市川尚・鈴木克明(2001)「入門情報教育「コンピュータ入門」の教育方法の改善」『日本教育工学会第17回全国大会発表論文集』 439-440


入門情報教育「コンピュータ入門」の教育方法の改善
Redesigning an IT Education Course "Introduction to Computer"

市川 尚
Hisashi ICHIKAWA
鈴木克明
Katsuaki SUZUKI
岩手県立大学ソフトウエア情報学部
Faculty of Software and Information Science,
Iwate Prefectural University

<あらまし>本稿は岩手県立大学の一般情報処理教育科目「コンピュータ入門」の授業報告である。授業で扱う範囲が指定されている中で、担当クラスに 対して授業毎に提出課題を設定し、理解度を確認できるようにした。結果として、授業から得たものが比較的多いとの反応を得た反面、課題が多いという印象も 与えた。習熟度別課題の個別学習教材へ移行すべきことが示唆された。

<キーワード>情報教育、高等教育、授業改善、コンピュータ入門


1.「コンピュータ入門」の特徴
 岩手県立大学では、一般情報処理教育科目として、4学部の1年生全員に対し、前期には「情報メディア入門」(市川・鈴木、2000)が、後期には応用ソ フトの利用方法をアンケート実施(収集から発表まで)の流れに沿って理解する「コンピュータ入門」が開講されている。学部混成クラス(全10クラス)で開 講され、学部混成グループ、担当教員・助手・補助員3名による指導、授業計画等を行うTF(Task Force)の設置が特徴である。

2.「コンピュータ入門」の改善
 TFから提供される指導案をもとに担当教員が授業を実施しているが、指導案にはテキストの範囲と注意事項が示されているだけの場合が多い。各応用ソフト の最後の回に用意された課題以外は、テキストに書かれた操作方法を学生が確認していくだけの授業となり、学生の理解度を確認することができない。
 筆者らは2000年度に担当したクラスの中で、毎回提出課題を設定し、学生の理解度を確認しながら進めていった(表3)。TFから指示された範囲から逸脱せずに、いかに課題を作成するかが問題となった。

3.授業アンケートの結果
 TFが作成したアンケート(5段階尺度と自由記述)を最終回に実施した(表1、表2)。

表1.アンケート結果1

学部

項目

担当クラス
N:39
他9クラス
N:338
 
平均 SD 順位 平均 SD  
得た物が多い
4.46
0.59
2
4.32
0.64
 
今後役に立つ
4.31
0.65
2
4.22
0.74
 
面白い
3.56
0.93
3
3.41
0.82
 
授業が難しい
3.59
0.84
3
3.38
0.94
***
授業がはやい
3.50
0.87
2
3.33
0.68
***
演習量が多い
3.41
0.63
1
3.25
0.62
***
演習が難しい
3.59
0.74
2
3.40
0.79
**
課題量が多い
3.56
0.63
1
3.34
0.62
グループ良い
3.51
0.71
1
3.31
0.82
**
学部混成良い
4.08
0.73
1
3.96
0.77
 
(F検定 ***:p<0.01、**:p<0.05)

表2.アンケート結果2(担当クラス内)

学部

項目

ソフト情報(理系)N:13
その他(文系)N:26
 
平均 SD 平均 SD  
授業が難しい
2.85
0.77
3.79
0.49
***
演習が難しい
3.00
0.78
3.82
0.47
***
課題量が多い
3.15
0.36
3.57
0.56
**
t検定 ***:p<0.01、**:p<0.05)

 

4.今後の課題
 担当クラスは、課題量が多いとの評価であったが、主に文系の学生によるものであった。他クラスと比べて、得た事が多く役に立ち、グループ作業が良いことが高順位であったことは、改善の成果であろう。今後は習熟度別課題の個別学習教材の導入を検討する。

