コンピュータ教育開発センター『コンピュータ利用教育のための教員研修プログラム報告書』第3章コンピュータに関する研修の在り方 第2節「コンピュータを活用した授業の在り方」、第3節「コンピュータを活用した授業における授業設計の在り方」(執筆:鈴木克明)

2.コンピュータを活用した授業の在り方について話し合うこと



 本報告書で提案する研修は,授業設計に関する「講義」が導入となる。外部講師を
得られる場合は,新しい教育観や授業観とコンピュータ利用の関わりなどについての
理解を深め,研修の意義を確認したい。新しい授業への方向性を示す具体例(VTRな
ど)があれば,それを全員で視聴し,印象などを話し合うのもよい。
 この段階では,本章の以下の部分を研修資料として用いることも一つの工夫となる
。コンピュータを活用した授業の在り方についての以下の文章を全員で読んだ上で,
相互の意見を述べあうことは,主体的な研修への意欲を高めるために効果的であると
思われる。さらに,演習を始める前に,各過程における考え方を読んで演習の流れを
把握しておくとよい。研修参加者一人ひとりが何をやっているかを確認(モニター)
しながら研修を進めることが重要である。

(1)非連続からくる抵抗:コンピュータの教育利用をどう思うか?


 かつて,コンピュータの授業利用に抵抗感があるのは,今までの授業の常識が覆え
される「非連続性」のためであるとの指摘があった。教師がコンピュータ利用に二の
足を踏む理由として,表1に示す5つを挙げられた。あれから10年が過ぎようとし
ている現在,この事態は変わったのだろうか。

表1.コンピュータ利用への抵抗:5つの理由(水越による)
-------------------------------------------------------
1.教師以外のメディア,とくに機械から児童生徒が学んでいること。
2.学習の内容,方法,時間,ペースなどを教師が制御できないこと。
3.教師は,かつて自分が教えられた方法をモデルにして児童生徒を教えられないこと。
4.一斉授業,小集団授業など,従来からなじみの学習形態は使えないか,使ったと
しても傍系となり,なじみのない個別学習が正系とみられること
5.教師よりも児童生徒のほうが,メカの知識や操作技術の点において優れていること。
------------------------------------------------------
「教室王国の主人はあくまでの教師であり,教師はつねに知識・技術において児童生
徒より格段上であり,教師の意のままに教育内容を決め,方法やメディアを選び,一
斉授業を根幹にして授業を展開する---こういう前提というか約束のうえに今日の学
校教育は成り立っています。この根底がゆらぐわけですから,教師の不安,動揺,抵
抗がでてきたとしてもそれは当然のことかもしれません。(p.76)」
(出典:水越敏行(1990)『メディアを生かす先生』図書文化)

   先生方一人ひとりの,これまでのコンピュータ経験などによって,この指摘をどう
感じるかは違うだろう。これまでの勤務校でのコンピュータ利用への取り組みの違い
や,それを支える設備の違いも影響するだろう。また,新しい時代を志向する教育改
革についての動きを,積極的に歓迎しているのかどうかによっても,賛否両論が分か
れるだろう。コンピュータに関する研修を始めるにあたって,コンピュータを活用し
た授業についての意見交換には,この指摘と分析は格好の素材を提供してくれる。
 ところで,この指摘は,いま声高に叫ばれている教育改革の方向性に,驚くほど合
致している。教師に教えてもらうのを待っているのではなく,教師以外のメディアか
ら,自分で情報を収集する学習(指摘1)。何をどうやって調べるかを,教師が制御
するのではなく子どもが自分で決める学習(指摘2)。一斉授業のなかに,子どもの
興味関心に応じて個別的に学ぶことや,学びの成果をクラスに還元することを取り入
れること(指摘4)。課題を達成するために必要な機能だけをその場で学びながら様
々なメディアを使って学習を進めること(指摘5)。しかし,そう教わってはこなか
った,そう教えてはこなかった先生方が,これからの時代の新しい学びを支援してい
く役割を期待されている(指摘3)。
 コンピュータを利用する授業とは,この大きな流れの中の一つの顕著な現われであ
る。使えないから使わない,という以上の抵抗感があるとすれば,それは,もっと大
きな変化への無意識の抵抗なのかもしれない。コンピュータを使った授業が今までの
授業の常識を覆えすとすれば,それは,それは授業を変える可能性を意味する。が,
同時に,授業がこれまでの経験の延長線上にはイメージできなくなる可能性も合わせ
もっている。コンピュータ操作の研修を卒業した段階での,コンピュータを使った授
業についての研修では,コンピュータを使ってどんな授業をつくっていきたいのかま
で,議論することが重要である。コンピュータは,それを実現するための一つの方法
に過ぎないのだから。


(2)コンピュータを使うメリットだ,と言われていることは何か?


