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IDマガジン第71号

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2017年1月10日━━━━
<Vol.0071> IDマガジン 第71号
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皆様、いつもIDマガジンのご愛読ありがとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

今回のコンテンツメニューはこちら↓
《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(67) ~正月らしくない正月~
2. 【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第11章「理解を促進する」
3. 【報告】第31回 まなばナイトレポート
 「経験学習とインストラクショナルデザイン ~経験の内省・概念化を促進する授業の設計と実践~」
4. 【案内】人財育成実践事例検討会@えひめ
5. 【協力依頼】「IDお悩み解決QAサイト」アンケートのお願い
6. 【イベント】その他、近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(67) ~正月らしくない正月~

ヒゲ講師は、この年末年始をまったく正月らしくない場所で過ごしていた。その場所はアジスアベバ。東アフリカにあるエチオピアの首都だ。アフリカだから正月らしくない、ということではない。エチオピア暦の正月は西暦の9月に来るので、1月1日さえも休日ではなく、普通に勤務した。

エチオピア人の多くはクリスチャンだが、クリスマスは2018年1月7日の日曜日だという。クリスマスには羊か鶏を生きたまま丸ごと購入して、家族みんなで当日さばいたばかりの料理を食べるのが習慣だという。確かにショッピングでにぎわい渋滞だらけの金曜日には、地方から羊の群れを連れて売りに来ている行商人をあちこちで目撃した。「クリスマスの翌日にはさばかれた羊の皮が無造作に道端に積み上げられて売られているんですよ」という解説があったが、どんな感じになるのかイメージがつかないまま、帰路についた。

なぜヒゲ講師はエチオピアへ? 拙著『研修設計マニュアル』に出会った人に、ぜひ参加してくれと請われたから。JICAのプロジェクトには、これまでもいろんな国でかかわってきたが、アフリカへは初めてのお誘い。8月にはあと2年間はネパールに行くのに、さらにエチオピアに? それも年2回ずつ3年間も約束してしまうのか?

まぁ断りにくかったんですね、いろんな意味で。アフリカのプロジェクトは初めてだったし、本に惚れたと言われれば、これも断りにくい。今までは弟子筋のアレンジだったけど、今回は初対面の飛び込み依頼。ヒゲもそろそろ独り立ちできるかもしれない、という期待もあった。インターネット型大学院勤務のメリットも享受し、休暇扱いにはならない、という確認も取れた。まぁ行くしかないでしょう、という結論に至ったわけです。

留守中、迷惑をかけている方々に、この場で「ごめんなさい」と言わせてください。わがままな私を許してください。まぁ、ほとんどの人にはメールがどこから飛んできているかは識別できないでしょうから、「え、アフリカにいたんですか?」という感覚でしょうけれど・・・。

ここでのお仕事は「エチオピア国水技術機構(EWTI)研修運営管理能力強化プロジェクト」の短期派遣専門家(カリキュラム・研修教材開発担当)。地下水調査や掘削技術、機械・電気整備などの各技術分野の専門家とともに、政府が再構築したEWTIの技術研修担当者にIDの基礎を教えるというのが期待されている役割。ネパールのプロジェクトは地方公務員向け研修設計なので、こちらでは実機を動かして水を確保するという実技が重視される点が大きく異なる。でも、研修の設計という点では大差ない。同じ時期に異なる内容領域での仕事が並行してできるのも何かのご縁ですから、まぁ何ができるかやってみましょう、ということで来たわけです。

来てみて分かったことは、「伸びしろ」がかなりある、という現状。今回2日間のワークショップを2回行ったが、紹介するIDは、効果・効率・魅力を目指す点とメーガーとガニェの9事象5分類に絞ることにした。あまりたくさん注入しても消化不良を起こしそう、というのがネパールでの教訓だったことも早速活かした(連載65を参照ください)。研修中にやることを9教授事象に並べ替えたり研修目標を5分類に分けたりするカードゲームを考案して、手を動かす練習も取り入れた。
機械を動かす仕事をしている人だし、暗記中心の初等教育を受けてきた人たちだから、そうしないと応用力は身につかないだろうと思ったから。

