2004.11.21.第22回 ICTE情報教育セミナーin仙台・第3回 ICTE東北支部情報教育セミナー,東北電子専門学校 (仙台市)


教科「情報」で育てる学力と評価をめぐって
〜付録:きわめて個人的な意見表明(目指せ爆弾発言)〜


ICTE東北支部長
岩手県立大学ソフトウェア情報学部教授 鈴木克明
ksuzuki@soft.iwate-pu.ac.jp
http://www.et.soft.iwate-pu.ac.jp/



1.表裏一体の目標と評価

教科情報で育てる学力が何かは、学習指導要領に記載されているとおりである。この目標に向かって、日々の教育活動を展開するのが教師の勤めであり、すべて の授業デザインの基礎要件として学習指導要領は存在する(逆から見れば、教師の独創的な授業デザインは、学習指導要領に即して『この授業が狙っているのは 学習指導要領のここに書かれた目標です』との説明さえ可能であれば、突飛なアイディアでさえも許容される。いわば、免罪符のような存在でもある)。

一方の評価は、学習活動の成否(つまり目標への到達度)を確認する作業全般を指す。つまり、教科情報で育てたいとされている学習目標に向けて、実際の授業 では『どの程度迫れているのか』を明らかにする作業を評価と呼ぶ。評価の対象は、個々の生徒の知識・理解であり、思考・判断であり、技能・表現である(文 科省的には関心・意欲・態度も加わる)。

個々の生徒の学習成果が一定の基準に到達すれば、単位を認定することになるが、未到達であれば『満足した学習成果が得られない』と判断され、単位は認定さ れない。生徒にとって、単位が認定されるかされないかは極めて重要な(ハイステイクという)結末をもたらすので、慎重に決定され、生徒に対して学習活動が 開始される時点で通知されている必要がある。

教科情報の授業で目指す目標に到達するかどうかは、生徒個々の能力や経験、あるいは努力にもよるが、同時に授業の質にも左右される。どんな生徒でも完璧に 学習指導要領の示す学習成果を達成させることは困難であるが、できるだけ多くの生徒に、できるだけ高みに登ってもらうように工夫するのが授業のプロとして の教師の役割といえよう。この観点からは、生徒個々の学習成果の結果が総体として、『授業の評価』に結びつくことになる。

教師はあれこれ工夫をして、生徒の実態と教科情報の目標とを睨みながら、何をどのように進めていくと効果があろうか、と日々考えながら授業を進めていく。 ときにはインターネット上で豊富に公開されている先達たちの授業プランを参考にしながら、あるいはまた、教師自身が研修会や書籍から仕入れたネタを自分な りに膨らませて『オリジナル』と自慢できそうな授業プランに仕上げながら、あるいはもっと日常的には(?)教科書に寄り添って演習問題を解かせていきなが ら、授業を展開する。その結果が生徒個々の学習成果の集大成として蓄積されていくのである。

教科情報の評価は目標と表裏一体であり、目標がどの程度達成されたかを調べる活動といえる。それは、生徒にとっても教師にとっても重要な情報を提供してくれる。

2.評価を組み込んだ授業実践

平成12年12月の教育課程審議会答申及び平成13年5月の国立教育政策研究所教育課程研究センターの中間整理を受け,平成14年度からの小・中学校の新 しい学習指導要領の実施に向け手評価をどのように日常化していくかについての研究が各地で行われてきた。国立教育政策研究所の教育情報ナショナルセン ター(NICER)にも、小・中学校全教科についての観点別評価規準が公表され、それを基に各地での取り組みがなされている。高等学校については、教科情 報だけではなく少し遅れ気味になっているので、一足先を行く小・中学校の様子は参考になる。

愛知県総合教育センターでは、「評価規準,評価方法等の研究開発に関する研究」の研究成果を「評価規準,評価方法等の開発の手びき」や「評価に関する Q&A」としてまとめ、ホームページ上に公開している(http://www.apec.aichi-c.ed.jp/shoko/hyouka /q&a/qanda.htm)。評価の基本は、(1)学習の評価は,教育改善の方法である。(2)学習の評価を行うことは,学校の基本的な責務 である。(3)児童生徒にとって,評価は自分を見つめ直すきっかけであり,その後の学習や発達を促すものである。の3点にあるとし、基本的な考え方として 次の事項を掲げている。

出典:http://www.apec.aichi-c.ed.jp/shoko/hyouka/14kousin/tebiki/tebiki.pdf

 広島県教育委員会のホームページには、「学習状況の評価の在り方に関する手引き」が公開されてい る。(http://www.pref.hiroshima.jp/kyouiku/hotline/05junior/1st/hyouka /index.html)。評価についての基本的な考え方が図1のように整理されており、とても分かりやすい。さらに、ホームページには、学校における評 価の取り組みの流れ図があり、評価を組み入れた年間授業計画(シラバス)の要件が、旧来のやり方と対比して描かれている(図2)。年間計画の構成要素とし て(3)具体的な到達目標と(6)評価方法(結果責任)についての計画を組み入れることを提案しているところが特筆に価する。