 コンピュータを授業に使うためには,様々な困難を乗り越える必要がある。教室で
,黒板とチョークと教科書を使って授業を進めることに比べて,労力を要する授業方
法である。したがって,もし大したメリットがないのならば,コンピュータは使いた
くない,と考えるのが当然である。コンピュータを使うためには苦労が多い。だから
こそ,労力に十分見合うだけの結果を要求するのが,多忙な教師の賢い態度である。
では,コンピュータを使うメリットとは何か。

・ 自分の理由を確認すること:なぜコンピュータを使うのか?

 コンピュータを授業に使う理由には,さまざまなものがあり得る(表2参照)。コ
ンピュータを使う理由として,ただ一つの「正解」が存在する訳ではない。「動機が
不純」という言い方があるが,不純かどうかはともかくとして,どうして授業にコン
ピュータを使おうとしているのか,どうしてそのための研修を受けているのかを点検
しておくことは無駄ではない。コンピュータを使う理由がわかれば,それを実現する
ことがコンピュータを利用するメリットの一つである。もっと他にメリットがあるの
ではないかと思えば,他の理由を探せばよい。世の中で言われている「あるべき論」
とは別次元で,まず,「自分の理由」を見つめることである。

表2.コンピュータを授業に使う7つの理由
-------------------------------
1.コンピュ−タを使いたかったから
2.コンピュ−タを使う研究だったから
3.コンピュ−タに何ができるか興味があったから
4.コンピュ−タは子供たちに人気があるから
5.コンピュ−タ・リテラシ−を育てたかったから
6.コンピュ−タを使うと便利だから
7.コンピュ−タにしかできないことだから
-------------------------------
(出典:鈴木克明(1989)「教師が楽しみ、学び、成長する手段としての視聴覚教育
−授業にコンピュ−タを使う7つの理由−」『視聴覚教育』1989年12月号、24 - 27)


 ・ コンピュータ利用の潜在的メリット:どんな可能性があるのか?

 一方で,研究者は何をメリットとして宣伝しているのだろうか?米国の教育工学者
ガイエスキーは,「マルチメディア」の教育上の利点として,次の5つ指摘している
。鈴木(1997)の紹介を表3にまとめて示す。昨今のコンピュータは,マルチメディ
ア化(音や動画を使った表現ができる)の方向にあるので,コンピュータ利用のメリ
ットに直接つながると考えてよい。学校現場にまだ多く現存するマルチメディア対応
以前のコンピュータ(MS-DOSを主とするもの)では,ガイエスキーの第4の利点は一
部制限されるが,それ以外の点は,実現することが可能である。第5の利点は,近年
急速に広まっているインターネット等の利用によって,あるいはCD-ROMで提供される
学習用素材集等の活用によって,実現できよう。

表3.マルチメディアの教育上の利点(ガイエスキーによる)
----------------------------------------------------
1.個別学習の支援:学習者のレベル、ペース、スタイル、あるいは使用する言語な
  ど、多様なニーズにあわせられる。
2.学習と評価の統合化:学習しながら履歴の記録と得点化ができる。
3.能動的な学習方略:受け身の記憶学習だけでなく、知識構築のプロセスに学習者
  を参加させられる。
4.臨場感がある疑似体験:発見的・協調的学習の環境をリアルに提供でき、知的に
  も感性にも刺激が与えられる。
5.高密度なデータへの迅速なアクセス:これまでは限られた場所にしかなかった多
  様な形態の大量なデータを安価に複製して教室に届けられるメリットがある。
----------------------------------------------------
(出典:鈴木克明(1997)「第3章 マルチメディアと教育」 赤堀侃司(編)『高
度情報社会の中の学校〜最先端の学校づくりを目指す〜』ぎょうせい,p.97-98)