基礎を確認したあとは、「さて次の研修を実施するときには、これまでと何をどう変えますか?」という担当コースごとのグループ作業に進んでもらった。ここで何を学んでも研修が同じじゃぁ時間の無駄ですよ、という行動変容(態度)を強調し、次の研修まで・研修中・研修後・ヒゲが戻ってくる4月までの4段階のアクションプランを策定してもらいワークショップは終わった。次に来るのが楽しみになったので、まぁ成功と言っていいでしょう。ワークショップでは毎日、省察シートという名前のスマイルシート+確認問題を行い、成果を確認し、不足分を翌日に補った。この手法もぜひ取り入れてね、というメッセージも忘れずに伝えた(現状では評価がかなり弱い、ということ)。さてどうなることでしょうかねぇ。

次のお題は、研修カリキュラムの再設計。教育省が管轄する職業訓練校ではエチオピア職業標準(EOS)に基づいて5段階でのコンピテンシー準拠型教育への転換が2010年から開始され、その教育を担当できる教員になるための要件や研修(TOT)、さらにはコンピテンシー準拠試験を担当するアセッサー向け研修も整備されているという。それを横目で見ながら、各技術分野の専門家と一緒に研修カリキュラムを点検し、コンピテンシー準拠型の研修に組み替えていくための提案をまとめていく(それができていないから評価が弱いという現状があるわけです)。マイクロ設計からマクロ設計へプロジェクトを展開していこう、というわけで、次も楽しくなりそうです。

問題が唯一あるとすれば、アジスアベバが標高2400メートルの高地にあるという点。空気が薄いためかどうも眠りも浅い(たぶん)。冬は乾季で昼夜の寒暖差が20度もあるが、暑くて仕方ないということにはならない(ホテルには冷房もないし、長そで長ズボンは必須アイテム)。埃っぽいので喘息が気になったが、その問題はなかった。あとは血圧かな。そもそもここで血圧計がちゃんと作動しているのかどうか、そこから確かめなければならないと思う。帰路にドバイで1泊するが、そこでの眠りの深さを確認してから、対策を立てることにします。

(ヒゲ講師記す)

【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第11章「理解を促進する」(マーシャ・ストーン・ウィスケ、ブライアン・J・ベ イティ)

先日X高専(非常勤)で「中間試験の振り返り」をしてもらいました。担当している科目は中間試験をしないので、任意の試験で行ってもらいました。やり方は、『学生を自己調整学習者に育てる:アクティブラー二ングのその先へ』という本に載っています。
様子を見ながら、何人かに声をかけました。

わたし「どう?間違いのパターン、見つかった?」
数学のテストを振り返っていたある学生「(自分のパターンは)ケアレスミスだ」
わたし「どんなことを間違ったの?」
学生「公式は覚えたけど、使うところを間違えたから」
あれっ? こういう間違い方って、「ケアレスミス」なのでしょうか? 違いますよね・・・

このメルマガの読者ならきっと「この学生は理解が足りなかったから間違えたのだろう」と考えることでしょう。そして次に、どうやったら理解を促す教育ができるの? という疑問(あるいは答え)がわいてくることでしょう。これこそが第11章の核心です。

第11章でいうところの促進すべき「理解」とは、公式を思い出させることでもなく、○○方程式が解けるようになるというような狭~い範囲の目標達成でもなく、適切な公式を検索できるようになることでもなく・・・ と書いてあります。では、なにかと言いますと「学習者が知ったことを社会において柔軟かつ創造的に応用することのできるような理解」なのだそうです。(数学の公式なども使って)橋の強度の計算をするようなことですかねぇ? そのときはもはや、どの公式を使うかなんてことは考えず、考えの焦点は、車が何台どれくらいの頻度で通り、風はどれくらいの強さで吹くから、、、というような現実的な状況にあるでしょう。きっと。

