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IDマガジン第70号

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2017年11月17日━━━━
<Vol.0070> IDマガジン 第70号
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皆様、いつもIDマガジンのご愛読ありがとうございます。
こちらでは急に寒くなりましたが、みなさんがお住まいの場所はいかがですか? 気候の変化に負けないようにしたいものですね!
少し時間をいただいて、最後までお付き合いいただければ幸いです。

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《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(66)
~システム思考をしないことはできない。それに気づくかどうかで差が出る~
2. 【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第10章「スキルの発達を促進する」
3. 【報告】「第30回まなばナイト@東京」実施報告&第31回まなばナイトのお知らせ
4. 【お知らせ】「IDお悩み解決QAサイト」をご存知ですか?
5. 【イベント】その他、近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(66) ~システム思考をしないことはできない。それに気づくかどうかで差が出る~

ヒゲ講師は、米国フロリダ州ジャクソンビルにいた。日本教育工学会の提携先AECTの全国大会に出るためであった。時差ぼけに悩まされながら聞いたカブレラ教授の基調講演「教育におけるシステム思考:新しい考え方」はとても印象的だった。以下、聴講メモをもとに再構築して共有したい。

「すべてのモデルは間違っている。しかし、その中のいくつかは有用である(誰かの言葉の引用)」。モデルは現実の一部を切り捨てたものだから、当然現実と同じではない。その意味では「間違っている」が、その切り捨て方によっては、役に立つ。
--まあそうですよね。モデル化というのは切り捨てることで特徴を浮かび上がらせることですから、下手にモデル化すれば間違っているだけでなく役にも立たない。この聴講メモも読者に役立つように「モデル化」(というか抜粋ですかね)していると良いのですが・・・。

モデルは知識であり、それは情報と同じではない。知識は情報に思考を付加したものであるが、両者を同一視することが横行している。その果てにあるのはクイズ番組の正解が言えるようになることだけであり、思考ができるようにはならない。昔のレゴは何を作るのかの自由度が高かったが、最近はレゴキットになり完成品に必要な部品だけが提供されるようになった。これでは思考力は育たない。
--確かにそうですな。M=i+TがM=iだけになっていてT(Thinking)が抜けている。式で表現されるとなるほど、と思ってしまうものですね。

学習のメタファーとして使うべきものは「散らかった建設現場(messy construction site)」である。情報処理に使うコンピュータや、何でも注入できるスポンジ、あるいは授業で入金してテストで引き出すATMのメタファーでは考えるという要素が入らない。
--建設と構築が同じConstructionという言葉なので英語の方がイメージしやすいですかね。注入・転移モデルではなく、学習者が自分で知識を構築しているという前提にたつということ(ちなみにこれと対比して使われるのがInstructionという言葉ですが、IDをやる人は「学習を支援すること」という意味でInstructionを使います。つまり両方含むと考えますが、情報処理モデルに基づく9教授事象はやっぱり注入的ですかね・・・、少なくともそのように誤用される危険はありそう)。

学習者のイメージも常に「工事中(Under construction)」であり、知識を構築する人になる。教師からの指示を待っている人、情報の消費者というイメージが払しょくされる。
--構築しているように見えてもレゴキット(=同じ結果が出るもの)じゃダメだということ。ポートフォリオはパンドラの箱、正解主義が問われることになる、というヒゲの主張に通底していますね。

「考える」とはどういうことか。そう真正面から問われると答えに困る。でも実際は、DSRPの4つをやることが考えるということだ。Distinguishは区別すること(AかnotAか、内か外か)、Systemはシステム(部分と全体として構成要素を分解・統合すること)、Relateは関係性(要素間にどんな関係があるか)、Perspectiveは視点(見方によって見え方が変わるのでバイアスが入り込む)。DSPRを行ったり来たりしていることが「考える」ということの実態だ。
--これがカブレラ教授のモデル(詳細は参考文献にあります)。

「考えない」ということを選択することは不可能である。人はいつも(always)、すでに(already)考えている。現実をそのまま受け取っているのではなく、バイアスをかけて見ている。ただそのことを自覚するかどうかで差が出てくる。
--正解主義で覚える教育ではダメだ、ということはよく言われますが、じゃぁどうすればよいのかを考えるときにはヒントになるかもしれませんね(あ、ここにも「考えるときには」が登場しました。考えないことはできない、ということですね)。

小さな子どもにいろいろ聞かれて、Google検索しながら答えた父親。子どもに「パパって頭いいね」と言われた。それって頭がいい(Smart)ということなのか、真剣に考える必要があるのではないか。

(ヒゲ講師記す)

参考文献
Cabrera, D., & Cabrera, L. (2015). Systems thinking made simple: New hope for solving
wicked problems. Ithaca, NY: Odyssean Press.