 コンピュータ側から見ると,このようなメリットがあり,これがコンピュータを取
り入れることの潜在的な可能性となる。これを,どのように実現していくのかを考え
ながら,コンピュータを活用した授業のイメージを膨らませていくとよい。研修のテ
ーマとして,5つの中から1つを取り上げることも考えられよう。そして,たとえば
「能動的な学習方略」を実現することがどのような教育上のメリットになると思って
目指すのかを考える。このことによって,今日の教育課題とコンピュータ利用が結び
付き,コンピュータ利用の授業が,「コンピュータを使った授業を実施しました。」
という報告で終わりにならない,より意義深いものになる。


(3)研修の進め方で授業の在り方を示す:新しいスタイルでの学びの体験


 コンピュータを利用することで,新しい授業の方法を考える研修を行う場合,研修
のやり方そのものも,新しい時代にふさわしいものかどうか,注意深く点検し,準備
する必要がある。これまでのイメージからすれば,研修の多くの時間は,講師からの
情報を吸収するための座学に割かれてきた感がある。学校に戻れば,受けた研修の内
容を他の教師に伝えるための「伝達講習」を実施し,研修で得た知識をより多くの教
員に広める努力をしてきた。
 この座学研修と伝達講習の研修スタイルは,古くからの教師主導による伝達型の授
業と同じスタイルである。コンピュータを使う授業が,教師主導による伝達型の授業
からの脱却を目指すのであれば,研修のスタイルも同様に,変えなければならない。
研修の内容もさることながら,研修の進め方そのものが新しく,コンピュータを使っ
た授業の進め方にも参考になるように工夫することが大切である。
 表4に,研修の進め方を考える上で,授業とのつながりを整理した観点を示す。本
報告書で提案している研修の進め方は,「この研修を受けることで,新しいことを学
ぶとき(教師には研修,子どもには授業)には,こんなやり方もあるんだ,というこ
とを体験して欲しい。」という意図に基づいている。研修を企画・実行する際には,
その意図が十分実現できるように,表4の項目をチェックしてもらいたい。

表4.研修の進め方と授業とのつながり  
----------------------------------------------
◯おうむ返しの伝達講習と教師主導の情報伝達型授業
  ・座学研修とその伝達からの脱却=教科書を教える授業からの脱却
◯教師が動く研修と子どもが動く授業
  ・個別・マイペース研修と討議の時間の組み合わせで進める
◯講師に頼らない研修と教師に頼らない学習
  ・自分の力で,手引きプリントなどを頼りに主体的研修
  ・主体的研修のお膳立てができれば,主体的学習の環境整備もできる
◯講師を超える部分を要求する研修と子どもに教えてもらう授業
  ・正解をいつでも講師が知っている訳ではない
  ・知らないことでも,出来映えを評価でき,改善を指摘できる講師
◯教科横断的な研修と総合学習的な授業
  ・コンピュータを媒介に,全教科全学年に共通の話題
  ・他教科・他学年を知ることで,子どもの身になれる
◯過去の研修成果を参考にできる研修と情報を残せる授業
  ・最初は例示を参考に,次からは自分達の研修成果を事例に
  ・残して積み上げる。先輩の上を行く。
◯意欲がもてる研修と魅力的な授業づくり
  ・自分で苦労して,仲間と切磋琢磨してできあがった達成感を,授業にも
-----------------------------------------------


3.コンピュータを活用した授業における授業設計の在り方



(1)演習の各過程における考え方と留意点


 演習は,表6に示す6つの段階を繰り返しながら進行する。研修の状況によっては
,どの過程に重点を置くかも考慮しながら進めるとよい。ここでは,各研修過程にお
ける考え方と留意点について説明する。

     表6.研修の流れ
・ 条件設定の把握と評価方法の具体化
・ 指定ソフトウェアの体験
・ 授業展開案の作成
・ 討議
・ 模擬授業
・ 評価


・ 条件設定の把握と評価方法の具体化

   条件設定とは,研修のために与えられた仮想的なコンピュータ活用場面を示す書類
である。ここに何が書かれているのかを把握し,授業の成否を検討するための材料を
どう集めていくかを検討するのが,この段階になる。主な検討項目として,次のもの
があり得る。