表3.「コンピュータ入門」の授業内容(TFの指示内容と改善点)
回・テーマ・TFから指示された内容 TFからの内容をもとに設定した課題や変更点
1.ガイダンス&ファイルメーカー(1)
授業とDB(データベース)の概要説明。図書DBを利用して、起動と終了、ファイル操作、レコード表示を講義・演習する。
次の課題を設定:図書DB(あらかじめTFが準備しておいたサンプルDB)から、お気に入りの一冊を選び、そのレコードを印刷して提出する。
2.ファイルメーカー(2)
グループ分けを行い、あらかじめTFが9つ用意したアンケートの中から各グループの担当を決定する(課題1)。テキストに沿って、前回の復習、レコードの検索・ソート・操作、印刷、学生DBの作成、入力の簡略化を講義・演習する。
次 の課題を設定:1.図書DBから、各学部の蔵書数を調べ、結果を前回のプリントに記入して提出(オプションとして、2000円未満の本の冊数調べ等を用 意)。2.グループ全員のデータが入った学生DBを作成し(見やすいように)、1枚に印刷して提出。アンケートは次回にまわした。
3.ファイルメーカー(3)
アンケートの配布・回収(課題1)。テキストに沿って、集計フィールド(図書DBに学部毎の値段)、ルックアップ(学生DBのISBNから、図書DBの書籍名を取って表示)を実現する。
次の課題を設定:1.学生DBの入力の簡略化を行う(行っていなかった学生のみ)。2.集計フィールドを追加した部分(簡略化もわかるように)を印刷し提出。3.ルックアップを追加した部分を印刷して提出する。
4.課題1  データベースソフトの利用
アンケートのDBを指定通りに作成し、担当分(自分の学部)を入力し、表紙・フィールド定義・レコードリストを印刷して提出。課題2までに全データを1つのDBに入力しておく。
変更点として、アンケート入力については、全データを重複しないで役割分担するようにグループ内で決めさせた(アンケートに通し番号をふらせた)。後ほど各自作成のDBをファイルメーカー上で統合することにした。
5.エクセル(1)
テキスト内の表計算ソフトの概要、基本用語、起動、データ入力、オートフィル、コピーと移動、ファイル操作、終了を講義・演習する。
次の課題を設定:テキストにあるデータ(スキーのアンケートの一部)を入力し、スキーの費用総額を計算し、10名の費用の棒グラフを作成し、氏名、表・グラフを1枚に印刷して提出する。自働計算とグラフ化は繰り上げて実施した。
6.エクセル(2)
テキスト内の表計算機能、書式設定、印刷を講義・演習する。テキストに例が載っているスキーアンケートのデータを使って平均・回数等を計算させてもよい。
次の課題を設定:前回のデータの残りの部分を入力し、個数を集計(countif関数を使用)し、平均・最大・最小・最頻値を出し、グラフ化(前回とは違うグラフ)し、罫線でレイアウトを綺麗にして、1枚に印刷して提出する。
7.エクセル(3)
テキスト例に沿って、グラフ機能、並び替えとオートフィルタを講義・演習する。
次の課題を設定:前回までの表をスキーに行った回数の多い順に並び替え、また表をコピーして腕前の中級者でオートフィルタをかけたものを1枚に印刷して提出する。
8.課題2 表計算ソフトの利用
課題1のデータをエクセルに読み込み、集計の役割分担(学部を組み合わせる)をする。担当分を指定通りに集計し、表紙、表・グラフを印刷して提出。
変更点として、課題1で作成したデータベースをグループ内で統合する作業を実施、集計の役割分担は、重複しないように、自分の学部の他に、全体、その他(学部以外で例えば男女でなど)とした。
9.パワーポイント(1)
テキスト内のプレゼンソフト概要、起動、オブジェクトの配置と修正、ファイル操作、終了を講義・演習する。具体例や要求を提示してスライドを作成・提出させてもよい。
次の課題を設定:テーマは何でもよいので、3枚のスライドを作成する(スライドサンプルとやるべき範囲を満たしたかを確認するチェックリストを作成して使用)。チェックリストとスライド3枚を印刷したものをまとめて提出する。
10.パワーポイント(2)
テキスト内のスライドの操作、スライドショーを講義・演習する。複数枚のスライドを作成させ(前回の物があれば流用)、グループ内でスライドショーを見せ合ってもよい。
次の課題を設定:前回作成したスライドに、スライドショーとアニメーションの設定をする。実際に表示してもらい教員がチェックする。また、課題内容が簡単なので、第11回の課題3を繰り上げて実施した。
11.課題3 プレゼンテーションソフトの利用
課題2の集計結果(担当分)を発表するパワーポイントを指定通りに作成し、スライドを印刷して表紙をつけて提出する。発表会の代表者を決定する。
授業内容を変更して、グループ内発表会を実施。全体発表会の準備と位置付け、課題3の成果を発表し、発表を聞きながら、良い点・悪い点などを報告用紙に記入・提出する。
12.発表会
各グループの代表者が、課題3の成果を発表する。
特になし。

 

参考文献
市川尚・小笠原直人・布川博士・鈴木克明(2000)「実践的共同課題を取り入れた入門情報教育:岩手県立大学『情報メディア入門』の場合」『日本教育工学会研究報告書』