『放送教育研究』17、21-37 (1989)
放送文化基金 昭和63年度前期研究助成『放送番組を中心とした音声・文字・画像併用外国語学習パッケ−ジの開発研究』共同研究者 分担研究


テレビ放送番組による外国語教育を補うドリル型CAIの構築について


鈴木克明
東北学院大学


                 1.はじめに

 教授メディアとは授業設計理論に基づいて提起された学習を促進するために最適な授業
状況(instructional events)を具現化するものであり、各メディアの持つ属性によって
具現化できる授業状況には差がある。テレビ放送を外国語学習のためのメディアとして検
討するためには、テレビというメディアが外国語学習を促進するための授業状況をどのよ
うに提供できるのかという観点に立つことが求められる。一般にテレビ放送の外国語番組
では、当該言語を母国語とする講師を手本として活用したり、学習する表現が用いられる
場面を視覚的に設定する等の方略がとられ、視聴覚メディアとしてのテレビの属性を駆使
している。また、外国語学習に不可欠な反復練習に関しては、外国人講師の後について練
習するためのポ−ズを置いたり会話の役割練習などの手法を用いてはいるものの、テレビ
受像機の前で学習者(視聴者)がどの程度の学習成果を達成しているかについては不明で
あり、テレビ放送の一方向性という限界に突き当たることになる。いわば、テレビ放送は
「提示」には強く、「練習とフィ−ドバック」に弱いメディアと言うことができる。
 テレビ放送の短所である「練習とフィ−ドバック」の授業状況を補うために付加する教
授メディアとしては、「教師」と「コンピュ−タ(CAI)」が考えられる。この場合の
「教師」は、当該の言語に精通している専門家である必要はなく(精通していればテレビ
番組の性格づけが、学習指導の主幹から付加的なエンリッチメントに変化する)、学習者
の練習状態を逐次評価し、組織的な練習課題を個別に与えることができればよい。つまり
「教師」の役割は、学習者の反応が望ましい反応と比べてどのように評価できるかを判断
する機能と、個々の学習者の達成状況の差異に応じて次の学習活動を指示する機能に集約
できる。従って、授業の実施については、この2つの機能が提供できる限りにおいて、外
国語教育の専門家の手を煩わせることなく助手や先輩、同輩、学習者自身、あるいはコン
ピュ−タ等をもって代用することが可能となる。専門家には、授業の構成を事前に考える
授業設計の役割、設計した授業案を授業の実施者(学習者自身の場合もあり得る)が実施
できるように管理する役割、前述の授業実施時の2つの機能が提供されているかどうかを
確かめ必要に応じて補助する役割等、より専門性の高い役割が残されることになる。
 教授メディアとしてのコンピュ−タの長所の一つに、個々の学習者の学習状態をモニタ
−し、誤りのタイプに応じてフィ−ドバックを与えることができるという、いわゆる「双
方向性」が挙げられている。この長所を生かすことによってテレビ放送の弱点である「練
習とフィ−ドバック」の授業状況を提供することが考えられるが、現在の普及型のマイク
ロコンピュ−タを用いたCAIでは、外国語学習において学習者の反応を判断する機能は
十分とはいえない。今後の技術革新によって、学習者の音声反応を手本と比較して矯正し
たり、知識工学的な文法解釈を駆使して自由記述式の回答を分析して評価する等の『人間
教師的な』双方向性が日常化するかもしれない。しかし、現時点では、「提示」に関して
は文字だけでなく精巧なグラフィックス、動画、あるいは音声も扱えるが、学習者からの
反応は与えられた選択肢の中での選択行動と簡単な文字入力の処理(主に設計時に予測し
た回答例との比較によって特定の誤答タイプを同定すること)とに限定されていると言わ
ざるを得ない。一方で、外国語学習に不可欠な単語の記憶練習や文の書き換えの手続き学
習等の基本的な文法事項のように、必ずしも高度な回答処理を必要としない学習課題もあ
り、現時点で実現可能なレベルでの「双方向性」を活用することも少なからぬ有用性を持
つと思われる。言い換えれば、テレビ放送を補うために有効な2つの「教師」の役割のう
ち、反応判断は選択肢などの初歩的なものに限定されるが、指示・制御の役割にコンピュ
−タの機能を活かす道が求められているのである。
 そこで、以下においては、現在一般的に利用可能な、限られた「双方向性」のコンピュ
−タを外国語学習のための教授メディアとして生かすためにはどのような基本設計でCA
I教材を作成するのが最適かという点について、授業設計理論の観点からの考察を試みる
。具体的には、まず、授業設計理論の2つの枠組(学習成果の分類と学習時の情報処理を
促す授業状況)を外国語学習に適用し、基本設計の決定を左右する授業要因を同定する。
その後で、これまでに提案されているドリル方略について概観しながら、テレビ放送を補
うドリル型CAIの基本設計を提案する。