◆誰に何を教える授業か
 ・子どもの実態と期待する変容
 ・教科の学習目標と情報教育としての学習目標
◆この授業の前後には何があるか
 ・以前何を習っていて,この授業を将来何につなげるのか
 ・他の教科で関連した事項を習っているか
◆どんな学習環境で行う授業か
 ・コンピュータは何台,どう設置されているか
 ・コンピュータ以外には何が使えるか
◆「期待する変容」をいつ,どうやって確かめるのか
 ・授業の終わり・終わった後に,何かやらせるか
 ・授業の成果物(作品・発表)の中に何を見たいか
 ・授業中,子どもの何を見ていたらいいか
 ・子ども全員にクリアして欲しいことは何で,それをいつどうやってチェック
  するか

■■この段階での評価の観点■■
□ どんな条件設定かを,自分なりの言葉で説明できるか?
□ 変容を確かめるための手だてについて,いつ何をやるかのメモができたか
  (評価方法)?
□ どんな教室になるか,想像図(平面図)が描けたか(学習環境)?


・ 指定ソフトウェアの体験

 授業で用いることが指定されたソフトウェアを体験するのがこの段階である。伝統
的な授業設計の考え方によれば,まず教育上の目標なり解決したい問題が存在し,そ
のために最良の解決策を選択あるいは開発していくのが妥当だとされてきた。この立
場では,選択肢の一つであるはずのソフトウェアが最初から指定されていて「これを
とにかく使え」というのはおかしい,と考えることになる。一方で,必要とされる解
決策が手元にあるとは限らないし,実際にすぐれたソフトウェアがあるのだから,そ
れを使ってみることから始めよう,という現実的な立場もあり得る。
 この研修では,解決したい問題を条件設定という形で仮想し,その問題を解決する
ためにある指定されたソフトウェアを使ってみることを試みるという立場をとる。ソ
フトウェアは,・の条件設定に適したものを指定しているが,実際の研修では,ソフ
トウェアを体験してみながら,・の条件設定を振り返り,評価方法を見直す往復運動
が必要になってくる場合もあろう。
 この段階でソフトウェアを体験するにあたっては,次の3つの視点が大切である。

◆子どもの目で体験する。

 楽しそうか。操作は簡単か。わかりやすいか。やりたいことができそうか。どんな
ところに興味をもつだろうか。何を試してみたくなりそうか。どんなところに引っか
かりそうか。

◆様々な可能性を調べてみる。

 どんな機能が用意されているか。どの機能が使えそうで,どの機能は邪魔か。途中
でやめるとどうなるか。どうしたら途中から再開できるか。戻るとどうなるか。失敗
が続くとどうなるか。どうやって結果を保存するか。ひとりで使うとどうなるか。何
人か一緒に使うとどうなるか。

◆子どもにどう使わせるか,教師の目で見直す。

 約束ごとを決めておく必要があるか(使う機能を限定するなど)。順序や段階を設
ける必要があるか。全員に最低限ここまでやらせるという目処は何か。余裕がある子
どもには何をやらせるか。どんなつまずきが予想され,どんな助言が必要そうか。


■■この段階での評価の観点■■
□ どんな内容のソフトウェアかを,使ったことがない人に説明できるようになったか?
□ 子どもが使うとどうなりそうかを想像し,このソフトウェアのよい点と悪い点を
メモすることができたか?
□ 条件設定の中で,このソフトウェアをどう使わせるかについて,自分なりの考え
をメモできたか?


・ 授業展開案の作成

 小グループまたは個人で,条件設定のもとで指定ソフトウェアを活用する授業展開
案をつくってみる段階である。自分が担当した経験をもつ教科や学年であれば,すぐ
に書けるであろうが,担当したことがない題材の場合,困難が予想される。しかし,
コンピュータという共通の切り口で,他の教科や学年を子どもの視点から捉え直すこ
とができるという強味はある。不明な点は,当該学年・教科の同僚から情報収集しな
がら作業を進めたい。ここでの作業は,つぎの3つの段階を経て進むことが考えられ
る。各々の段階での留意事項とチェック項目(表6)を記す。

◆条件設定を指導案の形に書きかえる
 ・条件設定で指定されている事項は,漏れなく盛り込む
 ・条件設定で指定されていない事項は,仮想的に書き込む
◆(小)単元を想定し,コンピュータ活用の場面を位置づける
 ・指導計画を仮設し,本時の単元における位置を想定する
 ・条件設定の中に指導計画が示唆されていればそれを盛り込む
 ・単元内で本時の前後でのコンピュータ利用を計画する
    可能ならば,単元構成とメディア利用の一覧表を準備する
◆コンピュータ活用場面がある授業(本時)の展開案をつくる
 ・ソフト体験からのメモをもとに,活用場面を授業に盛り込む
 ・授業中の評価・援助の観点を,展開のなかに具体化させる
 ・可能ならば,評価テスト・アンケートなどを別添する

