ソフトウエア工学研究財団(1994)『新コンピュータ支援教育システムの開発に関す
るフィージビリティスタディ報告書』 機械システム振興協会システム開発報告書
5-F-4、分担執筆(第2章第3節)

2−3 ネットワーク化が学習意欲に与える影響


ネットワーク化に伴って、本コースウエアの学習環境はどのように変化するのだろうか。本節では、本プロジェクトの目的関数である教材の「魅力」、すなわち 学習意欲の持続という観点に絞ってネットワーク化の影響を理論的に考察する。この考察にあたっては、昨年度と同様、教材設計開発者が学習意欲の問題をシス テム的に取り組む枠組みとして注目されているケラーのARCSモデルを参考にする。


2−3−1 ネットワーク化がもたらす学習環境の変化


本プロジェクトの今年度の活動は、スタンドアロン型教材として昨年度開発した「マリコ伯母さんの秘密」のネットワーク化にあった。ネットワーク化の目的と してはネットワーク化を実現するための要素技術の検討や、教材に付加する内容の検討などが重要な課題である。一方で、ネットワーク化がもたらす教材内容や 学習環境の変化が、本プロジェクトの目的関数である教材の魅力を高め、教材利用者の学習意欲を向上させるためにどのような側面で寄与する可能性があるのか を予想し、その観点からの評価データを収集することも求められる。

学習意欲への影響という観点からネットワーク化をとらえると、どのような学習環境の変化が予想されるであろうか。ネットワーク化することによって、本コー スウエア利用者の学習意欲を獲得・維持し、教材の「魅力」をより高めることができるのだろうか。ネットワーク化にともなう学習環境の変化は、少なくとも、 対機械的な要素と対人的な要素の付加という両側面を持つ。

第一の側面は、物理的な変化に伴う影響である。ネットワークケーブルが付加され、複数台のコンピュータが連結されるという物理的な変化に伴い、追加される 操作環境のオプションを駆使する能力が要求されるという対機械的な要素がまず変化する。学習場面におけるオプションの増加に伴って、認知的負荷が増大し、 より高度な学習環境の制御能力が求められることになろう。そもそもネットワーク化された環境で学ぶとはどんなことなのか、という概念が習得されていない学 習者にとっては、一方で教材内容の学習以前に学習しなければならないことが増えることを意味し、他方では未知の世界での学習機会を与えられるという事実が あり、利用者の学習意欲に影響を及ぼすことは想像に難くない。

第二の側面は、これまでの個別的な学習環境に二人称の仲間が加わることによる、対人的な変化である。昨年度のスタンドアロン型の学習環境においては、教材 内容の達成状況を管理する教師は存在せず、また、競争して同じ教材を競い合う仲間を設定していなかった。この条件下においては、学習は個別的な問題であ り、他の人間からの影響を受けることで利用者の学習意欲が変化することはなかった。ネットワーク化によって、ネットワークで連結された向こう側には「誰 か」が存在し、その存在を意識しながら学習を進行させることになる。つまり、利用者の学習意欲は、教材自体の面白さや魅力のみならず、共に学習を進める仲 間との対人関係によっても規定されることになる。


2−3−2 協同学習と学習意欲


本プロジェクトでは、教材設計、開発、評価の目的関数としてコースウエアの「魅力」を設定し、利用者の学習意欲を高めるためにはどのような工夫がどのよう な意味をもつのかという点を模索してきた。その際の枠組みとして採用したのが米国の教育工学者ジョン・M・ケラーの提唱するARCSモデルであった。 ARCSモデルでは、学習意欲を好奇心の喚起と維持(注意:Attention)、学習素材の意義付け(関連性:Relevance)、成功経験に裏付け された期待感(自信:Confidence)、そして努力の成果による意欲の維持(満足感:Satisfaction)の4側面でとらえ、教材ならびに学 習環境の「魅力」を分析・評価している。ネットワーク化に伴って本コースウエアの「魅力」がどのように変化する可能性があるのかについて、まず、協同学習 についての最近の研究動向を報告する。

