教育工学関連学協会連合第5回全国大会・松下視聴覚教育研究
財団研究助成・成果発表特別セッションにて報告

小学校の教室にパソコンを自然に入れるための条件は何か
〜児童一人一人の情報活用能力を伸ばすパソコン導入の2つの試み〜


Conditions for naturally introducing computers into elementary classrooms:
Two cases trying to enhance information utilization skills in each child

  鈴木克明       成田忠雄        青木 茂
Katsuaki Suzuki Tadao Narita Shigeru Aoki
東北学院大学    仙台市教育センター  仙台市立東六番丁小学校
Tohoku Gakuin Sendai Education Center Higashi Rokubancho
University Elementary School

要約:本研究では、(財)松下視聴覚教育研究財団からの助成を受け、小学校の教室にパソコンを置いた場合の諸問題と、児童の情報活用能力を高める教師から の働きかけについて、具体的な授業実践を通して明らかにした。導入台数は数台程度を想定し、一年間置いて利用目的を特定しない実践と、あるソフトウェアを 使うためにのみ持ち込んで単元が終了するまで設置する実践の2つを試みた。

キーワード:初等教育 情報活用能力 教室 パソコン導入

1.研究の目的

 本研究は、小学生が普段生活している教室にコンピュータを導入した実践を報告するものである。小学校へのマルチメディア対応パソコンの導入は進んでいるが、一部の例外的な先進校を除くと、授業でのパソコン利用は特別教室への移動を伴う非日常的な学習活動となる。
 一方で、価格低下などにより、家庭で購入する例や、教員が個人で購入したパソコンを教室に持ち込む例も増えてきた。学校ではパソコンが特別なものとして扱われる一方で、子どもたちには特別なものではなくなりつつある。
 そこで、本研究では、日常的に触れられる環境下にパソコンを置いた場合の諸問題と、児童の情報活用能力を高める教師からの働きかけについて、具体的な授 業実践を通して明らかにした。導入台数は数台程度を想定し、一年間置いて利用目的を特定しない実践と、あるソフトウェアを使うためにのみ持ち込んで単元が 終了するまで設置する実践の2つを試みた。

2.成田学級での試み(自由な年間利用)

 年間を通して教室にパソコンを設置し自然に使える道具にするため、4月の学年当初に成田学級(4年3組)に中古の払い下げパソコン4台を設置する構想をたてた。学校長の承諾や職員間の共通理解の形成、電源の確保や狭い教室の再配置などの手続きを経て、実践を開始した。
 児童自身によるパソコン利用についてのルールづくりに始まり、ソフトの使い方の教え合い、あるいは表現活動に利用していこうとする子どもが出るなど、自 然に学級の中に溶け込んでいった。パソコンが日常的な道具として受け入れられていく過程で教師はどのような働きかけをしたのか。教師による場面設定と指導 上の留意事項として、次の4点を実践者は指摘している。
(1)運用を児童にまかせる
 運用の仕方を全て児童に考えさせ、任せたことで、学習環境を児童自身が作り出していった。少ない台数で取り合いが予想されたが、32人の学級で4台でも十分運用できた。
(2)学級づくりにコンピュータを生かす
 操作に関しては、意図的に必要以上のことを教えない姿勢をとったが、そのことで数名のコンピュータ得意児童を作るのではなく、互いに学習し合える仲間づくりが生まれ、お互いに操作方法を聞き合って進める雰囲気がつくれた。
(3)まず遊びから入らせる
 一年間を振り返るアンケートでは、コンピュータを「遊び」に使ったと意識している児童が85%に上った。最初に導入したお絵描きソフトを表現活 動に結び付けたことによるものであろう。雨の日の遊びに困らないようになったことや、なんとなくコンピュータが教室にあると楽しいとの感想を回答する子ど ももいた。
(4)表現道具の一つとして位置づける
 社会科での利用では、当初予定以上に時間がかかったが、操作に慣れてくると短時間で自分の考えを作品として作れるようになった。従来の方法を全 て否定せず、児童がやりやすい方法を選択して表現活動を進めた結果、パソコンで表した方が効果的である場合と、そうでない場合が児童にも自然に分かるよう になってきた。
 この協力校では、スチルカメラやビデオカメラをもって地域に取材に出た結果をまとめて発表する授業を展開してきていた。社会科の授業などの発表で自発的 にパソコンを使うグループが現われたのを受けて、2学期の社会科単元「わたしたちの宮城県」では、児童が収集した県内情報を束ねる仕組みとして、ハイパー カードを用いた実践を展開した(成田ら、1995)。
 この活動は結果的にはうまくいかなかったと実践者は自己評価しているが、波及効果(パソコンソフト作品展への応募と入賞)をもたらしている。その後、地 域情報の調査活動を他校とのビデオレターを用いた情報交換に発展させたが、パソコンにこだわらない実践者の姿勢が、逆説的ではあるが、パソコンの教室への 自然な導入を支えていたことが改めて読み取れた。

3.青木学級での試み(単元利用、特定目的)

 もう一つの協力校の青木学級(6年3組)では、環境学習の導入に探索型環境教育ソフト「みちくさ」を用いる目的のために、パソコンを臨時に設置した。 「みちくさ」は、仙台市科学館に本部を置き、教員や研究者、企業、ソフト制作会社などのメンバーが共同で教材を作っている仙台マルチメディア環境教育研究 会の作品である(鈴木、1995)。現在の学校のメディア環境やカリキュラムに縛られずに、子どもたちの興味を環境に向けさせるための発想を自由に展開し た作品ではあるが、使えないのでは仕方ない。そこで考えたのがこの臨時設置による実践である。
 青木学級では導入として使用し、学区を流れる梅田川と「みちくさ」に登場する広瀬川のどこがちがうのかを探究の視点として設定した。青木学級には担任教 師が使っているパソコンがあり、日常的に子どもたちもそれに触れる機会を持っているが、この実践に十分な機器が揃っているわけではない。そこで、機器を借 用・レンタルしてグループに1台の「みちくさ」を用意し、自由探索させた。
 「みちくさ」をゲーム感覚で体験した子どもたちは、川と環境のつながりの多様性を心に留めながら自分たちの川の調査計画を立て、実施し、まとめていっ た。「みちくさ」には調査に直接役に立つデータはなかったが、調査の各段階で、自分たちの調査の比較対象として使う姿が見られたと報告されている(青木 ら、1995)。
 この実践では、地元で自作されたマルチメディア教材を使った新しい授業のスタイルを提案する指導計画が提案できた。また、このソフトを使いたいという求めに応じるためのパソコンの臨時設置のノウハウが得られた。

4.おわりに

 普段生活している教室にコンピュータを導入するという行政の路線に乗りづらい研究を進める上で、(財)松下視聴覚教育研究財団よりの助成を受けられたこ との意義は多大であった。この研究の成果をできる限り広く世に問うことによって、また更なる実践を積み重ねることによって、本研究を支えてくださった関係 各位への感謝を表わすことにしたい。

参考文献

青木茂・成田忠雄・鈴木克明(1995)「探索型環境教育ソフト「みちくさ」についての実践研究−マルチメディア教材をどこでどのように学習に生かせばよいのか−」『第21回全日本教育工学研究協議会全国大会発表論文集』p. 295 - 298
成田忠雄・鈴木克明・栫有紀(1995)「児童一人一人の情報活用能力を伸ばすコンピュータ活用の試み」『第21回全日本教育工学研究協議会全国大会発表論文集』343 - 346
鈴木克明(1995)「学校をどう変える? 環境教育とマルチメディア活用の接点」『IMETS』第119号、p. 28 - 33