第5回日本視聴覚・放送教育学会大会発表論文原稿

Webサイトにみる1998年現在の「ミミ号の航海」

The Voyage of the Mimi in 1998: Searching Web sites


鈴木 克明
Katsuaki Suzuki
東北学院大学
Tohoku Gakuin University



要約:完成から15年が経過した1998年に「ミミ号」はどうなっているのかを調べるために,インターネットWeb上での関連情報検索を試 みた。その結果,(1)いまだにPBSの放送番組リストに掲載されていること,(2)CD-ROM化・商品化されて高い評価を受けていること,(3)財団 が結成され,帆船を軸に各種活動が継続されていること,(4)インターネットを使った利用者相互の協同学習が展開していること等が明らかになった。放送番 組の長期利用やマルチメディア展開について考察した。

キーワード:「ミミ号の航海」 Webサイト 調査 インターネット マルチメディア


1.「ミミ号」は歴史になったのか


 米国バンクストリート教育大学によって開発され,PBSにより1980年代後半に全米で活用されたマルチメディア教材の元祖「ミミ号の航海」は,本学会においてもすでに「古典」として研究の対象になっている(佐賀,1995)。

 開発に40ケ月をかけて1984年に完成した「ミミ号」は,様々な教育メディアを組み合わせてパッケージ化し,授業展開案と各種の教材を組み合わせて提 供した。また,「ミミ号」利用の教師同士の情報交換をパソコン通信で支援するなど,今日のマルチメディア展開の雛型をすでに実現していた(鈴 木,1997)。

 完成から15年が経過した現在において,「ミミ号」は,古典として過去の歴史になったのか。1998年時点での現状を調べるために,インターネットWeb上での関連情報の検索を試みた。


2.調査方法


 Web上の検索サイト「AltaVista」などを用いて,「ミミ号」関連情報の所在を調査した。全文検索により「voyage of mimi」(AND検索;大文字小文字の区分なし)をキーワードに用いた。また,全文検索により同定したWebサイトに含まれている関連サイトへのリンク をたどることで,全文検索で同定できなかったサイトを同定した。調査は,Web情報の流動性をかんがみ,1998年3月と同年8月の2度行った。


3.調査結果


3-1.PBSの放送番組リストに掲載されていた

 1998年3月の調査時点では,1997-98年度の放送番組シリーズとして,「ミミ号」(第1と第2両方)が,PBSの教育番組リストに掲載されてい た(URL=http://www.pbs.org/learn/itv/series.html)。地方の放送局ごとに番組を選定して放送しているの で,このリストの番組全てが全ての放送局から実際に放送されているとは限らない。ホームページで放送予定表を公開している20数局のリストを調べた結果, サンフランシスコのKQEDが1998年3月に両シリーズとも,早朝5時から6時にまとめて放送予定であることがわかった。

3-2.CD-ROM化・商品化されていた

 「ミミ号」は,サンバースト・コミュニケーションズ社によってCD-ROM化され,市販されていた (URL=http://www.nysunburst.com/mimi.html)。同社によると,米国内の教師には,最初の3話とコンピュータソフ ト1つ,児童用ワークブック,教師用ガイド(6週間分の指導案を含む)がセットになった試供品が無料で用意されている。販売価格は,第1シリーズ,第2シ リーズともにCD-ROM7枚のセットで$299.95と安価に設定されている。

 リンウォース社の書評1997年4月号(URL=http://www.linworth.com/reviews/tc/april97.htm)に よると,1996年時点で,ビデオ,レーザーディスク,CD-ROMの3形態が販売されており,コンピュータソフトや水温測定機具などの関連教材のすべて がそろう完全キットでの販売価格は,$1299.95(ビデオ)〜$1599.95(LD又はCD-ROM)である。使い勝手もよく,またカバーできる教 科も,算数・理科から社会科,環境,文化へと広がりを持ち,授業展開案も整備されていて長期にわたる複合的な利用が可能であると,高く評価していた。


