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IDマガジン第109号

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2022年6月6日━━━━
<Vol.0109> IDマガジン 第109号
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皆様、いつもIDマガジンのご愛読ありがとうございます。
最近は涼しくなったり、暑くなったりの変化の激しい日が続いています。体調はいかがでしょうか。今回も、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。


今回のコンテンツメニューはこちら↓

《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(93):未来人材会議の中間とりまとめと通称まなパタの同日公開について
2. 【修論紹介】課題分析図に基づき紙媒体とデジタル媒体を融合した改訂版ジョブエイドの設計と開発~在宅酸素療法導入時の理学療法士の役割に着目して~
3. 【ご案内】2022年6月25日まなばナイト
4. 【イベント】その他、近々行われるイベントは?
★ 編集後記

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【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(93):
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ヒゲ講師のID活動日誌(93):未来人材会議の中間とりまとめと通称まなパタの同日公開について

相変わらずオンラインの仕事が続く毎日ですが、読者諸氏はいかがお過ごしでしょうか。今回は、2022年6月1日に公開された二つのネタを紹介します。

一つ目は、経済産業省の未来人材会議が公表した中間とりまとめ。「未来人材ビジョン」と題する108ページのパワポスライドで、2050年に向けた雇用・人材育成や教育システムについてのビジョンをまとめたもの。「関係者の議論を喚起するためのもの」(p.106)だそうだから、我々も(誰のこと?)議論せねばなるまい。これから向かうべき方向は2つで、第一に旧来の日本型雇用システムからの転換、第二に好きなことに夢中になれる教育への転換。小学校から企業まで幅広く具体策が提案されているので、それぞれが置かれている立場で、前後の位置づけを眺めながら、言いたいことが出てくるだろうと思う。「雇用・人材育成と教育システムは、別々に議論されがちであるが、これらを一体的に議論することに、意義がある。」(p.12)とのスタンスが取れるのが経産省ならではのことだろうか、教育が目指す姿を現在との比較で図示し(p.84)、「デジタル時代では、教育を①「知識」の習得 と、②「探究(”知恵”)力」の鍛錬という2つの機能に分け、レイヤー構造として捉え直すべきではないか。」(p.83)とまとめている。「未来の教室」実証事業(https://www.learning-innovation.go.jp/)で具体的な実践を積み重ねてきたことが背景にあるので、説得力も感じる。まぁ、いろいろ批判的な意見もあるだろうが・・・。

二つ目は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)がまとめた「大人の学びパターン・ランゲージ(略称まなパタ)。学び続けている実践者の方々にインタビューでお話を伺い、その考え方や工夫、課題を整理し、抽象化することによって「考えるヒント」を30のパターンで整理したもの。A.出会いや気づきを楽しむ(マインド)、B.自分を大切にしたデザイン(学び方)、C.自分と学びのブラッシュアップ(実践)、D.知のシェアリング(コミュニティ、社会)の4つのカテゴリーで、社会人になってからも大人が学び続けるための知恵を表現している。「A1 実はそこにある」から「D6 わたしの学びは人類のバトン」まで、「え、それって何?」と思えるネーミングで登場する30個のパターンには、どんな問題状況があり得るか、それは何故、起きてしまうのか、どう行動したらよいのか、その結果、何がもたらされるのかが1枚のカードにまとめてある。パターン・ランゲージは、まちづくりや職場づくりのルール、あるいは建築、ソフトウェア分野での応用が試みられてきた。人間の行為についても、ラーニング、コラボレーション、プレゼンテーション、探究、進路など様々な領域での知恵がまとめられ、対話的なワークショップで活用されてきた(https://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/patterns_j/index.html)。IPAからは今回公開した「まなパタ」の前に、「トランスフォーメーションに対応するためのパターン・ランゲージ(略称トラパタ)」(https://www.ipa.go.jp/files/000082043.pdf)も公表されていたことを今回初めて知った。変革が求められている今日、どんな形で活用できそうか、併せて検討してみるとよさそうだ。

ウクライナの停戦と世界の平和を祈りつつ。
(ヒゲ講師記す)


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【修論紹介】課題分析図に基づき紙媒体とデジタル媒体を融合した改訂版ジョブエイドの設計と開発~在宅酸素療法導入時の理学療法士の役割に着目して~
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2021年度 熊本大学大学院 教授システム学専攻同窓会 優秀論文賞を受賞した修論を紹介します。

私は昨年度に熊本大学大学院の教授システム学専攻博士前期課程を修了した。卒業に際して修士論文を作成した。今回は有難いことに修士論文の内容について皆様に解説する機会をいただいた。解説文章を読んで興味を持たれた方は、是非参考リンクの実際の修士論文をお読みいただければ幸いである。

