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IDマガジン 第118号

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2023年3月28日━━━━

<Vol.0118> IDマガジン 第118号

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皆様、いつもIDマガジンのご愛読ありがとうございます。

桜の便りが次々と聞かれるこの折、いかがお過ごしでしょうか。

今回も、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

 

今回のコンテンツメニューはこちら↓

《 Contents 》

1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(98) :最終講義はこうでなくては、の巻

2. 【ブックレビュー】『映画を早送りで観る人たち: ファスト映画・ネタバレ-コンテンツ消費の現在形』稲田豊史 (2022)光文社

3. 【報告】第59回まなばナイトレポート 「GSIS修了生のいま 〜 RCiS連携研究員編」

4. 【ご案内】2023年度まなばナイト開催スケジュール

5. 【イベント】その他、近々行われるイベントは?

★ 編集後記


 

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【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(98) :最終講義はこうでなくては、の巻

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ヒゲ講師は2023年3月21日、明治大学のグローバルホールを尋ねた。少しだけ交流があった阪井和男先生の最終講義イベントに参加するためである。少しだけの交流は、熊本での第一期生の研究を通して始まり、富士通や経産省のプロジェクトに誘っていただき、先生の縦横無尽の活躍ぶりに驚嘆したことを思い出す。これは馳せ参じなければ、きっと学びがあるはずだ、との思いで弟子筋でも関係者でもないのに申し込んだのである(もちろん懇親会も)。

 

先生の縦横無尽の活躍ぶりは、最終講義にも体現されていた。主催は明治大学サービス創新研究所とアート思考研究会の共同開催。第一部は「アート思考と創造性」というパネル、第二部は阪井先生の最終講義「隠蔽され誤解される創造性」をはさんでのパネル「変容する社会に生きる~リベラルアーツと知識労働者~」という4時間の構成。デザインが顧客への共感から始まるのに対してアートは自分起点だが、創造性は自由の中に自分で枠を決めていくことで達成される。アートは鑑賞に留まらず表現することで他者からのフィードバックを得て共鳴するのが重要。正解を急がず、プロセスを決めず、もやもやを持ち続けることを楽しみ、ダイナミックにデザインする仕掛けが大事。KJ法は分類的なものではなく創造的なものにしなければならない。やる気のスイッチを入れるのは良いが、「切り方」を教えないと危険(柔道は技からではなく受け身から教える)。教育を受けることで生じる責任、組織を率いる責任をまっとうするには「真摯さ(integrity)」が不可欠。「真摯さ」は持って生まれたものかもしれないが、真摯でありたいと思って生きることは誰にもできる(注:阪井先生はドラッカー学会フェロー。以上、不正確なメモによる)。

 

結語は「創造性とは、成果をもたらす要因のひとつで、 多くは後知恵によって解釈され、 思考停止による副作用も伴う」。おかしいんじゃないの、その説明で満足していいの、というクリティカルな視点を持ち続け、思考停止に陥らないようにしたいものだ、としみじみ思いました。

 

懇親会は隣のビルの地下にあるイタリアン食堂。300人くらいはいただろうか、会場を埋め尽くす人の熱気にあふれ、参加したみなさんがこの日、この瞬間を愛おしんでいる空気に包まれていました。私も新しい出会いや古い知人との思わぬ再会もあり、阪井先生のバトンを次につなげていくチャンスにできればと願っています。

 

私自身の最終講義がいつになるか(やることになるかどうかすらも)分かりませんが、ベンチマークすべき手本をいただきました。深謝。

 

(ヒゲ講師記す)


 

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【ブックレビュー】『映画を早送りで観る人たち: ファスト映画・ネタバレ-コンテンツ消費の現在形』稲田豊史 (2022)光文社

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今回のブックレビューでは、「映画を早送りで観る人たち」を取り上げた。

 