           表6.授業展開案:伝えるための10ケ条
--------------------------------------------------------
1.授業のねらいが明確か(学習目標が明示されているか?美辞麗句ではだめ)
2.達成をいつどうやって調べるのか(テストやアンケートは?評価のスケジュールは?)
3.授業展開が想像できるか(児童生徒が授業中何をするのか?教師の指示や発問は?)
4.ねらい達成の手段があるか(目標と活動が対応しているか?目標が棚上げされてないか?)
5.児童生徒と教師の活動が区別できるか(学習活動と教師の指導を分けて書いているか?)
6.およその時間配分があるか(主な活動毎に予定時間を明記しているか?展開=40分でなく)
7.授業で使う資料が添付されているか(配付プリント,板書案,その他の準備物の説明は?)
8.位置づけ・役割が述べられているか(単元レベルでの計画は?細案か?)
9.読みやすく書かれているか(一目でわかるか?枝葉末節に過ぎないか?)
10.他人の目でチェックしてあるか(同僚に見せて不明な点を書き直したか?)
--------------------------------------------------------
■■この段階での評価の観点■■
□ 授業のイメージがつかめる展開案ができたか?
□ 条件設定の内容を踏まえた展開案になったか?
□ 自分のアイディアが盛り込めたか?


・ 討議

   授業展開案を持ちよって,お互いのプランを検討しあう段階である。一例として,
準備,披露,点検,検討,結集の5つの要素を順に進めていくことが考えられる。

◆準備:自分らしさが出せた授業展開案を研修人数分コピーする
 ・書いたものをもとに検討する。場合によってはOHPでも。
 ・確認作業のために,ソフトウェアも準備しておくとよい。
◆披露:自分が用意した授業展開案の特徴を説明する
 ・アピールしたい点を強調しながら話す
 ・発表者の個性を鑑賞する姿勢で聞く
◆点検:条件設定が全て盛り込まれているかどうかを確認する
 ・条件設定を読み直しながら,各々の項目について点検していく
 ・条件設定について,改めて共通理解を形成する
◆検討:よい点と悪い点を指摘し合う
 ・どんな案にも必ずメリット・デメリットの両面がある
 ・不足や誤解は追加・修正する。主義主張はぶつけ合う。
◆結集:英知を寄せ合い,授業展開案をまとめる
 ・複数の案のよい点を組み合わせて,模擬授業用の展開案とする。
 ・場合によっては,いくつかの案を並行して実行してみることも。

 お互いに持ち寄った授業展開案は,まず「わかりやすい」ものでなければならない
。「わかりやすい」とは,自分の計画を明確に相手に伝えることができるという意味
であり,それがそのまま「よい(妥当な)」授業計画であるとは限らない。「わかり
やすい」指導案は,自分の計画の長所も短所も伝えるものだから,むしろよい授業計
画への議論の出発点としてとらえるべきである。したがって,「このソフトの使い方
について,こんなプランを立てました。他にアイディアはありませんか?」と問いか
け,討議から多くを学ぶ姿勢で臨みたい。
 コンピュータ利用の授業展開案は,一般の場合よりも,同学年同教科の指導経験の
ない先生方に興味をもたれることが多い。「コンピュータ利用」という共通項がある
ので,ちがう内容をちがう学年に教える場合にも,どのような授業の組み立てをして
いるのかなどが参考になる。したがって,授業内容の前後関係をおおまかに解説し,
単元における授業の位置づけ,既習基礎事項の学習時期などが教科外,学年外の先生
方にもわかるよう配慮されているかも,あわせて吟味するとよい。

■■この段階での評価の観点■■
□ 参加者全員が討議の過程で意見を述べたか(進行係が確認)?
□ 参加者が討議を有意義であったと感じたか(アンケートなど)?
□ 討議の記録を残したか(次の研修の参考とする)?
□ 模擬授業用の授業展開案ができたか?