協同学習の効果についての関心が近年高まっており、コンピュータを利用した学習についても、研究が重ねられてきている。ここでは、フーパーによる最近の論 評(Hooper, 1992)をもとに、協同学習を効果的に成立させるためのコースウエア設計指針とその理由をまとめ、ARCSモデルのどの側面と関連性があるのかを考察す る。

2−3−2−1 メンバーの責任と相互依存性


グループ成員個々のでき具合がグループ全体が成功を収める必要条件であるとき、メンバー間の<相互依存性>が高いとみなす。相互依存性を高めることが協同 学習の成功の最も重要な鍵となる主張する研究者もいる。肯定的な相互依存性の確保は、ARCSモデルでは、安心して努力する体制を整え、努力の結果に満足 できる条件とするという意味で「満足感」にかかわる問題であり、とくに不平等をなくし、努力の結果が正当に評価されるという公平感にかかわる事柄であると とらえることができる。

肯定的な相互依存性を確保するために、以下のコースウエア設計指針が提起されている。

1)グループ全員で一つの成果物を協同制作するよりも、全員が個々に所定の学習成果を収めることがグループとしての成功の条件となるようにする。

評価はグループのでき具合に無関係に個別に与えるする方法(個別報酬)や、グループ内で優劣を競い合う方法(競争報酬)に比べてグループ単位で与える(協 同報酬)のがよい。評価の中にメンバー全員のでき具合が反映する形(例えば個別得点の平均をグループ評価とするなど)を採用するのがよい。グループで一つ の成果物を仕上げさせてそれを評価する方法では、グループ内の最も優れたメンバーの実力が反映されることになり、個々のメンバーの習得状況は把握できな い。

課題への取り組みはメンバーが全員参加して互いに援助しながらの協同作業と、グループへの貢献を前提とした分業化による個別作業が考えられる。分業化を採 用する際には、協同学習の結果をメンバーが各自の個別作業で深めるという順序よりも、個別作業を協同作業の前提と位置づけるのがよい。協同から個別へと学 習が展開する場合は、評価も最終的な個別学習の結果でメンバー個々に与えられることになる(個別報酬)。

2)グループ化によるメンバー相互依存のマイナス影響を最小限にとどめるために、2ないし3人の少人数編成とする。

グループ化によるメンバー相互の依存心から生じる悪影響には、次のものがある。メンバーが増えることによって、グループの中に隠れてぬるま湯につかりき り、メンバーの意欲が低下する<集団内だらつき現象>。他のメンバーがやってくれるから自分が努力する必要はないとみなす<便乗者現象>。逆に、やる気の ない便乗者のために努力できないという気持ちになった他のメンバーの意欲がそがれる<摂取者効果>。これらの悪影響を回避するための方策として、少人数編 成が推奨されている。

2−3−2−2 援助的なやりとり


グループに与えられた目的の遂行に向かって、他のメンバーを助け、援助していこうと努力することを<援助的なやりとり>という。援助的なやりとりが頻繁に 行なわれるグループでは、メンバー相互の人間関係が密接になり、集団への帰属意識が高まり、学習意欲にも肯定的な影響をもたらす。ARCSモデルでは、仲 間からの褒め言葉や励ましによる「満足感」の高揚とともに、集団内で努力することへの意義を深め、やりがいを高める「関連性」への効果もあるととらえられ る。

援助的なやりとりの程度は、グループ成員の構成や年令によって規定されるとする研究が多いが、学習過程でのフィードバックによっても援助的なやりとりを促進する効果が期待できるとしている。

援助的なやりとりを促進させるために、以下のコースウエア設計指針が提起されている。

1)低学力者や年令の低い学習者は、同質者グループを避ける(つまり、学力の高い者や年令の少し上の学習者とのグループを構成する)。

自分とは異なるタイプの仲間と協同で学習すること自体が協同学習の目的の一つでもあるので、異質な者同士によるグルーピングが推奨される。進んだ学習者同 士は相互に啓発されるような関係を築く可能性が高いが、同質者同士の協同学習については、これまでの研究結果の示唆するところは必ずしも一定ではない。他 のメンバーに有益なアドバイスを与える力が不足している学習者同士でグループを組ませても、相互に好影響を及ぼし合う可能性が低い。むしろ、低学力者や低 年齢層の学習者にとっては、協同学習により自分より一歩進んだ仲間を観察し、助言を得ることによって成長の契機を与えられる意義が大きいので、異質な学習 者とのグルーピングが望ましい。(本コースウエアの対象者集団では、この注意は考慮しないでもよいと思われる。)

