大学生協ソリューションセミナー初級
1995.5.19.@熱海後楽園ホテル
文系におけるコンピュータ利用教育の実践例
―教材設計実習から卒論指導まで―
東北学院大学 鈴木克明
E-mail:suzuki@izcc.tohoku-gakuin.ac.jp
■非情報系学部のコンピュータ環境
平成元年4月 東北学院大学教養学部新設
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人間科学 言語科学 情報科学 (3専攻)
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心理学 社会学 教育学
▲(所属)
平成2年4月 教育工学実習室へのMacintosh導入:For the rest of us....
目的:教育分野でのコンピュータ利用者(≠技術者)の養成
機種選定:できるだけ「透明な」道具(操作方法でなく活用方法を教える)
ハード:Macintosh40台、室内ネットワーク(LAN)と学内ネットワーク接続
ソフト:ハイパーカード、統合ソフト(クラリスワークス)他
平成7年4月 リース切れ、機器更新:やっぱりまたMacintosh
現時点でも、やはりMacintoshが一番「透明」
逆に、これまでのMacintoshの資産は他機種に移せない(特にハイパーカード)
一番身にしみたのは、5年間の性能向上と価格下落
■教育工学実習室での授業
2年次 教育学実験実習(通年2コマ、自由選択の専門科目)
ビデオ(前期)とMacintosh(後期)で教材をつくる実習科目
3年次 演習(通年1コマ、選択必修の専門科目)
卒業研究への準備科目(ゼミ)
4年次 総合研究(通年1コマ、選択必修の専門科目)
プロジェクト方式を取り入れた卒業研究(論文作成)
■「教育学実験実習」でのコンピュータ活用
ビデオ制作(前期):グループ活動で5―10分のビデオ作品をつくる
企画書→構成案→撮影と編集→アフレコとテロップ→試写会→アンケート→報告書
コンピュータ教材作成(後期):ハイパーカードで教材をつくる(個人又はグループ)
ハイパーカード入門(ボタンとフィールド、お絵描き、リンク、コピー&ペースト、カードとバックグランド)→企画書→教材構成図(リンク構造)→事前事後テスト →教材の試用と改善→報告書
使用ソフト/機能
●ワープロ:
・企画書を書いて、提出して、直されて、それを改訂・再提出する。
・試写会用のアンケートを作成して、必要部数を用意する。
・報告書を提出するために、ビデオ作成過程で準備した書類をまとめる。
●ネットワーク:
・企画書や報告書をネットワーク上の提出箱に提出する。
●ハイパーカード:
・カードを作成してそれをリンクし、自分の企画した教材を制作する。
・クリップアート、効果音などのフリー素材をコピー&ペーストして活用する。
・参考文献の図表やイラストをスキャナーで取り込んで活用する(任意)。
・CDの音楽や自分の声をマイクから取り込んで活用する(任意)。
成果
(1)ビデオ教材の作成過程で書類をワープロを使って準備させることで、Macintoshの基本操作やプリンタの使い方をマスターさせることができる。
(2)書き直しが必要な課題でワープロを使うことで、ワープロを使う意義が「清書」(仕上がりを奇麗に見せること)だけでないことを体験させることができる。
(3)ネットワークを使った課題提出で、ネットワーク環境に慣れさせることができる。
(4)ハイパーカードを使うことで、自分の考える教材をカードとそのリンク構造という構成単位で分析して企画させることができる。
(5)既存の素材を有効に活用することで、資源の有効利用を体験させ、同時に著作権についても留意する態度を身につけさせることができる。
(6)ボタンに連動して表示されるフィールドとカードを去るときの初期化(もとに戻すこと)についての簡単なスクリプト(プログラミング)を教えるだけで、学生がやりたいと思うことの大部分が実現できる。
(7)より高度なスクリプトが必要な場合は、教員がプログラムを組んで提供している(例:問題の出題順序を毎回変更する、選択肢の位置を毎回変更する、合
否を記録する)。それが組み込まれた教材をやってみることで、コンピュータを使えばこんなこともできるという可能性を体験させ、自分の教材にも組み込んで
みたいと思わせることができる(場合もある)。
■「演習」と「総合研究」でのコンピュータ活用
演習:卒業研究への準備科目(ゼミ)
今年度のテーマ:マルチメディア時代の学び
活動内容:1)本を読んでレジメを作って発表する
2)過去の卒論を読んでレポートする
3)自分が卒論でやってみたいテーマについて報告する
