平成13年度デジタル教材『おこめ』実践についての評価報告書・概要

平成13年度デジタル教材『おこめ』実践についての評価報告書・概要


目次


要 約 1
第1章 「おこめ13校プロジェクト」と評価研究の概要 4
第2章 イメージマップの流暢性についての評価結果 6
第3章 用語テストについての評価結果 15
第4章 じゃがいもアンケートについての評価結果 34
第5章 利用ログ解析データからの分析結果 75
第6章 インタビューで検証するデジタル教材の評価 83
第7章 評価研究の成果と平成14年度に向けての課題 93
資料1:『おこめ』評価結果等の公表一覧 97




要約


本研究は、平成13年度にデジタル教材「おこめ」の研究協力校として、デジタル動画の一般公開時代に先駆けて、動画サーバを設置して授業実践を試みた「お こめ13校プロジェクト」の活動を客観的に評価する目的で行われた。評価委員会が策定した方法に従って何らかのデータを提供した9校15学級のデータを分 析した結果は、次のとおりであった。

イメージマップ:「おこめ」のイメージが活動とともにどのように変化するかについて子どもの実態を把握した。「おこめ」学習の前後と、 主要な活動直後に適宜実施したデータが提供された。事前・事後のデータが揃った協力校6校8学級すべてで、実践が進むにつれて多くの語を書き込む傾向がみ られ、「おこめ」のイメージがより豊かに形成されていることが確認された(平均伸び率302.6%;最小134%,最大575%)。学習活動が本格化する 前(4−6月)の平均語数は14.6(SD=4.3)語(8校12学級)であったのに対し、学習活動後の3月には平均33.4(SD=11.4)語(7校 9学級)に伸びた。【第2章参照】

用語テスト:「おこめ」に関係する用語30について、「知らない」「知っている」「説明できる」の3段階で回答を求めた。客観的な知識 テストというよりは、子ども自身による自己評価の形式をとることで、「おこめ」学習の前後で「自分がどの程度答えられると思うか」の自信の変化を追跡し た。事前・事後のデータが揃った協力校3校3学級すべてで、「知らない」用語が減り、「説明できる」用語が増えた。「説明できる」を2点、「知っている」 を1点、「知らない」を0点とした得点でみると、平均伸び率は257%であった。(最小167%,最大333%)。

事前・事後のデータが揃わない協力校からのデータもあわせてみると、学習活動が本格化する前(4−6月)の平均点は47.3(SD=7.0)点(4校4学 級)であったのに対し、学習活動後の3月には平均105.1(SD=33.1)点(7校9学級)に伸びた。研究協力校全体で、30語すべてについての回答 結果を累計すると、学習活動が本格化する前(4−6月)には、63%が「知らない」語であったものが、3月の活動終了時点では、「知らない」語は28%に 減少した。一方で、「知っている」語は26%から40%に、また、「説明できる」と児童が思った用語は当初の11%から終了時には32%に増えていた。 【第3章参照】

じゃがいもアンケート:「おこめ」に類似のテーマが設定されたときに子どもがそれにどう向き合っていくつもりかを自由記述形式を中心と して調査した。「おこめ」の活動を通して、総合的な学習の時間で育てることが目指されている「調べてまとめて伝える」力がどの程度伸びたかを調べた。 「じゃがいも」を調べるときに設定するサブテーマ、採用する調査方法、発表方法、遠隔地の友人に伝えるための方法、自分で調べるのと教師に教えてもらうの とどちらを好むかについて、「おこめ」学習の前後での変容を捉えた。学習活動が本格化する前(4−6月)と学習活動後の3月のデータが揃って提出された4 校4学級(116人)の変化を比較すると、次のことがわかった。【第4章参照】

(1)調査手段として、「コンピュータ・インターネット」などの電子的媒体を挙げた児童が増えた(54人→81人/116人中)。次に増えたのは「インタビュー・アンケート」であった(37人→55人/116人中)。

(2) 発表手段としては、4月には挙げられなかった「ポスターセッション」(9人/39人)や「プレゼンテーション」(13人/39人)が3月には挙げられた学 級があった。また、発表手段のみでなく発表するとき工夫する点に言及した児童が増えた(23人→44人/116人)。