 ・ 模擬授業

    検討した授業展開案をもとに,模擬授業を実施する段階である。模擬授業といって
も,研修の状況によって,様々なものが考えられるが,できるだけ実際の授業に近づ
けることで,より多くの成果を得ることが期待できる。想定される模擬授業の種類と
しては,次の4つがある。研修の段階や校内の事情にあわせて,模擬授業を具体化し
たい。

◆研修参加者が教師役と子ども役になる研修会模擬授業
 ・ドライリハーサル,シミュレーションとして
 ・問題点を洗い出し,できれば次の段階に進む

◆クラブ活動などで子ども数人を相手にした小人数模擬授業
 ・ソフトウェアを子どもに使わせて反応を見るだけでも収穫大
 ・授業展開案にある課題をやらせ,評価方法も試運転する

◆単発1時間だけ1クラスを相手にした飛び込み模擬授業
 ・本時以前に仮定される学習済内容は,予め教えておく
 ・クラス単位で授業展開した場合の問題点を見つける

◆通常の授業として(小)単元単位で実施する本格的模擬授業
 ・せっかくの研修を日々の授業実践に生かす道
 ・研修と日常の指導を統合し,手応えのある研修を
 ・研修から実践的研究へつなげる












■■この段階での評価の観点■■
□ 模擬授業の進行について記録が残せたか?
□ 計画通りにいった点といかなかった点がメモできたか?
□ 子どもの変容があったかどうかの記録が残せたか?
□ コンピュータを使った授業での教師の役割が確認できたか?


 ・ 評価

 模擬授業の経過と成果をもとに,全体を振り返り研修成果を確認する段階である。
本研修案では,・から・の段階をいくつかの条件設定で繰り返し実施することを想定
している。したがって,この段階は,次の条件設定へ進む前に・から・の段階の段階
全てを振り返って,次の研修につなげるためのものとして,重要な位置付けである。
まず,模擬授業を振り返って話し合いをもつ(授業検討会)。次に,この条件設定で
行った研修の全体を振り返る(研修検討会)。最後に,コンピュータを活用すること
について意見を交すことが考えられる。各々の段階での注意点は次の通りである。

◆授業検討会
 ・計画通りにいったことといかなかったことを確認する
 ・子どもの変容について,確かめられたかどうかを検討する
 ・子どもの変容について,どの程度成功したかを検討する
 ・授業の印象や教師の役割などについて意見を交換する

◆研修検討会
 ・条件設定がうまく把握できたか?
 ・子どもの変容を明らかにする手段は具体的だったか?
 ・ソフトウェアの機能は十分に把握できていたか?
 ・自分の授業展開案は納得のいくものであったか?
 ・英知を集結したはずの最終授業展開案はよかったのか?
 ・研修全体の進め方はこれでよかったか?次に変更すべき点は?

◆コンピュータ活用についての意見交換
 ・コンピュータ利用の留意点として,気付いた点をまとめる
 ・オリジナルな活用アイディアを出し合う(こんな使い方はどう?)
 ・オリジナルな条件設定を提案・開発する(今度はこの場面では?)





■■この段階での評価の観点■■
□ 違う条件設定を用いた研修への意欲が湧いたか
  (これならばやっても意味がある研修だと思えたか)?
□ 次回は,今回よりも短時間でできると思えるか(コツがつかめたか)?
□ 教師として,自分の実力が少しついたと実感できたか
  (コンピュータ活用方法が少しわかってきたか)?