2)努力への原因帰属を促すフィードバックを多用する。

学習過程において、習得状況を知らせることはARCSモデルで言う「自信」を高め、目標に一歩ずつ近づくために有効であるとされている。学習意欲を維持す るためには、どの程度の学習成果を収めつつあるのかを知らせてはげますことと同時に、成功するか失敗するかは努力如何であり、うまく行っているとすればそ れは学習者の努力の賜物であることを強調することが重要だとされている。これを努力への原因帰属という。(ARCSモデルでは、努力への原因帰属感を持た せるためには、まず選択の幅を広くし、学習過程の制御を学習者に委ねることで、「自分のやり方がうまかったから成功した」と思わせることを推奨してい る)。

最近の研究によれば、努力への原因帰属を強調するフィードバックメッセージ(例:今うまくできたのは一生懸命頑張ったからです。おめでとう。)の効果は、 個別学習時よりも協同学習時により顕著に現われる。学習状況を点数で知らせるだけのメッセージを受け取った学習者集団よりも、より難問に挑戦し、グループ に与えられた目標に向かって努力する姿勢が強く観察された。

2−3−2−3 協同学習の技能とその訓練


他の学習者と協力して学習を進めるためには、各々のメンバーが協同学習を進めるための技能を発揮する必要がある。教室での一般的な学習形態とは異なった行 動パタンが要求されているので、訓練なしで効果的な協同学習がすすめられるという前提に立つべきではない。「協力して学習を進めなさい」とだけ指示して も、効果的な協同学習は実現しない。

協同学習を効果的に進めさせるために、以下のコースウエア設計指針が提起されている。

1)協同学習を効果的に行なうためにはどうしたらよいのかを協同学習を実施する前に教えておく。

事前に訓練をしたグループと訓練なしで協同学習を進めたがグループを比較したいくつかの研究で、事前に学習の進め方を教えることが有効であることが示唆さ れている。事前の訓練では、当該の課題に直接かかわる方略だけでなく、「重要な点を箇条書きにしてリストする」とか、「問題を出し合って習得を確認する」 などといった一般的な原則も教えるのが効果的である。訓練の手順としては、どんな作戦が効果的かをメンバー同士で考えさせ、それをリスト化して全員に理解 させ、そのあとでリストした作戦を使って試す機会を与え、効果を実感させること、あるいは一定期間協同学習をモニターし、有効な作戦をその場で示唆/提案 することなどが考えられる。

2)協同学習が進行する節目に、これまでの協同学習の様子を振り返り、点検し、次の協同学習の在り方を考えさせる機会を設ける。

事前訓練と並んで、協同学習を進行させる中で、定期的に自分たちのグループの協力状況を振り返る機会を与えることで、協同学習技能のメタ認知を促進する。 点検の機会を設けることで、協同学習技能を確認し、学習状況の自己評価と協同学習の作戦の効果を関連づけ、作戦の可否を判断・修正したり、協力の重要性を 再認識させたりする効果が確認されている。

協同学習場面の節目でこれまでの学習を振り返り、自分たちのグループの作戦でうまく行ったものは何か、あるいは改善する余地のあるものは何かを話し合わせ るコーナーを設けたり、今の学習場面ではこんな作戦を採用して成功したグループがあったという事例を提示するなどの工夫ができよう。


2−3−3 ネットワーク化と学習意欲:ARCS4要因の検討


最後に、ネットワーク化によって学習意欲にどのような影響を与える可能性があるかをARCSモデルの4要因ごとに検討する。ネットワーク化に伴う物理的変 化と協同学習場面の設定による対人的変化の両面に言及する。+は肯定的な影響、−は否定的な影響を表し、留意点を括弧の中に列挙した。

