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天木(高橋)暁子(2012)「学習課題分析に基づく自己主導的な学習を支援するeラーニングシステムモジュールの開発研究」『熊本大学大学院 社会文化科学研究科 教授システム学専攻 2011年度提出博士論文』
本研究は,自己主導学習スキルの獲得の基盤となる,自己主導的な学習の支援を可能とする統合的なeラーニング環境の構築を目指した研究である.自己主導学習スキルとは,学習内容の選択,学習方法の選択,進捗管理(自己評価)といったスキルである.自己主導学習スキルは,自己主導的な学習環境で学習を継続することでこそ向上すると考えられる.そこで,インストラクショナルデザインにおける学習者制御の知見を踏まえて,「学習者に選択権をゆだね,システムからは選択の際のアドバイスを与えることにとどめる」ことが可能な自己主導的な学習環境を実現するために,学習課題分析に基づく3つのツールの開発と有用性の検証を行った. なお,3つのツールは最終的にあらゆるLMS(Learning Management System)で動作することを目指して,モジュールとして開発した. 1つめのツールは,学習者対象の学習内容選択支援ツールLCM(Learner's Controlling Map)である.LCMは,自己主導的な学習を支援する学習課題構造の表示と進捗状況の可視化,ならびにアドバイスの提供等の機能を LMSに付加することができる. 学習課題構造 の表示とは,学習者に課題分析図を示すことで,学習項目間の関係性を直感的に把握させ ることを狙うものである. e ラーニングシステムにおいて, 系列化された目次が提示される 場合,どの学習項目から学習してもよい箇所があったとしても,直列に表示されるので学 習者にはわかりにくい.しかし LCM では項目が並列に表示されるので,どれを選択しても よいことが伝わりやすい. 進捗状況の可視化とは,学習項目を色分け表示することである. LCM 内の各学習項目は,小テストの成績と,学習課題構造に応じて 5 色で表示した . 進捗 状況が可視化されていないシステムに比べ, LCM の方が学習者は何がどこまでできている かを把握しやすいと考えられる. また,アドバイスの提供とは, 学習者が LCM 内 の アドバ イスボタンをクリックしたとき,学習順序のメッセージ を提示する機能である.ただしあ くまでアドバイスの提示にとどめたものであり ,学習者の進捗に合わせてシステムが自動 的にアドバイスを提示する機能は実装し てい ない .この ように, LCM は学習者が実際にど の項目を選択するかは強制しないが, 学習課題構造の表示と進捗状況の可視化の 2 つによ って,学習者自身による「 次に何を学ぶか(学習内容)」の選択を効果的に支援することを 目指した . さらに, ドラッグ操作で図の移動や拡大・縮小ができる機能などを付加し,操 作性にも配慮した. 学習 者は LCM の以上の機能を参考にし,最終的に自分が学びたいと思 う学習項目をクリックすることで,選択した学習項目の教材を表示する. 学習者による形成的評価の結果, 操作性に大きな問題がないことが分かり,常に課題分 析図が表示され,構造の上下関係を把握できること,色によって進捗状況が直観的に把握 できることに関して アンケートで有用性が確認できた. 以上から , LCM が持つ 学習課題構 造の表示と進捗状況の可視化 によって,学習項目の選択を効果的に 支援できていることが 示唆された. さらに 副次的な効果として,学習意欲の向上も示唆された 2 つめのツールは, LCM の追加機能として開発した 事前・事後テスト モジュールである. 事前・事後テストモジュール は , 学習課題構造 に基づいて出題制御をするネットワーク型 モデルの 適応型テスト である.ネットワーク型モデルの適応型テストの 能力推定における 予測効率の良さは先行研究で明らかであるため,本研究では能力 推定 よりも学習支援を主 目的とした.具体的には 学習開始時および終了時にテストを実施し, テスト後 のレビュー 画面で , フィードバックとして テストの 成績に応じて色分けされた LCM を 提示することで , 学習者自身が 「何ができて,何ができないか」 を把握 する 「 自己評価 」 の支援 を狙 った . 学習者による形成的評価の結果 , 学習前に評価をし, テスト後のレビュー画面で表示さ れる LCM によって学習者自身が修得箇所と未修得箇所を把握できるため, 効率よく学べる 点に関して学習者アンケートで有用性が確認できた. また, LCM によって学びたい学習項 目を素早く表示できる点も有用だと考えられていることがわかった. 