          2.外国語教育における学習目標について

2.1.外国語教育の学習目標分類

 授業設計理論に基づいて教材をシステム的に作成していくためには、まず、学習者がそ
の教材を使って学習した結果として何を学ぶのかということ、つまり、学習目標が何であ
るのかを明らかにしなければならない。学習目標が明らかになれば、次に、その学習目標
のもつ性質を分析し(目標分類の目的の一つ)、その性質をもつ目標に学習者が到達する
ための助けとなるような教材にするためにはどのような指導上の方略を用いるのが効果的
かを吟味することが可能となる。個々の学習目標に関してのこれまでの経験則のみに頼る
ことなく、同じ性質をもつ学習目標についての経験や研究成果を応用することができるこ
とになるのである。
 近年、認知科学、とりわけ情報処理モデルに関する研究が活発であり、人間の学習、記
憶構造、言語処理などの分野で様々な理論が提案されてきている。外国語教育が第二の言
語の習得を目指していることからも、これらの関連の深い研究成果を学習指導に反映して
いくことが期待される。しかし、研究成果を活かした学習指導の方略を採用していくため
には、外国語教育における学習目標の整理が不可欠である。キャロル(1986)は、認知に
関する研究を外国語教育に応用しようと試みる際に、外国語を「知る」とはどのようなこ
とか(社会科や数学における「知る」と同じなのか)、外国語の「知識」は何によってで
きているのか等の、学習目標に関する問題が根強いと指摘している。どのような知識・技
能をすでに有している学習者を対象として、どのような知識・技能を学習するための教材
を作るのか。まず、この点をできるだけ明確にしておく必要がある。
 外国語教育で目指す学習成果は、通常、「読む」「書く」「聞く」「話す」の4つの技
能領域に分類して議論される。このうち、「読む」と「書く」は「書かれた言語」を扱う
のに対し、「聞く」と「話す」は「話された言語」を扱う。また、「読む」と「聞く」は
「受け取る」能力であり、「書く」と「話す」は「作り出す」能力である。従って、外国
語学習の4つの成果は、言語の形態と受動・能動の2つの因子で分類されているというこ
とができる。
 テレビ放送を用いた外国語教育の場合、力点が「話された言語」、つまり会話に置かれ
る場合があると思われる。一方で、CAI教材は「話された言語」よりは「書かれた言語
」に強いという現状があるので、このことは学習目標を設定する際に考慮しなければなら
ない点である。また、練習とフィ−ドバックに強いCAIでも、「作り出す」能力、特に
「話す」能力を直接的に扱って学習状況を把握することは極めて困難であるのが現実であ
るから、間接的に扱う方法等を工夫する必要が生じよう。これらの4技能の間で、ある技
能の学習と他の技能の学習とが相互に及ぼす影響については不明な点が多いとされている
ことから(Carroll, 1986)、教材を設計する時には、少なくとも学習目標を4技能との関
連でとらえて考察しておく必要があると思われる。
 外国語教育における学習成果を分類する際に参考になるものとして、言語学の学問体系
での分類がある。つまり、単語の語源や構造などを扱う「意味論」に対応する学習成果と
、文法事項に代表される「統語論」に対応する学習成果である。先の4つの技能領域のど
れにしても、単語の意味と文法規則が含まれており、外国語教育のカリキュラムも、より
複雑な文法事項の習得とより多くの語彙の習得を柱として構築されるのが普通である。教
材を設計する時に、その教材に含まれている「語彙」の中で学習者が既に知っていると仮
定できるものは何で、一方その教材の中で学習させる「語彙」は何であるのか、また、そ
の教材を使うために前提となる「文法事項」は何で、学習させるものは何か、といった分
析が不可欠である。
 言語学との関連で判断が必要な事項として、いわゆる直観的な運用能力と学問的な知識
体系(例えば文法用語を使えるようにすること)をどのようなバランスで習得させるのか
という点が指摘されている。キャロル(1986)の立場は、外国語教育の最終的な目標が母
国語のような直観的な言語運用能力にあるとしても、その学習過程においてメタ言語的な
知識を教えることが運用能力を効果的に学習することに通じるならば、それを用いること
を否定すべきではないというものである。その場合、ひとつの中間的な教材が扱う学習目
標として、運用能力と共にメタ言語的な知識が掲げられることになり、運用能力の育成の
みを目指す教材とは内容が異なってくることが予想される。教材の設計にあたり、この観
点からの学習目標の吟味も欠かせないものである。

2.2.授業設計理論の学習目標分類

 一方で、外国語教育に限定されることなくより一般的な学習成果を対象にして、その習
得を促すための最適な手段が異なるという観点から学習成果の分類を試みたものとして、
ガニェによる5つの学習成果の分類枠が授業設計で広く用いられている(持留訳、1986)
。外国語教育との関連でその分類枠を例示すると次のとおりになる。

(1)言語情報(verbal information):
    学習の結果「述べること」ができるようになる事実、ラベルなどの学習。
    例として、すでに母国語で習得済の概念(例えば犬)に対応する外国語の単語
    (犬=dog)を記憶すること。「犬は英語で何ですか」と問われたときに、「犬は
    dog です。」と述べること(口述するか記述する)ができるようになるのは、
    言語情報を習得したこととみなす。