(3)遠隔地への友人に成果を伝える手段として、インターネットやテレビ会議などの電子的媒体を挙げた児童が約1.5倍に増えた(43人→64人/116人)。伝達手段として挙げられた手段の総計も、約1.3倍に増えた(125件→168件)。

(4)学習開始当初と学習終了後に「じゃがいも」学習をどうやって進めたいか聞いた項目では、「自分で調べたい」と思う児童の数はほぼ横ばいであった一方 (42人→39人;7%減少)、「先生に教わりたい」を選択した児童はいなくなり(6人→0人)、「両方やりたい」が増え(41人→53人;約3割増)、 「やりたくない」児童は減少した(5人→2人;6割減)。

利用ログ分析:「おこめ」研究協力校に設置されたサーバの利用ログを分析した結果、以下のことが分かった。【第5章参照】

(1)利用ログ総数は、13校7ヶ月の合計で、250台のパソコンから約25,000回のアクセスが記録された。そのうち、テレビが約 9.1%、クリップが16.6%、ホームページが45.7%、掲示板が28.5%の割合で利用され、バランスよくすべての構成要素が用いられていた。学校 によっては、クリップを最も多く利用したところ(1校)や掲示板を最も多く利用したところ(2校)もあり、実践の特色が利用ログにも現れていた。

(2)最も多く利用されていたのは10月で、約6,200回が記録されていた。利用時間帯のピークは午前10時台(約4,500回)で、次いで午後1時台(約4,200回)であった。

(3)放送回ごとの分析では、利用ログをとり始めた頃に放送された第8回〜10回関連のデジタル教材利用がそれぞれ2,000回を上回ってもっとも利用さ れた。一方で、すでに放送が終わっていた回(第1回〜7回)も含めてすべての放送回に関するホームページがこの7ヶ月の間にまんべんなく利用されており、 「前の番組を振り返る手段」としてもデジタル教材が、長期間にわたって利用されていたことがわかった。

教師インタビュー:イメージマップ、用語テスト、じゃがいもアンケートの評価結果について、3校の研究協力校の担当教師にインタビュー を試みた。デジタル教材「おこめ」を活用した授業実践では、デジタル教材以外の稲作体験や、地域人材とのかかわり、あるいは対象校の地域環境それ自体も、 展開を左右する。そして、それらをコーディネートし、授業実践として方向づける教師の指導性の結果として、それぞれの学校での「おこめ」実践が存在する。 評価結果の数値の背後にある多様な授業実践とのかかわりを、教師からみた振り返りをもとに検討した成果として、(1)イメージマップ、用語テストでは、そ れぞれの学級で取り組んだテーマが反映されていたこと、(2)デジタル教材が幅広い知識理解のベースとなっていたこと、(3)学校間交流学習による地域課 題の追求、コミュニケーション力の育成にデジタル教材が役立ったことがわかった。【第6章参照】

本研究の成果:デジタル教材を活用した授業実践によって、「おこめ」についてのイメージがより豊かになり、関連用語の知識についても子 どもがより自信をもって答えられるようになったことがわかった。さらに、類似のテーマを与えられたときの学習活動についての計画力、実行アイディア、主体 的に取り組む姿勢などのいわゆる『情報活用能力』が高まっていることがわかった。利用ログデータを解析することで、デジタル教材として提供されているテレ ビ、クリップ、ホームページ、掲示板の各構成要素がバランスよく使われていること、また、番組終了後でも長期間にわたってホームページが活用されている様 子が読み取れた。教師インタビューからは、評価結果と利用形態の背後にあった教師の意図を探ることができた。本研究を通じて、総合的な学習のためのデジタ ル教材を利用した実践を評価するために有効な枠組みが提案できたとともに、評価をすること自体が実践に与える覚醒効果についても番組利用の効果を促進する 観点から重要であることが指摘された。今後の課題としては、イメージマップデータの多元的な分析や、ログデータの解析手法の確立、さらに、教師間交流の日 常化を目指したWebサイトの構築と実践的効果の検証や、他のデジタル教材を用いた実践との比較評価の必要性などを指摘した。【第7章参照】