3 つめのツールは, 教授者対象の 課題分析図作成 GUI ツール( LCM エディタ ) である. LCM エディタを用いれば, LMS 上で マウス操作によって 学習コースのセクション構造を 明らかにする課題分析図を作成でき, LCM ならびに事前・事後テストモジュール と連携す ることで学習者の自己主導的な学習を支援できる. なお, 本研究が対象とする教授者とは, 課題分析手法を知らないが,科目内容に関しては専門的知識を有する者である. よって本 研究では, このような科目内容の専門家が, LCM エディタを用いて LMS 上にある既存 の 学習 コースの適切な課題分析図を作成できることを目指した . そこで,課題分析図の作成 方法を知らない 教授者 のために, 作図中に表示される 自動メッセー ジ と,課題分析図の例 などを含んだ詳しい情報を提示する ヘルプボタン の 2 つのアドバイス機能を付加した. な お ,アドバイス機能において,どのようなタイミングで,どのような情報を提供するべき か,また利用者がどこでつまずくかについては,形成的評価の結果をふまえて考察するこ とと した . 形成的評価の結果,インターフェースの好みに個人差があるものの, 被験者 全員が短時 間で課題分析図を作成でき,操作性に大きな問題はないことが確認できた. さらに本研究 の対象者である科目内容の専門家が,事前に著者が用意した評価基準を満たす課題分析図 を作成したこと から, LCM エディタ を用いて適切な課題分析 図 を 作成できること を 確認で きた. よって, LCM エディタ を用いて作成した課題分析図を LCM ならびに事前・事後テ ストモジュール に適用させる ことで,学習者の自己主導的な学習を支援できると言える. また副次的効果として,教授者間で課題分析図を示しながら教授設計について議論するこ とで,既存の e ラーニングコースの改善に役立つことが示唆された. さらに 科目内容の専 門家にとっては, 学習項目間の上下関係よりも,最終的な学習目標の設定や,学習項目の 粒度の設定について支援を行うとより使いやすくなることが示唆された本研究で開発した以上のツールは,国内外で広く利用されている LMS である Moodle へ の実装を行なった.ツールの主要部分は Adobe Flash8 および Action Script2.0 で開発した. Moodle 以外の LMS に移植する際には, LMS 側の要件として, (1) 学習コース内でセクシ ョン構造を持つこと, (2) セクションごとの評価が可能であること, (3)API が利用できる, も しくは既存データベースの構造が明確でアクセス権限があること, (4) モジュールによる 機能拡張が設計されていることの 4 点が必要だと考えられる. (1) について は, Moodle の学 習コースは,セクションという単位で小分けにし, 1 つのセクション内にテキストや小テス トなどの複数コンテンツを保持することが可能であった.そのため,学習コース内の構造 関係を課題分析図で表現するということは,セクション間の構造関係を明確にすることを 意味する. よって, 学習コース内にセクション構造を持ってい ることが LMS 側の要件とな る . (2) につい ては, LCM は,各セクションに 1 つずつ配置した小テストモジュールを修得 状態判定に用いている. よって, LMS 側の要件として,セクションに関連付けた評価機能 を持っている必要がある. (3 ) について は, 成績情報などのデータを読み書きする必要があ るため, 既存のデータベース構造が公開で あるか , API が用意されていることが必要とな る. (4) については, モジュールやプラグインといった機能拡張が設計されていない場合, 本研究で開発したツール の実装は困難であることが予想される. 以上の要件を満たす LMS であれば, LMS の仕様に準じてデータ入出力スクリプト ( getStructInfo.php, setStructInfo.php, getNodeInfo.php, setNodeInfo.php ),およびブロ ックモジュール用プログラム( block_course_sections_struct.php, config_instance.html ) を修正することで 実装可能である . したがって,一般的な LMS のへの付加機能として自己 主導学習支援の機能を広く一般に供することが可能になったと考えられる. 以上から,次の 3 点について 自 己主導的な学習の支援を可能とする統合的な e ラーニン グ環境の構築 に貢献できたと考えている. 自己主導的な学習支援環境においては,学習者制御にもとづく e ラーニングシステ ムのアドバイス機能の一つとして,構造図つきの進捗 (成績) 表示機能が有用であ ることを 学習者による形成的評価で確認した . 学習者対象の 学習 支援ツールと連携した,教授者対象の課題分析図作成支援 GUI ツ ールも開発したことで, 教授者は 自己主導的な学習を狙った e ラーニングコースを 設計・ 開発 しやすくなった. 開発したすべてのツール は, LMS の拡張 モジュール として開発したため,現場です ぐに利用可能である