(2)知的技能(intellectual skills):
    学習の結果、これまでに遭遇したことのない新しい例にその学習の成果が「適用
    」できるようになるような認知的な学習。知的技能は、さらに次の下位領域に分
    類される。
  (2a)弁別学習(descrimination) :
    学習の結果、2つのものが「異なる」かどうかを見分ける(聞き分ける)ことが
    できるようになるような学習。
    例として、r、l、rと連続して発音された時、何番目が他と違うかが言えるよ
    うになること。この場合、どれがrでどれがlかはわからなくとも、違うものが
    指摘できれば、2つ違いが学習できた、つまり弁別学習が成立したとする。
  (2b)概念学習(concrete & defined concepts):
    学習の結果、グル−プ(概念)に属する事例とそうでない事例を分類することが
    できるようになるような学習。
    例として、母国語にはない文法上の概念(例えば単複同形とそうでないもの)を
    区別するとか、母国語と外国語の概念のずれを学習するような場合。seatという
    単語を「言語情報」として学習する場合には、「座るもの」と述べることができ
    ればよいが、「概念」として学習したかどうかを試すためには、「映画館の椅子
    はseatか」「公園のベンチはseatか」... という問いに正しく答えられなければ
    ならない。
  (2c)ル−ル学習(rules; higher-order rules):
    学習の結果、規則(ル−ル)を適用することができるようになるような学習。
    例として、疑問文に書き換える、主語や時制に合わせて動詞を変化させるなどの
    文法規則をどの文にも応用できれば、ル−ル学習が成立したとする。また、これ
    までに学習したル−ルを多く利用して、たとえばある状況で相手に自分の意思を
    伝えるという問題解決をなしとげるなどの、複数ル−ルの一連の適用能力を特に
    高次のル−ル学習(higher-order rules)という。
(3)認知的方略(cognitive strategies) :
    学習の方法の学習。これまでの学習体験から得た、あるいは外からのヒントによ
    って学んだ学習を効果的にする手立てを必要な時に使えるようになったとき、認
    知的方略を学習したという。例としては、単語を語呂合わせで覚える方法などが
    ある。

(4)態度(attitudes):
    学習者が個人的な選択の機会に遭遇したときに、その選択を左右するような働き
    かけを内側から与えるような状態をつくる学習。例えば、外国人と積極的に接す
    る態度を学習すれば、外国人と接触できるような機会を自分で選ぶ行動にでるよ
    うになる。英語を学ぶ態度を身につければ、他のことより英語の学習に時間を割
    くようになる。その行動を支えるものとして、外国人と接すること、あるいは英
    語を学習することに対する肯定的な態度を身につけているとみなす。

(5)運動技能(motor skills) :
    学習の結果、(認知的なものだけでなく)筋肉の運動を伴う技能を駆使できるよ
    うになるような学習。例としては、口の筋肉の運動を伴う発音や、指の動きを伴
    うアルファベットの運筆技能などがある。

 ガニェの学習目標の分類によって、目標・評価・指導の3つの間に相互の整合性を保つ
枠組が提供されてきた。つまり、授業を設計するとき、その授業の目標がガニェの分類で
どれに含まれるかを検討することによって、適切な評価方法と効果的な指導方略を知るこ
とが可能なのである。中でも、特に学習の条件という観点から対照的な区別として、同じ
認知的領域の学習成果である「言語情報」と「知的技能」との差異が強調されている。い
かなる形態の学習指導においても、その基本設計を左右する要因として確認しておく必要
のある区別である。
 「言語情報」の習得によって可能となる学習者の行動は、「述べる」ことであり、この
場合、「述べる」内容はすべて授業の際に学習者に与えられていなければならない。習わ
なかった単語の意味を問われても、それを「述べる」ことができないのは当然である。長
文読解の場合でも、学習者がそれを要約して「述べる」ことを求められることがあるとし
ても、要約すべき内容はすべて与えられていることが条件となろう。ここでの評価方法の
キ−ワ−ドは、「再生的(reproductive)」である。これに対して、「知的技能」の習得
でもたらされるのは「適用する」能力であり、前もって出会ったことのない例に使えて始
めて「適用」できると見なすことができるものである。丸暗記をして答えることを防ぐと
いう意味で、評価の際に用いられる適用対象は、授業や練習問題として使った経験のない
ものであることが条件となる。キ−ワ−ドは「以前に遭遇していない(previously unenc
ountered)事例」である。ここで指摘された「言語情報」と「知的技能」との評価方法の
差異は、学習の達成を評価するためのみならず、練習の段階でも反映されていなければな
らないものであることは言うまでもない。なぜならば、練習は学習の達成に向けてのもの
で、常に学習の状況を評価しながら続けられる必要があるからである。
 「言語情報」と「知的技能」との間に学習成果としての本質的な差異があることから、
それぞれを効果的に達成する授業の要件も異なる。「知的技能」の学習では、より基礎的
な、必要条件となる下位の目標に分析し、その達成を確認することでより高次の技能の習
得を援助することができるとされている(いわゆる階層構造分析による学習ヒエラルキ−
の構築)。たとえば、複文となるような英訳ができるためには、(その文法的な用語の説
明ができるかどうかは別として、)複文を単文の組み合わせとしてとらえ単文に分解する
技能と、それぞれの単文を英訳する技能が必要条件となる。翻って、単文の英訳ができる
ためには、主語と述語の概念とその対応をつける技能がより下位の目標として確認されな
ければならない。つまり、ある「知的技能」の学習を促すためには、より下位の目標にさ
かのぼってその達成を確認し、それらを結びつける技能を学習させるのが効果的な授業の
要件となるのである。
 したがって、「知的技能」の習得を助けるためのドリル教材においては、つねに新しく
しかも多種多様な適用対象を連続して提供し、学習者がその特定の事例を前に見たので覚
えているために答えられるのでなく、学習中の「知的技能」を毎回適用して新しいものを
作り出していく練習ができるようにすることが求められる。同じ練習問題を2回出して、
2度目に正しく答えられたとしても、それは「知的技能」が習得されたことを意味するの
か、あるいは単に丸暗記したために答えられたのかを見分けるのは難しいからである。さ
らに、練習中につまずきが見られた時は、いつもより基礎的な下位目標を参照しながら対
処するようなメカニズムが備えられていることが求められる。必要とされている要素技能
のうちのどれが欠けているかを判断できるように誤答を予測し、その理由を説明するよう
なフィ−ドバックを与える。あるいは、欠けている要素技能だけを練習するためにより基
礎的な練習問題に分岐するといった工夫が必要であろう。
 一方の「言語情報」の学習は、学習対象となるものが「知的技能」のような階層的な構
造で捉えることができないため、下から上への積み上げが困難である。逆に、新しく学習
する情報がどのような背景をもち、これまでに習得されている情報との関連という点でど
のような枠組に位置づけることが可能かといった、「文脈」(オ−ズベルのいう有意味受
容学習もしくは包摂)を強調することが効果的となる。「知的技能」(たとえば文法規則
)がある程度一般化できる学習の流れを持つのに対して、「言語情報」(たとえば語彙)
の学習は順序性に縛られることが少ない。しかし、一方でこれまでに学習者個々が習得し
てきた情報の差が顕著であることが多いため、学習を援助しようとして付加する「文脈」
の効果が一律でなく、効果的な授業の要件を規定することを困難にしている。「学習者に
とって新しい情報がより意味のあるものになるような文脈を与える」、という一般形は成
り立つが、「何がより意味のあるものか」が学習者個々のこれまでの学習、経験、興味な
どの個人差に依存しているためである。
 「言語情報」を扱うドリル教材では、学習する情報を繰り返し質問し、それを思い出す
練習をすることになる。しかし、サリスベリ−(1987)の言葉を借りれば、「[言語情報
のための]ドリルの目標は、単に『記憶に焼きつける』ということではなく、学習する事
柄がより意味を持つように教材を構成することにある(p.105)。」練習中のつまずきが見
られた場合には、情報をより意味のあるものとして思い出したり紛らわしい他の情報と区
別するためのヒントをより多く与えていくことが求められている。また、学習者個々にと
って覚えやすい情報とそうでないものの差を系統的に予測することが難しいので、練習を
する中で覚えにくいものを見極めて、それだけに重点をおいた練習が各自できるような工
夫が求められることになるのである。