(2)研修が効果的ならば,効果的な授業ができる:研修設計から授業設計へ


 コンピュータを用いた授業を設計するためのノウハウは,コンピュータを用いない
授業を組み立てていくときと,基本的に同じである。子どもの変容が起こったのかど
うか,それをどうやって確かめたのか。そして,「その成果を先生方がどう捕えてい
たのか(どの程度うまくいったと思ったのか,何が不足していると思ったのか,今後
どうしたいと思ったのかなど)」。これを,子どもの実態に即して,確かめながら進
めていくこと。これに尽きる。
 これは,授業を組み立てる上でも,また,研修を組み立てる上でも,共通してはて
はまる,システム的なアプローチと呼ばれる手法である。せっかくやる研修(授業)
がどんな結果を生んだのかを捕えて,どこがうまくいってどこが不足していたのかを
知ることは,いわゆる実践者の自己モニターリングである。自分のやっていることを
客観的に点検しながら,子どもの変容から情報を得て,自分が立てた計画にフィード
バックしながら,自己修正を繰り返して進んでいく。これができれば,結果を味わう
ことも,教師自身の成長を感じることも可能になる。しかし,これができないと,研
修(授業)が終わったこと自体がとっても大きなご褒美になって,「お疲れ様でした
!」の反省会が盛り上がって,次の日からはまた以前からの普通の授業に戻っていく
というパターンになってしまう。
 コンピュータは,授業で使えばよいというものではない。同じように,コンピュー
タを使う研修をやればよいというものでもない。コンピュータを効果的に活用するた
めにはどうしたらよいか。あるいは,コンピュータについての研修が「時間つぶし」
にならないためにはどうしたらよいか。この問いに答えるためには、まずコンピュー
タありきでそれをどうやって使ったらよいか(活用方法)を考えるだけでは不十分で
ある。コンピュータは必ず使わなくてはならないというものではない。使った方がよ
いと思えたときに、使う理由(活用目的)を明らかにして活用するのがよい。同様に
,コンピュータ研修の方法論を考えるだけでなく,研修の目的を明らかにし,その達
成状況を明らかにしていく努力が重要なのである。
 授業設計のなかで最も大切なことは,「何をもって効果ありとするのか」を明らか
にできることである。このことの重要性は,コンピュータを用いた授業を計画する場
合にも,また,教師(講師)が直接的に指示を出さなくても学習(研修)が進むよう
な環境を構築していこうとする場合にも同様に当てはまる。教育機器を使うことで何
ができたら効果的とするのかについて,子どもの立場と教師の立場とから,マルチメ
ディア時代に向けて整理したものを,鈴木(1997)から引用して表7に掲載する。何
をもって研修(授業)が成功したとみなすか,目的をもう一度振り返るのに役立てて
いただきたい。
 コンピュータを授業に活用するための研修を受けることを通して,また研修をみん
なの力を合わせて計画・実施する経験を通して,コンピュータを使った授業のイメー
ジを持つことができるだろう。さらに,授業設計という観点に立って,「コンピュー
タを使う授業も,使わない授業でも,こうやって組み立てていけばいいんだ」という
実感をもつ先生が,一人でも多くできることを期待したい。これからの新しい時代へ
向けて,授業に対する見方を変えることこそが,コンピュータ授業研修の最も重要な
「効果」の一つであることを,再確認する意味で。

表7.マルチメディア効果チェックリスト  
----------------------------------------------------
1.子どもの道具としてのマルチメディア
 (子どもの学習への手だてを増やす;マルチメディア「で」学ぶ)

□新鮮さを感じ、興味関心が湧いたか?(学習意欲)
□今までよりも、内容がよくわかるようになったか?(学習効果)
□今までよりも、学習時間が節約できるようになったか?(学習効率)
□今までよりも、学習方法・内容・場所の選択幅が増えたか?(制約の緩和)

2.学習目的としてのマルチメディア
 (子どもと教師のメディア活用能力を育てる;マルチメディア「を」学ぶ)

□メディアに触れ、慣れ、親しむことにより、アレルギーをなくせたか?
□メディアの特性を知り、いつどんな目的で使えるかを把握できたか?
□メディアの操作方法を知り、使いたいときに効果的に使えるようになったか?

3.教師の助っ人としてのマルチメディア
 (ゲスト講師として、また下請け人として、自分を生かすために活用する)

□やりたかったけれどできなかったことを実現するために活用できたか?
□人間メディアの弱点を補うために活用できたか?
□機器でもできる部分の作業から解放されたか?
□子どもと対話する時間が増えたか?
□教材について研究する時間が増えたか?
□「直接教える」ことを避け、教え過ぎを克服できたか?

4.授業を知る道具としてのマルチメディア
 (操作方法の習得を超えて「使いこなす」ための力量をつける)

□これまでの授業のよさや欠点が発見できたか?
□子どもたちに何を教えたいのかを再検討する機会になったか?
□授業準備の一回ずつ違う部分と何回でも繰り返し使える部分が区別できたか?
□人間教師の果たすべき役割が鮮明になったか?
----------------------------------------------------
(出典:鈴木克明(1997)「第3章 マルチメディアと教育」
赤堀侃司(編)『高度情報社会の中の学校〜最先端の学校づくりを目指す〜』
ぎょうせい,p.102)