著者である稲田氏は、ライター、コラムニスト、編集者として活躍しており、映画やエンタテイメントビジネスのほか、男女関係論や離婚問題など、さまざまな分野の執筆活動を行ってきた。そんな著者が2022年に刊行した本書は、「なぜ映画や映像を早送り再生しながら見る人がいるのか?」という著者の大きな違和感と疑問からはじまった取材に基づいて構成されている。倍速視聴・10秒飛ばしという習慣がなぜ現代社会に出現したのか、疑問を持ちつつもその理由と背景を、さまざまな角度から考察している。映画を含む映像教材を活用した授業は、教育活動においても珍しくない。映画の製作意図や視聴方法から、映像教材の活用について学びがあることを期待し、本書を手に取った。

 

第1章では、サブスクがもたらした映像作品の供給過多、第2章では、セリフですべてを説明する映像作品が増えた作品の説明過多傾向について解説されている。第1章と第2章は、視聴者が倍速視聴する外的要因を考察している。第3章では、視聴者の倍速視聴の内的要因として、現代人の多忙に端を発するコスパ(タイパ)志向を指摘している。また第4章では、第3章までに考察した倍速視聴の外的要因と内的要因を、「快適主義」という別の観点から再考察している。最後に、第5章では、視聴方法が変わった背景として、技術進化とビジネス体系の変化についても言及している。

 

インターネット技術の発展と普及により、映像供給メディアも多様化と増加を続けている。このような変化の中で、視聴者の視聴意欲を高める仕掛けが求められてきた。授業・研修や教材の設計をする際には、学習者の特徴を知ることが重要とされ、学習者分析と呼ばれる。第5章では、映像作品にかかわる企業が、いわば「視聴者分析」をしていることが伺える。視聴者が見たい内容だけでなく、視聴方法についても視聴者の要望を把握しているようである。

 

「視聴者分析」に基づく視聴者の視聴意欲を高める仕掛けは、ARCSモデルを想起させる。たとえば、視聴者に「おもしろそうだな」と思わせて、コンテンツそのものに注意を向けさせるための方略として、内容が一目でわかるようなタイトルが紹介されている(第2章)。また、視聴者が倍速視聴・10秒飛ばし機能を利用することで、視聴者自身のペースで視聴状況をコントロールできるようになったことがわかる(第3章)。コンテンツ過多の中でも、視聴者がコンテンツの視聴を諦めるのではなく、倍速視聴・10秒飛ばしが視聴意欲を高める仕掛けとして機能しているといえるだろう。

 

本書で紹介されている視聴者の発言も興味深い。倍速視聴・10秒飛ばしを利用する理由について、「忙しいし、友達の間の話題についていきたいだけなので、録画して倍速で見る(P21)」という視聴者もいれば、「それが本当におもしろい作品だったら、もう一回見ればいいじゃんって思います(P76)」という発言のように、映像を視聴した後に言及する発言もある。倍速視聴・10秒飛ばしという機能とその習慣化は、効果的・効率的なだけでなく、「もっと見たい」と思わせる働きもありそうである。

 

さて、このブックレビューを最後まで読んでいただいたみなさんは、「本書を手に取ってみよう」と思っただろうか。「読み飛ばし」をされていたとしても、「本書を手に取ってみよう」という方が1人でもいれば嬉しい。

 

(熊本大学大学院教授システム学専攻 博士後期課程 安部健太)


 

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【報告】第59回まなばナイトレポート 「GSIS修了生のいま 〜 RCiS連携研究員編」

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第59回まなばナイトは、参加者アンケートでも関心の高い修了生のその後の活動について取り上げ発表いただきました。

さまざまな分野で活躍されているOBOGのうち、今回はRCiS研究員の中から4名の方が話題提供をしてくださいました。

 

東京会場は今回初めて、日比谷公園の向かいに移転した熊本大学東京オフィスをお借りし登壇者に集まっていただきました。懇親会参加もあわせてサテライト会場も用意され、久しぶりにリアル開催の雰囲気でのまなばナイトとなりました。

 

厳正なるあみだくじで決定された順番で、トップバッターは12期生の内山さん、「社会人向けのワークショップ実践(研修・大学・演劇)」。企業研修向けのワークショップから大学での講座、そして役者としての活動からワークショップにさまざまな要素を加えたりとIDを学んで活かしている点を多く紹介してくださいました。