         3.学習指導の流れとドリル型CAI教材の役割

3.1.学習の情報処理を促進するための9つの授業状況

 現代的な授業設計理論のもう一つの枠組として、認知的な学習理論、とりわけ学習の情
報処理理論を基盤とした学習のための情報処理モデルがある。先の行動主義心理学にかわ
って人間の内的な情報処理過程に関する研究が進み、学習者の内的な情報処理過程を促進
するためには複数の種類の働き掛けが効果的であることがわかってきた。それを授業設計
の立場でまとめたものに、ガニェの「授業状況(Instructional events)」がある。
 ガニェによれば、授業を構成する要素として、学習のための情報処理を助けるという観
点から次の9つの働き掛けを実現することが効果的である。

  1学習者の注意を獲得する:学習者に情報の受け入れ態勢をつくるために、教師に注目
              させる。
  2学習目標を知らせる:学習者が目指すべきこと、授業のおわりにできるようになるこ
              とを知らせ、学習意欲を刺激し、期待感を持たせる。
  3前提条件を思い出させる:事前に学習して長期記憶にしまい込んである下位目標の知
              識・技能を使えるような状態にさせる。
  4新しい事項を提示する:既習事項との違いや関連性をきわだたせながら、新しい事項
              を示す。
  5学習の指針を与える:新しい事項を意味のある形で記憶するような助言を与える。た
              だ覚えたものは忘れやすく、なぜそうなったのかを知って
              いれば長く記憶でき、また取り出しやすいからである。
  6練習の機会をつくる:新しい事項が長期記憶にしまえたかどうかを確かめるために、
              学習者個々が情報を取り出したり技能を応用したりする機
              会をつくる。教師の説明を聞いただけでは実際にできるか
              どうかはわからないからである。
  7フィ−ドバックを与える: 6の結果について、すぐにうまくいっているかどうかを学
              習者に知らせる。
  8学習の成果を評価する:新しい事項がしっかりと習得できたかどうかを確認するため
              に、少し間をおいてテストする。
  9保持と転移を高める:学習の成果が長持ちし、また他の学習への応用ができるように
              復習や発展学習の機会をつくる。
                         (沼野・平沢編、1989, p.57)

