『教育工学関連学協会連合第4回全国大会発表論文集(第二分冊)』 441 - 442 (1994)

HyperCard上のドリル教材作成ツールの開発研究(2)
Development of drill shells for HyperCard (2)


鈴木 克明
SUZUKI, Katsuaki
東北学院大学
Tohoku Gakuin University 



要約:HyperCard上に実現したドリル教材の有効性を確かめた前回の研究を受けて、試用者コメントの改善提案とドリル構造についての研究結果とを取 り入れてドリル機能を強化・改善した結果と、ドリル作成ツールとしての操作性を向上させドリル内容を簡便に変更できるようにした経緯を報告する。

キーワード:CAI 教材開発 高等教育 ドリル ツール


1、はじめに


 本発表は、HyperCard上に開発中のドリル教材作成ツールの形成的評価についての報告である。前回は、教材を試用しコメントを残した大学 生に、HyperCardのボタンリンク構造のみを利用した自作教材に比べて、解答に応じた出題制御やカードのランダム配列などの機能を付加した教材が、 練習支援の側面を強化していると受け取られたことを報告した。今回は、開発中のツールの中から「正解消去型ドリル」を取り上げ、コメントに残された改善提 案を分析し、ドリルの機能とドリル作成ツールとしての操作性を改善した。CAI教材の形成的評価については様々な技法が提案されているが(鈴木、 1987)、今回の改善には、ドリルの記憶促進効果を示すデータでなく、開発経験を持たないドリル利用者層の改善提案を主に用いた。


2、ドリル改善提案の分析


 平成4、5年度の講義「教育工学」受講生161名が講義課題の一部として「CAI試用コメント用紙」を記入した。その中で、「正解消去型ドリル」のメカニズムを使用している「動物カルタ」を選択した17名のコメントが今回の分析対象となった。

 コメント用紙の自由記述欄への回答をみると、「毎回問題の順番が変えられているところ」、「正解だと動物が画面から消えるところ」、あるいは「間違えた ときに、もう一度同じ問題が出される迄覚えておかなければならないところ」などを、教材が「うまく教えていること」として指摘している。いずれも練習と フィードバックのメカニズム(ガニェの6、7事象に相当)についての肯定的なコメントであり、ドリル制御構造採用のねらいに合致していた。

 一方で、「どんな改良を加えるとより魅力的/効果的な教材になると思うか」という問いの自由記述欄には、多数の改善提案が記入された。それぞれの改善提 案を「魅力」についてはケラーのARCSモデルの方略分類に、「効果」についてはガニェの9教授事象にあてはめて分類したものを表1に示す。


3、ドリルの制御構造に関する知見


 ドリル型CAIの制御構造がコンピュータの特性を生かしたものでないと、知っているかどうかは判断できるけれど一向に上達しない教材になってしまう (「テスト型」とでも言えよう)。効果的なドリル制御構造についての研究は盛んとはいえないものの、アレッシーとトロリップやサリスベリーの類型化は参考 になる(鈴木、1989)。
 表1にまとめられた改善提案を、これらの研究知見を参考に整理し、効果的な改善の方向性を検討した。その結果、とくに一つのドリル内容をいくつかの段階 を踏んで練習させる「状態前進型ドリル構造」を参考にして、ドリル制御構造を見直し、少ないドリル内容を形を変えて効率よく使えるように改善した。

表1、正解消去型ドリル(動物カルタ)に提案された改善点(17人の自由記述式解答をまとめたもの;複数解答あり)

「魅力面」(括弧はARCSモデルの方略分類)
□効果音をより意外で楽しいものにする(A1)
□画面をカラーにする(A1、R1)
□動物の絵をユーモラスなものにする(R1)
□英単語の発音を加える(R1)
□動物の数を増やす(R2)
□動物だけでなく、植物カルタ、乗り物カルタなどもつくる(R2)
□お手つきの罰ゲームを追加する(R3)
□正解の数(または誤答数)を表示する(C1)
□レベル分けして入門編と応用編を用意する(C1、C2)
□毎回絵の配置を変え、場所を覚えて答えられなくする(C2)
□正解時の効果音を動物の鳴き声にする(S2)
□正解時に絵をクローズアップする/絵が動きだす(S2)

「効果面」(数字はガニェの9事象を示す)
□練習の前に絵と英単語の一覧を表示する(4)
□似たような名前の動物だけを集める(5)
□間違えたらヒントを出す(5、7)
□練習後にテストを追加する(8)
□練習後のテストでは時間制限を設ける(8)
□前回の正解率を記憶・表示する(9)
□覚えられたら絵を出して単語を選択、または入力してスペルを覚える(9)




4、正解消去型ドリルの制御に関する改善


 まず、いくつかの段階を踏んで練習ができる機能を追加した。リハーサル段階として、全ての選択肢の正解が表示されるカードをオプションで用意した。ま た、練習段階の後には、テスト段階として、正解不正解に関わらず選択肢が消去されないモード(ランダム出題され、終了時に点数と誤答一覧を表示)を用意 し、時間制限のオプションを付加した。

 練習では、用意されているヒントを不正解時のフィードバックとして表示する機能を追加した。場所で覚えることを防ぐため、固定されていた絵の位置を毎回 自動的に変える機能も用意した。練習の方向についても、ランダムに提示される単語に相当する絵を選択する「単語→絵」の出題に加えて、絵を一つずつランダ ムに提示し相当する単語を単語一覧の中から選択する「逆出題モード」を追加し、単語をキーボード入力する再生式解答入力も可能にした。


5、ドリル作成ツールとしての改善


 動物カルタの内容を拡張して、似たような名前の動物だけを集めたり、レベル分けして入門編と応用編を用意したり、動物だけでなく、植物カルタ、乗り物カ ルタなどをつくる作業を簡便化するためには、ドリル内容を自由に入れ替えられるドリルシェルとしての完成度を高める必要がある。前節で述べたようにドリル 機能が複雑化する一方で、絵と音と単語データを収集・入力するだけで高機能なドリルを自動的に生成・提供することが求められる。

 正解消去型ドリルの作成ツールとしての機能を追加した結果、次の手順を踏めばドリル内容を変更できるようになった。

1)全ての選択肢を含む絵を一枚の画像リソースとして用意する(カラー可)。
2)画面上の各選択肢を覆う位置にボタンを配置し、ボタン名に単語名をつける。
3)音声データ(単語の発音)を用意し、単語名でリソース化する。

 新しいドリルを自作するためには、スキャナによる画像データ作成や音声サンプリングとハイパーカードへのリソース化が必要技能となる。これらの技能習得も含めてドリルの作成が非情報系の大学生にとってどの程度の負荷になるかを確かめていきたい。


参考文献

鈴木克明(1987)「CAI教材の設計開発における形成的評価の技法について」『視聴覚教育研究』17、1-15
鈴木克明(1989)「テレビ番組による外国語教育を補うドリル型CAIの構築について」『放送教育研究』17、21-37