Faculty Development Seminar 1
教育の質を維持するためにはどうしたらよいか
〜教育工学者からの提言〜
1998.4.27@岩手県立大学ソフトウェア情報学部
話題提供者:東北学院大学教授 鈴木克明
E-mail: suzuki@izcc.tohoku-gakuin.ac.jp
http://www.edutech.tohoku-gakuin.ac.jp/personal/suzuki/suzuki-j.html
1. はじめに
1.1. 話題提供者の視座について〜教育工学の定義
■教育工学とは、学習の過程と資源についての設計、開発、運用、管理、ならびに評価に関する理論と実践である。(米国教育工学会による定義;Seels & Richey, 1994)
■教育工学とは、学習を支援する道具(Artifacts)の開発と、その道具の使用技術の開発をする学問である。(佐伯胖、1990)
■教育工学とは、教育者がより適切な教育行為を選ぶことができるようにする工学である。(『日本教育工学雑誌』創刊号の定義;東洋、1976)
http://www.edutech.tohoku-gakuin.ac.jp/edu/define.html
1.2. 教育工学の哲学〜「教える」の成功的用法
「教える」の意図的用法:教える側に教えようという意図があれば,その行為を「教える」と言う。(cf.「これだけ教えたのにまだわからんのか!」)
「教える」の成功的用法:教える行為が何らかの学び(成功)をもたらしたとき,その行為を「教える」と言う。(cf.「教えるのが先生の仕事でしょ!」)
成功的用法で「教える」をとらえる立場(成功的教育観)が授業改善の前提となる。つまり,「教える」とは,「学びを支援すること」であると考え,学習成果で教育行為を評価する。
http://www.edutech.tohoku-gakuin.ac.jp/personal/suzuki/resume/books/1995rtv/rtv11.html
1.3. 大学授業の評価と改善〜未開の海原
「凡庸な教師はただしゃべる。よい教師は説明する。すぐれた教師は自らやって見せる。そして,偉大な教師は心に火をつける。」(ウィリアム=アーサー=
ワードの言葉を引用して)西澤学長曰く…「自分の知っている知識をただ話して聞かせるだけではロボットと大差はない。生徒や学生が理解しているか否かも考
えずにフォーマット通りに講義する。そして,成果をマルチプルチョイス式のテストによってチェックする。(中略)暗記させるだけでは,理解しようとつとめ
ている子供の脳のはたらきを刺激することにはならないし,大体そんな教育を続けていれば,質問されても的確な返事のできる先生がいなくなってくるから,全
体のレベル低下ははなはだしくなる。」(西澤,1996,p. 29-30)
2. これまでに試みたこと〜まずどこから手を付けるか
2.1. 定期試験以外の完全習得学習のための再チャレンジつき小試験
→資料1
http://www.edutech.tohoku-gakuin.ac.jp/personal/suzuki/resume/books/1997a03.html
2.2. 大人数講義における双方向コミュニケーション
→資料2
講義の終わりに毎時間コメントを書かせ,次の時間にコメントへのコメント付で返却と紹介
http://www.edutech.tohoku-gakuin.ac.jp/personal/suzuki/resume/books/1997a02.html
3. これは使えそうだと思ったこと〜他人様の事例をいくつか
3.1. PSIとコンピュータ教材を利用した統計学の授業設計(富山大向後さん)
→資料3,4
http://hyogen.edu.toyama-u.ac.jp/stat/(関連授業:言語表現;http://hyogen.edu.toyama-u.ac.jp/writing/home/home.html)
3.2. ユニット化した自己学習形態の入門情報処理教育(園田学園女子大)
→資料5
http://www.sonoda-u.ac.jp/jouhou/jyoho_k/kyoiku.htm
3.3. Webページを利用する東京情報大学の講義課目
→資料6
http://www.rsch.tuis.ac.jp/lectures.html
3.4. 講義と単位認定に対する基本的な考え方(埼玉大並河さん)
→資料7
講義ノートもWeb上で公開。なぜそうするかの説明が説得的。
http://www.eco.saitama-u.ac.jp/~hnami/kogip.html
3.5. 将来の方向として?〜School of Internet(WIDE大学)
→資料8,9,10
授業の内容や資料は主にWWWページで提供され,授業に関する個人的な通信は電子メールで,履修者間の討論はIRCで行い,レポート課題の提出は受講者各
自が自分のWWWページで公開して,URLを登録するという方式。1998年度開講科目は「コミュニケーションネットワーク論 (担当:村井 純
)」など
http://www.sfc.wide.ad.jp/soi/
4. 是非これからやってみたいと思うこと〜具体的にどう動くか
4.1. 講義は,全てビデオ録画する。
4.2. 全ての講義に,担当助手を割り当て,毎時間講義開始時に前時の内容についての「5分テスト」を実施する。
4.3. 評価は,学習過程ではなく学習成果を基に行う。
4.4. 研究・教育談話会を月1回,全教員を対象に実施する。
4.5. オリエンテーションなどを開催し,学生とのコミュニケーションを確保する。
c.f. 質の良い講義についての提言(鈴木)1998.02.22→資料11
5. おわりに
5.1. 入試から卒業生評価までのトータルシステム〜実学実践に向けて
エリート→マス→ユニバーサル;入口管理の破綻
出口管理(卒業資格試験)にしろ過程管理(退学勧告や留年)にしろ,教育の質の問題。カリキュラムの構造化と成績評価の標準化が重要。(天野,1997)
追跡調査の必要性(教育内容の妥当性評価も含めて)
5.2. 大学院教育への橋渡し〜実学実践と研究者養成の棲み分け?
最低習得レベルと進学希望者用追究課題の設置か
5.3. 教育推進システムの企画・維持コスト〜物心両面からの支え
ソフトウェア情報学教育の研究としての位置づけと取り組み
研究専念期間との連動
「授業を週に2回することにして,学期ごとに完結するようにする。そうすれば2年か3年かに一度は,一学期のあいだ,全然授業をもたなくてもよい時間をつ
くることができるようになる。これは,教授会の構成員のあいだで合意が得られればやれることだと思います。」(天野,1997,p.129)
参考文献一覧
背景など
西澤潤一(1994)『私の独創教育論』PHP文庫460
西澤潤一(1996)『教育の目的再考』(21世紀問題群ブックス10)岩波書店
天野郁夫(1997)『大学に教育改革を』有信堂
牟田博光(1997)『変わる社会と大学』放送大学教材 日本放送出版協会
技法集など
赤堀侃司編著(1997)『ケースブック大学授業の技法』有斐閣→資料1,2,9,10
香取草之助監訳(1995)『授業をどうする!〜カリフォルニア大学バークレー校の授業改善のためのアイディア集〜』東海大学出版会
PSI・個別教育システム・独学支援
向後千春・石井成郎・浦崎久美子(1997)「PSIとコンピュータ教材を利用した統計学の授業設計」『日本教育工学会研究報告集』 JET97-5 7-12→資料3
向後千春・石井成郎・浦崎久美子(1998)「PSIとコンピュータ教材を利用した統計学授業の実践と評価」『日本教育工学会研究報告集』 JET98-1 1-8
鈴木克明・井口巌・鷲尾幸雄(1997)『独学を支援する教材設計入門―教えることの奥深さと糸口を知るために―(第2版)』東北学院大学教育工学研究室
田中敏(1989)「日本の大学の授業にPSIを適用するためのマニュアル」『教育心理学研究』37 365-373→資料4
山本恒・原克彦・伊藤剛和(1996)「一般情報教育のユニット化による個別教育システムの開発」『私情協ジャーナル』4(4),(財)私立大学情報教育協会 16-20 →資料5