3.2.テレビ放送とドリル型CAIの役割分担

 冒頭で、テレビ放送の教授メディアとしての特徴を考えた時、テレビ放送は「提示」に
は強く、「練習とフィ−ドバック」には弱いメディアであるとした。テレビ放送では、視
覚と聴覚に訴えて、刺激性や新規性の強いものを提示できることから、 1注意の獲得にも
強いと言うことができる。したがって、ガニェの9つの授業状況にあてはめてみると、テ
レビ放送は 1から 5までに強く 6から 9までに弱いメディアと言い直すことができる。
 一方で、ドリル型CAIは、主に 6の練習と 7のフィ−ドバックを受け持つ。もちろん
1学習者の注意を獲得したり、 2ドリルの学習目標を提示したり、必要に応じて 3前提条
件を思い出させたりもするが、ドリル型CAIで学習する内容に関しての導入や説明は一
通り済ませてから使用されることを前提として開発されるので、 4や 5は含まない。ドリ
ル型との比較でしばしば使われるチュ−トリアル型CAIについては、主に 5までを扱う
とする考え方(Alessi & Trollip, 1985)と、 1から 9までのすべてを含み得るとする考
え方(Gagne, Wager, & Rojas, 1987)があるが、いずれにしても、チュ−トリアル型CA
Iは 4と 5を含み、ドリル型は含まないという点で、授業過程における使用方法が異なっ
てくる。このように、ガニェの授業状況に分解してテレビ放送との役割分担を考えると、
なぜここで使われるCAIがチュ−トリアル型ではなくドリル型が適当であるかが明らか
になる。
 テレビ放送を補うためにCAI教材を設計する際には、そのCAI教材の内部設計に入
る前に、一連の授業状況にあてはめた場合にCAIがどの時点で用いられ、また学習のた
めの情報処理のどの段階の助けになることが期待されているのかを検討しておく必要があ
る。テレビ放送とコンピュ−タの教授メディアとしての特徴とガニェの授業状況を検討し
た結果、テレビ放送を補うためにCAI教材を用いる3つの場合は次の通りになる。

 (A)テレビ放送を視聴する以前に、学習者間の前提条件の差異を縮め放送の内容につ
   いていけるように準備するためにCAI教材を 3前提条件を思い出させるために用
   いる。
 (B)テレビ放送を視聴した直後に、 6練習の機会を与え、学習者個々の練習状況に応
   じた 7フィ−ドバックを与えるために用いる。
 (C)テレビ放送を含む学習を終えてしばらくしてから、 9学習内容の保持と転移を高
   めるために、反復して用いる。

 ガニェの9つの授業状況は、各学習時間ごとに学習目標が設定され、その目標を達成す
るための手助けとして毎時間繰り返されることになる。したがって、長期的に学習内容を
系統的に構成し、毎時間の学習が次の時間に積み上げられていけるように工夫がなされて
いれば、一つのCAI教材を上記の3つの目的に用いることも可能である。たとえば、あ
る時間のテレビ放送番組を、 1学習者の注意を引くスキットの後で、 2今回の学習目標を
知らせるテレビ講師の話でスタ−トさせる。その後、前回の復習を兼ねて、 3今回の学習
に必要な前提条件を思い出させるような質問をする。この時、今回の学習に入る前に前回
の復習をもう少しやりたい学習者には、テレビ放送の視聴をを中断して(A)のために用
意したドリル型CAI教材を使って思い出してから再開するように指示する。もちろん、
前回の学習で使った(B)のCAI教材をここで用いることが可能である。

 テレビ放送では、その後に 4新しい教材を提示し、 5その教材を身につけるためのコツ
などを話してから、 6視聴者用のポ−ズを取り入れた練習に入る。しかし、その練習が十
分でないと思えば今回の学習のためにつくった(B)のCAI教材でさらに練習を続ける
ように指示するのである。この(B)のCAI教材は、あとで(C)の目的で復習のため

に用いることも可能であるし、また、新たに導入する学習内容の前提条件となったときに

(A)の目的で用いることができる。同じ学習目標に到達することを助けるためのドリル

型CAI教材でも、使い方によって、さまざまな効果を生むことが可能であるという点を
確認しておきたい。


             4.ドリル型CAIの基本設計

4.1.ドリル型CAIの骨組み

 ドリル型CAIは、(1)導入画面、(2)練習サイクル、(3)終了画面の3つの部
分から成り立っている。それぞれの部分に求められる機能は、次のとおりである。

(1)導入画面:
    ドリルに関する導入的な情報を提示する。ドリルの概要、進め方、中断の方法、
    学習者に許されているオプションの説明など、ドリルの使い方についての情報を
    与える。また、ドリルの学習目標を具体的に示し(ガニェの授業状況の 2)、ド
    リル使用者に求められる前提条件(知的技能の場合)、ドリルに含まれている情
    報の全体像(言語情報の場合)、あるいは、他の関連するドリルとの関係などを
    明らかにし、学習者が何のためにドリルを使うかをつかめるようにしたい(ガニ
    ェの授業状況の 3)。
(2)練習サイクル:
    ドリルの主要部分として、項目の選択、表示、反応の受け入れ、判断、フィ−ド
    バックの表示のサイクルを繰り返す(ガニェの授業状況の 6と 7)。練習サイク
    ルを抜け出すのは、学習者が中断したときか、学習目標を達成したときか、ある
    いは(知的技能の場合には)つまずきを治療するために下位目標のドリルへ移動
    するときのいずれかの場合となる。学習目標の性質やドリルが果たす学習指導上
    の役割分担などに応じて、もっとも効果的に練習ができるようなメカニズムが求
    められている。練習サイクルで用いられる指導方略の詳細については、次の節で
    扱う。
(3)終了画面:
    ドリルを終了した時点で、練習状況についての情報を提示する。練習結果につい
    て評価を与えたり(ガニェの授業状況の 8)、次の活動を指示したり、練習した
    成果をより大きな目標に関連づけたりすることが考えられる。
4.2.練習サイクル構築の基本設計

