仙台市教育委員会編(2001)『平成12年度情報教育実践の手引』分担執筆

迷うことなくしっかりとした授業づくりを(注1


岩手県立大学ソフトウェア情報学部教授 鈴木克明



教育の情報化によって変わっていく学校のイメージとはどんなものだろうか。私たちは,どんな学校を「理想」に掲げてコンピュータやインターネットの利用を 押し進めようとしているのだろうか。教育の情報化への道は,学校全体をデザインし直すことを意味する。情報教育を学校を変革していくチャンスであると考え てはどうだろうか。子どもだけでなく,先生方が楽しめる情報教育の推進を。

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1. 教育の情報化のイメージ

 教育の情報化によって変わっていく学校のイメージとはどんなものだろうか。私たちは,どんな学校を「理想」に掲げてコンピュータやインターネットの利用 を押し進めようとしているのだろうか。ここで述べることは,筆者がこれまでに見聞してきた先進校の実情などに基づいて,2年前に書いたものである(鈴 木,1999)。近い将来,「ふつう」の学校で実現してもおかしくない学校像だと今でも思っているが,「こんな学校にしてみたい」という私の思いは果たし て多くの先生方に支持されるのだろうか。 仙台市内の学校で,こんな風景がたくさん見られるようになるといいなぁ,と思うのだが,どうですか。

●設備

 学校に初めてインターネットが接続された時,回線は学校図書室に引き込まれた。数台のパソコンでインターネット接続ができるようになり,同時にいくつか のCD-ROM教材で調べ学習ができるようになった。地域の協力によって校内ネットワーク(LAN)を張り巡らせた時,校長室や職員室でもインターネット が利用できるようになった。まだすべての教室にパソコンが配備されているところまでは至っていないが,必要な時はノート型パソコンを借り出せば,コン ピュータ室に行かなくても教室からインターネットが使えるようになった。PTAや卒業生の寄付で,インターネットにつながるパソコンの台数も徐々に増えて いる。

●活動

 始めはパソコンの扱い方ばかりを指導していたが,最近ではみんな慣れてしまい,自在に使いこなすようになった。パソコンクラブの部員が率先して教えてい るからだろう。自分が得意なことを友達の前でできることがうれしいらしい。嫌がらずに,いつでも面倒を見てくれるので大助かりだ。先生方も最初はおそるお そるだったけど,慣れるにしたがって,自然体で使えるようになった。自分で全部把握してから子どもに教えるという癖も抜けて,分からないところを子どもに 聞くことにも慣れてきた。

 情報教育の活動はパソコンの前に座って黙々と取り組むものかと思ったが,デジカメや取材道具を抱えて,よく動き回っている。インタビューの仕方や,集めた情報のまとめ方も身についてきたし,他の学校の子どもたちとも電子メールをやり取りして情報を集めている。

 ホームページも最初は見て回るだけだったが,最近では自分たちでつくったページをマナーを守って使いながら,交流の輪を広げている。「総合的な学習の時 間」で始まった活動が,だんだん教科の時間にも影響を及ぼして,気がついたら子どもが黙って座って聞いているだけの授業時間がずいぶん短くなっている。

●カリキュラム

 最初はとにかく何かやってみましょう,という具合に始めた情報教育だったが,最近では,様々な活動が活発に行われる土台として,情報教育のカリキュラム が学年進行に従って,整ってきた。楽しんで活動しているうちに,子ども1人ひとりにしっかり実力がついている。  最初は情報教育を意識して取り入れようと努力していたが,徐々に各教科の学びに溶け込んだ形になった。先生方も,積極的に研修に参加してきた成果だろう か,様々な形の授業が展開できるようになってきた。効率的に校務が処理できるので,子どもと過ごす時間や,授業の中身について考える余裕も出てきた。  何といっても,決まりきったことを紋切り型の方法で教えていた頃と比べて,先生方もいろんな工夫ができるのが楽しいのだろう。ああでもない,こうでもな いと,先生同士でアイディアを出し合って,楽しく授業の準備ができるようだ。学年合同の授業や,複数学年で協力する授業も,以前に比べて増えてきた。この 学校らしさが,少しずつ形になってきたのかもしれない。いや,先生方の個性が光ってきたのだろう。

2 迷うことなくしっかりとした授業づくりを

 情報化社会と学校教育を特集した雑誌『山形教育』に寄せた原稿のタイトルが,「迷うことなくしっかりとした授業づくりを」であった(鈴木,2001)。以下に少し引用する。

「情報化だインターネットだ,あるいは総合的な学習の時間だと矢継ぎ早に目新しきものが学校にもたらされ,注目を浴びて いる。一方で,それ以外の,今までの続きになることについては,あまり語られない。変動の中にこそ,受け継ぐべきものと変えていくものの見極めが求められ るのであり,新しいものばかりでなく,古くからのものを如何に捉えなおしていくのかに目を向けることが肝要である。迷うことなくしっかりとした授業づくり を。」

 パソコンがマルチメディア化し、誰でも気軽に使えるものになると、学校で操作技術を教える手間がかからなくなる。ファミコン世代の子どもたちは、マウス やキーボード操作、CD-ROMやフロッピーディスクの扱い方などは放っておいても自然に習得する。しかし、マルチメディアをどう使っていったら役に立つ のかという点は、慎重に教えていく必要がある。

 授業とは,学習を援助・促進する営みである(子どもが何を学んでいるか,で勝負)。教育メディアとは,授業計画を具現化するものすべてである(教科書も 教師も学校もメディア)。情報教育の視点から,今までのいつもの授業を再点検すると,どうなるのだろうか。教育の情報化への道は,学校全体をデザインし直 すことを意味する。情報教育を学校を変革していくチャンスであると考えてはどうだろうか。

 教師がしゃべっている時間を少なくして,マイペースの自学自習をもっと取り入れて欲しいなぁ。小学校では(図書室だけでなく)普通教室の学習情 報センター化と学年(部)TTの常設化,中学校では教科センター方式の導入,高校では単位制総合高校への再編を「新しい革袋」として検討して欲しいなぁ。 変革を担うのは一人ひとりの先生方なんだから,先生方の学び(研修)もデザインし直して,授業のレパートリーを広げていただきたい。子どもだけでなく,先 生方が楽しめる情報教育の推進を。



1)本論は、次の2つの既発表論文をもとに構成されている。

・鈴木克明(1999)「情報教育充実のための環境整備と学校経営上の留意点」『教職研修』(特集:2000年の学校経営戦略(1)創意を生かした教育課程の編成と学校経営上の課題)1999.12月号

・鈴木克明(2001)「迷うことなくしっかりとした授業づくりを」『山形教育』(特集:情報化社会と学校教育)2001年3月号(第317号),山形県教育センター


※ここに引用した拙著を含めて,筆者の書いたものはホームページ上にあります(http://www.iwate-pu.ac.jp/home/ksuzuki/resume/)。ご活用くださり,感想等をいただければ嬉しいです(ksuzuki@soft.iwate-pu.ac.jp)。