2−3−3−1 ネットワーク化と「注意」の獲得・維持


(物理的変化)
+ネットワーク化に伴う学習オプションの追加(電子メール、チャット、ヘルプなどの新規機能)の使用により、これまでにない学習環境を実現していることか ら「新奇性(ものめずらしさ)」の効果が期待できる。(新しく付加する機能は、できるかぎり興味をそそるようにし、一度使ってみたいと思わせる。選択肢の 外見や、実行中のプロセスにも利用者の注意を引きつける要素を考慮する。)
−技術的な新奇性が理解されず、機能を使いこなせない、あるいは使うために神経を集中させなければならなくなり、重荷に感じられるかも知れない。(一度利 用者が親しんだ機能には、一貫性、安定性をもたせ、目間苦しい変化によって利用者の興味をいたずらに刺激することは避ける。)

(対人的変化)
+コースウエアの進展に飽きてきた時点でネットワーク機能を使用して仲間と情報交換をすることによって、利用者が注意を持続できる。(利用者同士の自由な情報交換を保証する。)
+学習中の突然のメール到着やヘルプ依頼など、予期せぬ出来事で「変化性」を保つことができる。(学習中の利用者に、他の利用者から「割り込み」をかけられるようにする。)
−仲間の進行状況が気になって、自分の学習に集中できなくなるかも知れない。(他の利用者からの問い掛けを拒否したり、情報へのアクセスを後回しにする権利をもたせる。)

2−3−3−2 ネットワーク化と「関連性」の向上


(物理的変化)
+再新鋭の学習環境を利用するということ自体が、そこで得る知識技能の有用性という学習成果の意義とは別に、学習プロセスを味わうという側面から「やりが い」を高める可能性がある。(貴重な学習経験であり、それを楽しむことを利用者に勧める、あるいはネットワーク利用の学習環境を駆使できる力がもつ将来的 な意義を説明することなどが考えられる。)
−ネットワークを用いることの必然性が明らかにならないと、個別の学習とネットワーク利用学習との関連性が理解できない可能性がある。(ネットワークを使 わなければならない理由を利用者に明示する、あるいは学習の進行中に他の利用者との情報交換がなぜ必要かが体験的に理解できるように工夫する。)
−ネットワークを用いた学習に馴染めない利用者にとっては、不慣れなオプションの追加で、不快感を覚える可能性がある。(親しみやすいメタファーを用いるなどで、利用者がこれまでに経験のある学習環境との連続性を確保する工夫が求められる。)

(対人的変化)
+学習内容を習得することで仲間の役に立つ可能性があり、自分の学習の成果が道具的に機能する見通しをもつことで「やりがい」を与えられる。(仲間との情報交換に利用者各人の学習がどのように結びつく可能性があるのかをあらかじめ伝える、あるいは経験的に理解させる。)
+留学という内容自体に加えて、特に親和動機が強い利用者(仲間と共に作業することに意欲の源泉を求める心理的傾向の強い人)にとっては、仲間と共に問題 を解くこと自体が「やりがい」を高め、権力動機が強い利用者(仲間に影響力を及ぼし仲間のために働くことに意欲の源泉を求める心理的傾向の強い人;親分 肌)にとっては、ディスカッションをリードして問題解決過程を主導的に解決する活躍の場を与えられることが「やりがい」を高める。(協同学習における役割 分担を強要しないで、イニシアチブを取りたい人が取れるようにする。)
−達成動機が強い利用者(仲間のことよりも、自分の設定した目標に近づくことに意欲の源泉を求める心理的傾向の強い人)にとっては、自分のペースで学習が 進められず、共同作業がいらいらの原因になるかも知れない。(個別作業と協同作業を区別して設ける、あるいは協同作業における個別の貢献度を明らかにする など、個別作業の機会を与え、その成果を正当に評価する工夫が求められる。)

2−3−3−3 ネットワーク化と「自信」の確保


(物理的変化)
+オプションの追加により、相対的に教材内容の学習が軽減されたように見え、過去の学習での失敗体験を想起させない効果が期待できる。(これまでの学習経験とは異なった状況を演出し、英語を勉強するというよりも、協同作業を楽しんでもらう雰囲気をもたせる。)
+新しい学習環境に適応できた場合、「ネットワークを使って学習を進められた」という事実が学習者としての自信を高める。(協同学習関連のオプションをで きるかぎり平易なものにし、うまく使えるように工夫する。また、ネットワークを使えたことが成功を生んだという点を強調する。)
+オプションが多い分だけ、次の学習行動の選択肢が広がり、自分で学習環境を制御しているというコントロール感が得られ易い。(オプションの説明は十分にするが、その使用は利用者の選択に委ねる。また、選択肢をうまく使えたことが成功に結びついたという点を強調する。)
−ネットワーク機能に関して丁寧な説明がなされず、利用者が使い方を理解できない場合、不安感が生じる可能性がある。(ネットワーク機能について利用者が 何のための機能でそれをいつどう使えばよいのかのイメージがもてるような導入や試用を工夫する。オプションでアドバイスを用意する。)