 ドリル型CAIの主要部分である練習サイクルを構築するためには、効果的な練習状況
を提供するという原則のもとに、様々な教授方略が検討されなければならない。中でも、
(1)ドリルに含む項目群の選定、(2)学習目標到達の判断基準、(3)項目の選択お
よび除去のメカニズム、(4)練習の形式と反応のタイプ、(5)フィ−ドバックの与え
方については、十分な考慮が必要である。

(1)ドリルに含む項目群の選定

一つのドリルに含まれる項目群は、一つの学習目標に対応させるのが大原則である。し
たがって、ドリルの中に含まれる項目間の難易度は、一定であるか、徐々に目標に向かっ
て難しくなるかのどちらかとなる。徐々に難易度を増すようにドリル内の項目を配列する
ドリルではコンピュ−タの特長であるランダム提示が活用できないので、一つの項目群の
中には一定の難易度をもつ項目を集め、難易度の異なる項目は別の群に(もしくは別のド
リルとして)分けて、各群からの選択はランダムにできるようにしておくのがよいと考え
られる。知的技能を扱う場合は、その技能の適用範囲から多種多様な項目をできる限り多
く集めて項目群をつくり、同じ項目を二度使わなくてもすむようにする。言語情報の場合
は、互いに紛らわしいような関連する情報を集め、一度に学習が可能な項目数だけ(人間
が一度に処理できる情報量は7±2とされているので、一部学習済の項目もあると考えて
も10から20程度)で群をつくり、それぞれの項目が学習できるまで同じものを繰り返
して用いる。練習時間の長さという観点からは、学習者個々で学習に必要な時間が異なる
ので、飽きたり疲れたりしないように、1回15分程度に押さえる方がよいという見方も
ある(Alessi & Trollip, 1985) 。


(2)学習目標到達の判断基準

ドリルの中で正しい反応が何回か続いた場合に、それをもって学習目標が達成されたと
の判断を下し、練習サイクルを抜け出る基準とする。反応の正否に関わらず各項目を提示
した回数のみによって、あるいは練習した問題の数のみによって練習サイクルを抜け出る
基準とするのは、ドリルを時間つぶしのためにやらせていることを意味するので、絶対に
避けるべきである。知的技能の場合は、一つひとつの項目に対する正解の回数でなく、目
標の技能を多種多様な項目に適用できた回数(例えば5回連続)もしくは正解と誤答の比
率(例えば10問中8問以上)によって、目標到達を判断することになる。一方、言語情
報の場合は、ドリルに含まれているそれぞれの項目に対する正解の回数で項目ごとの達成
を判断する。たとえば記述式ならば連続2回、選択式ならば偶然の正答も考慮して連続3
回とし(もちろん連続といっても同じ項目を続けて表示するのではなく、他の項目を練習
した後で忘れた頃にもう一度出題して間違わないで何回連続で答えられるかで判断)、そ
の項目をドリルから外すことでまだ学習していない項目に集中できるように配慮する(3
を参照)。全項目がドリルから除去された時点でドリルにあるすべての言語情報を習得し
、目標に到達できたとみなし、練習サイクルを抜ける。この他にも、即時的な再生のスム
−ズさを判断基準とする場合には、反応の速さ(例えば3秒以内に正解する)を用いるこ
とも考えられる。


(3)項目の選択および除去のメカニズム

あらかじめ決められた順番で項目を提示し、練習中のでき具合を考慮しないで練習を続
けるのであれば、単語カ−ドで十分でありコンピュ−タを使う必要はない。項目提示の順
序が固定化してある練習では、前に見た項目との連鎖で正解を覚えてしまう「連続学習効
果」の危険を伴うとされるので(Salisbury, 1987)、項目の無作為(ランダム)抽出がで
きるコンピュ−タの特長を活かしたい。また、学習者個々の練習状況によって項目を取捨
選択し、なるべく効率良く目標が達成できるようなメカニズムをドリルの裏側に備えたい
。これまでに提案されている項目選択および除去の制御メカニズムには次のようなものが
ある(Alessi & Trollip, 1985; Salisbury, 1987)。

  (a)項目間隔変動型ドリル(Variable Item Interval Drill):
     学習する項目をランダムに混ぜて提示順序を決定し、第1項目から順次提示し
    練習するが、正しく答えられなかった項目は列の終わりに戻さずに何問かあとで
    再提示する(例えば2問目と5問目と9問目の3回)。誤った項目は再び練習す
    る機会をすぐに与え、正しく答えられた項目は間隔をあけて忘れた頃に再提示す
    る方法。言語情報のためのメカニズムの一つ。

  (b)状態前進型ドリル(Progressive State Drill):
     事前テスト状態、リハ−サル状態、ドリル状態、復習状態といったように、一
    つのドリルを徐々に難しい状態に前進させて用いる方法。まず、事前テストで既
    に知っている項目をドリルから排除して、練習の必要がある項目のみを選定する
    。次に、リハ−サルとして問題と正答を提示して覚えさせる。その後にドリルに
    移り、さらに復習として一度習得した項目を再び練習する。言語情報のために提
    案されたメカニズムではあるが、知的技能にも応用できると考えられるもの。