【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第10章「スキルの発達を促進する」 (アレクサンダー・ロミゾウスキー)

スキルとは効果や効率、速さ、その他の量や質の指標を伴う、特定のタスクや活動を遂行する能力のことで、このスキルをどう延ばすのか、スキル習得の基本的な原理や手法について述べられているのがこの第10章です。この章を読んでスキル開発の学習環境を改善しましょう。

スキルにはいろいろな分類があり、一般的には、実行部位によって、認知スキル、運動スキル、反応スキル、対話スキル、などと分けられます。本章では、このような分類ではなく、対象とするタスクの複雑さや高度化の観点から、再生的スキル、生産的スキル、に分けてスキル開発手法を述べています。再生的スキルとは反復的で自動的に実践でき、標準的な活動が組み合わさったタスクを達成するためのスキル、生産的スキルとは、理論や一般原理、あるいは創造性を随時適用しながら、状況に応じて適切な行動を計画することを必要とするタスクを達成するためのスキルです。

熟達したスキルを必要とする行動・活動は、以下の4つのサイクルを繰り返しながら、行動を実施しています。

(1)知覚(環境からのインプット)

(2)前提条件の想起(知覚した内容の正しい解釈)

(3)計画(実行するのに適切な行為の決定)

(4)実行(環境へのアウトプット)

これらは(1)から(4)に必ず順番に処理されるのではなく、対象とするスキルによってサイクルが異なります。簡単な再生的スキル、例えば、タイピング等は、(1)で知覚をしたら、(4)の実行に直結しています。また、ゴルフ初心者がスイングするときは、生産的スキルなので、確実に、(1)−(2)ー(3)ー(4)というサイクルで行動が実践されます。つまり、どのようなスキルを習得しようとしているのかによって、どこをどう鍛錬すればよいのかの場所が変わってきます。

また、一般的なスキル習得の教授方略についても述べられており、

ステップ1:必要な知識の内容を教える

ステップ2:基本的な精神運動スキルを教える

ステップ3:熟達化(速さ、スタミナ、正確性)と般化(状況や事例への転移可能性)

としており、ステップ2については、さらに細かく3つの方法を紹介しています。

全体のタスクがA,B,Cの3つの順番で構成されているとして、以下の3つの方法が考えられます。

1.全体タスク法:A-B-Cをひたすら繰り返す

2.漸進的部分法:Aの習得が終われば、A-Bを繰り返し、A-Bの習得が終われば、
A-B-Cを練習する

3.逐次的部分法:A,B,Cとバラバラに習得し、最後に、A-B-Cを習得する

最後に感想ですが、スキル習得の学習環境を提供する際には、闇雲に学習者に学習させて、失敗から学ばせる、という無手勝流的学習環境に任せるのではなく、まず、設計時に、一段上の視点から、習得させようとしているタスクを詳細に分析するところから始めましょう。その上で、そのタスクと学習者の状況に応じた習得方法を提供することで、学習者は効率よくスキルを習得できるようになります。

ただし、あまりお膳だてしすぎても自律的に学べない学習者を作ってしまうので、このあたりが、インストラクショナルデザイナーの腕の見せ所です。初心者には大きな足場を作り、中級者で、足場を小さくしていき、上級者は、自分でタスクを分析してスキル習得の学習方略を見出せるような学習環境(つまり、教授者はあえて何もしない)が提供できれば、インストラクショナルデザイナーのこのうえない喜びかと思います。

(熊本大学大学院 教授システム学専攻 博士後期課程修了生 加藤泰久)

【報告】「第30回まなばナイト@東京」実施報告 テーマ 「GOLDメソッドを使って人財育成を考えよう!」

日本医療教授システム学会の代表理事 池上敬一先生をお迎えして、GOLDメソッドについてのワークショップを開催しました。

最初に、池上先生ご自身の研修医、臨床医のご経験を踏まえ考案されたGOLDメソッドについて説明していただきました。また、GOLDメソッドで活用する具体的なツールについて、(新人)看護師が「急変させないための患者観察テクニック」を学習する際の教材を示しながら解説していただきました。

その後、グループディスカッションに入る前に、池上先生から

「GOLDメソッドを使って人財育成できそうですか?」
「いままでの教え方・指導の仕方と何が違いますか?」
「学びやすいと思いますか?」
「教えやすいと思いますか?」
「GOLDメソッドを使って人財育成する場合、どのようなツールがあると良いと思いますか?」

という質問が出されました。3つのグループそれぞれで議論する質問を選び、グループディスカッションがスタートしました。

20分ほどのワークの後、グループでディスカッションしたことを各グループ発表していき、それについて池上先生がフィードバックするという形で進めていきました。参加者の皆さんの職業の背景はさまざまでしたが、各グループのディスカッションは大いに盛り上がりました。

ここで、ディスカッションした内容の一部を簡単にご紹介します。

「教えやすいと思いますか?」
実践検証カード(実践するのに必要な段階と手続きを表したスクリプト)を作成し、学習活動を見える化することで、学習者の学習過程を支援しやすい。学習者が何につまずいているか分かりやすい。ただ、教育(学習支援)する側が一方的に実践検証カードのようなスクリプトを提供するのではなく、学習者自身が自分でスクリプトを作れると良い。