内山さんのワークショップに参加していましたという参加者もいたり、Zoomで寄せられたコメントに応えていただいたりしました。

 

次に北川さんが代表しての発表「チャットボットを用いた医療職の業務支援ツールの開発・評価」こちらは同じく修了生の増永さん八木さんとの共同研究。現場の課題と解決方法としてのLINEボットに至った経過、またコンテンツの正確性や権利関係からの開発体制など、これまた興味深いお話が聞けました。

 

続いて消防士という異色というと失礼、多様性を象徴する一つの現場でIDを活用されている大石さんから。早くから主催されている「人材育成事例検討会」の取り組みについて、その目的やスタイルを語っていただきました。

 

小休憩を挟んで最後の話題提供は田中さん。「情動知能を高めるSELを取り入れたキャリア教育の設計」と題し、マインドフルネスやライフデザイン、ポートフォリオ等のキーワードと共に、さまざまに設計されたワークなどの取り組みを披露いただきました。

 

ここからは、オンラインはブレークアウトルームに分かれ、東京サテライト会場はテーブルに集まってグループディスカッションを行いました。

 

ワークが終わって、各グループで話されたことの発表と、登壇者への質問で盛り上がりました。

 

最後に今年度で熊本大学を離れることになった鈴木先生から、まなばナイトに集う参加者に挨拶がありました。今後もひきつづきまなばナイトに関わっていただけること、RCiSは組織としては統合されるが連携研究員含めた取り組みは継続されることなど、一安心いたしました。

 

今回はさまざまな方面で活躍する修了生から、IDと仕事の関係についてさまざまな角度からの知見経験を語っていただき、参加者からの質問とその回答などからも、参加者それぞれに考えを深めることができたようでした。

 

修了生の交流の機会としても、このテーマは定期的に行なっていければと思いました。

 

(熊本大学大学院教授システム学専攻同窓生 加地正典)

 

○写真入りレポートは以下をご覧ください。

https://www.manabanight.com/info/manabanight59report


 

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【ご案内】2023年度まなばナイト開催スケジュール

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2023年度は以下の開催を予定しております。

第60回 2023年6月10日(土)@東京

第61回 2023年8月26日(土)@名古屋

第62回 2023年10月14日(土)@大阪

第63回 2023年12月9日(土)@東京

第64回 2024年2月24日(土)@東京

 

詳細はまとまり次第告知サイトにてお知らせいたします。

http://www.manabanight.com/


 

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【イベント】その他、近々行われるイベントは? 2023/4~2023/5

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2023年5月13日 (土)

日本教育工学会研究会「思考支援/一般」@同志社大学今出川キャンパス


 

2023年5月20日(土)

教育システム情報学会(JSiSE)2023年度 第1回研究会「DX時代に向けた学習環境の変革・リスキリング/ヘルスケア分野のDX人材育成/一般」@早稲田大学 早稲田キャンパス(現地、またはハイブリット)


 

★ 編集後記

この春休みは数年振りに海外で学会発表してきました。また、この週末に行われた日本教育工学会全国大会でも、久々にお会いできた方々と楽しい時間を過ごせました。対面での参加には移動の時間と旅費、雨や寒さ、ちょっとした不便やトラブルなどあり、「もう疲れたからオンライン参加でいいや〜」となることもしばしばです。でも、疲れてお風呂が面倒に思えても、湯船に浸かって後悔した人はいない(多分)のと同じでしょうから、できるだけお出かけしていきたいなと思います。

(第118号編集担当:甲斐晶子)

 

よろしければ、お知り合いの方に、Webからの登録をお勧めしてくださいませ。

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ご意見・ご感想・叱咤激励など常時お待ちしております!

【 mail to: id_magazine@mls.gsis.kumamoto-u.ac.jp】

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<編集>

編集長:鈴木克明

副編集長:市川尚・根本淳子

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<発行>

熊本大学大学院社会文化科学研究科  教授システム学専攻同窓会

http://www.gsis.jp/

 

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