  (c)三重構造のドリル(Three-pool Drill):
     学習する項目が多数ある場合に、項目を未習項目群、学習中項目群、学習済項
    目群の三重構造に分類して制御する方法。学習中項目群には、一度に覚えられる
    7項目程度を未習項目群より選択し、習得した項目を逐次学習済項目群に移動す
    ることで除去する。学習中項目群に項目がなくなり次第、新たな7項目を未習項
    目群より選択し、練習を続ける。言語情報のためのメカニズム。


  (d)下位ドリル群(Subdrill Grouping):
     関連する知的技能を項目群としてドリルの内部に複数用意し、到達目標のドリ
    ルでつまずいた場合に、つまずきの原因となっている当該の下位目標の項目群に
    自動的に移行し、ドリルを続行する方法。ある学習目標にむかって練習のでき具
    合に応じて徐々に難しい問題群へと移動していく場合にも応用できるもの。

  (e)適応型概念学習ドリル(Adaptive Concept Learning Drill):
     複数の同位概念(どの概念の例かを見分けることが目標となる、例えば品詞分
    類など)の練習用に提案されているメカニズムで、学習者の誤りをもとに見分け
    にくい概念についての練習を中心に制御する方法。ある項目がどの概念の事例か
    を正しく答えられた場合(例えば「日本」は名詞と答えた)、次の項目は、他の
    概念の事例からランダムに選択されるが(例えば「暖かい」の品詞は?)、間違
    った場合(「日本」は代名詞と答えたら)、次の項目は間違って答えた概念の例
    が選択される(代名詞の問題群から一つ選んで、「それ」の品詞は?)。

(4)練習の形式と反応のタイプ

 学習者が一度身につけた(長期記憶に貯蔵した)情報なり技能を検索し、学習の成果を
試す機会を与えるのが練習の主旨である(ガニェの授業状況では 6と 7にあたる)。した
がって、コンピュ−タが提示する問題に対して学習者が身につけた成果を実行し(言語情
報ならば述べる、知的技能ならば適用する)、その実行状況に応じて学習の度合いを判断
し、フィ−ドバックを与えていくというのが練習の主な形式となる。練習の実行状況に関
して学習履歴を取る理由は、ここでは学習者に点数をつけることではなく、実行状況に応
じてどんなフィ−ドバックを与え次にどの問題を出すのが最適かを判断するためである。
(3)で見てきた様々な項目の選択・除去のメカニズムは、ドリルに正解できない時にそ
の効果を最大限に発揮するように作られている。学習者が常に「評価」されているという
感覚をもつがためにドリルの特長が活かされないことのないようにしたい。その意味でも
、特に練習の初期においては、(3b)の状態前進型ドリルで使われている「リハ−サル
状態」のように、正解やヒントを学習者の求めに応じて与える形式も考えてよいと思われ
る。安心して練習ができ、しかも実力がつくような練習の形式を考えたいものである。
 反応のタイプについては、主に再生型(自由記述式、穴埋め、未完成部分の記述など)
と再認型(○×式、多肢選択式、並べ替えなど)が使われている。現在の普及型コンピュ
−タを使ったCAIでは、冒頭に述べたように、柔軟な反応判断を備えた再生型の問題を
作ることは難しいと言わざるを得ない。しかし、大文字・小文字の誤り、句読点、ダブル
スペ−スなどのために誤答と判断され、しかもそれらの誤りをチェックして指摘するメカ
ニズムも備えてないようではいささか原始的過ぎる(Wager & Wager, 1985)。言語情報を
扱う場合には、少なくとも回答がスペルミスなのかあるいは他の紛らわしい情報の答えを
誤って覚えているのかの判断、知的技能の場合には、どの下位技能が欠落しているための
誤答であるのかの判断を備えて、それに対応した処理を行うといったことができないのな
らば、再生型の問題形式は避けた方がよい。
 再認型の場合は、選択肢の良否がドリルの効果を左右するので、慎重にそのメカニズム
を考える必要がある。言語情報の場合は、同じドリル群に含まれる他の項目が当該の項目
と十分に紛らわしいという前提で、他のいくつかの項目の正答を当該項目の正答と混ぜて
選択肢を形成することが可能である。もちろん、正答が何番目に表示され、他の項目のい
ずれが誤った選択肢として表示されるかは、ランダムにあるいはより系統的に決定するメ
カニズムを備える。知的技能を扱うドリルの場合は、下位技能のいずれかが欠落している
ために予想できる誤答を選択肢として用意したり、概念の誤った拡張適用(overgenerali
zation)などをチェックするための選択肢を用意するなど、誤答の種類に応じてその誤り
の理由を説明するフィ−ドバックを与えることができるように選択肢を工夫する。また、
通常の多肢選択方式ではヒントを多く与え過ぎてしまうような場合には、必要な単語より
も数の多い候補の中から語を選択して必要なものだけ並べる方法などが考えられる。いず
れの場合にしても、本来ならば学習者が自分の記憶の中から取り出して答えなければなら
ないものが選択肢の一つとして与えられることになるので、目標到達の基準を若干引き上
げる必要があろう。選択肢の数もドリルの難易度を決定する要因となるので、練習の状況
に対応した形で最も効果的な選択肢数を決定したい。