3-3.「ミミ号」財団によるホームページが開設され,各種活動が実施されていた

 「ミミ号」第2シリーズが完成し放映された直後の1988年から,バンクストリート教育大学と番組製作にあたったBarn School Trustによって,番組に使われた「ミミ号」(帆船)が教育目的に保存されている。過去7年間に15万人を越える参加者を得て,毎年度9月から6月まで の間,全米20数箇所をまわって体験学習を展開してきた(MIMIFest)。また,インターネットを使った「ミミ号」利用者の交流や,サマーキャンプな ども催され(MIMIConnections),毎年合計3万人を越える児童に体験学習の機会を提供してきたとも報告していた。

 ホームページは1995年に開設されたが,近年独立したサイト(URL=http://www.mimi.org/)に移動したらしく,新しい活動が整 いつつある状況であった。「ミミ号」を利用している教師に,関連情報を提供するサイトを紹介したり,遠隔教育コンソーシアム設立を呼びかけるページもある 一方で,掲示板への書き込みは始まったばかりで,未完成の部分もあった。

3-4.インターネットを使った「ミミ号」利用者相互の協同学習が行われていた

 「ミミ号」を活用した教育実践についての情報も公開されていた。たとえば,オレゴン州の3人の小学校教師による「ミミ号」学習とインターネット利用とを 組み合わせた13週間分の授業展開案(URL=http://schools.4j.lane.edu/websites/harris/mimi /voyage_home.html)や聴覚障害児学校による活用例の報告(URL=http://www.gallaudet.edu /~mssdsci/mimi.html)などがあった。

 教育実践の中で充実しているものに,ペンシルバニア州Lower Merion学区の教育工学専門官ドルトン氏を中心に展開している「新米水兵のためのミミ号」(MIMI for Landlubbers, URL=http://www.lmsd.k12.pa.us/mimi/)があった。1994年に開始されたこの活動では,MIMIFestで実際に 「ミミ号」を見学する学区の子どもたちと全米各地の子どもたちをネットワークで結んで,協同学習を展開している。

 5年目にあたる1998年度の募集要項では,2月から5月末までのスケジュールが説明されていた(全米から参加者をクラス単位で20まで募集;学区内に 交流する相手クラスをアサイン;学校の紹介などをホームページに掲載;毎週のメール交換で「ミミ号を見に行ったときに聞いてきて欲しい質問」のやりと り;4月のMIMIFestでの成果をもとに交流;お互いの学習成果を確認するメッセージで終了)。1998年8月時点の調査では,1998年度の成果が 公開情報に加わっていた。


4.考察


 「ミミ号」は,1998年現在も発展を続けていた。パッケージ化され,市販されたのみならず,財団が「ミミ号」(帆船)そのものを活用した体験学習を全 国展開し,インターネットを用いての利用術の情報交換や利用者相互の協同学習が実施されるなど,マルチメディア時代にふさわしい展開も見せている。これだ けの広がりを持つほどのインパクトが,番組そのものにあった証しであろう。

 マルチメディア時代における放送番組の役割や制作方針,とりわけ他メディアとの連携や放送番組の長期に渡る活用策を議論するときには,製作当初の「ミミ 号」を参考にする以上に,その後の展開ぶりを念頭に置く必要がある。教材のシリーズ化とパッケージ化,あるいは,市販と維持体制などについて,計画の当初 から検討を加え,インターネットによる学習支援や利用促進策についても,組織的な取り組みと長期間の維持体制が不可欠である。製作者が関与する部分と,利 用者相互の交流に委ねる部分との棲み分けも,重要な判断となるだろう。

 さらに,放送番組をCD-ROM化すれば,放送が不要になるのかどうかも,十分に検討しておきたい。情報を提供することが,他のメディアによって達成で きるとすれば,情報提供以外に放送が担うべき役割が他にあるのではないか,という視点である。縦横無尽のメディア複合利用の学習展開も含めて,その核とな る番組づくりを検討することが求められているのではないだろうか。

謝辞

 本研究の一部は,NHK学校放送番組部からの受託研究『マルチメディア時代の番組・教育ソフト研究報告書(3年次)』(財)日本放送教育協会,1998年によるものである。

参考文献