(対人的変化)
+必要なときに助言が得られるという安心感から、失敗への不安感に捕われることなく学習が進められる。(助言を必要とした利用者が、その場で助言が求められるオプションを用意しておく。)
+ヘルプを求めようとしたときに、自分が理解できないことを整理して何を聞いたらよいのかを問い直すことによって、学習が深まり、問う力がつくことで、学習者としての自信に寄与する。(質問を構造的に用意する枠組みを提供することも考えられる。)
+ヘルプを求めてきた仲間に助言を与えることによって、自分の学習が深まる。(単に答えを告げることによってよりも、その答えに至る道筋や方法をわかりやすく説明しようと工夫することによる効果が大きいので、助言の与え方はできるかぎり自由度の高い形式を許す。)
+見解を異にする仲間と意見を戦わせることによって、自分の学習が深まる。(社会的学習論が重要視する「認知的葛藤」を経験することによる。自分の立場や 意見の根拠を明確に示し、相手を説き伏せることが求められるための効果とされている。仲間との見解の相違を明確に宣言して、その後で自由に討論させる枠組 みを提供すると、この観点から利用者の自信高揚に貢献できる可能性がある。)

2−3−3−4 ネットワーク化と「満足感」の高揚


(物理的変化)
+ネットワークの同時利用で、利用者相互の情報交換が瞬時にできる。(努力の結果がすぐに報われるようなネットワークの機能を工夫する。)

(対人的変化)
+個別作業で学んだ結果を協同作業に自然に生かせるようにすることで、個人作業での学習結果が即座に応用可能となり、満足感を高める。(個別作業を取り入れる場合は各自の分担を明らかにし、そこでの成果がグループに貢献している様子を明らかにする。)
+協同作業でゴールを達成した時の「充足感」は、互いに分かち合うことができ、喜びが倍増する。(協同作業での成果は、競争して数の限られたものを取り合って勝者と敗者を明らかにするよりも、グループとしての成果を評価する方式の方がよい。)
−グループのメンバー間に協同作業の経験や能力差、あるいは学習に対する態度の差が顕著な場合、公平感が損なわれ、自分の努力が正当に評価されていないと いう感じをもつかも知れない。(経験差や能力差には相互に協力して一つの成果を出せる仕組みを用意する。また、個人の貢献度を正当に評価することで、タダ 乗りメンバーを防止する。)


2−3−7 おわりに


ARCSモデルの4側面にあてはめてみることで、ネットワーク化に伴って本コースウエアの「魅力」に様々な影響を与える可能性が示唆された。理論的な「魅 力」を高める要素も、コースウエアが念頭においている対象者に実際に使わせてみてその結果を評価するネットワーク版についての形成的評価の過程で、詳細が 明らかになろう。

また、「魅力」を高める要素は多ければ多いほどよいのではなく、コースウエア利用者の学習者特性に応じて取捨選択し、必要な方略を必要な場合にのみ使うの がより望ましいとされている。本プロジェクトの場合、学習者特性の同定が困難であるし、コースウエアの魅力を高めると思われる要素を可能なかぎり豊富に盛 り込むことで、なんとか学習意欲の喚起に結び付けようとする段階ではなかろうかと思われる。本コースウエア使用開始時点での利用者の学習者特性を吟味し、 あるいは使用中に変化する学習意欲のプロフィールをモニターし、それに基づいて動機づけにかかわるコースウエアの要素を変化させるメカニズムをどのように 確立するかは、今後に残された課題である。

(参考文献)

Hooper, S. (1992). Cooperative learning and computer-based instruction. ETR&D, 40(3), 21 - 38.