[題目]
課題分析図に基づき紙媒体とデジタル媒体を融合した改訂版ジョブエイドの設計と開発~在宅酸素療法導入時の理学療法士の役割に着目して~

[背景と目的の解説]
私は、病院で理学療法士の仕事をしており、呼吸器疾患の患者の理学療法に従事している。その中で、手順が煩雑で失敗の影響が大きい、在宅酸素療法の導入を今回のテーマとした。在宅酸素療法とは、読んで字のごとく在宅に酸素を持ち帰って生活を行う人たちのことである。在宅酸素療法の導入は、担当理学療法士の力量により患者の生活範囲や生命予後にも関わる重要な課題である。

目的の達成のために修士論文で使用したインストラクショナルデザインの道具は大きく2つある。1つは課題分析図である。課題分析図は、仕事のパフォーマンスをタスク(課題)に分解して概念図にまとめたものである。課題分析図は、作成することで問題点が明確になると報告が多くある。2つ目はジョブエイドである。ジョブエイドは、「必要なものを、必要な時に、必要な形で提供するツール」である。もっと平易な言葉で記すと「カンニングペーパー」である。つまり、今回の研究は、入社1年目の新人理学療法士でも、10年目と同じ「在宅酸素療法導入の理学療法士」のパフォーマンスを発揮できる“カンニングペーパー”を作成したということになる。

課題分析図やジョブエイドは、過去にも多くの研究が行われている。では、今回の修士研究のどこに新規性があったのか。ジョブエイドは一般的には、業務遂行中のみを支援するツールである。しかし、今回のジョブエイドは、業務前後の準備物や事前の知識なども支援できるように設計した。そのパフォーマンス全体を支援できるジョブエイドの開発を実現させたのが、詳細な課題分析図とそれに基づいた設計、開発である。


[方法の解説]
 開発方法は、ADDIEモデルに従って進めた。分析フェーズで最も重要視したのは、課題分析図の作成である。まず、ニーズの分析と熟達者の観察を行った後に、ジョブを72個のタスクに分解して5つのゴールに概念化した。その後、内容領域専門家とIDの専門家によるレビューを行っていただき課題分析図の妥当性を高めた。最終成果物の課題分析図は下記のリンクを参照いただきたい。設計と開発は、課題分析図を全て満たすように行った。今回のジョブエイドは患者の目の前で使用するため紙媒体である必要があった。

 しかし、全てを満たすカンニングペーパーとするには、膨大な枚数となり持ち運びなどに不便になる可能性があった。そこで、工夫点として患者の目の前で使用する必要がない内容は2次元バーコードでデジタル化した。また、STEP毎に順番に見るとタスクが完了していく作りとしてユーザビリティを高めた。さらに各STEPは、難易度別に4つの小項目に分かれている。そのため、初心者だけでなく熟達者まで全ての人が使用できるジョブエイドとなる工夫を行った。ご興味のある方は、ジョブエイド概要の参考リンクを参照いただきたい。

 形成的評価は、専門家のレビューとともに、課題分析図を用いて作成した“シミュレーションテスト”と“パフォーマンスチェックリスト”を用いて実施した。シミュレーションテストは、紙面上で既存のジョブエイドと改訂したジョブエイドを使用して比較を行いカークパトリックの4段階評価のレベル2である「学習」を評価した。パフォーマンスチェックリストは、実際に臨床場面で患者に使用して指導者がチェックリストで確認して、カークパトリックの4段階評価のレベル3である「行動」を評価した。これらの形成的評価から、課題分析図とジョブエイドを改訂して最終版を完成させたところまでを修士論文として提出した。

 現在は、対象群を用いてのシミュレーションテストと実際の使用者を増やしてのパフォーマンスチェックリストの小集団評価の実施を予定しているところである。

[参考リンク]
修士論文:
https://drive.google.com/file/d/1Kqd983UEb4qJE23jy4896TxbzzZG1UT2/view?usp=sharing
課題分析図:
https://drive.google.com/file/d/1HKQZ-TxXG9aJnzAdbIiXLGPtQv5qpDkQ/view?usp=sharing
ジョブエイドの概要:
https://drive.google.com/file/d/10k8WxzSSW6a_f_1Q-4vOhYYH9w-OraUN/view?usp=sharing

Mail:sokunoh1@aih-net.com
ご意見やご感想などございましたら、上記のメールに送付いただけましたら幸いです。
(熊本大学大学院教授システム学専攻 博士前期14期生 奥野将太)

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【ご案内】2022年6月25日まなばナイト
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第55回まなばナイトのテーマ

LTトラック特別企画「IDとIT(仮)」

2022年度より、熊本大学教授システム学専攻ではLearning Technologistの育成を主眼にしたLTトラックを設定、IT系の科目についてもIDトラックでの必修やLTトラックの学生との共同プロジェクトなど、カリキュラムの更新が行われました。

第55回まなばナイトでは、喜多先生をお招きし、LTトラック特別企画としてIT系のテーマで開催します。

今年度から組み替えが行われたIT系の科目について、その狙いや内容、来期開講を予定している「eラーニングのUI/UXデザインとゲーミフィケーション」
https://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/gsis/curriculum/masters-program/#lt11
についても概要をお話しいただきます。

話題提供の詳細やグループセッションの企画はまとまり次第お知らせいたします。気になる方は予定を入れておいてくださいね。
東京の会場(調整中)とオンライン(Zoom)でのハイブリッド開催を予定しています。
是非奮ってご参加ください!!