評価については、授業が終わってから考えることがこれまでの慣例であったと思われるが、評価の計画を授業をやる前から策定し、それを生徒にあらかじめ伝え ておくことが重要である。特に高校生の場合、自分の学習に責任を持たせ、自分なりの学習方法を模索させるためにも、まず授業の目標がどこにあるかを知ら せ、「そこに到達するかどうかは個人の責任だよ。先生は必要に応じて協力するよ」というスタンスを取ることが求められていると思う。

3.おわりに:教科情報での評価規準と授業改善

平成16年3月、国立教育政策研究所教育課程研究センターは、「評価規準の作成,評価方法の工夫改善のための参考資料(高等学校)-評価規準,評価方法等 の研究開発(報告)-」を公開した(http://www.nier.go.jp/kaihatsu/kou-sankousiryou/html /index_h.htm)。その第10章に教科情報が取り上げられ、30ページに及ぶ資料の中に、評価の観点及びその趣旨だけでなく、情報A,情報B, 情報Cそれぞれの内容のまとまりごとの評価規準とその具体例、ならびに、単元の評価に関する事例を掲載した。各教育委員会並びに教科情報の実施校において は、この資料を基にして、地域や学校の実態に応じた評価基準を策定したり、単位認定の最低基準を設定することが可能になった。

それ以前から各地の研究会などで提案されてきた試案(たとえば、神奈川県高等学校教科研究会情報部会情報教育委員会作成の情報A・B・Cの評価規 準:http://www.johobukai.net/ download.htm)なども参考に、生徒にとって何の授業かが分かりやすく、教師にとっ て自分の授業に手ごたえが感じられるような評価のあり方を模索し共有していくことを願っている。



図1 評価についての基本的な考え方 出典:「学習状況の評価の在り方に関する手引き」(広島県教育委員会のホームページ) http://www.pref.hiroshima.jp/kyouiku/hotline/05junior/1st/hyouka/index.html

図2 評価を組み入れた年間授業計画(シラバス) 出典:「学習状況の評価の在り方に関する手引き」(広島県教育委員会のホームページ) http://www.pref.hiroshima.jp/kyouiku/hotline/05junior/1st/hyouka/index.html


教科「情報」で育てる学力と評価をめぐって
〜付録:きわめて個人的な意見表明(目指せ爆弾発言)〜
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※本資料は、Web公開のために、当日用いたプレゼンテーション資料(一部)の内容を箇条書きに直したものです。
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この発言は、一人の教育工学研究者としての鈴木個人の見解を表明するものであり、文科省の立場や岩手県立大学の立場やICTE東北支部の考え方はこうである、と主張するものではありません。世の中にはいろんな考え方がありますので、ご注意ください。
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評価について言いたいこと

1.人を評価することはできない
2.評価は最後にやるものではない
3.プロセスは評価すべきではない
4.関心・意欲・態度の観点別評価は教員の自己評価(授業評価)に限定して用いよ
5.重みをつけて足し算してはいけない
6.自己評価力は育てなければ身につかない
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1.人を評価することはできない

・評価が可能で、評価すべきは、
  生徒があることを知っているかどうか
  生徒があることができるかどうか
  生徒があることをやったかどうか
・「情報」の成績が良くても、それはすぐれた人間であることの証ではない
・君は信用している。でも君のやることは信用していない
・罪を憎んで人を憎まず
・人の評価は神様だけができること。教員は神様ではない
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2.評価は最後にやるものではない

・評価計画を立てるまでは、授業の準備が終わったとは言えない。
  ゴール・最低基準設定としての評価計画
・生徒には、あらかじめ評価方法・最低合格基準を公開しなければならない。
  シラバスでの『契約』としての評価基準の公開
・単位取得最低条件を満たしたら、あとは生徒の自由に任せよ(自己選択・自己責任)
・改善・向上の余地を残して中間段階で評価せよ(形成的評価)
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3.プロセスは評価すべきではない

・頑張っているところを教師に見られたくない。他人に見せるのはみっともない。
・試行錯誤を保障せよ。失敗から学ぶチャンスを奪うな。常に評価されていると思えば萎縮する。
・できるだけ頑張らなくてできるのが良い(効率を高める)
・プロセスではなく出入口を評価して成長を確認せよ
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4.関心・意欲・態度の観点別評価は教員の自己評価(授業評価)に限定して用いよ

・生徒の関心・意欲・態度を引き出すのは教師の責任である。
・生徒のやる気のなさを生徒のせいにするな
・生徒に責任がないことについて、生徒に評価をつけることはしない方がよい
・生徒の関心・意欲・態度は授業の魅力のバロメータとして調査せよ(反省材料として授業の評価・改善に用いよ)
・押し売りではなくセールスマンになれ
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5.重みをつけて足し算してはいけない

・重みをつけずに、ただ足してもいけない
・足し算で100点満点にすると、達成率0%の観点があっても単位を出してしまう
・とくに、関心・意欲・態度の観点を他の観点と合算するのはおかしい?
  授業(学ぶこと)に対する関心・意欲・態度を情報教育の目標としての「情報社会に参画する態度」につなげる工夫が必要
・それぞれの観点に最低基準を設定して、AND/ORで結んで評価すべし
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6.自己評価力は育てなければ身につかない

・生徒は評価され続けてきたけれど、自己評価や相互評価の経験はあまりない
・最初から、しっかりした評価はできない
・評価結果を共有することで、生徒に評価力を身につけさせる
・これが「情報」の授業を通して身につけさせるべき、重要な学習目標の一つ
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