価方法改善への取り組み〜』
中部地方の皆様、大変お待たせしました。恒例となりました、まなばナイト@名古屋の開催です。今年で6年目を迎えますが、毎回定員を超えるお申し込みをいただき、感謝申し上げます。中部地方の方、また全国各地の方、ぜひ熱い名古屋にお集まりください。
今回のタイトルは、
『基礎教育と臨床教育の場面紹介 〜評価方法改善への取り組み〜』

以下のいずれかに該当の方、ぜひご参加ください。
□ 授業や研修を行うときに「学びのゴール地点」に、たどり着いたかの評価方法を悩んでいる。
□ これまでの学びの場で、どうフィードバックしたら良いかを悩んでいる。
□ 具体的な評価方法が思い浮かばない。もしくは、これまでの経験則でやっている。
□ 最近聞く「インストラクショナルデザイン」というものに少し触れてみたい。
□ 「学びについて」いつでも気軽に相談できる仲間が欲しい。
ひとつでも該当した方、お申し込みは、こちらから
【日時】
2019年6月16日(日)午後5時30分~午後8時 (午後5時より受付開始)
【セミナー概要】
『基礎教育と臨床教育の場面紹介 〜評価方法改善への取り組み〜』
【会場】
ホテルトラスティ名古屋栄 ラウンジ クオーレ
名古屋市中区錦3-15-21
https://ct.rion.mobi/trusty.nagoyasakae/
アクセス
● 地下鉄東山線「栄駅」徒歩1分
【定員】
専用フォームからの申込み 先着 30名様
【参加費用】
お食事(コース料理)・ドリンク(アルコール・ソフトドリンク飲み放題)つき 会費制 6,000円
※当日現金でお支払い願います。

IDマガジン 第79号【イベント】その他、近々行われるイベントは? 2019/5~2019/7
2019/05/29(水)~5/31(金)ラーニングイノベーション2019@東京国際フォーラム
2019/06/29(土)日本教育工学会第35回通常総会およびシンポジウム@東京工業大学大岡山キャンパス
2019/07/14(日)教育システム情報学会研究会「ICTを活用した学修支援/一般」@千歳科学技術大学
2019/07/27(土)日本教育工学会研究会「高等教育における FD・SD・IR・学修支援/一般」@愛媛大学

IDマガジン 第79号★ 編集後記
4月に自宅から徒歩3分のところにスポーツクラブができました。徒歩3分。これはやる気になります! ARCSのAでしょうか?RとCを経て、Sに至るまでいければいいんですけどね。(第79号編集担当:竹岡篤永)

よろしければ、お知り合いの方に、Webからの登録をお勧めしてくださいませ。
また、皆さまの活動をこのIDマガジンに載せてみませんか?
ご意見・ご感想・叱咤激励など常時お待ちしております!
【 mail to: id_magazine@ml.gsis.kumamoto-u.ac.jp】
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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編 集 編集長:鈴木 克明
ID マガジン編集委員:根本淳子・市川尚・高橋暁子・石田百合子・竹岡篤永・仲道雅輝・桑原千幸
発 行 熊本大学大学院社会文化科学研究科  教授システム学専攻同窓会
http://www.gsis.jp/
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謝辞

本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

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