第11章では、こういう理解を促すための教育を行うために必要なことは5つある、と自分たちの研究成果を紹介しています。
1つめは、トピックです。と言っても、トピックって、いざ日本語に言い換えるとなると難しいことばなんですよね。ここでは、学習者が持っている(あるいは持つべき)総合的な力が発揮できるような現実的な取り組み課題、みたいな感じでしょうか。
そして、理解のゴール(到達点がないといけませんからね)、理解のパフォーマンス(習ったことは、それを使ってなんぼ、ですから)、学習進行中の評価(途中経過もちゃんと見ておかないと)と続きます。最後、5つめが、内省的な協同的なコミュニティです。学びは独りで起こるものではないですからね。これらの要素はインターネットなどのテクノロジを使うことによって、さらに促進できるとしています。

と、ざっと書き出してみましたが、この章は(他もそうかもしれませんが)難解です。具体的なイメージについての記述がほとんどないからです(少なくともわたしには難解でした)。ですからこの章は、何か、自分なりの、具体的な実践例を思い浮かべ、それと照らし合わせながら、休み休み読むことをお勧めします。

おっと。それで冒頭の理解不足をケアレスミスと振り返った学生にですが、わたしは「それって、ケアレスミスかなあ?」
とさらに問いかけました。少しでも考えるきっかけになるといいんですけどね。

(熊本大学大学院教授システム学専攻 修士5期修了 竹岡篤永)

第31回まなばナイトレポート『経験学習とインストラクショナルデザイン ~経験の内省・概念化を促進する授業の設計と実践~』

今回のテーマは
『経験学習とインストラクショナルデザイン ~経験の内省・概念化を促進する授業の設計と実践~』

千葉工業大学情報科学部教授の仲林先生をお迎えし、レクチャーとワークショップを実施しました。
仲林先生は教育システム情報学会を会長として率いておられ、熊本大学大学院教授システム学専攻では
「コンテンツ標準化論」を担当されています。
今回は、経験学習というキーワードに多方面から参加者も集まり、仲林先生の授業実践をひも解き
ながら、学び合っていきました。

「何かを持って帰ってください」との専攻長の挨拶のあと、開始早々ワークが入りました。

◆みなさんの経験からの最大の学びは
●それは学生時代?それは社会人になってから?
●その経験は、苦労・失敗・成功...?
●それによる教訓は?概念変化は起きた?

テーブルごとに振り返りを共有しながらのディスカッション。
すこしアタマがほぐれてきたところでレクチャー1が始まりました。

最初のパートは、問題解決を学習主題とした授業の設計と実践。大人数でディスカッションには
向かない、LMSが使えない等の制約があるなか、ビデオ視聴とレポートを、相互閲覧を挟んで
2回行う構成です。ここでは、授業外での活動も含めた既有経験を概念化したり、他者の考えを知り、
それと対比しながら自らの考えを深めることを狙っています。
2回のレポートと事後のアンケートを丁寧に分析された過程や得られた知見を説明いただきました。

二つ目のワークは、前半のレクチャーを受け、2種類のお題をグループごとに選んで取り組みました。
一つは自身の実践、もう一つは自分自身に焦点をあてるものでした。

ワークの後はテーブルごとに発表をし、意見を交換し合いました。2つのグループは、実践している
ことの中での分析、1つのグループは自身それぞれの分析で、ワークを行いました。

続いてのレクチャー2では、別の授業実践での、さらなる挑戦とその経過、成果を通しての実践者の
内省と概念化をありありと語ってくださいました。共通の授業設計を使いながら、「自己調整学習」
を学習主題とする授業の実践です。
参加者はもちろん鈴木専攻長もときおり身を乗り出して聞き入っておられました。

最後に、仲林先生ご自身の、研究への取り組みや論文執筆にあたっての大変貴重な体験とその振り
返りを披露いただきました。多くの参加者が、アンケートでも大変参考になった、勇気づけられた」
「やる気が盛り返してきた」と好評価でした。

2つのレクチャーで紹介された取り組みの中で、よく学習が深まっている学生の感想には記述にも
具体性があることなどの話を聞き、普段アンケートなどになんとなく回答している自分をふと反省
したりもしました。

仲林先生、参加のみなさま、ありがとうございました。写真入りのレポートはまなばナイトの
サイトをご覧ください。
http://www.manabanight.com/info/manabanight31report