(5)フィ−ドバックの与え方

 フィ−ドバックは学習者の反応ごとに、反応に対応した形ですぐに与える。正答の場合
は意欲を高めるような(motivational)もの、誤答の場合は情報付加的な(informationa
l)もの、これが基本である(Alessi & Trollip, 1985; Keller & Suzuki, 1987)。
 正答へのフィ−ドバックは、正解したことそのものが意欲を高める効果があるので、正
解であることを知らせるだけで十分だとする考え方がある(例えば、Wager & Wager, 198
5)。ドリルの目標達成までの道のりの中で今の正答が貢献している割合を示すために、点
数を上乗せしたり、車をスタ−ト地点からゴ−ルへ向かって正解のたびに少しずつ動かす
などといった工夫を加えることも、学習者によっては効果的である。また、学習目標とは
関係のないような外発的な報酬を与えることで学習者の興味を持続しようとして、正解し
たら一発玉が打てる射撃ゲ−ムの環境にドリルを埋め込むようなことも行われているが、
目標達成それ自体の意義を薄めないように注意したい。ゲ−ムのような報酬は、もし用い
るとしても、ドリルの各項目の正解に対応してではなく、ある程度まとまった学習目標に
到達した時に、学習者のオプションの一つとして提供するぐらいが妥当かと思われる。
 誤答へのフィ−ドバックは、情報付加的であることが必要であるが、フィ−ドバックを
情報付加的にするためには、学習者の理解にどのような誤りがあって、その結果として誤
答になったのかが分かっていなければならない。誤答の如何に関わらず「違います。もう
一度。」というフィ−ドバックを与えるよりは、言語情報の場合には、「違います。それ
はXXXの答えです。」あるいは、「スペルが違います。もう一度。」のように、何を間
違ったのかが明確になるようなフィ−ドバックが工夫できる。また、知的技能の場合には
、どの部分がどのような理由で誤りなのかを説明するフィ−ドバックを与え、必要に応じ
て一つ下位の技能の復習をフィ−ドバックの一部として混ぜるなどの工夫ができよう。

                 5、おわりに

 本稿では、ガニェの学習成果の分類と9つの授業状況の枠組を用いながら、授業設計理
論の立場からテレビ放送に付加するCAI教材の設計について考察を加えた。近年の認知
科学の発展、とりわけ人間の記憶構造や学習過程などに関する研究の成果によって、ガニ
ェの目標分類や9つの授業状況を再点検し、より説明力の強い理論や応用性の高いモデル
を構築しようとする動きがみられる(鈴木、1989) 。そのような研究の成果を現実の教材
開発の実践場面に活かすためにも、まず「学習を促進する」という観点に立ち帰り、学習
目標の性質を同定し、学習者の条件を明示し、その中で効果的な指導方略を模索すること
が重要である。教材開発の実践的な研究にあっても、教材の開発を通じて理論的な枠組を
吟味していこうとする姿勢が求められていると思われるのである。教材開発の実践にあた
って理論的な枠組を振り返るためのチェックリストとして、表1に本稿で考察を加えた諸
点をまとめておく。




                 (参考文献)

Alessi, S.M., & Trollip, S.R.(1985). Computer-based instruction: Methods and
development. Prentice-Hall, N.J.
Carroll, J.B.(1986). Second Language. In R.F.Dillon, & R.J.Sternberg (Eds.),
Cognition and Instruction. Academic Press, C.A.
Gagme, R.M., Briggs, L.J.(1979). Principles of instructional design (2nd Ed.).
Holt, Rinehart and Winston, N.Y. (邦訳)持留英世・持留初野(1986) 『カリキュ
 ラムと授業の構成』 北大路書房、京都。
Keller, J.M., & Suzuki, K.(1987). Use of the ARCS motivation model in courseware
design. In D.H.Jonassen (Ed.), Instructional design for microcomputer course-
ware. Lawrence Erlbaum Associates, N.J.
沼野一男・平沢茂編著(1989)『教育の方法・技術』 学文社、東京。
Salisbury, D.F.(1988). Effective drill and practice strategies. In D.H. Jonassen
(Ed.), Instructional designs for microcomputer courseware. LEA.
鈴木克明(1989)「米国における授業設計モデル研究の動向」『日本教育工学雑誌』13(1),
  1-14.
Wager, W. & Wager, S.(1985). Presenting questions, processing responses, and
providing feedback in CAI. Journal of Instructional Development, 8(4): 2-9.




表1.テレビ放送番組による外国語教育を補うドリル型CAIの基本設計

1 学習目標の分類
 1−A 4技能:
   「読む」「書く」「聞く」「話す」
   「書かれた言語」vs「話された言語」、「受け取る能力」vs「作り出す能力」
 1−B 言語学:
   「統語論」「意味論」
   「運用能力」vs「メタ言語知識」
 1−C ガニェの学習成果:
   「言語情報」vs「知的技能」

2 学習指導の流れとドリル型CAI教材の役割
 2−A ガニェの9つの授業状況

 2−B テレビ放送とCAI教材の役割分担
   「視聴前の前提条件」 「視聴直後の練習」 「視聴後の保持と転移」

3 ドリル型CAIの基本設計
 3−A ドリル型CAIの骨組み
   「導入画面」 − 「練習サイクル」 − 「終了画面」
 3−B 練習サイクルの基本設計
   # ドリルに含む項目群の選定
   # 学習目標到達の判断基準
   # 項目の選択および除去のメカニズム
      a.項目間隔変動型ドリル
      b.状態前進型ドリル
      c.三重構造のドリル
      d.下位ドリル群
      e.適応型概念学習ドリル
   # 練習の形式と反応のタイプ
   # フィ−ドバックの与え方