オンライン参加される方には前日にZoomへの招待メールをお送り致します。
※迷惑メールに振り分けられていることもございます。必ず前日までにご確認ください。
当日開催時間中は事務局が確認出来ないことがございます。メールが届いていない方は
午前中までに必ずご連絡ください。

【日時】
 2022年6月25日(土)17:00~19:30
 Zoom待機室入場時間 16:45~

【プログラム】

◎テーマ
 LTトラック特別企画「IDとIT(仮)」

◎話題提供
 ■喜多 敏博 熊本大学 教授システム学研究センター長・教授
 ■加地 正典 (博士前期1期生) 株式会社ビジネス・ブレークスルー システム開発部

◎グループワーク(Zoomブレイクアウト)
 テーマ IDとIT ICTの使いどころ(仮:変更になる場合があります)

CAI - Computer Assisted Instruction, Technology Enhanced Learningなど、教育にテクノロジーを取り入れる取り組みから、今やありとあらゆる生産的活動にITが使われている時代になりました。
Learning Technology を実装する専門家とInstructional Designerは、どのように知識を共有し、また連携していくのでしょうか。

といっても堅苦しい議論ではなく、身近にある事例や課題を共有しながら、ITとの関わり方を考える機会にしてみませんか。

ブレイクアウト終了後、グループで話したことや登壇者への質問など全体共有します。
異分野の参加者同士のグループトークを通じて、分野を超えた共通の課題や教育・研修の改善の手がかりが見つかれば嬉しいです。

◎クロージング

【定員】専用フォームからの申込み 先着 東京会場 10名 オンライン 90名
【会場】東京(調整中)とオンライン(Zoom)でのハイブリッド開催となります。
【参加費用】無料
 ※おつまみ、お茶菓子、ドリンク類につきましては、各自ご用意ください。
【懇親会】(オプション)
まなばナイト終了後、Web懇親会を予定しています。
懇親会のみ参加については、info@manabanight.comへお問い合せください。

【まなばナイトへのお申込み】
お申し込みは、こちらから https://forms.gle/nkKVtKY6VeSBUddG9

6月23日(金)正午までにアクセス方法を登録いただいたメールアドレスにお知らせします。6月23日(金)正午にメールが届いていない場合は、事務局までご一報ください。

【キャンセルについて】
まなばナイト参加キャンセル等のご連絡は,6月23日(金)までに info@manabanight.comまでお願いいたします。使用するシステムの都合上,当日の参加取消しはご遠慮ください。

【主催者】熊本大学大学院教授システム学専攻同窓会  https://www.gsis.jp

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6月25日(土)以降のまなばナイトの予定は次の通りです。
場所は仮で、オンライン開催の可能性もあります。

8月20日(土)名古屋
10月15日(土)関西?
12月17日(土)
2月25日(土)

詳細はまとまり次第告知サイトにてお知らせいたします。
http://www.manabanight.com/


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【イベント】その他、近々行われるイベントは? 2022/6~2022/7
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2022年6月25日 (土)
第55回まなばナイト

2022年7月2日 (土)
日本教育工学会研究会 教員養成・研修とICT活用/一般@信州大学※実施形態検討中

2022年7月10日 (日)
日本教育メディア学会 2022年度第1回研究会@東京学芸大学

2022年7月16日 (土)
教育システム情報学会 第2回研究会 ICTを活用した学習支援と教育の質保証/一般@北星学園大学 


★ 編集後記
晴れの日は自転車で通勤しています。タイヤを変え、ブレーキワイヤやギアも変え、快適に走れるようになりました。でももうすぐ梅雨。いや… 通勤も仕事もできるときに楽しみます!(第109号編集担当:竹岡篤永)

よろしければ、お知り合いの方に、Webからの登録をお勧めしてくださいませ。
また、皆さまの活動をこのIDマガジンに載せてみませんか?
ご意見・ご感想・叱咤激励など常時お待ちしております!

【 mail to: id_magazine@mls.gsis.kumamoto-u.ac.jp】

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<編集>
編集長:鈴木克明
副編集長:市川尚・根本淳子
ID マガジン編集委員:石田百合子・甲斐晶子・桑原千幸・高橋暁子・竹岡篤永・仲道雅輝

<発行>
熊本大学大学院社会文化科学研究科  教授システム学専攻同窓会
http://www.gsis.jp/

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謝辞

本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

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