次回は、2018年2月24日(土)東京にて開催いたします。
http://www.manabanight.com/event/manabanight32

<参考文献>
・仲林清 (2015) 組織における問題解決を主題とするビデオとオンラインレポートを活用した授業実践.教育システム情報学会誌, 32(2), 171-185
・仲林 清 (2015) 問題解決を主題とするビデオとオンラインレポートを活用した授業の受講者レポート分析―受講者の問題解決経験の観点から―,教育システム情報学会研究報告,30(4), 17-24.
・仲林 清 (2017) 自己調整学習を主題とするビデオとオンラインレポートを活用した授業実践における学習者の意識調査,教育システム情報学会研究報告, 31(5),25-32.

(まなばナイト実行委員・熊本大学大学院教授システム学専攻同窓生 加地正典)

【案内】人財育成実践事例検討会@えひめ


「人財育成にインストラクショナルデザインを!」を理念に「人財育成実践事例検討会@えひめ」を企画いたします。本会では、インストラクショナルデザインの要素を活用し、様々な職域における人財育成について参加者同士がディスカッションすることで効果・効率・魅力的に向上させることを目指します。 本会を通じて愛媛県内にIDが浸透するとともに、人財の育成・活用の輪が広がることを願っています。

●第1回 人財育成実践検討会@えひめ 『新入社員をどう育むか』
コメンテーター 鈴木克明氏(熊本大学教授システム学研究センター教授)
        小笠原豊道氏(株式会社オフィスKojo 代表取締役社長)
日時:2018年3月11日(日)13:00~17:00(13:00~受付)
場所:愛媛大学 愛大ミューズ3階(愛媛県松山市文京町3)     
問合:medicalprestige16@gmail.com (菊内) 
申込:https://goo.gl/forms/OJuWfGkL4CJPnDXq1

【協力依頼】「IDお悩み解決QAサイト」アンケートのお願い

11月にリニューアル公開された「IDお悩み解決QAサイト」をご覧いただけましたでしょうか?
「IDお悩み解決QAサイト」とは、eラーニング、あるいは授業や研修をデザインする際に出てくる「お悩み」に対して、インストラクショナルデザイン(ID)の観点からの解決策をご提案するサイトです。熊本大学教授システム学研究センター鈴木克明研究室が開発・運営しています。

ただいま、本サイトの利用者アンケートを実施しています。ぜひご協力をお願いします!

IDお悩み解決QAサイト
http://suzu-lab.sakura.ne.jp/qa/

【イベント】その他、近々行われるイベントは? 2018/1~2018/3

2018/01/13(土)
2017年度熊本大学公開講座 インストラクショナルデザイン応用編@大阪
2018/01/14(日)
2017年度熊本大学公開講座 インストラクショナルデザイン応用編@福岡
2018/01/28(日)
2017年度熊本大学公開講座 インストラクショナルデザイン応用編@東京
2018/03/03(土)
日本教育工学会研究会「プログラミング教育・LA/一般」@尚美学園大学
2018/03/05(月)
大学教員のためのFD 研修会(ワークショップ)@東京工業大学

★ 編集後記

時差を感じたのも、飛行機で足がパンパンになる経験も久しぶりすぎて、新鮮でした:)
今回はハンズアウトなワークショップスタイルも多く、いろんな方の話を聞き、議論できたことは楽しかったです。
特に、参加したセッションについて他の方と報告し合うことで理解を深められたのが良かったです。リフレクションって大事ね、と思う機会でした。

(第71号編集担当:根本淳子)
よろしければ、お知り合いの方に、Webからの登録をお勧めしてくださいませ。
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ご意見・ご感想・叱咤激励など常時お待ちしております!
【 mail to: id_magazine@ml.gsis.kumamoto-u.ac.jp】
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編 集 編集長:鈴木 克明
ID マガジン編集委員:根本淳子・市川尚・高橋暁子・石田百合子・竹岡篤永
発 行 熊本大学大学院社会文化科学研究科 教授システム学専攻同窓会
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謝辞

本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

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