高等教育情報化推進協議会(2004)『平成15年度文部科学省委託<エルネット高度化推進事業>エルネット<オープンカレッジ>について(第5年次報告
書)』(分担執筆:IV新たな取り組みについて 3.モジュール化について 〔4〕生涯学習講座におけるブレンディングについて)pp.136-138
〔4〕生涯学習講座におけるブレンディングについて
岩手県立大学 鈴木 克明
ブレンディングとは何か
ブレンディング[blending]とは、異なる
教育方法を組み合わせてより高い効果をねらうように研修コース全体をデザインする手法である。eラーニングが企業内教育などで注目されてくるにつれて、e
ラーニングと集合研修などその他の研修形態をミックスすることが日常化したことから、ブレンディングという言葉が一般化した。生涯学習講座にモジュールコ
ンテンツを用いる場合、モジュールコンテンツに何を求め、それ以外に何を加えることで、講座全体をどのようにトータルデザインするかを考える必要がある。
その際、eラーニングにおけるブレンディングの考え方はひとつの参考になる。
根本(2002)は、WBT(Webを用いた研修)と集合研修をブレンディングする事例は、集合研修(オリエンテーションなど)と集合研修(ディスカッ
ションなど)の中間にeラーニングによる学習を据える「中核型」と、それとは逆に集合研修の予習と復習をeラーニングで実施する「両端型」の2つに大別さ
れる傾向があると指摘している。モジュールコンテンツを講座参加者が自宅などで利用できるようになれば(いわゆるeラーニングとしての利用)、参加者が一
堂に会したときには何をやるのが良いのか。
eラーニングを前提とした講座のあり方は、それを前提としていない講座とはおのずと異なってくることが予想される。根本(2002)は、ブレンディングと
は、既存のコースをそのまま残すことではなく、集合研修とeラーニングの長所を組み合わせ、互いに特化した目的を担わせることだと強調している。自宅利用
ができるようになったことで、学習機会がより柔軟になった。この変化を最大限に活用することを考えれば、eラーニングではできないことを集合研修でやる、
というのが棲み分けの原則になるのだろう。
この他のブレンディングの可能性としては、香取(2001)が、ラーニングセンターなどに集合してインストラクタの指導のもとにWBT教材などを使って個
別研修を進める方法と、WBT教材をインストラクタが使いながら集合研修を進める方法が考えられるとしている。インターネット環境などが整っていない参加
者向けに、公民館などのインターネット端末や録画された教材を視聴するコーナーを開放し、全員集合してディスカッションする前に個別に予習をしてもらうよ
うな講座デザインも考えられる。また、モジュールコンテンツを従来からの生涯学習講座の一部として、インストラクタ主導の下で全員視聴することもまた、利
用方法の一つである。
何と何をブレンディングするか:組み合わせの妙を求める
ブレンディングにおいて、組み合わせる(ブレンドする)要素には何があるのだろうか。マルチメディアIDを扱った解説書(リー&オーエン、2003)で
は、研修方法を(1)インストラクタ主導、(2)コンピュータ研修(CBT)、(3)遠隔ブロードキャスティング、(4)ウェブ研修(WBT)、(5)音
声テープ、(6)ビデオテープ、(7)業務遂行支援システム(PSS[Performance Support
System])、(8)e業務遂行支援ツール(EPSS[Electric Performance Support
System])に分類し、それぞれの特徴に応じて選択する手法を提案している(詳細は、リー&オーエン、2003の第10章メディア分析を参照)。
それぞれの研修方法の長所と短所を考慮し、適切にメディアを組み合わせていくというメディア選択・利用の原則は、ブレンディングという言葉が使われる以前
から、普遍のものである。新しく加わるモジュールコンテンツという研修方法がどのような特徴を持っているのかを正確に捉え(おそらくそれはどんなコンテン
ツかに依存するところが大きい)、従来からの研修形態の何を変えて何を残すのかを考えることから始めていくことになるのだろう。言い方を変えれば、モ
ジュールコンテンツを開発するときには、それがどのような研修全体計画の中で他のどのような要素と組み合わせて用いられるのかを念頭において開発していく
ことが求められることになる。
ブレンディングという用語は、使われ始めた当時は「いつでもどこでもできる」という特徴を持つeラーニング(個別教材)と「みんなが一斉に集まることで達
成可能なこと」を追求する集合研修を如何に組み合わせていくかを考えることに限定されていた。しかし、近年では、ブレンディングという用語が、eラーニン
グと集合研修以外の組み合わせにも援用されている。SINGH(2004)は、たとえば次のような異なる要素の最適な組み合わせが模索されているという。
(1) オンライン学習とオフライン学習:刻々と変化する新鮮な要素を取り入れる
(2) 個別学習と同時的な協調学習:ダイナミックな意見交換と共有の要素を入れる
(3) 構造的な学習と非構造的な学習:学習の進行に応じて柔軟な要素を入れる
(4) 市販教材による学習と自作教材による学習:地方の実態に応じた要素を入れる
(5) 学習と練習場面、遂行支援の組み合わせ:補足的な要素をタイムリーに入れる
学習環境がますます豊かになり、色々なタイプの研修形態が考えられるようになるにつれ、モジュールコンテンツに何を求め、その他に何を加えるか、研修全体のレイアウトと効果的な組み合わせの妙を追求したいものである。
参考文献
- ウィリアム・W.・リー&ダイアナ・L. オーエンズ(2003)清水康敬(監修),日本ラーニングコンソシアム(訳)『インストラクショナルデザイン入門―マルチメディアにおける教育設計』 東京電機大学出版局
- 香取一昭(2001)『eラーニング経営:ナレッジ・エコノミー時代の人材戦略』エルコ
- 根本孝(2002)『E−人材開発:学習アーキテクチャーの構築』中央公論社
- Singh, H. (2003). Building effective blended learning program. Educational Technology, XLIII (6), 51-54.