総合研究:プロジェクト方式を取り入れた卒業研究(論文作成)
昨年度のテーマ:人間とコンピュータを結ぶ
活動内容:1a)自作コンピュータ教材をつくってその効果を調べる(開発研究)
1b)コンピュータの教育利用の実態について調べる(調査研究)
2)研究の成果を論文の形にまとめ、口頭発表する
使用ソフト/機能
●ハイパーカード:
・開発研究で、自作コンピュータ教材を企画、設計、開発する。
・「教育学実験実習」での手法に加えて、プログラムを組んで機能を付加する。 情報科学専攻の学生と共同作業でプログラミングを分担してもらうこともある。
・イラストや音のコピー&ペーストに加えて、動画像を取り組んだ作品もあった。
●キャプチャー:
・コンピュータ画面を論文に引用するために、画面を画像ファイルに落とす。
●画像取り込みソフト:
・ビデオ画像をQuickTime方式で取り込んで、ハイパーカードに組み込む。
●ワープロ:
「教育学実験実習」での利用方法に加えて、
・論文本体を書く。
・「総合研究論文要旨」として、A4用紙2枚2段組みの要旨を用意する。
・表計算機能や作図機能を使って、得られたデータの図表を論文に挿入する。
・論文にページ番号をつけて、それをもとに目次を作成する。
・論文本体に注釈(脚注など)をつけて、語句の説明等をする。
・図表や引用文の出典を明らかにするために、参考文献一覧を作成する。
・教材構成図や実験に使ったテストやアンケートなどを付属資料として添付する。
●エキスパンドブック:
・研究成果を論文で表わすことに加えて、電子ブックで表現する試みも見られた。
●ネットワーク:
・学生ごとのスペースをサーバー上に与え、各自が教材開発や論文作成に関する資料を管理するために用いる。
・「総合研究論文要旨」例:A4用紙2枚2段組みの1枚目
・「総合研究論文」レイアウト例:A4用紙に書いたものを縮小
成果
(1)研究の歩みを電子的に管理することで、段階的に卒論が用意できる。つまり、レジメなどで用意した内容をコピー&ペーストして、卒論の一部に組み込む
ことが容易にできる。論文全体の構成を考える作業と、部分的な内容を過去の作業の成果から組み込んでいく作業を平行してできるので、論文の構成を書く内容
に応じて変更できる。
(2)卒論は長い文章になるので、全部を一度に用意することはできない。できた部分から添削指導を受け、その結果をすぐに組み込み、平行して別の部分の執筆を行うことなどは、ワープロなしには考えられない。添削する方にとっても、遠慮なく赤が入れられる。
(3)統合ソフトを用いることで、テキストファイルだけでなく、グラフィックスや画面コピーなどの卒論の部品管理が簡単になる。文字情報に頼ることなく、図表やグラフィックスを多く入れられるので、読みやすくわかりやすい卒論に仕上がる。
(4)ワープロソフトのページレイアウト機能、自動ページ番号挿入機能、注釈管理機能などは、とても便利である。限られた時間でよい卒論を書くためには、
内容の吟味に当てる時間をできるだけ多くとる必要がある。これらの機能を使いこなしている学生は、最後の最後まで内容を変更できる。
(5)卒論がきれいな形で残ることは、学生の達成感・成就感を高める。また、過去の卒論が立派に見えると、あとに続く後輩達によい影響を与える。あのゼミ
は何だか大変そうだといううわさとともに、レベルの高い結果が得られるといううわさもたつ。本当かどうかは本人にもわからないが。
■日本語の論文作成とワープロ機能(まとめ)
(1)ハイパーカードやエキスパンドブック、キャプチャー等を卒業論文に使うことは、研究内容が教育工学(教材設計)であるための特殊事情であり、ハイ
パーカードを使った文献整理などは考えられるものの、あまり一般的ではないだろう。しかし、ワープロを含む統合ソフトをつかうことは、どんな専門領域でも
不可欠な時代を迎えている。
(2)一方で、ワープロとは「清書」マシンであるとの認識が学生の間では一般的で、ワープロを使うと論文の構成がよりよくなること、推敲が簡便になるこ
と、図表などのデータとの統合がはかれることなどの効果はあまり意識されていないといってよい。ましてや、レイアウト機能、自動ページ番号挿入機能、注釈
管理機能などのワープロならではの機能はあまり知られていないのが現状である。
(3)この様なワープロの機能は、4年になって卒論を書くときに初めて習うのではかえって機能に振り回されて内容の吟味が疎かになる危険がある。もっと前
から、レポートなどのより小さい課題を通して、機能に前もって触れておくことが望まれる。道具を早くから用意して使い方に精通しておくことは、将来書くこ
とになる卒論に向けての情報収集を早期にスタートすることにもつながる。