「GOLDメソッドを使って人財育成できそうですか?」
このGOLDメソッドを活用するためには、まず教育する側の指導者がこのメソッドを十分に理解することが必要である。“できる”人財を育成するには、運動技能を中心としたスクリプトのみならず、知的技能、思考力を高められるスクリプトを用いた教育を実践していくことが必要である。

ディスカッションが深められたところで、ちょうど時間となり閉会となりました。

GOLDメソッドに初めて触れた参加者が多かったのですが、エキスパートの行動を形式知化し、新任者がエキスパートの能力を効果的・効率的・魅力的に学習できるGOLDメソッドを、開発者の池上先生から解説していただけたことで、参加者は医療に関わらず、さまざまな人財育成に活用できることを感じているようでした。

またディスカッションを通じて、人材育成における多くのヒントを得ることができたと思います。

池上先生、参加者の皆さま、ご参加いただきありがとうございました。

(まなばナイト実行委員・熊本大学大学院教授システム学専攻同窓生 三宮 有里)

○写真入りレポートは以下をご覧ください。
http://www.manabanight.com/info/manabanight30report

——–
●第31回 まなばナイト@東京「年末スペシャル」
テーマは 『経験学習とインストラクショナルデザイン~経験の内省・概念化を促進する授業の設計と実践~』。ゲストスピーカーは仲林清先生です。

変化の激しい現代社会において、学校教育においても社会人教育においても、自律的に学び続ける能力の重要性が叫ばれています。自律的な学びの理論的な基礎のひとつとして、コルブによって提唱された経験学習がインストラクショナルデザインの分野でも着目されています。

なお、本編の前の16時より、熊本大学大学院教授システム学専攻の本科生・科目履修生の受験に興味がある方を対象とした教員・OBOGによる「個別相談会」、そして本編後には「大忘年会」を開催します!(個別相談会のみ参加の方は無料)

日時:2017年12月9日(土)17:00-19:30
会場:富士通ラーニングメディア「CO☆PIT」 品川インターシティB棟10階
お申込み&イベント詳細(随時告知します):http://www.manabanight.com/event/manabanight31
皆さま、奮ってご参加ください。どうぞよろしくお願いいたします。

●今後のまなばナイトのお知らせ(予定)
第31回:2018年2月24日(土)@東京

【お知らせ】「IDお悩み解決QAサイト」をご存知ですか?

IDお悩み解決QAサイトとは、eラーニング、あるいは授業や研修をデザインする際に出てくる「お悩み」に対して、インストラクショナルデザイン(ID)の観点からの解決策をご提案するサイトです。熊本大学教授システム学研究センター鈴木克明研究室で開発・運営しています。

たとえば「学習への意欲を評価・測定するのはどうしたらよいでしょうか?」という質問に対しては、「学習への意欲(動機づけ)は、努力の量で測るのが最も直接的な指標になります。3時間予習をしてきた者の方が、予習しなかった(0時間)の者よりも、学習意欲が高いと見なします。・・・」というように回答し、授業で使えそうなツールや、詳しく知るための文献などを紹介します。

みなさんの「お悩み」に近い質問があるかもしれませんので、一度のぞいてみてはいかがでしょうか。また、利用者アンケートも実施していますので、ぜひご協力をお願いします。

IDお悩み解決QAサイト
http://suzu-lab.sakura.ne.jp/qa/

【イベント】その他、近々行われるイベントは? 2017/11~2018/1

2017/12/02(土)教育システム情報学会研究会「適応的なスキル学習支援/一般」@金沢工業大学
2017/12/02(土)~2017/12/03(日)2017年度熊本大学公開講座 インストラクショナルデザイン入門編@東京
2017/12/09(土)日本教育工学会研究会「アクティブラーニング・評価方法/一般」@関西学院大学
2018/01/06(土)教育システム情報学会研究会「新技術と教育情報を活用した教育学習環境の設計/一般」@神奈川工科大学アクティブラーニング横浜
2018/01/13(土)2017年度熊本大学公開講座 インストラクショナルデザイン応用編@大阪
2018/01/14(日)2017年度熊本大学公開講座 インストラクショナルデザイン応用編@福岡
2018/01/28(土)2017年度熊本大学公開講座 インストラクショナルデザイン応用編@東京

★ 編集後記

考えにバイアスが入ることって、わたしは別の分野で学びましたが、どの分野においても重要なんですね。改めて感じました。(T)煮詰まったときって、人と話すことが大事だなあ。ということを感じた一週間でした。(I)
(第70号編集担当:竹岡篤永、石田百合子)

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【 mail to: id_magazine@ml.gsis.kumamoto-u.ac.jp】
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編 集 編集長:鈴木 克明
ID マガジン編集委員:根本淳子・市川尚・高橋暁子・石田百合子・竹岡篤永
発 行 熊本大学大学院社会文化科学研究科 教授システム学専攻同窓会
http://www.gsis.jp/
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謝辞

本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

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